命を助けてもらう代わりにダンジョンのラスボスの奴隷になりました

あいまり

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第5章:林の心臓編

125 獣人族の子供

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 ひったくり犯の子供を捕らえた後、フレアが手近にあった縄で拘束している間に、私は一旦リート達の元へと向かった。
 三人に簡単に事情を話し、ひとまず私達はフレアと子供がいる場所まで戻った。
 獣人族の子供を縛り上げて連れ回すのは流石に目立つと判断し、ちょうど子供を捕縛したのが人目に付かない路地裏だったこともあり、その場で子供に尋問を行うこととなった。
 ちなみに、取り返した金をリートが確認したところ、どうやら金の量は変わっていなかったみたいだ。

「……んで? なんで俺等の金を盗もうと思った訳?」

 早速、フレアがそう聞きながら、子供の前でしゃがみ込む。
 すると、縛られた子供がジタバタと藻掻きながら口を開いた。

「そんなことどうでも良いニャッ! それより、ウチのことをどうするつもりニャッ!?」

 フレアの質問を丸々無視して、子供は吠えるようにそう抗議した。
 ふむ……一人称はウチか。
 男子にしては髪も長いし、体格や声から見ても、普通に女の子のようだ。
 そんな風に考えていると、フレアが呆れたような表情を浮かべて口を開いた。

「そんなこと、って……俺の質問は丸っきり無視かよ。お前、俺等にその気があったら、今頃あの世行きってことくらい分かんねぇのか?」
「ッ……! 殺す気ニャ!?」
「いや殺さねぇけど」

 あっけらかんとした口調で言うフレアに、リアスは「何なのよ」と横からツッコミを入れた。
 すると、少女は「じゃあ良いニャ」とどこか余裕のある口調で言った。

「誰が人族なんかに屈するかニャ。ウチは獣人族の族長の娘ニャ! こんな所で人族なんかに屈して堪るものかニャ!」
「……意外とあっさり個人情報教えてくれたわね?」
「? ……しまったニャ!」
「……貴方アホでしょ」

 自分の失態に気付き声を上げる少女に、リアスは呆れた様子で呟いた。
 まぁ、ひったくりなんてするくらいだし、教養自体はなってないんだろうけども……。
 何かの情報源になるかと思って捕獲はしてみたが、アホ過ぎて何の情報も得られない気がしてきた。
 しかし、彼女は獣人族の族長とやらの娘らしい。
 情報は得られなくとも、何かしらの利用価値はあるのかもしれない。

「私獣人族って初めて見た~。思ってたよりも見た目は人間寄りなんだねぇ」

 アランはそう言いながら、少女の猫耳を指で摘まむ。
 すると、少女はアランの手を躱すようにピコピコと耳を動かしながら「触るニャッ!」と吠えるように言った。
 それとほぼ同時に腰の辺りから猫の尻尾が現れ、ボンッ! と太くなった。
 さらに髪の毛や体毛も逆立ち、瞳孔が細くなり、「シャーッ!」と威嚇するような声を上げる。
 ……完全に猫。

「おいっ、今この尻尾、どこから出てきやがった!?」

 すると、フレアが太くなった尻尾を指さして驚きの声を上げた。
 それに、少女はハッとしたような表情を浮かべてすぐさま尻尾を隠し、プイッと顔を背けた。

「べ、別に何でも無いニャ! 見間違いニャ!」
「いや、明らかに見間違いじゃねぇけど……」
「本当に見間違いニャ! 尻尾なんて無いニャ!」
「なんでそんなに頑ななのよ……?」
「全く、埒が明かんのぅ」

 子供とフレア達が何やらわちゃわちゃしてるのを見て、リートは呆れた表情で言いながら呟き、先程購入したリンゴ飴のような食べ物を軽く舐める。
 ……なんていうか、締まらないなぁ……。
 私はそんな風に呆れつつ、同じくリンゴ飴のようなものを齧った。
 日本にあったリンゴ飴がどんな味なのかは分からないが、この世界の飴は中々美味しかった。
 コーティングしている周りの飴は甘く、中のリンゴのような果実は瑞々しくて甘味も強い。
 両方とも甘いとむしろ甘ったるく感じてしまいそうなものだが、これは二つの甘味が上手く調和されている。
 日本にあったものがどんな味なのかは知らないが、見た目も綺麗だし、これは夏祭り等の定番として扱われるのも納得がいく。

「リート、美味しい?」
「うむ。美味じゃな」

 リートはどこか楽しそうに言いながら、周りの飴を舐めて溶かしていく。
 我が主の口にも合ったようで何よりだ。
 そんな風に考えていると、グゥ~と誰かの腹が鳴ったのが聴こえた。

「んぁ? 誰だ?」

 フレアは目を丸くしながらそう聞き、近くにいたリアスの顔を見た。
 それに、リアスは首を横に振って否定し、アランが「私も違うよ~」と続けた。
 ふむ……フレアは先程まで果物を食べていたし違うとして、リアスやアランでも無いのか。
 それじゃあ一体……? と思って視線を向けてみると、そこには顔を真っ赤にして縮こまる少女の姿があった。
 ……この子か。

「み、見るニャ……! 大体おかしいだろッ! なんでアイツらだけ何か食ってるニャ!」

 不満そうに言いながら、彼女は私とリートを睨む。
 それに、リートは「仕方ないであろう」と答える。

「そもそも、妾達がこれを買っている最中にお主が金を盗んできたのではないか。食う時間もまともに無かったのじゃからしょうがないわ」
「そんなこと知らないニャ! こっちは朝から何も食べてないというのに……」
「……お腹が空いてたから盗みなんてしたの?」
「ニャッ……そういうわけでは無いニャ……」

 私の問いに、少女は顔を伏せながらそう答えた。
 じゃあなんで盗みなんて……と考えていると、またもや少女の腹の虫が鳴く。

「……私の食べる?」

 かなり腹が減っているようだったので、私はそう聞きながら、食べかけの飴を差し出した。
 すると、少女はギョッとしたような表情で顔を上げ、私の顔と差し出した飴を交互に見た。
 同時に、横から伸びた手が私の腕を掴んだ。
 誰かと思い顔を上げると、そこには私の手を掴んでジトッとした目でこちらを見つめるリートの姿があった。

「何をしておる? ……というか、何のつもりじゃ?」
「いや、あげようかと思って……ホラ、お腹空かせてるみたいだし」

 私がそう言い終えると同時に、少女のお腹がまたもやグゥ~と情けない音を立てた。
 タイミングが良いな、なんて考えていると、何やら考え込んだ様子だったリートが私の手を挙げさせた。

「お主のは半分程食べてしまっているではないか。それよりも、妾のはまだほとんど残っておるから、こっちの方がこやつの腹も溜まるであろう?」
「それはそうかもしれないけど……良いの? 美味しいって言ってたじゃん」
「別に良い。代わりにお主のを食べるわ」
「へっ?」

 あっさり言いながら少女に自分のリンゴ飴擬きを差し出すリートに、私は素っ頓狂な声を上げてしまった。
 いや、そんなに執着するくらいなら、普通に自分の飴をあげるのを止めれば良いじゃないか。
 それに、私の食べかけの飴をリートが食べるって、それ……間接キスじゃ……。

「リートちゃん何してるの~?」

 すると、アランがそう言いながら、ピョコンッと私とリートの間に入るように顔を出した。
 突然のことに驚いていると、彼女は私の腕からリートの手を離させて続けた。

「また変なこと言ってこころちゃん困らせてるでしょ~。ダメだよそんなことしたらぁ」
「別に、お主には関係無いであろう? それより、さっさとこころから手を離さんか」
「え~? なんで私がリートちゃんの言うこと聞かないといけないの~? 大体、いっつもリートちゃんばっかり抜け駆けしてズルい~」
「本気を出すと言ったではないか。お主の方こそ……」
「別にそんな飴なんかいらないニャ!」

 リートとアランのよく分からない口論が始まろうとした時、少女が吠えるようにそう叫んだ。
 それに二人は言い争いを止め、少女に視線を向けた。
 すると、彼女はギリッと歯ぎしりをして続けた。

「その飴に使われてる果物だって、どうせ豊穣の神の恩恵とやらで出来た物ニャン。あんな胡散臭い神様の力で生まれた食べ物なんて食べたく無いニャ」

 彼女は不機嫌そうに言いながら、フイッと顔を背けた。
 それに、私は驚いた。
 もしかして、この子……豊穣の神のことを、疎ましく思っているのか?
 話を聞いてみないことには正確なことは分からないが、彼女の態度から察するに、少なくとも良くは思ってはいない様子だ。
 パッと顔を上げてリートを見ると、彼女も同じことに気付いたのか、何やら神妙な顔をしている。

「ふむ……お主は、その豊穣の神とやらのことを良く思ってはおらんのか?」
「ッ……別に、アンタ等には関係の無い話ニャ」

 不機嫌そうな口調で言う少女に、私はリートと顔を見合わせた。
 族長の娘で、獣人族の崇める豊穣の神を良く思っていない子供。
 これは……使えるのではないか?
 同じことを思ったのか、リートは少しだけ笑みを浮かべ、少女に視線を向けた。

「では……もしも妾達が、その豊穣の神とやらのことをお主の村から無くすことが出来ると言ったらどうする?」
「……ンニャ?」

 リートの言葉に、少女はキョトンとした表情で、そう聞き返した。
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