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5.熱い抱擁
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受付の業務が終わると、私は副社長とともに行動することになった。
パーティーは、藤崎製菓の起業の日から今日まで歴史を築き大きく成長したことに対する感謝の気持ちを伝える社長の挨拶から始まり、そのあとは立食形式で進んでいく。
会場には何ヶ所かブースが設けられ、現在の実績から今後の豊富についてのスライドを掲示してあるところや、既存のお菓子から発売間近の新商品の試食ができるコーナーまであった。
副社長とともに他社の企業の重役に挨拶して回るのは慣れないし、基本的に副社長たちの話を聞いてるだけとはいえ、ずっと気を張っていないといけないので大変だ。
「へ~。それにしても藤崎副社長がようやく取られた秘書、ずいぶんと可愛らしいですね~。やっぱりこんなに可愛い子がそばに居てくれると、仕事も捗るでしょ」
今副社長と話しているのは、藤崎製菓が起業したときからの長い付き合いのある会社の社長さんだ。
副社長より少し年上なのかなと思われる風貌の男性だけど、何だか最初に挨拶したときから、舐め回すように見られていて居心地が悪い。
副社長が仕事の話に持っていっても、何度も今みたいにあからさまに私のことについて話題を持ってこようとしてくる。
「ねぇ、キミ」
「はい!」
そんなことを思っているうちに、今度は直接私に話しかけられてしまった。
思っていたことを顔に出さないようにしていたつもりだったけど、何か思うことがあったのだろうか?
副社長には、私はまだ慣れないだろうから最低限自己紹介程度の挨拶をしたら、あとは隣に立ってもらってるだけでいいと言われていたけれど、さすがに直接話しかけられてしまった以上そういうわけにはいかない。
ここは慎重に言葉を選びながら話さないと……!
「ひゃ~秘書歴短いだけあって初々しい感じがいいね~。俺の秘書なんて厳しいオバサンで参っちゃう。キミみたいな子が俺の秘書になってくれたら嬉しいんだけどな~」
ち、近い……っ!
鼻先と鼻先の距離が十センチないんじゃないかと思うくらいに相手方の社長さんに顔を近づけられて、愛想笑いを返すのがやっとだ。
「ねぇ、藤崎副社長に飽きたら俺のところにおいでよ。キミになら特別にサービスしちゃう。あ、もちろん夜の方もね?」
「え、っと……」
な、何、夜の方もって……。
何だか怪しい臭いしか感じないんですけど……!
とはいえ、相手方の社長さんとなると変なことを言えないし、一体どうしたらいいのだろう?
だけど、そのときだった。
私の腰は副社長によってグッと引き寄せられ、それにより必然的に相手方の社長さんとも距離が空いた。
「お気遣いいただかなくても、ご心配不要です。俺には彼女を飽きさせない自信がありますので」
何が起こったのかわからなくて副社長の方を見上げると、副社長は相変わらずの穏やかな笑顔を張りつけたままそう言ったのだ。
副社長、顔は笑ってるけど、もしかして怒ってる……?
