20 / 33
姉のお願い
しおりを挟む
「クロエ。大丈夫?」
部屋に引きこもり、ベッドに蹲っていた妹を姉が心配して訪ねてきた。アルベリクはもう帰ったそうである。
「途中で失礼したから、アルベリク様が心配なさっていたわ」
「ごめんなさい……」
「次にお会いしたら謝りなさいね」
白い手が伸びてきて、額に触れられる。
「熱はないようね。食欲はある?」
「ええ、大丈夫」
「きついなら部屋まで運ばせましょうか?」
ふるふると首を振る。
「そう。ならもう少ししたら下りてらっしゃい」
待っているわ、と出て行こうとする姉の手を思わず掴んだ。
「あ、」
「なぁに?」
子どもに話しかけるよう、姉は視線を合わせ、優しく先を促す。
「お姉さま。どうして……どうしてあんなことするの?」
「あんなことって?」
「わたしと……アルベリク様のことよ。お姉さまは、アルベリク様のことが好きなんでしょう?」
どうして妹と一緒になるよう勧めることができるのか。平然とした顔をしていられるのか。
「辛いでしょう? 嫌でしょう? ……ね、もうやめましょう。わたし、お姉さまを悲しませてまであの方と結婚するつもりはないわ。お姉さまには、誰よりも幸せになって欲しいの」
泣きそうな顔で懇願すれば、なぜかエリーヌはふっと笑った。
「クロエは私の幸せを願ってくれるの?」
「ええ。もちろんよ」
「じゃあ、協力して」
「え」
姉はクロエの無防備な両手をぎゅっと握った。赤ん坊をあやすように、軽く揺らす。
「そうよ。人の気持ちは変わるでしょう? だからあなたと私、アルベリク様と一緒にいれば、彼の気持ちも変わるのではないかしら」
「……だから、協力するの?」
「そうよ。クロエは私の幸せを願ってくれるのでしょう?」
「それは、そうだけど」
「なら、お願い。私、アルベリク様がどうしても好きなの。でもアルベリク様の興味は今のところあなたにしかない。見苦しいとわかっていても、可能性があるなら、私は何でもしたいの」
ね、お願いクロエ。
今までエリーヌに何かしてくれと頼まれたことはなかった。彼女はいつだって無欲で、慎み深かった。そんな姉が――
「……わかったわ」
ため息まじりの了承にぱぁっとエリーヌは顔を輝かせた。
「ああ、ありがとう、クロエ! あなたは私の自慢の妹よ!」
まるで子どものようにはしゃぐ姉に、クロエはもう何も言えなかった。
「じゃあ、そういうことだから。次もお願いね、クロエ」
そう言って部屋を出て行く姉の後ろ姿を今度は呼び止めることができなかった。
――次もお願いね、クロエ。
次もまた、あの男に会って、具合が悪いを振りをして、途中で抜けださないといけないのか。それとも人形のようにあの場に座っていればいいのか。
(どうしてあの時、わたしの両親の話を持ち出したの?)
どんな気持ちで、素敵だと言ったの?
クロエは聞くことができなかった。聞いてしまえば何かが終わってしまう気がした。
部屋に引きこもり、ベッドに蹲っていた妹を姉が心配して訪ねてきた。アルベリクはもう帰ったそうである。
「途中で失礼したから、アルベリク様が心配なさっていたわ」
「ごめんなさい……」
「次にお会いしたら謝りなさいね」
白い手が伸びてきて、額に触れられる。
「熱はないようね。食欲はある?」
「ええ、大丈夫」
「きついなら部屋まで運ばせましょうか?」
ふるふると首を振る。
「そう。ならもう少ししたら下りてらっしゃい」
待っているわ、と出て行こうとする姉の手を思わず掴んだ。
「あ、」
「なぁに?」
子どもに話しかけるよう、姉は視線を合わせ、優しく先を促す。
「お姉さま。どうして……どうしてあんなことするの?」
「あんなことって?」
「わたしと……アルベリク様のことよ。お姉さまは、アルベリク様のことが好きなんでしょう?」
どうして妹と一緒になるよう勧めることができるのか。平然とした顔をしていられるのか。
「辛いでしょう? 嫌でしょう? ……ね、もうやめましょう。わたし、お姉さまを悲しませてまであの方と結婚するつもりはないわ。お姉さまには、誰よりも幸せになって欲しいの」
泣きそうな顔で懇願すれば、なぜかエリーヌはふっと笑った。
「クロエは私の幸せを願ってくれるの?」
「ええ。もちろんよ」
「じゃあ、協力して」
「え」
姉はクロエの無防備な両手をぎゅっと握った。赤ん坊をあやすように、軽く揺らす。
「そうよ。人の気持ちは変わるでしょう? だからあなたと私、アルベリク様と一緒にいれば、彼の気持ちも変わるのではないかしら」
「……だから、協力するの?」
「そうよ。クロエは私の幸せを願ってくれるのでしょう?」
「それは、そうだけど」
「なら、お願い。私、アルベリク様がどうしても好きなの。でもアルベリク様の興味は今のところあなたにしかない。見苦しいとわかっていても、可能性があるなら、私は何でもしたいの」
ね、お願いクロエ。
今までエリーヌに何かしてくれと頼まれたことはなかった。彼女はいつだって無欲で、慎み深かった。そんな姉が――
「……わかったわ」
ため息まじりの了承にぱぁっとエリーヌは顔を輝かせた。
「ああ、ありがとう、クロエ! あなたは私の自慢の妹よ!」
まるで子どものようにはしゃぐ姉に、クロエはもう何も言えなかった。
「じゃあ、そういうことだから。次もお願いね、クロエ」
そう言って部屋を出て行く姉の後ろ姿を今度は呼び止めることができなかった。
――次もお願いね、クロエ。
次もまた、あの男に会って、具合が悪いを振りをして、途中で抜けださないといけないのか。それとも人形のようにあの場に座っていればいいのか。
(どうしてあの時、わたしの両親の話を持ち出したの?)
