伊予むすび屋の思い出ごはん

美和優希

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第一部エピローグ

E1ー2

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 チャチャの散歩から戻ると、チャチャの小屋の前に晃さんが立っていた。

 手には何やら白い封筒と紙を持っていて、それに目を通している。

 ……手紙かな?


「ケイ、おまえに朗報だ」

 すると不意にこちらに顔を向けて、晃さんは柔らかい笑みを浮かべて手紙を手渡してくる。


「……え?」

「それ、史也さんからの手紙だ」

「ああっ!」


 史也さん……! 本当のことを言えずに亡くなってしまった清美さんの恋人だ。

 シンプルな便箋二枚に渡って綴られた、丁寧な文字で書かれた文章を目で追う。


「史也さん、静さんと付き合うことにしたんですね」


 手紙には、ようやく静さんと付き合うことにしたという内容と、私への感謝の気持ちが綴られていた。


 ずっと清美さんのことを忘れられずに苦しんで、史也さん自身、前に進めずにいた。

 史也さんを大切にしてくれる人と一緒になってほしい。そんな清美さんの想いを伝える方法に頭を悩ませたが、信じられないことに奇跡的に二人は再会を果たしたのだ。

 どうして突然史也さんに清美さんの姿が見えるようになったのかは、今もむすび屋の誰もわからない。

 不思議な力を持つむすび屋という場所だからこそ起こった出来事だったのかなと思っている。


 清美さんの想いを聞いて、前向きに生きていこうという決意を聞いたものの、その後どうしているのか心配していたところがあった。

 けれど、無事に史也さんも一歩ずつ着実に前に進めていることがわかって私自身ホッとする。

 そして、本来、一期一会で終わるはずのところが、こうして手紙をもらえることはとても嬉しい。


「本当によかったです。これで清美さんも、安心できますね」

 もしかしたら静さんに少し嫉妬をしているかもしれないが、清美さんの一番の願いは史也さんの幸せだったのだから。


「そうだな。清美さんもだし、史也さんはケイに手紙を書くくらいに感謝してるんだ。自分の能力で、こうして救われている人がいるって、やっぱり嬉しいだろ」

「はい。まさか本当に“霊が見える能力”が役に立つときが来るなんて思いませんでした」


 初めてむすび屋に訪れた日。晃さんに誘われなかったら、私はきっと今もこの能力を封印して生きていただろう。

 ここは、ありのままの私で居られる場所であり、ありのままの私を求めてもらえる場所なんだ。


「これも、晃さんのおかげです。ありがとうございます」

「俺? 大したことは何もしてないが」

 淡々とした口調と裏腹に、晃さんは少し照れたように笑みをこぼしている。

 お母さんとの一件が解決してから、何となく晃さんが優しい表情をすることが増えたのは、きっと気のせいじゃないと思う。


「……それに、俺こそケイには感謝してる」

「え?」

「ありがとう」

「はい」

 自分もさっき同じようなことを言ったというのに、いざ自分が同じようなことを言われると、照れ臭くてたまらない。


 そのとき、私たちに向かって別の男性の声が耳に届いた。


「あれ? 晃もケイちゃんもこんなところにおったんや。今、幽霊のお客様が来て、なのかが一人で対応しとるところなんよ。手空いとんやったら行ってあげて」

 振り向けば、むすび屋の方から拓也さんが大股で歩いてくる。

 チャチャのご飯を持ってきてくれたようだ。


「ああ、すまん」

「はい! 今行きます!」

 晃さんの返事と同時に私もそう返す。

 自分でも思っていた以上に大きくなってしまった声に、拓也さんはチャチャの前にごはんを置きながらクックッと笑う。


「何か今日のケイちゃん、いつもよりすごく気合い入っとるけど、何か良いことあったん?」

「はい。またあとでお話しさせてください!」

「それなら、楽しみにしとるけん」


 私はそんな拓也さんの声を背に、晃さんとともに向かうのだった。

 私たちの力を求めてやって来た、お客様の元へ──。


 *


 愛媛県松山市の片隅にある、どんなお客様も受け入れる小さな民宿むすび屋。

 いつの間にかここは、かけがえのない私の居場所となっていた。

 今日も、物珍しいお客様が私たちにしかできないようなお願いを抱えてやって来る。


 ありがとう。

 ごめんなさい。

 好き、愛してる。

 どんな想いも全部、伝えられるうちに。


 この世にとらわれてしまったお客様の心を少しでも救えるように。

 それぞれの想いをむすぶ役割を担い、私たちは今日も全力を尽くします。





 *完*
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