その表情とは対照的に、いつもに反して非常に厳しい言い方のように聞こえた。
「え!? あ、何? 二人って、そういうことだったの!? それなら早く言ってくださいよ~」
副社長の様子に気づいてなのだろう。相手方の社長さんは、若干うろたえているようだった。
「また弊社とのお付き合いの方、よろしくお願いいたしますね」
そして明らかに焦った口調でそう言うと、逃げるように私たちのそばから離れていった。
「いつもあの会社にうちの商品の広告を依頼してるのだが、考え直した方がいいのかもしれないな」
副社長は小さくなる後ろ姿を見ながら、ため息混じりにそう吐き出す。
よっぽどさっきの相手方の社長さんのことが気に入らなかったのだろう。
「でも、よかったんですか? さっきの社長さん、私たちのこと誤解してそうでしたけど……」
「ああでもしないと、きみが餌食になるところだっただろ? あそこの社長はこの春から世代交代で前社長の息子に代わったんだが、どうもソリが合わない」
もしかしなくても、副社長は私を守るためにわざわざあんなことを言ってくれのだろう。
こんなときに不謹慎だと思いながらも、思わず胸がドキドキと高鳴る。
そんな思わぬ出来事はあったものの、特に大きなトラブルもなく無事に創立記念パーティーは幕を閉じた。
受付の業務が終わると、私は副社長とともに行動することになった。
パーティーは、藤崎製菓の起業の日から今日まで歴史を築き大きく成長したことに対する感謝の気持ちを伝える社長の挨拶から始まり、そのあとは立食形式で進んでいく。
会場には何ヶ所かブースが設けられ、現在の実績から今後の豊富についてのスライドを掲示してあるところや、既存のお菓子から発売間近の新商品の試食ができるコーナーまであった。
副社長とともに他社の企業の重役に挨拶して回るのは慣れないし、基本的に副社長たちの話を聞いてるだけとはいえ、ずっと気を張っていないといけないので大変だ。
「へ~。それにしても藤崎副社長がようやく取られた秘書、ずいぶんと可愛らしいですね~。やっぱりこんなに可愛い子がそばに居てくれると、仕事も捗るでしょ」
今副社長と話しているのは、藤崎製菓が起業したときからの長い付き合いのある会社の社長さんだ。
副社長より少し年上なのかなと思われる風貌の男性だけど、何だか最初に挨拶したときから、舐め回すように見られていて居心地が悪い。
副社長が仕事の話に持っていっても、何度も今みたいにあからさまに私のことについて話題を持ってこようとしてくる。
「ねぇ、キミ」
「はい!」
そんなことを思っているうちに、今度は直接私に話しかけられてしまった。
思っていたことを顔に出さないようにしていたつもりだったけど、何か思うことがあったのだろうか?
副社長には、私はまだ慣れないだろうから最低限自己紹介程度の挨拶をしたら、あとは隣に立ってもらってるだけでいいと言われていたけれど、さすがに直接話しかけられてしまった以上そういうわけにはいかない。
ここは慎重に言葉を選びながら話さないと……!
「ひゃ~秘書歴短いだけあって初々しい感じがいいね~。俺の秘書なんて厳しいオバサンで参っちゃう。キミみたいな子が俺の秘書になってくれたら嬉しいんだけどな~」
ち、近い……っ!
鼻先と鼻先の距離が十センチないんじゃないかと思うくらいに相手方の社長さんに顔を近づけられて、愛想笑いを返すのがやっとだ。
「ねぇ、藤崎副社長に飽きたら俺のところにおいでよ。キミになら特別にサービスしちゃう。あ、もちろん夜の方もね?」
「え、っと……」
な、何、夜の方もって……。
何だか怪しい臭いしか感じないんですけど……!
とはいえ、相手方の社長さんとなると変なことを言えないし、一体どうしたらいいのだろう?
だけど、そのときだった。
私の腰は副社長によってグッと引き寄せられ、それにより必然的に相手方の社長さんとも距離が空いた。
「お気遣いいただかなくても、ご心配不要です。俺には彼女を飽きさせない自信がありますので」
何が起こったのかわからなくて副社長の方を見上げると、副社長は相変わらずの穏やかな笑顔を張りつけたままそう言ったのだ。
副社長、顔は笑ってるけど、もしかして怒ってる……?
その表情とは対照的に、いつもに反して非常に厳しい言い方のように聞こえた。
「え!? あ、何? 二人って、そういうことだったの!? それなら早く言ってくださいよ~」
副社長の様子に気づいてなのだろう。相手方の社長さんは、若干うろたえているようだった。
「また弊社とのお付き合いの方、よろしくお願いいたしますね」
そして明らかに焦った口調でそう言うと、逃げるように私たちのそばから離れていった。
「いつもあの会社にうちの商品の広告を依頼してるのだが、考え直した方がいいのかもしれないな」
副社長は小さくなる後ろ姿を見ながら、ため息混じりにそう吐き出す。
よっぽどさっきの相手方の社長さんのことが気に入らなかったのだろう。
「でも、よかったんですか? さっきの社長さん、私たちのこと誤解してそうでしたけど……」
「ああでもしないと、きみが餌食になるところだっただろ? あそこの社長はこの春から世代交代で前社長の息子に代わったんだが、どうもソリが合わない」
もしかしなくても、副社長は私を守るためにわざわざあんなことを言ってくれのだろう。
こんなときに不謹慎だと思いながらも、思わず胸がドキドキと高鳴る。
そんな思わぬ出来事はあったものの、特に大きなトラブルもなく無事に創立記念パーティーは幕を閉じた。
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