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第365話 七家領での作戦会議
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クレイが着替え、いつものようにキリッとした女将軍という出で立ちで僕の前に現れた。やはりお姫然とした格好よりもこちらのほうがクレイの魅力が高まるような気がする。さて、再び合流したクレイを混じえて王国軍打倒の作戦を考えなければならない。公国側からは僕とニード将軍、イハサ副官、ガモン将軍、クレイが参加し、七家側からは筆頭当主のサルーンと七家軍の将軍アロンが参加することになった。
まず、王国軍二十万人の動きについての認識を共有しておく必要がある。七家の情報では、王国軍は王都を完全に掌握し、レントーク王家は王国に完全に降伏してしまったようだ。王国軍はすぐに行動を開始し、七家領に対する兵を起こすための準備を始めている。その数、十万人。一方、西の食料庫がある材木都市には五万人の兵がすでに占領しているようだ。そして残りの五万人が王都に駐屯し、反乱の目を潰し始めている。
今回の作戦会議は、食料庫がある材木都市の攻略についてだ。それについて、まず公国から話すことになった。イハサ副官がこちらの発言をする担当となる。
「今回の戦における公国軍の制約について改めて説明させていただきます。現状、公国と王国間では停戦協定が結ばれております。そのため、王国領となったレントーク王国領に対して軍の移動は出来なくなっております。慣例的に、この地は北部、中部、南部と区分し、北部はレントーク王国領、南部はサントーク王国領、そして中部は、両者が領有権を主張している場所ということになっております。公国軍はサントーク王国の主張が正当なものとし、中部までは移動可能と考えております。この点について、七家側から異論はないと聞いておりますが、間違いありませんか?」
七家側はアロン将軍が答えるようだ。
「七家側としては異論ありません。もともと中部は山と大森林が広がる土地ですから、狩猟の範囲が広がる程度ですし、どちらかの国に属していないため、狩猟の制限はしておりません。公国がそのような考えの基に行動したほうが得策と判断しているのであれば、意見はありません。ただ、支持はしません。黙認のみであることを了承してください」
「公国としてはそれで十分です。我々も現時点で本気で中部の領有権を主張するつもりはありませんから。次に、王国が公国との停戦協定を破ったという事実が必要になります。それには王国軍が公国軍への攻撃を仕掛ける必要があるのです。そのために、中部と北部の境界線に公国軍を展開させます。それが今回の最初の作戦となります」
「わかりました。それで七家軍はどのようにいたしましょうか? 我々の目標は、食料庫である材木都市を攻略することを一番としております」
「承知しています。それゆえ、七家軍には一芝居を打ってもらいたい。七家軍が材木都市に攻撃を加えようとすれば当然、王国からの反撃が予想されます。その攻撃に対してある程度戦ってから逃げてほしいのです。きっと、王国軍は追撃を加えてくるでしょう。なにせ、王国軍の目的は七家軍の壊滅なのですから」
「話が見えてきました。なるほど、その逃走先で公国軍と王国軍が偶然、鉢合わせとなるわけですな」
「そう、偶然に」
なんだかイハサとアロンが楽しそうに会話しているように見えるな。イハサの作戦が順調に進めば、思ったより早く停戦協定の足かせを外すことができそうだな。しかし、その話では王国軍と正面衝突してしまうではないか。そうなれば、こちらの損耗も激しくなるだろうに。するとイハサはこちらに顔を向けてきた。
「ロッシュ公。大丈夫です。衝突すると分かっているならば、いくらでも策を講じることができます。森という場所であれば罠を仕掛けることもたやすく、王国軍を一網打尽にすることだって可能でしょう。むしろ、大きな被害を覚悟しなければならないのは王国軍の方ということです」
なんと頼もしいんだ。僕がイハサに感嘆の言葉を送ろうとするとアロンが先に言ってしまった。
「さすがはイハサ副官だ。イルス公が一目置くほどの人物ですね。ただ、我々も逃げてばかりではいられませんね。その作戦に是非とも参加させてください。王国軍を一網打尽。なかなか胸が熱くなる言葉です」
