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第366話 進軍開始
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目的地に着いた。ただ、ここがどこで、どちらの方角に何があるのかさっぱり分からない。それほど周りは深い森しか見ることが出来ない。年輪を見れば方角が分かると言われているが、あれは嘘だ。まぁとにかく目的地というのだから目的地なのだろう。ここに拠点を築くために、先ずは周囲の木の伐採から始めることにした。
なるほど。アロンが言っていたように確かに巨木ばかりが連ねらている。僕とルードが風魔法で伐採している横でシラーが土魔法で整地をしていく。一日の作業だけで三万人が寝泊まりできるほどの場所を確保することが出来た。兵士達は設営には手慣れているのか、瞬く間にテント街が作られていく。ただ、水の確保に問題があった。周りは森で囲まれているくせに水場が殆どないのだ。一応は軍でも井戸を掘る訓練がされているため井戸掘りを試したが、この辺りは恐ろしく堅い岩盤があるようで、それを破らない限り井戸水の確保は難しそうだ。
それでもシラーの手にかかれば、いとも簡単に岩盤をぶち抜き、清らかな水が地下から染み出してきた。こうやって、一つずつ拠点の問題を解決していく。大量の木材の使い途を考えるために、木材置き場に向かった。
ふむ。それにしてもこの辺りの土は実に素晴らしいな。土をひと握りしてみた。考えてみたら、この地にやってきてから荒廃した土地を一切見ていない気がするな。開けた農地というのが存在しないから気付かなかっただけか? いや、そんなわけがない。今まで見てきた荒廃した土地は一目瞭然だ。握れば砂のように手の中から流れていく。草すら生えず、樹木もみるみる枯れていく。一体どういうことなんだ?
すると、近くでシェラがハンモックに揺られながら寝ていた。どこで手に入れたんだ? それよりも僕はシェラに近づき、思った疑問を聞いてみることにした。質問をすると、すごく面倒な顔をしながらあくびをして、身を起こした。しかし、ハンモックが暴れて落っこちてしまった。落ちたシェラを引き起こし、適当な切り株に座らせた。
「痛たた。アウーディア石について聞きたいの? そもそも石にどういう効果があるか覚えている?」
石の効果? それは荒廃した土地が蘇る便利な効果だ。しかし、シェラはいい顔はしない。違うのか?
「違うわよ。あの石は土地の力を維持するために力を貸してくれるものよ。例えば……」
シェラは分かりやすく説明するために地面に絵を描いていく。土地の力を百とした場合、何もしなければその力は維持される。しかし、土地の力を使うと目減りする。それが農業だ。農業は土地の力を目に見えない小さな量だが、確実に消耗させていく。そして、土地の力は消耗した分回復しようとする。それでも消耗量が回復量を上回れば、荒廃へと進む。
石は土地の回復量を極限まで上げてくれる。そこまでは、僕も理解している。しかし、話は土地の回復量は極限まで高まるが、土地の力は下がってしまうそうだ。百あった土地の力も九十、八十と下がっていく。これを回避するために、堆肥をいれたり肥料をいれたりすると土地への負担は少なくなり、消耗量は著しく少なくなるようだ。
アウーディア王国では、石の存在については広く知られているわけではなかったが、土地が豊かであることにかまけて土地を豊かにする方法を考えることを放棄し、土地の荒廃を早めていた。アウーディア石の効果が無くなって、荒廃してしまった場所は、そもそも土地の力が著しく低下してしまってた場所なのだ。
「なるほど。この辺りが豊かなのは人が土地に手を付けていないからか。そうなると、木の伐採はどうなるんだ?」
「それは分からないですね。ただ、土地を豊かにする方法が取られていると考えるべきね。公国も石の効果がなくなれば瞬く間に荒廃した土地になるでしょう。アウーディア石が王国にやってきて以降、ずっと搾取を続けてきたんですから。でも旦那様が来てから、土地が豊かになるような方法が施されるようになりましたから、今後数百年も続ければ石がなくても豊かな土地を維持できるようになるでしょう」
数百年……人間の感覚では無限にも感じるような途方もない時間だ。それにしても初めて聞く話だったな。しかし、未来の公国の民が飢えない方法を見出すことは出来たな。土地を豊かにすること。そのための方法を公国に広め、皆が共有することが重要だ。シェラとはそれからも話していたが、昼寝の邪魔をしていたことに気付いて、その場を去ることにした。
