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5.おばあちゃんの飴玉
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ミーコさんは奥の席に私と祖母を通し、坂部くんはすぐに奥から本日のケーキと祖母のウーロン茶と私のカプチーノを持って来てくれる。
本日のケーキはクリームブリュレだ。
目の前に出されると食べないなんてできなくて、私はさっそく硬い表面にスプーンを入れると、トロリととろける中身をいただく。
「うーん、甘くて美味しい!」
「本当に。綾乃ちゃんは昔から甘いものに目がないからねぇ。でもまさか綾乃ちゃんがココを知ってるなんて思わなかったわ」
「あ、はは……っ」
ここは一体なんて説明すればいいのだろう?
近所の商店街のすぐそばとはいえ、偶然通りかかるような場所でもないし、適当な説明が思い浮かばない。
教育熱心の祖母にバイトをしてるだなんて、私の口からはとてもじゃないけど言えない。
「綾乃さんは親しくてもらっているクラスメイトということもあって、うちの店を手伝ってもらっているんですよ」
けれど、そんな私の意思と反して、あっさりと坂部くんが祖母に伝えてしまう。
坂部くんってば、余計なことを……!
「ほぉ。綾乃ちゃんが、ギンのお店を?」
祖母の目がこちらに向けられる。
「おばあちゃん、そんなこと聞いてない気がするけどねぇ」
最近ものすごく忘れっぽくなった祖母は、いつもこの文言を口癖のように言っているらしい。
だからたとえ祖母にバイトのことを話していたとしても、同じことを言われていた可能性は高い。
そんな祖母に対して、上手いことを言ってこの場を切り抜けることは可能だったかもしれない。
けれど、さすがに私にはそこまでの器量はない。
「うん……。そ、そうなんだ」
祖母の片眉がぴくりと上がる。
物忘れが酷くなってきても、元々の教育熱心なところは顕在している。
そんな祖母にとって、高校生がバイトだなんてと思われているに違いない。
「……私ね、自分に何ができるのかもわからないし、何がしたいのかもわからなくて、ずっと悩んでて……。そんなとき、坂部くんがここで働いてみないかって声をかけてくれたの」
最初こそ、バイトなんて自分にはできると思えなかった。
だけど、やってみないとわからないと言われて、私はここでバイトを始めた。
「……最初は失敗ばかりだったけど、最近ちょっと慣れてきて……。いろんなお客さんに美味しいものを出して、相談に乗って、笑顔でありがとうって言われる度に、自分にもちょっと自信がついた気がするの」
「……そうかい。でも、お勉強は? ギンはまぁ……あの子は特別だけど、綾乃ちゃんは普通の高校生なんだから」
「成績もね、ここで働きだしてからの方が良くなったの。自分でもびっくりしてるけど」
きっとそれは、今までダラダラとしていた生活にメリハリがついたからだろう。
くわえて、何となく自分に自信がついたことで、やる気もアップしている気がする。
今まで自分には何もない、何もできないと、何もせずに生きてきたけれど、思いきって新しいことを始めて、もがきながらも一生懸命やっているうちに、それが次第に自分の自信に繋がっていってるんだと思う。
「それならいいんだよ。綾乃ちゃんにとってここで働くことがプラスになっているのなら」
「……え?」
「これからもちゃんとお勉強して、ギンの手伝いもしっかりするんだよ」
「うん……!」
今まで顔を合わせれば勉強と必ず口にしていた祖母は、私の中でどこか苦手意識があった。
今回のバイトのことを知られても、頭ごなしに否定されるとしか思ってなかった。
だけど祖母は、私にとってプラスになると判断したら、こうやって背中を押してくれるんだ。
そんな祖母を見ていると、今までも決して意地悪で勉強と言ってきていたわけではなく、きっと祖母なりに私を案じてくれていたのではないかと思えてくる。
祖母は私とクリームブリュレを食べ終えると、坂部くんからこのお店の話を聞いていた。
祖母と坂部くんが話しているのをぼんやりと眺めていると、私の隣にスッとミーコさんがやってきた。
「雛乃様は綾乃さんのおばあさまだったのですね。初めて綾乃さんと会ったときから、若い頃の雛乃様と雰囲気が似てるなと思ってましたが、そういうことだったのですね」
「え? そんなに似てますか……?」
いくら今、祖母に対するイメージが少し変わったとはいえ、今までの印象がよくなかっただけに、似てると言われてもあまり嬉しくないのが正直なところだ。
けれど、ミーコさんはそんな私の心境も知らずににこりと微笑む。
本日のケーキはクリームブリュレだ。
目の前に出されると食べないなんてできなくて、私はさっそく硬い表面にスプーンを入れると、トロリととろける中身をいただく。
「うーん、甘くて美味しい!」
「本当に。綾乃ちゃんは昔から甘いものに目がないからねぇ。でもまさか綾乃ちゃんがココを知ってるなんて思わなかったわ」
「あ、はは……っ」
ここは一体なんて説明すればいいのだろう?