「いや。七家軍には公国軍が王国軍をひきつけている間に、材木都市の攻略をしてほしいのです」
「なるほど。たしかにそれならば相手の隙を突いているばかりか、主力がいない都市を攻略するのには難がないでしょう。しかし、問題はそこに至る道がないのです。それが分かっているからこそ王国は争って我々を追い詰めようとするでしょう」
「ごもっともです。アロン将軍がそのように考えているならば、七家軍は材木都市攻略を達成できるでしょう。我々も地図上でその点については把握しております。ですから、材木都市まで道を作るつもりです。西の大森林を拠点とし、そこから大きく迂回するように材木都市の背後に移動できるような道を作るつもりです」
「イハサ副官。言葉で言うのは簡単です。しかし、この地の木材は巨木にして、堅い木が多くございます。そのような道を作ろうと思えば、一万人の人数でも数カ月は必要となるでしょう。はっきりいうと、材木都市を攻略し食料を確保しなければ、我々に残された時間は一月もありません。残念ながらイハサ副官の提案は現実味がありません」
するとイハサが僕の方をちらっと見てきた。うん、なんとなくイハサが言いたいことが分かるな。
「アロン。道ならば僕が作ろう。僕の他に二人の妻がいれば、そのような道は一週間で作ることが出来るだろう。一切音を立てずに作ってみせよう」
「信じられない」
アロンは怪しげな顔でじっと見つめてくる。それに対してイハサは豪快に笑い飛ばした。
「それが我らの主、イルス公なのですよ。敵ながら王国もこのお方を相手に戦わねばならないというのは、本当に可哀想だと思いますよ」
一体どんな反応をすればいいのだろうか。するとずっと成り行きを見守っていたサルーンがクレイに話しかけていた。
「姉上。よいお相手を見つけましたね」
「サルーン。余計なことを言わないの!! ここでは皆に聞かれてしまうでしょ。も、もちろん、ロッシュ様は素晴らしいお方よ。私の全てを捧げているお方ですから」
「全てなんて……姉上も随分と変わられた。そんな軽口を言う姉上を見れるなんて、私も嬉しい限りです。イルス公。この戦が終わったら、我々七家領も未来を見据えなければならない。その時は是非相談にのってもらいたいのです」
そうだな。食料を供給してくれていた王国と縁を切ったとなれば、公国を頼らざるを得ないだろう。
「当然だ。この戦が終われば状況も一変しているだろう。そうなればレントーク王国のあり方も考え直さなければならない。それに公国が必要とあれば、いくらでも相談に乗ろう。義弟の頼みだからな」
「よろしくお願いしますね。義兄上」
材木都市攻略までの作戦が決まった。今回の作戦に参加するのは公国軍は全軍。とにかく初戦で王国に対してどれだけ損害を与えるのが重要になるらしい。そのため、公国は全軍ということになった。七家軍は五万人の兵が参加することになった。アロン将軍が軍を率い、残った七家軍はサルーンが率いることになった。
ちなみに、七家軍は十万人だ。森林の中でのゲリラ戦を得意とし、短距離からの弓攻撃が主力の武器となる。もちろん亜人の本領を活かし、接近戦でも王国軍を圧倒することが出来るだろう。騎馬隊も五千人と充実しており、平野での戦いでも期待できる兵科だ。
公国軍はこの作戦会議の後、七家領を離れ、西側の大森林に拠点を構えることになった。そして拠点より材木都市までの道を確保する。それが確保でき次第、公国軍は北部と中部の境界線上に移動し、七家軍が材木都市の攻略を開始することになった。
七家領にやってきたその日の夕方にその地を離れ、再び林道を突き進むことになった。それでもクレイの安全を確認した僕の気持ちは軽やかなものだった。これから戦争をするというのに。するとエリスがクレイとの再会を喜びながら、今後について話していた。考えてみれば、二人の状況はレントークに来てから一変してしまったな。
「ねぇ、クレイさんはこの戦いが終わったらどうするの? 一応は弟さんが跡を継いでくれたみたいだけど本来はクレイさんが継ぐ予定だったんでしょ?」
「私の気持ちは変わらないわ。ロッシュ様が許してくれる限り、私は側にいるつもりよ。それにレントークに私の居場所はないわ。それが分かっただけでもレントークに来てよかったと思っているの。ただ、私がはっきりとしていれば姉上は暴走をしないで済んだかも知れない。そうなれば王国に降伏する選択肢を選ばなかったかも知れない。分からないけど、けじめだけはしっかりとするつもりよ」
