【完結】蟠龍に抱かれて眠れ〜美貌のご落胤に転生?家老に溺愛されてお家騒動に巻き込まれる〜

かじや みの

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2章 かぶき者

3 家老邸

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「ここは、どこだ・・・」

 静かだった。
 町の喧騒はいっさいなく、聞こえるのは、かすかな水音のみ。

 風が動くのを頬に感じて、顔を向けると、障子が開け放たれており、山水の庭が見えた。

「もしかして、あの世?」

 極楽に来ちゃったんだろうか。

 風に葉がはらはらと散って、秋の風情が美しい。

 そして、気がつけば、極上の布団に寝かされている。

「ん?」

 寝巻も極上の(たぶん)絹物だ。

 やっぱりあの世だ。

 ついこの前までいた場所とは、天地の差だ。
 頭がついていかない。

 かすかな足音が近づいてきた。

「お目覚めにございますか?」
「ああ・・・天女?」
 いや、男だが・・・。
 天女のような美しい人が微笑んでいる。
 景三郎とはまた違ったタイプの美人だ。
 儚げ、というか目元に憂いがにじむ。
 月の光のような、柔らかさがある。
 思わず見惚れてしまう。
「ご気分はいかがですか?」

「あの・・・ここは、極楽?」
 ぼんやりと間抜けな質問をする。

「そうですねえ」
 美しいひとは、小首をかしげた。
「若さまが、極楽だと思われるのでしたら極楽。地獄だと思われるのでしたら、地獄でございましょう」

 景司は思い出していた。
 この人が、あのとき当て身を食わせた侍で、連れてこられてからは、痛めつけられた体を介抱してくれたことを。

「いったいなんのつもりだ。ここはどこなんだ」

 だんだんと怖くなってきて、いくらか声を荒げた。
 若さまと呼ばれたことも、景司を現実に引き戻した。
 景三郎だと知って、ここに連れてきたに違いない。

「それは、いずれわかります。ご気分がよろしければ、この後、主人に会っていただきます」
「主人? それは誰なんだ」
「それも、その時に主人から話があるでしょう」
「じゃあ、あんたの名前は?」
「これは申し遅れました。早乙女伊織と申します」
「いおり・・・」
「はい」
「嫌だ、と言ったら?」
 伊織の笑みが大きくなった。
「力ずくでも」
 言うと同時に手を叩いた。

 襖がぱっと開いて、三人の少年が姿を現した。
 美しく着飾った小姓たちだ。

「まずは、湯殿でお体を清めていただきます。それから食事。お着替え。すべて、この小姓たちにお任せを」
「はあ?」

 抵抗する間もなく、三人に、ひょいと担ぎ上げられた。
「わっ、何しやがる! おろせ!」
 暴れるが、少年たちはびくともしなかった。
 ニコリともせずに、景司を運んでいく。

 手際よく裸にむかれ、風呂に入れられた。
 悔しいことに、急所をしっかりと押さえられているので抵抗できない。
 ここの主人はよほど武術の教育に熱心なのか。
 動くのは口だけだった。
「お前ら、ただでは済まさんぞ! このやろう!」
 頭から湯をぶっかけられ、髪を引っ張られた。
 その乱暴な扱いには閉口した。
 あざになったところでも容赦ない。
 それが、強烈な嫉妬からくるものだとは、景司は気づいていない。
「いてっ、いってえな! もっと優しくできへんのか、こら! あほんだらあ!」

 一年分の垢がこそげ落とされるような勢いで洗われたが、悪くなった口までは落とせない。

 なぜかあそこは、恥ずかしいくらいにばか丁寧に扱われ、まっさらな下帯を巻かれた。

 浴衣を着せられ、元の部屋まで運ばれる。

 部屋には、膳が並べられていた。
 見たことがないようなご馳走が並んでいる。

 風呂場の手荒い扱いがなければ、極楽だと勘違いするところだ。

 ところが、大人しく食べさせてはくれなかった。
 小姓が髪をすき、整えている。
 おまけにカミソリで顔をあたりだした。
 怖くて顔を動かせない。

 あれから何日経ったのかわからないが、お腹が空いて、ぐうぐう鳴っている。

 やっと解放されて、膳にがっつくように食べ物を口に運んだ。
 久しぶりの白いご飯に感動して、涙が出そうになる。
 そういえば、江戸時代に来てから、玄米か麦飯のような雑穀ご飯しか口にしていなかった。

 ふと、箸が止まる。

 この扱いはなんだ。
 まるで殿様みたいだ。

 不安が胸に広がっていくのを感じながらも、箸が止まったのは一瞬で、いやしくもすべて平らげた。
 今度いつ、こんなご馳走が食べられるかわからないのだ。

 まだこれで終わったわけではなかった。

 お茶を飲んでくつろいでいると、小姓が膳を下げに来た。

 お着替えを、と衣装を持ってくる。

 その衣装を見て驚いた。

 小姓たちが着ているような、派手な振袖だ。
 女子が成人式で着るやつじゃ・・・。

 無理無理無理・・・。

「こんなもの、着れるか! 帰る!」

 小姓たちを押し退けて、部屋を出ようとした。

 が、足がもつれて倒れ込む。
 体に力が入らない。

 なんで・・・?

 まさか・・・!
 食事に何か入れられた?!
 焦ったが、どうにもならなかった。

 小姓たちに抱き起こされて、また裸にむかれる。

「ああああーーーっ!」

 嫌だと言おうとして、舌が回らず、叫び声になった。
 意識まで飛んだ。

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