どんな気持ちで、素敵だと言ったの?
クロエは聞くことができなかった。聞いてしまえば何かが終わってしまう気がした。
91
あなたにおすすめの小説
蔑ろにされた王妃と見限られた国王
奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています
国王陛下には愛する女性がいた。
彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。
私は、そんな陛下と結婚した。
国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。
でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。
そしてもう一つ。
私も陛下も知らないことがあった。
彼女のことを。彼女の正体を。
幼馴染の生徒会長にポンコツ扱いされてフラれたので生徒会活動を手伝うのをやめたら全てがうまくいかなくなり幼馴染も病んだ
猫カレーฅ^•ω•^ฅ
恋愛
ずっと付き合っていると思っていた、幼馴染にある日別れを告げられた。
そこで気づいた主人公の幼馴染への依存ぶり。
たった一つボタンを掛け違えてしまったために、
最終的に学校を巻き込む大事件に発展していく。
主人公は幼馴染を取り戻すことが出来るのか!?
大きくなったら結婚しようと誓った幼馴染が幸せな家庭を築いていた
黒うさぎ
恋愛
「おおきくなったら、ぼくとけっこんしよう!」
幼い頃にした彼との約束。私は彼に相応しい強く、優しい女性になるために己を鍛え磨きぬいた。そして十六年たったある日。私は約束を果たそうと彼の家を訪れた。だが家の中から姿を現したのは、幼女とその母親らしき女性、そして優しく微笑む彼だった。
小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも投稿しています。
君の小さな手ー初恋相手に暴言を吐かれた件ー
須木 水夏
恋愛
初めて恋をした相手に、ブス!と罵られてプチッと切れたお話。
短編集に上げていたものを手直しして個別の短編として上げ直しました。
※毎度ですが空想であり、架空のお話です。史実に全く関係ありません。
ヨーロッパの雰囲気出してますが、別物です。
(完結)婚約者の勇者に忘れられた王女様――行方不明になった勇者は妻と子供を伴い戻って来た
青空一夏
恋愛
私はジョージア王国の王女でレイラ・ジョージア。護衛騎士のアルフィーは私の憧れの男性だった。彼はローガンナ男爵家の三男で到底私とは結婚できる身分ではない。
それでも私は彼にお嫁さんにしてほしいと告白し勇者になってくれるようにお願いした。勇者は望めば王女とも婚姻できるからだ。
彼は私の為に勇者になり私と婚約。その後、魔物討伐に向かった。
ところが彼は行方不明となりおよそ2年後やっと戻って来た。しかし、彼の横には子供を抱いた見知らぬ女性が立っており・・・・・・
ハッピーエンドではない悲恋になるかもしれません。もやもやエンドの追記あり。ちょっとしたざまぁになっています。
婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました
Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。
順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。
特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。
そんなアメリアに対し、オスカーは…
とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。
その日がくるまでは
キムラましゅろう
恋愛
好き……大好き。
私は彼の事が好き。
今だけでいい。
彼がこの町にいる間だけは力いっぱい好きでいたい。
この想いを余す事なく伝えたい。
いずれは赦されて王都へ帰る彼と別れるその日がくるまで。
わたしは、彼に想いを伝え続ける。
故あって王都を追われたルークスに、凍える雪の日に拾われたひつじ。
ひつじの事を“メェ”と呼ぶルークスと共に暮らすうちに彼の事が好きになったひつじは素直にその想いを伝え続ける。
確実に訪れる、別れのその日がくるまで。
完全ご都合、ノーリアリティです。
誤字脱字、お許しくださいませ。
小説家になろうさんにも時差投稿します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる