命を助けてもらう代わりにダンジョンのラスボスの奴隷になりました

あいまり

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第5章:林の心臓編

124 手掛かりと子供

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 フレアとリアスから林の心臓があるベスティアについての説明を聞いた翌日から、私達は早速ベスティアの町の近くへとスタルト車を走らせた。
 種族間の諍いに宗教問題と、色々と厄介な問題はある。
 しかし、ひとまず町の様子を見てみないことには何も始まらないという結論に至り、私達は東へとスタルト車を走らせた。
 一日掛けてトソーシンを超えてデンティ国へと入り、その翌日の日中にはベスティアのすぐ隣にあるメンシュという町へと辿り着いた。

 メンシュの町はベスティアを囲う密林のすぐ傍に位置しており、この町の周囲も、他の国や町に比べると大分森が生い茂っていた。
 林の心臓の影響がここまで出ているのか、全体的にかなり自然が豊かな町で、出店や屋台等では野菜や果物などの農作物がかなり出回っていた。

「獣人族にも人族にもこんなに愛されて……林の心臓様様だな」

 近くの出店で買った林檎のような果実を齧りながら言うフレアに、私は「そうだね」と答えた。
 すると、リアスが呆れたような表情で溜息をついた。

「ねぇ、物食べながら喋らないでよ。ホントに行儀悪いわね」
「んぐッ……あ゛ぁ~ハイハイ、悪ぅござんした。次からは気を付けますよっと」

 軽い口調で言いながらまたもや果物を齧るフレアに、リアスは「ちょっと!」と窘めるような声を上げた。
 相変わらずの二人のやり取りを横目に見つつ、私は軽く辺りを見渡した。
 一応ベスティアの町のすぐ近くまではやって来たものの、近くまで来たといったところで、これといった手掛かりは見つかりそうにないな。
 というか、今までの町もそうだが、この町も林の心臓による影響を利点として上手く商売に繋げている。
 知恵が働くというか、ずる賢いというか、何というか……よくもまぁ、こうも色々と思いつくものだ。

「こころ、こころ。あれ見ろ」

 辺りを観察していた時、リートがそう言いながら私の袖をクイクイと引っ張った。
 言われて咄嗟にリートに視線を向けてみると、彼女は周りにある屋台の内の一つをジッと見つめ、私の袖を掴んだまま空いている方の手でその屋台を指さしていた。
 顔を上げて指さされている方を見ていると、そこには串に刺さった果物が飴のようなものでコーティングされ、飾られていた。
 あれは……──

「──りんご飴……?」
「リンゴアメ? 何じゃ? お主はアレを知っておるのか?」

 キョトンとしたような表情を浮かべながらもグイグイと聞いてくるリートに、私はひとまず彼女を宥めた。
 りんご飴と言うと、漫画やアニメの夏祭り系のイベントでは、割と欠かせない物の一つとして扱われている印象がある。
 私は今まで祭りなど一度も行ったことは無いが、祭りにあるものは、漫画やアニメ等から知識として大体は知っている。
 果物の違いから、見た目は私の知っているりんご飴とは異なる部分もあるが、パッと見は祭りの屋台にあるフルーツ飴のようなものと同じだろう。

「あくまで、あんな感じの食べ物が私のいた世界にあったっていうだけの話だよ。その食べ物も、私は自分で食べたことも無いし……この世界とは果物も違うから、味は分からないよ」
「ふむ……お主も食ったことがないのか」
「えっ? ……まぁ、そうだけど……」

 リートの言葉にそう呟いた時、彼女の顔がパッと明るくなったのが分かった。
 それに顔を向けると、彼女はどこか嬉しそうな笑みを浮かべ、私の腕を掴んだ。

「フフッ、そこまで言うなら仕方がないのう。特別に妾が買ってやろう」
「えっ、私は別に、何も……」

 そこまで言って、私はハッとした。
 これ、もしかして、リートがあの食べ物を食べたいだけなのでは……?
 まぁ確かに、ぱっと見は凄く綺麗な見た目をしてるし、興味を惹かれるのも何だか分かる。

 ……私も日本にいた頃は、祭りの屋台の食べ物に、一時期興味を持ったことがあったな。
 とは言え、一人で祭りに行っても虚しくなるだけなのが目に見えていたし……わざわざそんなことをして買ったとして、本当は美味しく無かったらと思うと、つい尻込みしてしまったものだ。
 そんな風に考えている間に気付けば年を取り、自然と興味も薄れ、関心など持たなくなっていたが……。

「……」

 ふと視線を下ろしてみると、リートが私の袖を掴んでキラキラと輝く目で屋台を見ている。
 まるで小さな子供のような彼女の様子が可愛くて、無意識に自分の顔が綻ぶのを感じた。
 屋台には数人ほどの客が並んでいたが、一人一人にそこまでの時間を取ることは無く、あっという間に私達の番が来た。
 一応は私が食べたがっているという理由で買う為か、リートは私と自分の分で、計二本の飴を買った。

 リートが金を支払っていた為、代わりに私が飴を受け取る。
 近くで見てみると、飴のコーティングの奥に、先ほどフレアが食べていた林檎のような果物が見え隠れしているのが分かった。
 やはり、見た目だけならほとんどりんご飴だな……なんて考えていた時だった。
 突然どこからか現れた子供が、代金を支払っているリートの手から金の入った袋を引ったくり、どこかに走っていったのは。