近所の商店街のすぐそばとはいえ、偶然通りかかるような場所でもないし、適当な説明が思い浮かばない。
教育熱心の祖母にバイトをしてるだなんて、私の口からはとてもじゃないけど言えない。
「綾乃さんは親しくてもらっているクラスメイトということもあって、うちの店を手伝ってもらっているんですよ」
けれど、そんな私の意思と反して、あっさりと坂部くんが祖母に伝えてしまう。
坂部くんってば、余計なことを……!
「ほぉ。綾乃ちゃんが、ギンのお店を?」
祖母の目がこちらに向けられる。
「おばあちゃん、そんなこと聞いてない気がするけどねぇ」
最近ものすごく忘れっぽくなった祖母は、いつもこの文言を口癖のように言っているらしい。
だからたとえ祖母にバイトのことを話していたとしても、同じことを言われていた可能性は高い。
そんな祖母に対して、上手いことを言ってこの場を切り抜けることは可能だったかもしれない。
けれど、さすがに私にはそこまでの器量はない。
「うん……。そ、そうなんだ」
祖母の片眉がぴくりと上がる。
物忘れが酷くなってきても、元々の教育熱心なところは顕在している。
そんな祖母にとって、高校生がバイトだなんてと思われているに違いない。
「……私ね、自分に何ができるのかもわからないし、何がしたいのかもわからなくて、ずっと悩んでて……。そんなとき、坂部くんがここで働いてみないかって声をかけてくれたの」
最初こそ、バイトなんて自分にはできると思えなかった。
だけど、やってみないとわからないと言われて、私はここでバイトを始めた。
「……最初は失敗ばかりだったけど、最近ちょっと慣れてきて……。いろんなお客さんに美味しいものを出して、相談に乗って、笑顔でありがとうって言われる度に、自分にもちょっと自信がついた気がするの」
「……そうかい。でも、お勉強は? ギンはまぁ……あの子は特別だけど、綾乃ちゃんは普通の高校生なんだから」
「成績もね、ここで働きだしてからの方が良くなったの。自分でもびっくりしてるけど」
きっとそれは、今までダラダラとしていた生活にメリハリがついたからだろう。
くわえて、何となく自分に自信がついたことで、やる気もアップしている気がする。
今まで自分には何もない、何もできないと、何もせずに生きてきたけれど、思いきって新しいことを始めて、もがきながらも一生懸命やっているうちに、それが次第に自分の自信に繋がっていってるんだと思う。
「それならいいんだよ。綾乃ちゃんにとってここで働くことがプラスになっているのなら」
「……え?」
「これからもちゃんとお勉強して、ギンの手伝いもしっかりするんだよ」
「うん……!」
今まで顔を合わせれば勉強と必ず口にしていた祖母は、私の中でどこか苦手意識があった。
今回のバイトのことを知られても、頭ごなしに否定されるとしか思ってなかった。
だけど祖母は、私にとってプラスになると判断したら、こうやって背中を押してくれるんだ。
そんな祖母を見ていると、今までも決して意地悪で勉強と言ってきていたわけではなく、きっと祖母なりに私を案じてくれていたのではないかと思えてくる。
祖母は私とクリームブリュレを食べ終えると、坂部くんからこのお店の話を聞いていた。
祖母と坂部くんが話しているのをぼんやりと眺めていると、私の隣にスッとミーコさんがやってきた。
「雛乃様は綾乃さんのおばあさまだったのですね。初めて綾乃さんと会ったときから、若い頃の雛乃様と雰囲気が似てるなと思ってましたが、そういうことだったのですね」
「え? そんなに似てますか……?」
いくら今、祖母に対するイメージが少し変わったとはいえ、今までの印象がよくなかっただけに、似てると言われてもあまり嬉しくないのが正直なところだ。
けれど、ミーコさんはそんな私の心境も知らずににこりと微笑む。
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