クレイはやはり心の強い女性だ。クレイがレントーク王国を率いていれば、今とは違っていただろうな。
「私よりエリスさんはどうするつもりなの? 驚いたわ。まさかサントーク王家縁の方だったなんて。エリスさんこそ、王の後継者としてこの地に残らなければならないんじゃない?」
僕もそれは気になるところだ。王とは勝手に話し、子供たちを巻き込み王の後継者問題を交わしたつもりだったが、エリスの本当の気持ちは聞いていなかったな
「私もクレイさんと気持ちは同じよ。それに王に縁があると言っても姿形が似ているだけの他人の空似かも知れないの。一応は王家が代々持っているという痣が私にもあったわ。けれど、それだけ。サントーク王国で生まれ育った記憶もないし、私の記憶はずっと村の屋敷だけなの。だから、ロッシュ様と離れてまでサントーク王国に残るという選択肢はないわ。もちろん、ロッシュ様がサントーク王国で私と二人で暮らすっていうのなら話は別ですけど」
そんな会話にミヤが間に入ってくる。
「そんなことをいうなら、魔の森でロッシュが私と二人で暮らしたいというのなら暮らすわよ。エリスもいつもは大人しいくせにそんなことを考えていたのね。恐ろしい子ね」
シェラも何故か加わりだした。
「いいえ。旦那様がミヤと一緒に暮らしたいと言うことはないと思いますよ。だって、ミヤ……家事が出来ないじゃないですか。考えているのは夜のことばかり。エリスさんのほうが可能性が高いわね」
「くっ!! それを言うのならシェラも酷いものじゃない。家事はおろか、寝てばかりだし。最近、太ってきたし。そのうち夜にもお呼びがかからなくなるんじゃないの? 出自も女神とか、訳のわからないこと言っているし」
「太っ……ミヤ。言っていいことと悪いことの区別がつかないのかしら。これだから魔族っていう種族は。それならば勝負をするしかないようですね。どちらが旦那様にふさわしいか」
「よく言ったわ。シェラとはいつかは勝負をつけなければならないと思っていたのよ。勝負の方法は……」
二人の話がどんどん変な方向に進んでいく。ここいらで止めなければ。エリスも笑っていないで止めてくれてもいいのに。
「二人共止めないか。二人を妻にしているのは、二人が好きだからだ。家事が出来ないとか、よく寝ているとかは関係ないのだ。僕は二人がそのままでいてくれればそれでいい。太ってたって僕の愛は変わらないぞ」
「旦那様もそう思っていたのね。頑張る。痩せてみせるわ!!」
「シェラ。勝負はお預けね。まずは減量が先だものね」
大森林にミヤの大笑いが響き、鳥が一斉に飛び立った。全く……しかし、こうやって皆で楽しく話すのも悪くないな。僕達は一路、拠点予定地に向け先を急ぐのであった。
まず、王国軍二十万人の動きについての認識を共有しておく必要がある。七家の情報では、王国軍は王都を完全に掌握し、レントーク王家は王国に完全に降伏してしまったようだ。王国軍はすぐに行動を開始し、七家領に対する兵を起こすための準備を始めている。その数、十万人。一方、西の食料庫がある材木都市には五万人の兵がすでに占領しているようだ。そして残りの五万人が王都に駐屯し、反乱の目を潰し始めている。
今回の作戦会議は、食料庫がある材木都市の攻略についてだ。それについて、まず公国から話すことになった。イハサ副官がこちらの発言をする担当となる。
「今回の戦における公国軍の制約について改めて説明させていただきます。現状、公国と王国間では停戦協定が結ばれております。そのため、王国領となったレントーク王国領に対して軍の移動は出来なくなっております。慣例的に、この地は北部、中部、南部と区分し、北部はレントーク王国領、南部はサントーク王国領、そして中部は、両者が領有権を主張している場所ということになっております。公国軍はサントーク王国の主張が正当なものとし、中部までは移動可能と考えております。この点について、七家側から異論はないと聞いておりますが、間違いありませんか?」
七家側はアロン将軍が答えるようだ。
「七家側としては異論ありません。もともと中部は山と大森林が広がる土地ですから、狩猟の範囲が広がる程度ですし、どちらかの国に属していないため、狩猟の制限はしておりません。公国がそのような考えの基に行動したほうが得策と判断しているのであれば、意見はありません。ただ、支持はしません。黙認のみであることを了承してください」
