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4.思い出のアップルパイ
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一人ここで考えていても仕方がないし、いつまでも私が京子さんを追いかけていったきり戻らないとなれば、怒られてしまう。
私はここで考えることを一旦やめて、店内に戻ることにしたのだった。
寄り道カフェ店内に戻ると、由梨ちゃんはケーキを食べながら、向かいに座るミーコさんと談笑しているようだった。
本日のケーキは、ショートケーキだ。
一見シンプルなケーキだが、坂部くんの作る生クリームは甘さ加減が絶妙で、とても美味しい。
嬉しそうに食べる由梨ちゃんの姿は年相応で、人間の姿だと普通の小学生の子どもと何ら変わりなく見える。
傍らに立つミーコさんと楽しそうに学校のことを話しているのが少し離れた場所からでもわかった。
本当に由梨ちゃんとミーコさんは仲がいいみたい。
そんな二人のことをレジのところで事務作業をしながら微笑ましく見ていたけれど、そうしているうちに他のお客さんが来て、私もミーコさんも本来の業務に戻る。
一段落したところで窓の外に視線をやると、明るかった外が暗くなってきていることに気づく。
決してものすごく遅い時間帯というわけではないが、十一月になり、一段と日が短くなったということもあるのだろう。
「由梨ちゃん、時間大丈夫?」
ケーキを食べ終えた由梨ちゃんは、オレンジジュースを傍らに、学校の宿題をしているようだった。
由梨ちゃんはあやかしではあるが、小学校にも通っているみたいだし、一般的に見れば小学生だ。あまり遅くなりすぎるのは、よくないだろう。
ノートに走らせていた鉛筆の動きを止めて私を見上げる由梨ちゃんは、明らかに不服そうに口を尖らせる。
「大丈夫だよ。それにまだ宿題終わってないし」
「そうかもしれないけど、外暗くなってきたよ? おうちの人、心配しない?」
「…………」
これは効いたのか、由梨ちゃんは少し困ったようにノートに視線を落とす。
けれど、何を言うでもなく微動だにしなくなってしまった由梨ちゃんに対して、もしかして不味いことを言ってしまったんじゃないかという気持ちにさせられる。
不安になってそばに屈むと、頬を伝ってノートに涙が一粒こぼれ落ちるのが見えた。
「由梨ちゃん……!? ごめんなさい、私、そんなつもりじゃ……っ」
決して泣かせるつもりじゃなかったし、そんな説教臭く言った覚えもない。
そのとき、あたふたとする私の耳に小さく由梨ちゃんの声が届いた。
「…………やだ」
「……え?」
「おうち、帰りたくない」
由梨ちゃんは、シクシクと悲しそうに涙を流しはじめる。
そういえば寄り道カフェに来る前に私とぶつかったとき、由梨ちゃんは泣いていた。
そのときの姿が、今の由梨ちゃんの姿に重なって見えた。
「由梨ちゃん。おうちに帰りたくないって、どうして? お母さんと喧嘩したの?」
由梨ちゃんは私の言葉に首を横に振る。
「喧嘩はしてない、けど……。あそこにはもう、私の居場所なんてないもん」
どういうことだろう?
少なくとも由梨ちゃんにおうちに帰りづらい事情があることはわかったけど……。
どうすればいいのかと考えあぐねていると、厨房の方からミーコさんが出てくるのが見えた。
「あ、ミーコさん」
「どうされましたか?」
ミーコさんは私と由梨ちゃんの状況から、少し驚いたようにこちらに来てくれる。
幸いにも、今さっき出ていったお客さんで、再び店内のお客さんは由梨ちゃんのみになっていた。
「ミーコさん! 今日はミーコさんの家に泊めて!」
こちらに来たミーコさんに、由梨ちゃんはすがるように口を開く。
「え? ええっと。一体、どういうことでしょう」
確かにさっき、おうちには帰りたくないとは言っていたけれど、そこを聞いていなかったミーコさんは突然の由梨ちゃんのお願いによっぽど驚いたのか、猫の三角の耳が頭から飛び出した。
普通の人間なら驚くべきところだが、すっかりあやかしを見慣れてしまったこともあり、今はメルヘンチックなその光景に思わず癒される。
実際、可愛いミーコさんに猫耳って、萌え要素しかない。
心の中で私がそんなことを考えていることなんて全く知る由もないミーコさんは、ミーコさんに飛び付いた由梨ちゃんの頭を困惑した表情で撫でる。
