【完結】蟠龍に抱かれて眠れ〜美貌のご落胤に転生?家老に溺愛されてお家騒動に巻き込まれる〜

鍛冶谷みの

文字の大きさ
上 下
10 / 40
2章 かぶき者

3 家老邸

しおりを挟む
「ここは、どこだ・・・」

 静かだった。
 町の喧騒はいっさいなく、聞こえるのは、かすかな水音のみ。

 風が動くのを頬に感じて、顔を向けると、障子が開け放たれており、山水の庭が見えた。

「もしかして、あの世?」

 極楽に来ちゃったんだろうか。

 風に葉がはらはらと散って、秋の風情が美しい。

 そして、気がつけば、極上の布団に寝かされている。

「ん?」

 寝巻も極上の(たぶん)絹物だ。

 やっぱりあの世だ。

 ついこの前までいた場所とは、天地の差だ。
 頭がついていかない。

 かすかな足音が近づいてきた。

「お目覚めにございますか?」
「ああ・・・天女?」
 いや、男だが・・・。
 天女のような美しい人が微笑んでいる。
 景三郎とはまた違ったタイプの美人だ。
 儚げ、というか目元に憂いがにじむ。
 月の光のような、柔らかさがある。
 思わず見惚れてしまう。
「ご気分はいかがですか?」

「あの・・・ここは、極楽?」
 ぼんやりと間抜けな質問をする。

「そうですねえ」
 美しいひとは、小首をかしげた。
「若さまが、極楽だと思われるのでしたら極楽。地獄だと思われるのでしたら、地獄でございましょう」

 景司は思い出していた。
 この人が、あのとき当て身を食わせた侍で、連れてこられてからは、痛めつけられた体を介抱してくれたことを。

「いったいなんのつもりだ。ここはどこなんだ」

 だんだんと怖くなってきて、いくらか声を荒げた。
 若さまと呼ばれたことも、景司を現実に引き戻した。
 景三郎だと知って、ここに連れてきたに違いない。

「それは、いずれわかります。ご気分がよろしければ、この後、主人に会っていただきます」
「主人? それは誰なんだ」
「それも、その時に主人から話があるでしょう」
「じゃあ、あんたの名前は?」
「これは申し遅れました。早乙女伊織と申します」
「いおり・・・」
「はい」
「嫌だ、と言ったら?」
 伊織の笑みが大きくなった。
「力ずくでも」
 言うと同時に手を叩いた。

 襖がぱっと開いて、三人の少年が姿を現した。
 美しく着飾った小姓たちだ。

「まずは、湯殿でお体を清めていただきます。それから食事。お着替え。すべて、この小姓たちにお任せを」
「はあ?」

 抵抗する間もなく、三人に、ひょいと担ぎ上げられた。
「わっ、何しやがる! おろせ!」
 暴れるが、少年たちはびくともしなかった。
 ニコリともせずに、景司を運んでいく。

 手際よく裸にむかれ、風呂に入れられた。
 悔しいことに、急所をしっかりと押さえられているので抵抗できない。
 ここの主人はよほど武術の教育に熱心なのか。
 動くのは口だけだった。
「お前ら、ただでは済まさんぞ! このやろう!」
 頭から湯をぶっかけられ、髪を引っ張られた。
 その乱暴な扱いには閉口した。
 あざになったところでも容赦ない。
 それが、強烈な嫉妬からくるものだとは、景司は気づいていない。
「いてっ、いってえな! もっと優しくできへんのか、こら! あほんだらあ!」

 一年分の垢がこそげ落とされるような勢いで洗われたが、悪くなった口までは落とせない。

 なぜかあそこは、恥ずかしいくらいにばか丁寧に扱われ、まっさらな下帯を巻かれた。

 浴衣を着せられ、元の部屋まで運ばれる。

 部屋には、膳が並べられていた。
 見たことがないようなご馳走が並んでいる。

 風呂場の手荒い扱いがなければ、極楽だと勘違いするところだ。

 ところが、大人しく食べさせてはくれなかった。
 小姓が髪をすき、整えている。
 おまけにカミソリで顔をあたりだした。
 怖くて顔を動かせない。

 あれから何日経ったのかわからないが、お腹が空いて、ぐうぐう鳴っている。

 やっと解放されて、膳にがっつくように食べ物を口に運んだ。
 久しぶりの白いご飯に感動して、涙が出そうになる。
 そういえば、江戸時代に来てから、玄米か麦飯のような雑穀ご飯しか口にしていなかった。

 ふと、箸が止まる。

 この扱いはなんだ。
 まるで殿様みたいだ。

 不安が胸に広がっていくのを感じながらも、箸が止まったのは一瞬で、いやしくもすべて平らげた。
 今度いつ、こんなご馳走が食べられるかわからないのだ。

 まだこれで終わったわけではなかった。

 お茶を飲んでくつろいでいると、小姓が膳を下げに来た。

 お着替えを、と衣装を持ってくる。

 その衣装を見て驚いた。

 小姓たちが着ているような、派手な振袖だ。
 女子が成人式で着るやつじゃ・・・。

 無理無理無理・・・。

「こんなもの、着れるか! 帰る!」

 小姓たちを押し退けて、部屋を出ようとした。

 が、足がもつれて倒れ込む。
 体に力が入らない。

 なんで・・・?

 まさか・・・!
 食事に何か入れられた?!
 焦ったが、どうにもならなかった。

 小姓たちに抱き起こされて、また裸にむかれる。

「ああああーーーっ!」

 嫌だと言おうとして、舌が回らず、叫び声になった。
 意識まで飛んだ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

捨て猫はエリート騎士に溺愛される

135
BL
絶賛反抗期中のヤンキーが異世界でエリート騎士に甘やかされて、飼い猫になる話。 目つきの悪い野良猫が飼い猫になって目きゅるんきゅるんの愛される存在になる感じで読んでください。 お話をうまく書けるようになったら続きを書いてみたいなって。 京也は総受け。

目覚ましに先輩の声を使ってたらバレた話

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
サッカー部の先輩・ハヤトの声が密かに大好きなミノル。 彼を誘い家に泊まってもらった翌朝、目覚ましが鳴った。 ……あ。 音声アラームを先輩の声にしているのがバレた。 しかもボイスレコーダーでこっそり録音していたことも白状することに。 やばい、どうしよう。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…

まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。 5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。 相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。 一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。 唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。 それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。 そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。 そこへ社会人となっていた澄と再会する。 果たして5年越しの恋は、動き出すのか? 表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

処理中です...