「公国としてはそれで十分です。我々も現時点で本気で中部の領有権を主張するつもりはありませんから。次に、王国が公国との停戦協定を破ったという事実が必要になります。それには王国軍が公国軍への攻撃を仕掛ける必要があるのです。そのために、中部と北部の境界線に公国軍を展開させます。それが今回の最初の作戦となります」
「わかりました。それで七家軍はどのようにいたしましょうか? 我々の目標は、食料庫である材木都市を攻略することを一番としております」
「承知しています。それゆえ、七家軍には一芝居を打ってもらいたい。七家軍が材木都市に攻撃を加えようとすれば当然、王国からの反撃が予想されます。その攻撃に対してある程度戦ってから逃げてほしいのです。きっと、王国軍は追撃を加えてくるでしょう。なにせ、王国軍の目的は七家軍の壊滅なのですから」
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「ロッシュ公。大丈夫です。衝突すると分かっているならば、いくらでも策を講じることができます。森という場所であれば罠を仕掛けることもたやすく、王国軍を一網打尽にすることだって可能でしょう。むしろ、大きな被害を覚悟しなければならないのは王国軍の方ということです」
なんと頼もしいんだ。僕がイハサに感嘆の言葉を送ろうとするとアロンが先に言ってしまった。
「さすがはイハサ副官だ。イルス公が一目置くほどの人物ですね。ただ、我々も逃げてばかりではいられませんね。その作戦に是非とも参加させてください。王国軍を一網打尽。なかなか胸が熱くなる言葉です」
「いや。七家軍には公国軍が王国軍をひきつけている間に、材木都市の攻略をしてほしいのです」
「なるほど。たしかにそれならば相手の隙を突いているばかりか、主力がいない都市を攻略するのには難がないでしょう。しかし、問題はそこに至る道がないのです。それが分かっているからこそ王国は争って我々を追い詰めようとするでしょう」
「ごもっともです。アロン将軍がそのように考えているならば、七家軍は材木都市攻略を達成できるでしょう。我々も地図上でその点については把握しております。ですから、材木都市まで道を作るつもりです。西の大森林を拠点とし、そこから大きく迂回するように材木都市の背後に移動できるような道を作るつもりです」
「イハサ副官。言葉で言うのは簡単です。しかし、この地の木材は巨木にして、堅い木が多くございます。そのような道を作ろうと思えば、一万人の人数でも数カ月は必要となるでしょう。はっきりいうと、材木都市を攻略し食料を確保しなければ、我々に残された時間は一月もありません。残念ながらイハサ副官の提案は現実味がありません」
するとイハサが僕の方をちらっと見てきた。うん、なんとなくイハサが言いたいことが分かるな。
「アロン。道ならば僕が作ろう。僕の他に二人の妻がいれば、そのような道は一週間で作ることが出来るだろう。一切音を立てずに作ってみせよう」
「信じられない」
アロンは怪しげな顔でじっと見つめてくる。それに対してイハサは豪快に笑い飛ばした。
「それが我らの主、イルス公なのですよ。敵ながら王国もこのお方を相手に戦わねばならないというのは、本当に可哀想だと思いますよ」
一体どんな反応をすればいいのだろうか。するとずっと成り行きを見守っていたサルーンがクレイに話しかけていた。
「姉上。よいお相手を見つけましたね」
「サルーン。余計なことを言わないの!! ここでは皆に聞かれてしまうでしょ。も、もちろん、ロッシュ様は素晴らしいお方よ。私の全てを捧げているお方ですから」
「全てなんて……姉上も随分と変わられた。そんな軽口を言う姉上を見れるなんて、私も嬉しい限りです。イルス公。この戦が終わったら、我々七家領も未来を見据えなければならない。その時は是非相談にのってもらいたいのです」
そうだな。食料を供給してくれていた王国と縁を切ったとなれば、公国を頼らざるを得ないだろう。
「当然だ。この戦が終われば状況も一変しているだろう。そうなればレントーク王国のあり方も考え直さなければならない。それに公国が必要とあれば、いくらでも相談に乗ろう。義弟の頼みだからな」
「よろしくお願いしますね。義兄上」
材木都市攻略までの作戦が決まった。今回の作戦に参加するのは公国軍は全軍。とにかく初戦で王国に対してどれだけ損害を与えるのが重要になるらしい。そのため、公国は全軍ということになった。七家軍は五万人の兵が参加することになった。アロン将軍が軍を率い、残った七家軍はサルーンが率いることになった。