「……最近、お母さんが再婚したの。それで、家に居づらくて……」
「まあ……、そうだったのですね。お母さんには、そのことは話されたのですか?」
私はここで考えることを一旦やめて、店内に戻ることにしたのだった。
寄り道カフェ店内に戻ると、由梨ちゃんはケーキを食べながら、向かいに座るミーコさんと談笑しているようだった。
本日のケーキは、ショートケーキだ。
一見シンプルなケーキだが、坂部くんの作る生クリームは甘さ加減が絶妙で、とても美味しい。
嬉しそうに食べる由梨ちゃんの姿は年相応で、人間の姿だと普通の小学生の子どもと何ら変わりなく見える。
傍らに立つミーコさんと楽しそうに学校のことを話しているのが少し離れた場所からでもわかった。
本当に由梨ちゃんとミーコさんは仲がいいみたい。
そんな二人のことをレジのところで事務作業をしながら微笑ましく見ていたけれど、そうしているうちに他のお客さんが来て、私もミーコさんも本来の業務に戻る。
一段落したところで窓の外に視線をやると、明るかった外が暗くなってきていることに気づく。
決してものすごく遅い時間帯というわけではないが、十一月になり、一段と日が短くなったということもあるのだろう。
「由梨ちゃん、時間大丈夫?」
ケーキを食べ終えた由梨ちゃんは、オレンジジュースを傍らに、学校の宿題をしているようだった。
由梨ちゃんはあやかしではあるが、小学校にも通っているみたいだし、一般的に見れば小学生だ。あまり遅くなりすぎるのは、よくないだろう。
ノートに走らせていた鉛筆の動きを止めて私を見上げる由梨ちゃんは、明らかに不服そうに口を尖らせる。
「大丈夫だよ。それにまだ宿題終わってないし」
「そうかもしれないけど、外暗くなってきたよ? おうちの人、心配しない?」
「…………」
これは効いたのか、由梨ちゃんは少し困ったようにノートに視線を落とす。
けれど、何を言うでもなく微動だにしなくなってしまった由梨ちゃんに対して、もしかして不味いことを言ってしまったんじゃないかという気持ちにさせられる。
不安になってそばに屈むと、頬を伝ってノートに涙が一粒こぼれ落ちるのが見えた。
「由梨ちゃん……!? ごめんなさい、私、そんなつもりじゃ……っ」
決して泣かせるつもりじゃなかったし、そんな説教臭く言った覚えもない。
そのとき、あたふたとする私の耳に小さく由梨ちゃんの声が届いた。
「…………やだ」
「……え?」
「おうち、帰りたくない」
由梨ちゃんは、シクシクと悲しそうに涙を流しはじめる。
そういえば寄り道カフェに来る前に私とぶつかったとき、由梨ちゃんは泣いていた。
そのときの姿が、今の由梨ちゃんの姿に重なって見えた。
「由梨ちゃん。おうちに帰りたくないって、どうして? お母さんと喧嘩したの?」
由梨ちゃんは私の言葉に首を横に振る。
「喧嘩はしてない、けど……。あそこにはもう、私の居場所なんてないもん」
どういうことだろう?
少なくとも由梨ちゃんにおうちに帰りづらい事情があることはわかったけど……。
どうすればいいのかと考えあぐねていると、厨房の方からミーコさんが出てくるのが見えた。
「あ、ミーコさん」
「どうされましたか?」
ミーコさんは私と由梨ちゃんの状況から、少し驚いたようにこちらに来てくれる。
幸いにも、今さっき出ていったお客さんで、再び店内のお客さんは由梨ちゃんのみになっていた。
「ミーコさん! 今日はミーコさんの家に泊めて!」
こちらに来たミーコさんに、由梨ちゃんはすがるように口を開く。
「え? ええっと。一体、どういうことでしょう」
確かにさっき、おうちには帰りたくないとは言っていたけれど、そこを聞いていなかったミーコさんは突然の由梨ちゃんのお願いによっぽど驚いたのか、猫の三角の耳が頭から飛び出した。
普通の人間なら驚くべきところだが、すっかりあやかしを見慣れてしまったこともあり、今はメルヘンチックなその光景に思わず癒される。
実際、可愛いミーコさんに猫耳って、萌え要素しかない。
心の中で私がそんなことを考えていることなんて全く知る由もないミーコさんは、ミーコさんに飛び付いた由梨ちゃんの頭を困惑した表情で撫でる。
「……最近、お母さんが再婚したの。それで、家に居づらくて……」
「まあ……、そうだったのですね。お母さんには、そのことは話されたのですか?」
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