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4.思い出のアップルパイ
4ー3
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レジのところで事務作業をしていたミーコさんが、話を振られてにっこりと愛らしい笑みを浮かべる。
どうしてこうも周りは私と坂部くんをくっつけたがるのか。
「そうですか……? 私にはそうは見えませんが……」
だけど、そんな私にはミーコさんはふふふと笑うだけだ。
「もしかして人間とあやかしだからって遠慮してる? 大丈夫よ、私の歴代の彼氏も人間ばっかりだし。障害の多い恋って燃えるわよ?」
「いや、そうじゃなくて……」
「ギンの両親も確か……」
そのとき、すぐ近くで低い咳払いが聞こえる。
私と京子さんが音の聞こえた方を見ると、うっとうしそうに眉を寄せた坂部くんがすぐそばに立っていた。
「おしゃべりに花を咲かせるのは結構ですが、人のプライバシーまでベラベラ話さないでください」
「何よ、大したこと話してないじゃない。だって綾乃って、ギンの元の姿も見てるんでしょ?」
「それとこれとは別ですから。いちいち余計なことを吹き込まないでください」
まるで吐き捨てるように言った坂部くんの声に、胸がきゅうっと締め付けられるような苦しみを覚える。
そんなに知られたくないことだったのかな……。
確かに私はあやかしではない。
けれど、まるで私がこれ以上のことを知ることを拒絶されているように思えて、少し近づいたように感じていた心の距離さえ大きく遠ざけられたように感じてしまう。
「何よ、感じ悪いわね。綾乃、気にしなくていいからね」
……京子さんといい、明美といい、そんなに私は坂部くんに恋しているように見えるのだろうか。
思わず再び考え込んでしまいそうになったところ、
「ほら、もう京子さんの相手はいいから、綾乃は厨房の方手伝ってくれる?」
コツンと軽く坂部くんの拳が私の頭にぶつけられて、思わず心臓があり得ないくらいにとび跳ねる。
「あ、っははははいっ!」
坂部くんは訝しげな表情を浮かべ、一方で京子さんは頬を赤く染める私を見ておかしげに笑っていた。
……わああ、恥ずかしいよ。
そのときだった。変な緊張感に包まれた店内に、カランコロンとドアベルの音がした。
見ると、ローズ色のランドセルを背負った女の子が、肩まである髪を揺らしてお店の中に入ってくる。
「客か。綾乃、厨房はいいからあの女子の接客よろしく」
「はい」
女の子が入ってきたことで、坂部くんは小さく息をついて厨房に戻っていく。
「いらっしゃいま……」
「ミーコさん!」
私が言い終わるより先に、女の子はレジのところで事務作業をしていたミーコさんの方へ駆けていった。
「え……っ!?」
あまりに見覚えのある横顔に、私は思わず声が出る。
というのも、今ミーコさんの方へ駆けていった女の子は、私がここに来る途中にぶつかった小学生だったのだから。
レジの方で事務作業をしていたミーコさんは、指名を受けてレジカウンターの下から顔を出す。
「いらっしゃいませ。由梨ちゃんじゃないですか。大きくなられて。お久しぶりですね」
女の子は由梨ちゃんと言うらしい。
どうやら、ミーコさんと由梨ちゃんは顔見知りのようだ。
「ミーコさん、会いたかったよぉ~!」
どことなく親しげな雰囲気から、由梨ちゃんもまたここの常連さんなのだろうか。
どうみても普通の小学生にしか見えなかったのに、寄り道カフェの常連さんかもしれないと思うと、途端に由梨ちゃんはただの小学生に見えなくなってくるのは、この場所のせいだろうか。
由梨ちゃんは数言ミーコさんと言葉を交わしたあと、ミーコさんに連れられてこちらに歩みを進める。
「あ……っ! さっきの……っ」
そのとき、こちらを向いた由梨ちゃんは私を見るなり目を丸くして、少し気まずそうに視線を落とした。