ちなみに、七家軍は十万人だ。森林の中でのゲリラ戦を得意とし、短距離からの弓攻撃が主力の武器となる。もちろん亜人の本領を活かし、接近戦でも王国軍を圧倒することが出来るだろう。騎馬隊も五千人と充実しており、平野での戦いでも期待できる兵科だ。
公国軍はこの作戦会議の後、七家領を離れ、西側の大森林に拠点を構えることになった。そして拠点より材木都市までの道を確保する。それが確保でき次第、公国軍は北部と中部の境界線上に移動し、七家軍が材木都市の攻略を開始することになった。
七家領にやってきたその日の夕方にその地を離れ、再び林道を突き進むことになった。それでもクレイの安全を確認した僕の気持ちは軽やかなものだった。これから戦争をするというのに。するとエリスがクレイとの再会を喜びながら、今後について話していた。考えてみれば、二人の状況はレントークに来てから一変してしまったな。
「ねぇ、クレイさんはこの戦いが終わったらどうするの? 一応は弟さんが跡を継いでくれたみたいだけど本来はクレイさんが継ぐ予定だったんでしょ?」
「私の気持ちは変わらないわ。ロッシュ様が許してくれる限り、私は側にいるつもりよ。それにレントークに私の居場所はないわ。それが分かっただけでもレントークに来てよかったと思っているの。ただ、私がはっきりとしていれば姉上は暴走をしないで済んだかも知れない。そうなれば王国に降伏する選択肢を選ばなかったかも知れない。分からないけど、けじめだけはしっかりとするつもりよ」
クレイはやはり心の強い女性だ。クレイがレントーク王国を率いていれば、今とは違っていただろうな。
「私よりエリスさんはどうするつもりなの? 驚いたわ。まさかサントーク王家縁の方だったなんて。エリスさんこそ、王の後継者としてこの地に残らなければならないんじゃない?」
僕もそれは気になるところだ。王とは勝手に話し、子供たちを巻き込み王の後継者問題を交わしたつもりだったが、エリスの本当の気持ちは聞いていなかったな
「私もクレイさんと気持ちは同じよ。それに王に縁があると言っても姿形が似ているだけの他人の空似かも知れないの。一応は王家が代々持っているという痣が私にもあったわ。けれど、それだけ。サントーク王国で生まれ育った記憶もないし、私の記憶はずっと村の屋敷だけなの。だから、ロッシュ様と離れてまでサントーク王国に残るという選択肢はないわ。もちろん、ロッシュ様がサントーク王国で私と二人で暮らすっていうのなら話は別ですけど」
そんな会話にミヤが間に入ってくる。
「そんなことをいうなら、魔の森でロッシュが私と二人で暮らしたいというのなら暮らすわよ。エリスもいつもは大人しいくせにそんなことを考えていたのね。恐ろしい子ね」
シェラも何故か加わりだした。
「いいえ。旦那様がミヤと一緒に暮らしたいと言うことはないと思いますよ。だって、ミヤ……家事が出来ないじゃないですか。考えているのは夜のことばかり。エリスさんのほうが可能性が高いわね」
「くっ!! それを言うのならシェラも酷いものじゃない。家事はおろか、寝てばかりだし。最近、太ってきたし。そのうち夜にもお呼びがかからなくなるんじゃないの? 出自も女神とか、訳のわからないこと言っているし」
「太っ……ミヤ。言っていいことと悪いことの区別がつかないのかしら。これだから魔族っていう種族は。それならば勝負をするしかないようですね。どちらが旦那様にふさわしいか」
「よく言ったわ。シェラとはいつかは勝負をつけなければならないと思っていたのよ。勝負の方法は……」
二人の話がどんどん変な方向に進んでいく。ここいらで止めなければ。エリスも笑っていないで止めてくれてもいいのに。
「二人共止めないか。二人を妻にしているのは、二人が好きだからだ。家事が出来ないとか、よく寝ているとかは関係ないのだ。僕は二人がそのままでいてくれればそれでいい。太ってたって僕の愛は変わらないぞ」
「旦那様もそう思っていたのね。頑張る。痩せてみせるわ!!」
「シェラ。勝負はお預けね。まずは減量が先だものね」
大森林にミヤの大笑いが響き、鳥が一斉に飛び立った。全く……しかし、こうやって皆で楽しく話すのも悪くないな。僕達は一路、拠点予定地に向け先を急ぐのであった。
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