お姉さまは最愛の人と結ばれない。

りつ

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束の間の自由

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「クロエ」

 珍しいことに、兄に呼ばれた。何だろうと思っていると、しばらくラコスト家が所有する家の一つで過ごすよう言われた。領地から離れた、使われていない屋敷で。なぜですかと問えば、わからないのか? というように眉をひそめられた。

「今の状況では、エリーヌの結婚がちっとも進まない」

 おまえのせいで、と言わんばかりである。いや、実際その通りかもしれない。

 姉に頼まれた通り、クロエはアルベリクと仲を深める振りをしてエリーヌを意識させようとしたが、今のところ大した成果はあげられていない。彼の関心はクロエしかなく、姉のお願いは状況を悪化させるだけのように思えた。

「お姉さまとアルベリク様の結婚を進めるのですか」
「母上はそのつもりみたいだが……」

 はぁ、とため息をつく兄には、二人の仲が到底上手くいくとは思えないのだろう。

「とにかく、おまえはここにいない方がいい。ここから離れろ。落ち着いたら連絡する」
「わかりました」

 いっそ学校をやめなければよかったな、と言われたがどうしようもない。それに学校に通い続けていても、彼は諦めなかっただろうから、結局はこうなったと思う。

 ラコスト夫人もこの件については了承済みらしい。知らないのはエリーヌ、とアルベリクだけ。姉に何も言わず離れるのは心苦しいものがあったが、兄に命じられたとあっては仕方がない、とクロエは言い訳するように自分に言い聞かせた。

(それにわたしがいない方がいい……)

 エリーヌが母親と出かけている間、クロエもひっそりとラコスト家を後にした。見送る兄から不自由はないようにしてあると伝えられ、頭を下げた。

(これで上手くいくといいけれど……)

 馬車に揺られながら、クロエは思う。一緒についてくるメイドが不安そうな顔をしていた。まだ若いのに可哀そうなことをしてしまった。そう思っても、クロエにはどうすることもできない。

(アルベリク様も、諦めてしまえばいいのに……)

 彼は一体自分の何を気に入ったのだろうか。

(愛人の子なのに……)

 周りを傷つけて、生まれてきた子どもなのに。

 何日も馬車に乗って、途中宿屋で休みながらやっと到着した屋敷は、ラコスト家に比べればこぢんまりとした建物だった。周りは自然ばかりで、療養していた、という言い訳にはうってつけであろう。少ないが使用人もいて、クロエは正直肩の荷が降りた心地がした。

 家族、と言っていいかわからないけれど、彼らのもとを離れて暮らす生活はクロエに幾分の心の余裕を取り戻させた。そしてしだいに、アルベリクも諦めるだろうという自信に繋がっていった。

 王都のように洒落た店も、人の数も少ない。使用人だって、向こうと比べて勤務態度が緩やかで、仕事が疎かな部分がある。

 でもクロエはそれでいいと思った。ここに自分を縛るものはない。好きな時に外の空気を吸えるし、誰かの目を気にする必要もない。

(ああ、わたしは今まで窮屈な生活を送っていたのね)

 エリーヌに会えないことは寂しかった。けれどその寂しさを上回る自由をクロエは謳歌していた。

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