「何ッ……!?」
「リートこれ持ってて!」

 驚くリートに持っていた飴を押し付けると、私はすぐさま子供を追いかけて駆け出した。
 ひとまず飴の代金はリートが先に支払っていた為、時間を気にする必要は無い。
 とは言え、あの袋には私達の全財産が詰まっている。ここで見逃す訳にはいかない。
 私は必死に地面を蹴り進み、人ごみを掻き分け、遠くに見える子供の背中を追いかける。
 走りながらな上に遠目なので子供の姿はハッキリとは見えないが、コートのようなものを身に纏ってフードも被り、完全に姿を隠していた。
 しっかり顔を隠した上での行為……こういった悪事には慣れているのか……!?

 というか……子供にしては、足が速すぎやしないか……!?
 初めてこの町に来た私と比べて地の利があるにしても、普通の子供にここまで追いつけないのは、違和感がある。
 日本にいた頃ならいざ知らず、今の私には高いステータスがある。
 元々走ること自体は得意では無いが、だからと言ってここまで追いつけないのは流石に腑に落ちない。
 一体どうして、と疑問に思ったその時、私の横を何かが通り過ぎた。
 驚く間も無く、すぐにその何かが、破裂音のような乾いた音を立てながら子供の後頭部にぶち当たった。

「……!?」

 思いもよらぬ出来事に、私は咄嗟に足を止めそうになる。
 子供の頭にぶつかったのは、林檎の芯のようなものだった。
 よく見ると、色合い等は先程フレアが食べていた果実に似ている。
 咄嗟にそう理解した時、誰かが私を追い越した。

「おぉらッ! 捕まえたッ!」
「フレアッ!?」

 私を追い越して子供の腕を掴んだフレアは、そう言いながら子供の体を地面に押し倒すようにして組み伏せた。
 それを見て、私はその場に立ち止まった。
 先程の果物の芯は、フレアが投げたのか……? でも、どうして彼女がここに……? と疑問に思ったのも束の間、組み伏せられた子供がジタバタと暴れ始めた。

「離せッ! クソッ! 離せよッ!」
「うおッ……!?」

 藻掻く子供にフレアは驚いた反応をしたが、すぐに表情を引き締め、組み伏せた体勢から関節技を決めた。
 ギリギリと皮膚が軋むような音と強力な関節技に、子供は「痛い痛い痛い痛いッ! 痛いッ! 痛いニャッ!」と情けない声を上げる。
 しかし、フレアが力を緩めることは無く、むしろ締める力をさらに強くしたような感覚がした。

「ちょッ、フレアやり過ぎじゃ……」
「ンなわけあるかッ! コイツマジで馬鹿力!」

 フレアはそう言いながら、さらに子供の体を締め上げる力を強くする。
 すると、子供は痛みに耐えきれなかったのか涙を流し、痛みに抗議する声は段々と悲鳴へと変わっていく。
 抵抗する力も弱くなったのか、そこでようやくフレアは力を緩めた。

「ふーッ……ふーッ……」

 フレアが力を弱めたことで落ち着いたのか、子供は荒い呼吸を繰り返しながら、その場に突っ伏す。
 すると、フレアは子供の手から私達の金が入った袋を奪い取り、すぐに私の方に放り投げた。

「うわッ、と……」

 突然のことに驚きつつも、私は何とか放り投げられた袋を受け止めた。
 ひとまず開けて中を確認してみるが、元の量をきちんと把握していないので、減っているのかどうかも分からない。
 とは言え、とりあえず中身はあるので、大丈夫そうだ。

「それにしても、フレアはどうしてここに……?」
「あ? ……リートの金盗んだガキをお前が追いかけて行くのを見たから助けに来たんだよ。……ったく、手こずらせやがって」

 フレアはそう言いながら、子供が被ったフードをガシッと掴んだ。
 すると、先程の関節技がトラウマになっているのか、子供はビクッと肩を震わせて体を強張らせた。
 それにフレアは僅かに眉を顰めたが、「顔見せろ」と言ってすぐに子供のフードを剥がした。
 すると、フードを剥がされた瞬間、ピコンッと二本の何かが立った。

「えっ……!?」
「うぉッ」
「み、見るニャッ!」

 そこに現れた物に私とフレアが驚いた反応を見せると、子供はすぐに頭に立ったそれを両手で押さえた。
 肩くらいまである綺麗な黒髪の頭の上で、両手で押さえつけられる形でペタンと情けなく倒れるソレを見て、私は咄嗟に言葉を続けられなかった。

「おい、よく見せろ」

 フレアがそう言いながら子供の手を掴むと、子供は「ひッ」と情けない声を上げながらも、両手を引っ張られる形で半強制的に頭から手を離した。
 すると、ピコンッと勢いよく、黒色の三角形をした物体が立ち上がった。
 短い黒毛に覆われたソレを見て、私は目を見開いた。

「……やっぱりか……」

 フレアも同じことを思っていたようで、子供の頭に立つソレを見て小さく呟いた。
 子供の頭に生えていたのは、黒色の毛に覆われた一対の猫耳だった。
 そう。この子供は……獣人族だったのだ。
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