伊予むすび屋の思い出ごはん

美和優希

文字の大きさ
上 下
47 / 69
3.恋する特製カレーオムライス

3ー18

しおりを挟む
 *


 特製カレーオムライスを食べたあと、清美さんと史也さんは揃って厨房にいた私たちにお礼を言いに来た。

 史也さんに自分の気持ちを話して、念願のカレーオムライスを一緒に食べることができた清美さんは、穏やかな光に包まれながら笑顔で消えていった。

 残された史也さんはというと、まだすぐに静さんと付き合うまでには気持ちは切り替えられないものの、前向きに検討していくことを静さんに伝えたらしい。

 今朝、むすび屋を去る前に、再度一人でお礼を言いに来た史也さんにそう聞かされた。 

 史也さんも一歩前進してくれて、安心したというのが正直な気持ちだ。


 今はすでに団体客をお見送りして、一気に静けさを取り戻したむすび屋の食堂で、私は晃さんと向かい合う形で、昨日清美さんたちが食べていた特製カレーオムライスを食べている。


「本当に、良かったです……うっうっ」

「おまえなぁ、食うか泣くかどっちかにしろよ。汚い」

 汚いはさすがに失礼じゃないですかね。

 確かにものすごく涙腺が緩んでいる自覚はあるし、食べながら泣くのは良くないと思うけれど、さすがに“汚い”はないと思うのだが……。

 かといって私自身、自分の泣き顔が特別綺麗とも思っていないので、ひとまずそこは反論せずに飲み込んだ。


「……だって、本当に良かったなと思って」

 奇跡的に想いを伝え合うことができた清美さんと史也さん。最後の瞬間までお互いを想い合う姿に感動して、私はボロ泣きしてしまったのだ。

 愛し合う二人のお別れの場面を目の当たりにして、晃さんは何も感じなかったのだろうか。


「そうやな。死んだあとも一途に想い続けられる人に出会えることも、過去をありのままに受け入れてくれる人に出会えることも、そうそうないけん。史也さんには、強く生きていってほしいよな」

 晃さんの真意を確認する間もなく、拓也さんが私の隣に特製カレーオムライスの乗ったお盆を持ってウンウンとうなずきながらやって来る。

 そんな拓也さんの目元には、涙がきらりと光っていた。


「おまえもかよ、拓也」

「俺が涙もろいん、おまえはよく知っとるやろ?」

「いや、初耳だが」

「ケイちゃーん、冷徹晃がいじめてくるんやけど……」


 二人が仲良く言い合っているのを見ながら、私は拓也さんの言う通りだなと思った。

 清美さんと史也さんのように、どちらかが亡くなったあとも、ずっと想い続けられるような相手。

 そして静さんのように、弱い部分もひっくるめて全てを受け入れてくれる相手。

 この世界には何億もの人間がいるけれど、なかなかそういった人に出会えるのは難しい。


 私にも、いつかそんな人が現れるのだろうか────。



 スプーンですくったオムライスを口に含むと、濃厚なデミグラスソースと玉子のとろけるような感触とともに、カレーピラフのスパイスが弾ける。


「美味しい……!」


 ────むすび屋に来る前の自分なら、そんな未来はあり得ないって否定していた。

 だけど、今は不思議なくらい前向きに、希望を抱いている自分がいた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

ラスト・チケット

釜瑪 秋摩
ライト文芸
目が覚めたら真っ白な部屋にいた。 いつの間にか手にしていたチケットで 最後の七日間の旅にでる。 オムニバス形式で七人が送る七日間の話――。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

心の落とし物

緋色刹那
ライト文芸
・完結済み(2024/10/12)。また書きたくなったら、番外編として投稿するかも ・第4回、第5回ライト文芸大賞にて奨励賞をいただきました!!✌︎('ω'✌︎ )✌︎('ω'✌︎ ) 〈本作の楽しみ方〉  本作は読む喫茶店です。順に読んでもいいし、興味を持ったタイトルや季節から読んでもオッケーです。  知らない人、知らない設定が出てきて不安になるかもしれませんが、喫茶店の常連さんのようなものなので、雰囲気を楽しんでください(一応説明↓)。 〈あらすじ〉  〈心の落とし物〉はありませんか?  どこかに失くした物、ずっと探している人、過去の後悔、忘れていた夢。  あなたは忘れているつもりでも、心があなたの代わりに探し続けているかもしれません……。  喫茶店LAMP(ランプ)の店長、添野由良(そえのゆら)は、人の未練が具現化した幻〈心の落とし物(こころのおとしもの)〉と、それを探す生き霊〈探し人(さがしびと)〉に気づきやすい体質。  ある夏の日、由良は店の前を何度も通る男性に目を止め、声をかける。男性は数年前に移転した古本屋を探していて……。  懐かしくも切ない、過去の未練に魅せられる。 〈主人公と作中用語〉 ・添野由良(そえのゆら)  洋燈町にある喫茶店LAMP(ランプ)の店長。〈心の落とし物〉や〈探し人〉に気づきやすい体質。 ・〈心の落とし物(こころのおとしもの)〉  人の未練が具現化した幻。あるいは、未練そのもの。 ・〈探し人(さがしびと)〉  〈心の落とし物〉を探す生き霊で、落とし主。当人に代わって、〈心の落とし物〉を探している。 ・〈未練溜まり(みれんだまり)〉  忘れられた〈心の落とし物〉が行き着く場所。 ・〈分け御霊(わけみたま)〉  生者の後悔や未練が物に宿り、具現化した者。込められた念が強ければ強いほど、人のように自由意志を持つ。いわゆる付喪神に近い。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

処理中です...