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25、それから
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それから、キースは頻繁に自宅で夜会を開くようになり、必ずブラックウェル家へ招待状を送ってきた。オズワルドが出席できなくても、マティルダ一人でもいいと書かれていた。
だがオズワルドに欠席する理由はなく、シェイラも一緒に毎回三人で参加することになった。そしてマティルダたちの馬車が到着すると、キースがマティルダを待っていたように手を伸ばし、エスコートした。
「こんばんは、マティルダ。今日のきみも、とても美しいよ」
夫であるオズワルドの役目を奪う振る舞いであったが、もともと彼にはシェイラというパートナーがいる。愛する人を無下にできないオズワルドはキースに何も言えなかった。マティルダも居心地の悪い思いがしたが、一人放ったらかしにされるよりもいいとキースの好意に甘えた。
周囲は四人の奇妙な関係にいろいろと想像を膨らませて愉しんだが、キースはどうでもよさそうだった。
「言わせたいやつには好きに言わせておけばいいさ」
ダンスを踊りながら、彼は朗らかに笑う。前髪を上げて、ほのかに香る香水の匂いは、いつもより胸をときめかせるものだろう。若い娘なら……そうでなくても、勘違いしてしまう女性は多い気がした。
「奥様には何か言われませんの」
夜会を主催した公爵家に、彼の妻の姿はなかった。
「彼女も自由にやっている。僕が同じことをしていると知ったところで責められないよ」
この国では、貴族たちに愛人がいるのは別におかしくない。金も身分もない男が若さを担保に、夫人にいろいろと養ってもらう。夫人の方も年上の、何かと張り合いのない男と愛のない結婚をさせられたから、初心で未熟な青年の心を翻弄して、年若い肉体に支配されて、願ったり叶ったりなのだ。
しかしキースたち夫婦はまだお互いに若いはず。子どももおらず……そのへんも、もしかすると拗れた原因なのかもしれない。
最初は互いを深く想い合って結ばれたはずが、いつの間にかそうではなくなってしまった。愛していても上手くいかないのだから、男女の仲とは、結婚とは実に難しいものだと思う。
「きみと一緒にいても、何も問題はない。心配しなくても、大丈夫だよ」
「わたしは困りますわ」
マティルダの答えが意外だったのか、キースは少し目を瞠って、口を閉ざした。
「……きみはこのままでいいの」
「何か変える必要があるの?」
いつの間にか口調が昔のように砕けていた。
腰を引き寄せられ、耳元で囁かれる。
「きみのためなら何でもすると言っただろう?」
二人の間だけ時が止まったようにその場に縫い付けられる。
周りの視線も気にせず、キースはマティルダだけを射貫くように見つめてくる。
「マティルダ。僕は、」
「何でもしてくれるの?」
胸元に手を当てて、そっと心臓のあたりを撫でれば、ごくりと彼の喉が上下する。
「ああ、きみのためなら」
だったら、とマティルダはキースの胸を押しやり、えっ、という顔をした彼に悪戯っぽい笑みを浮かべて言った。
「あなたのお友達を紹介してほしいわ」
「僕の……?」
「ええ」
「……どうして急に?」
困惑するキースに、マティルダはあら、と答える。
「人付き合いは大切なんでしょう? わたしの主人も、そう教えてくれましたわ」
だがオズワルドに欠席する理由はなく、シェイラも一緒に毎回三人で参加することになった。そしてマティルダたちの馬車が到着すると、キースがマティルダを待っていたように手を伸ばし、エスコートした。
「こんばんは、マティルダ。今日のきみも、とても美しいよ」
夫であるオズワルドの役目を奪う振る舞いであったが、もともと彼にはシェイラというパートナーがいる。愛する人を無下にできないオズワルドはキースに何も言えなかった。マティルダも居心地の悪い思いがしたが、一人放ったらかしにされるよりもいいとキースの好意に甘えた。
周囲は四人の奇妙な関係にいろいろと想像を膨らませて愉しんだが、キースはどうでもよさそうだった。
「言わせたいやつには好きに言わせておけばいいさ」
ダンスを踊りながら、彼は朗らかに笑う。前髪を上げて、ほのかに香る香水の匂いは、いつもより胸をときめかせるものだろう。若い娘なら……そうでなくても、勘違いしてしまう女性は多い気がした。
「奥様には何か言われませんの」
夜会を主催した公爵家に、彼の妻の姿はなかった。
「彼女も自由にやっている。僕が同じことをしていると知ったところで責められないよ」
この国では、貴族たちに愛人がいるのは別におかしくない。金も身分もない男が若さを担保に、夫人にいろいろと養ってもらう。夫人の方も年上の、何かと張り合いのない男と愛のない結婚をさせられたから、初心で未熟な青年の心を翻弄して、年若い肉体に支配されて、願ったり叶ったりなのだ。
しかしキースたち夫婦はまだお互いに若いはず。子どももおらず……そのへんも、もしかすると拗れた原因なのかもしれない。
最初は互いを深く想い合って結ばれたはずが、いつの間にかそうではなくなってしまった。愛していても上手くいかないのだから、男女の仲とは、結婚とは実に難しいものだと思う。
「きみと一緒にいても、何も問題はない。心配しなくても、大丈夫だよ」
「わたしは困りますわ」
マティルダの答えが意外だったのか、キースは少し目を瞠って、口を閉ざした。
「……きみはこのままでいいの」
「何か変える必要があるの?」
いつの間にか口調が昔のように砕けていた。
腰を引き寄せられ、耳元で囁かれる。
「きみのためなら何でもすると言っただろう?」
二人の間だけ時が止まったようにその場に縫い付けられる。
周りの視線も気にせず、キースはマティルダだけを射貫くように見つめてくる。
「マティルダ。僕は、」
「何でもしてくれるの?」
胸元に手を当てて、そっと心臓のあたりを撫でれば、ごくりと彼の喉が上下する。
「ああ、きみのためなら」
だったら、とマティルダはキースの胸を押しやり、えっ、という顔をした彼に悪戯っぽい笑みを浮かべて言った。
「あなたのお友達を紹介してほしいわ」
「僕の……?」
「ええ」
「……どうして急に?」
困惑するキースに、マティルダはあら、と答える。
「人付き合いは大切なんでしょう? わたしの主人も、そう教えてくれましたわ」
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