お姉さまは最愛の人と結ばれない。

りつ

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姉のお願い

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「クロエ。大丈夫?」

 部屋に引きこもり、ベッドに蹲っていた妹を姉が心配して訪ねてきた。アルベリクはもう帰ったそうである。

「途中で失礼したから、アルベリク様が心配なさっていたわ」
「ごめんなさい……」
「次にお会いしたら謝りなさいね」

 白い手が伸びてきて、額に触れられる。

「熱はないようね。食欲はある?」
「ええ、大丈夫」
「きついなら部屋まで運ばせましょうか?」

 ふるふると首を振る。

「そう。ならもう少ししたら下りてらっしゃい」

 待っているわ、と出て行こうとする姉の手を思わず掴んだ。

「あ、」
「なぁに?」

 子どもに話しかけるよう、姉は視線を合わせ、優しく先を促す。

「お姉さま。どうして……どうしてあんなことするの?」
「あんなことって?」
「わたしと……アルベリク様のことよ。お姉さまは、アルベリク様のことが好きなんでしょう?」

 どうして妹と一緒になるよう勧めることができるのか。平然とした顔をしていられるのか。

「辛いでしょう? 嫌でしょう? ……ね、もうやめましょう。わたし、お姉さまを悲しませてまであの方と結婚するつもりはないわ。お姉さまには、誰よりも幸せになって欲しいの」

 泣きそうな顔で懇願すれば、なぜかエリーヌはふっと笑った。

「クロエは私の幸せを願ってくれるの?」
「ええ。もちろんよ」
「じゃあ、協力して」
「え」

 姉はクロエの無防備な両手をぎゅっと握った。赤ん坊をあやすように、軽く揺らす。

「そうよ。人の気持ちは変わるでしょう? だからあなたと私、アルベリク様と一緒にいれば、彼の気持ちも変わるのではないかしら」
「……だから、協力するの?」
「そうよ。クロエは私の幸せを願ってくれるのでしょう?」
「それは、そうだけど」
「なら、お願い。私、アルベリク様がどうしても好きなの。でもアルベリク様の興味は今のところあなたにしかない。見苦しいとわかっていても、可能性があるなら、私は何でもしたいの」

 ね、お願いクロエ。

 今までエリーヌに何かしてくれと頼まれたことはなかった。彼女はいつだって無欲で、慎み深かった。そんな姉が――

「……わかったわ」

 ため息まじりの了承にぱぁっとエリーヌは顔を輝かせた。

「ああ、ありがとう、クロエ! あなたは私の自慢の妹よ!」

 まるで子どものようにはしゃぐ姉に、クロエはもう何も言えなかった。

「じゃあ、そういうことだから。次もお願いね、クロエ」

 そう言って部屋を出て行く姉の後ろ姿を今度は呼び止めることができなかった。

 ――次もお願いね、クロエ。

 次もまた、あの男に会って、具合が悪いを振りをして、途中で抜けださないといけないのか。それとも人形のようにあの場に座っていればいいのか。

(どうしてあの時、わたしの両親の話を持ち出したの?)

 どんな気持ちで、素敵だと言ったの?

 クロエは聞くことができなかった。聞いてしまえば何かが終わってしまう気がした。

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