僕が戻ろうとすると、クロスボウの訓練をしている一団が見えた。どうやら、ガモンが率いるサントーク王国軍が新たな兵器であるクロスボウの訓練をしているようだ。僕は訓練を指揮しているガモンに近づくと、ガモンは訓練を続けさせたまま僕に体を向けた。
「ロッシュ公。クロスボウという兵器は使えますな。普通、新たな武器を兵に与えても、一人前にするには長い年月をかけて訓練するものですが、このクロスボウはたった数時間でかなりの精度になりましたぞ。これならば、すぐに実戦投入できます。最初は兵たちも剣以外の武器を持つことに抵抗があったのですが、今ではすっかり自分の武器にしています」
「それは良かった。公国軍も訓練ではクロスボウはすぐに使えるようになった。しかし、実戦では兵が恐れをなして十分に武器を使いこなせなかった。その点ではサントーク軍は大丈夫だな。どの者も肝が座っていそうだな」
「ハッハッハ。その通りです。この者共は敵地のど真ん中でも恐れを抱かずに戦うことが出来ます。それこそがサントーク軍の真骨頂で。さらにクロスボウも手に入れた我が軍は……戦いが始まるのが今から楽しみです」
んん。ガモンが戦闘狂のような顔になってきたな。そういえば、聞きたいことがあったのだ。
「話は変わるが、サントーク王国は木材が特産だな? どのように収穫をしているのだ?」
「ええ。サントークでは森を休ませるために数年、数十年と点々と場所を変えながら伐採をしていきます。休ませている土地には山から集めた腐葉土を与えたり、間伐材を灰にして撒いたりしていましたな。その方が木の成長が早いような気がすると言うので昔からそのようにしています」
やはりそのような農法が浸透していたのか。土地が豊かになる方法をもう少し考えなければならないな。拠点で初めての夜をおくり、翌朝から材木都市までの道を作る作業にそなえた。この道が出来次第、七家軍と公国軍が動き出す。
「ニード将軍とガモン将軍。これから僕は道を作る。一週間後に王国軍と戦うことになるだろう。それまでに軍を仕上げておいてくれ。この時間を有意義に使ってくれ」
二人は「承知しました」と声を揃えて言った。シラーとルードを連れて道普請を始めた。この道は七家軍が通る道になるため、それなりの広さが必要だ。しかも隠密性も重要になるので、移動時に音が出ないよう、地面を固く均していかなければならない。そのため、ルードに木の伐採を頼み、シラーに道を均す作業を、僕が均された地面を固く締める作業をすることにした。
三人の作業は実に息のあったものだった。予定している道は長さは五十キロメートルだ。直線的にはそれほどないのだが、途中に山がそびえており迂回する必要がある。坑道も検討されたが、シラーに止められた。その山が火山だったからだ。坑道なんて掘ったら、火山性ガスに襲われるかも知れないと脅されてしまった。
一週間という時間はあっと言う間に過ぎ去り、やや小高い位置から材木都市を見下ろすことが出来る場所に到達することが出来た。僕達が通ってきた場所には、幅三メートルほどの道が延々と続いていた。伐採された木材は道端に置かれ、壁のようになっていた。
「シラーとルード。ようやく完成したな。僕達が拠点に戻れば、戦争となる。シラーには僕の護衛として側にいてもらうつもりだ」
「もちろんです。ご主人様と離れるなんて絶対にしませんよ。襲いかかる敵兵がいれば、地獄を見せてやります」
相変わらず頼もしいな。さて、ルードが不満顔だ。
「ルードは済まないが拠点に待機だ。エリスとシェラの護衛をしてもらいたい。ドラドも付けるつもりだ。今回の戦で誰も傷つかずに終わらせるつもりだ。そのためにはシェラの回復魔法が必要となるのだ。よろしく頼むぞ」
「分かりました。ロッシュ殿の頼みとあれば聞かないわけにはいきません。エリスさんとシェラさんは必ず私がお守りいたします」
僕達は作った道を戻り、拠点にたどり着いた。すでに戦いの準備は万全の様子だ。号令が出れば、出陣できるだろう。全軍隊列を崩さずに待機している状態だ。僕は改めて、一同を集めた。
「道がようやく完成した。この道を通れば材木都市の背後に回ることができる。王国軍も油断しているのか警備も手薄のようだった。これならば作戦も上手くいくだろう」
これから七家軍と公国軍が北部と中部の境界線まで共に進み、七家軍が材木都市に向け攻撃を開始する。それに対して、王国軍が迎撃を開始したと同時に、七家軍は拠点に向け撤退する。その途中で王国軍と公国軍が衝突する算段だ。その間に七家軍は、新たに作った道を使って材木都市に隠密裏に移動をし、材木都市を攻略することが作戦となる。
これが成功すれば、七家軍はレントーク王国が備蓄していた食料を手にすること出来、戦局を有利にすすめることが出来るのだ。長期戦になれば、七家軍が有利となる。それを信じて、僕達は作戦通りに行動を開始することにした。
なるほど。アロンが言っていたように確かに巨木ばかりが連ねらている。僕とルードが風魔法で伐採している横でシラーが土魔法で整地をしていく。一日の作業だけで三万人が寝泊まりできるほどの場所を確保することが出来た。兵士達は設営には手慣れているのか、瞬く間にテント街が作られていく。ただ、水の確保に問題があった。周りは森で囲まれているくせに水場が殆どないのだ。一応は軍でも井戸を掘る訓練がされているため井戸掘りを試したが、この辺りは恐ろしく堅い岩盤があるようで、それを破らない限り井戸水の確保は難しそうだ。
それでもシラーの手にかかれば、いとも簡単に岩盤をぶち抜き、清らかな水が地下から染み出してきた。こうやって、一つずつ拠点の問題を解決していく。大量の木材の使い途を考えるために、木材置き場に向かった。
ふむ。それにしてもこの辺りの土は実に素晴らしいな。土をひと握りしてみた。考えてみたら、この地にやってきてから荒廃した土地を一切見ていない気がするな。開けた農地というのが存在しないから気付かなかっただけか? いや、そんなわけがない。今まで見てきた荒廃した土地は一目瞭然だ。握れば砂のように手の中から流れていく。草すら生えず、樹木もみるみる枯れていく。一体どういうことなんだ?
すると、近くでシェラがハンモックに揺られながら寝ていた。どこで手に入れたんだ? それよりも僕はシェラに近づき、思った疑問を聞いてみることにした。質問をすると、すごく面倒な顔をしながらあくびをして、身を起こした。しかし、ハンモックが暴れて落っこちてしまった。落ちたシェラを引き起こし、適当な切り株に座らせた。
「痛たた。アウーディア石について聞きたいの? そもそも石にどういう効果があるか覚えている?」
石の効果? それは荒廃した土地が蘇る便利な効果だ。しかし、シェラはいい顔はしない。違うのか?
「違うわよ。あの石は土地の力を維持するために力を貸してくれるものよ。例えば……」
シェラは分かりやすく説明するために地面に絵を描いていく。土地の力を百とした場合、何もしなければその力は維持される。しかし、土地の力を使うと目減りする。それが農業だ。農業は土地の力を目に見えない小さな量だが、確実に消耗させていく。そして、土地の力は消耗した分回復しようとする。それでも消耗量が回復量を上回れば、荒廃へと進む。
石は土地の回復量を極限まで上げてくれる。そこまでは、僕も理解している。しかし、話は土地の回復量は極限まで高まるが、土地の力は下がってしまうそうだ。百あった土地の力も九十、八十と下がっていく。これを回避するために、堆肥をいれたり肥料をいれたりすると土地への負担は少なくなり、消耗量は著しく少なくなるようだ。
アウーディア王国では、石の存在については広く知られているわけではなかったが、土地が豊かであることにかまけて土地を豊かにする方法を考えることを放棄し、土地の荒廃を早めていた。アウーディア石の効果が無くなって、荒廃してしまった場所は、そもそも土地の力が著しく低下してしまってた場所なのだ。
「なるほど。この辺りが豊かなのは人が土地に手を付けていないからか。そうなると、木の伐採はどうなるんだ?」
「それは分からないですね。ただ、土地を豊かにする方法が取られていると考えるべきね。公国も石の効果がなくなれば瞬く間に荒廃した土地になるでしょう。アウーディア石が王国にやってきて以降、ずっと搾取を続けてきたんですから。でも旦那様が来てから、土地が豊かになるような方法が施されるようになりましたから、今後数百年も続ければ石がなくても豊かな土地を維持できるようになるでしょう」
数百年……人間の感覚では無限にも感じるような途方もない時間だ。それにしても初めて聞く話だったな。しかし、未来の公国の民が飢えない方法を見出すことは出来たな。土地を豊かにすること。そのための方法を公国に広め、皆が共有することが重要だ。シェラとはそれからも話していたが、昼寝の邪魔をしていたことに気付いて、その場を去ることにした。
僕が戻ろうとすると、クロスボウの訓練をしている一団が見えた。どうやら、ガモンが率いるサントーク王国軍が新たな兵器であるクロスボウの訓練をしているようだ。僕は訓練を指揮しているガモンに近づくと、ガモンは訓練を続けさせたまま僕に体を向けた。
「ロッシュ公。クロスボウという兵器は使えますな。普通、新たな武器を兵に与えても、一人前にするには長い年月をかけて訓練するものですが、このクロスボウはたった数時間でかなりの精度になりましたぞ。これならば、すぐに実戦投入できます。最初は兵たちも剣以外の武器を持つことに抵抗があったのですが、今ではすっかり自分の武器にしています」
「それは良かった。公国軍も訓練ではクロスボウはすぐに使えるようになった。しかし、実戦では兵が恐れをなして十分に武器を使いこなせなかった。その点ではサントーク軍は大丈夫だな。どの者も肝が座っていそうだな」
「ハッハッハ。その通りです。この者共は敵地のど真ん中でも恐れを抱かずに戦うことが出来ます。それこそがサントーク軍の真骨頂で。さらにクロスボウも手に入れた我が軍は……戦いが始まるのが今から楽しみです」
んん。ガモンが戦闘狂のような顔になってきたな。そういえば、聞きたいことがあったのだ。
「話は変わるが、サントーク王国は木材が特産だな? どのように収穫をしているのだ?」
「ええ。サントークでは森を休ませるために数年、数十年と点々と場所を変えながら伐採をしていきます。休ませている土地には山から集めた腐葉土を与えたり、間伐材を灰にして撒いたりしていましたな。その方が木の成長が早いような気がすると言うので昔からそのようにしています」
やはりそのような農法が浸透していたのか。土地が豊かになる方法をもう少し考えなければならないな。拠点で初めての夜をおくり、翌朝から材木都市までの道を作る作業にそなえた。この道が出来次第、七家軍と公国軍が動き出す。
「ニード将軍とガモン将軍。これから僕は道を作る。一週間後に王国軍と戦うことになるだろう。それまでに軍を仕上げておいてくれ。この時間を有意義に使ってくれ」
二人は「承知しました」と声を揃えて言った。シラーとルードを連れて道普請を始めた。この道は七家軍が通る道になるため、それなりの広さが必要だ。しかも隠密性も重要になるので、移動時に音が出ないよう、地面を固く均していかなければならない。そのため、ルードに木の伐採を頼み、シラーに道を均す作業を、僕が均された地面を固く締める作業をすることにした。
三人の作業は実に息のあったものだった。予定している道は長さは五十キロメートルだ。直線的にはそれほどないのだが、途中に山がそびえており迂回する必要がある。坑道も検討されたが、シラーに止められた。その山が火山だったからだ。坑道なんて掘ったら、火山性ガスに襲われるかも知れないと脅されてしまった。
一週間という時間はあっと言う間に過ぎ去り、やや小高い位置から材木都市を見下ろすことが出来る場所に到達することが出来た。僕達が通ってきた場所には、幅三メートルほどの道が延々と続いていた。伐採された木材は道端に置かれ、壁のようになっていた。
「シラーとルード。ようやく完成したな。僕達が拠点に戻れば、戦争となる。シラーには僕の護衛として側にいてもらうつもりだ」
「もちろんです。ご主人様と離れるなんて絶対にしませんよ。襲いかかる敵兵がいれば、地獄を見せてやります」
相変わらず頼もしいな。さて、ルードが不満顔だ。
「ルードは済まないが拠点に待機だ。エリスとシェラの護衛をしてもらいたい。ドラドも付けるつもりだ。今回の戦で誰も傷つかずに終わらせるつもりだ。そのためにはシェラの回復魔法が必要となるのだ。よろしく頼むぞ」
「分かりました。ロッシュ殿の頼みとあれば聞かないわけにはいきません。エリスさんとシェラさんは必ず私がお守りいたします」
僕達は作った道を戻り、拠点にたどり着いた。すでに戦いの準備は万全の様子だ。号令が出れば、出陣できるだろう。全軍隊列を崩さずに待機している状態だ。僕は改めて、一同を集めた。
「道がようやく完成した。この道を通れば材木都市の背後に回ることができる。王国軍も油断しているのか警備も手薄のようだった。これならば作戦も上手くいくだろう」
これから七家軍と公国軍が北部と中部の境界線まで共に進み、七家軍が材木都市に向け攻撃を開始する。それに対して、王国軍が迎撃を開始したと同時に、七家軍は拠点に向け撤退する。その途中で王国軍と公国軍が衝突する算段だ。その間に七家軍は、新たに作った道を使って材木都市に隠密裏に移動をし、材木都市を攻略することが作戦となる。
これが成功すれば、七家軍はレントーク王国が備蓄していた食料を手にすること出来、戦局を有利にすすめることが出来るのだ。長期戦になれば、七家軍が有利となる。それを信じて、僕達は作戦通りに行動を開始することにした。
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