「もしかして、おふたりはお知り合いでしたか?」
私たちの様子を見て、ミーコさんは何かを察したようにたずねる。
どうしてこうも周りは私と坂部くんをくっつけたがるのか。
「そうですか……? 私にはそうは見えませんが……」
だけど、そんな私にはミーコさんはふふふと笑うだけだ。
「もしかして人間とあやかしだからって遠慮してる? 大丈夫よ、私の歴代の彼氏も人間ばっかりだし。障害の多い恋って燃えるわよ?」
「いや、そうじゃなくて……」
「ギンの両親も確か……」
そのとき、すぐ近くで低い咳払いが聞こえる。
私と京子さんが音の聞こえた方を見ると、うっとうしそうに眉を寄せた坂部くんがすぐそばに立っていた。
「おしゃべりに花を咲かせるのは結構ですが、人のプライバシーまでベラベラ話さないでください」
「何よ、大したこと話してないじゃない。だって綾乃って、ギンの元の姿も見てるんでしょ?」
「それとこれとは別ですから。いちいち余計なことを吹き込まないでください」
まるで吐き捨てるように言った坂部くんの声に、胸がきゅうっと締め付けられるような苦しみを覚える。
そんなに知られたくないことだったのかな……。
確かに私はあやかしではない。
けれど、まるで私がこれ以上のことを知ることを拒絶されているように思えて、少し近づいたように感じていた心の距離さえ大きく遠ざけられたように感じてしまう。
「何よ、感じ悪いわね。綾乃、気にしなくていいからね」
……京子さんといい、明美といい、そんなに私は坂部くんに恋しているように見えるのだろうか。
思わず再び考え込んでしまいそうになったところ、
「ほら、もう京子さんの相手はいいから、綾乃は厨房の方手伝ってくれる?」
コツンと軽く坂部くんの拳が私の頭にぶつけられて、思わず心臓があり得ないくらいにとび跳ねる。
「あ、っははははいっ!」
坂部くんは訝しげな表情を浮かべ、一方で京子さんは頬を赤く染める私を見ておかしげに笑っていた。
……わああ、恥ずかしいよ。
そのときだった。変な緊張感に包まれた店内に、カランコロンとドアベルの音がした。
見ると、ローズ色のランドセルを背負った女の子が、肩まである髪を揺らしてお店の中に入ってくる。
「客か。綾乃、厨房はいいからあの女子の接客よろしく」
「はい」
女の子が入ってきたことで、坂部くんは小さく息をついて厨房に戻っていく。
「いらっしゃいま……」
「ミーコさん!」
私が言い終わるより先に、女の子はレジのところで事務作業をしていたミーコさんの方へ駆けていった。
「え……っ!?」
あまりに見覚えのある横顔に、私は思わず声が出る。
というのも、今ミーコさんの方へ駆けていった女の子は、私がここに来る途中にぶつかった小学生だったのだから。
レジの方で事務作業をしていたミーコさんは、指名を受けてレジカウンターの下から顔を出す。
「いらっしゃいませ。由梨ちゃんじゃないですか。大きくなられて。お久しぶりですね」
女の子は由梨ちゃんと言うらしい。
どうやら、ミーコさんと由梨ちゃんは顔見知りのようだ。
「ミーコさん、会いたかったよぉ~!」
どことなく親しげな雰囲気から、由梨ちゃんもまたここの常連さんなのだろうか。
どうみても普通の小学生にしか見えなかったのに、寄り道カフェの常連さんかもしれないと思うと、途端に由梨ちゃんはただの小学生に見えなくなってくるのは、この場所のせいだろうか。
由梨ちゃんは数言ミーコさんと言葉を交わしたあと、ミーコさんに連れられてこちらに歩みを進める。
「あ……っ! さっきの……っ」
そのとき、こちらを向いた由梨ちゃんは私を見るなり目を丸くして、少し気まずそうに視線を落とした。
「もしかして、おふたりはお知り合いでしたか?」
私たちの様子を見て、ミーコさんは何かを察したようにたずねる。
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