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新しい日常
第10話:勉強会
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「お邪魔しまーす」
「ただいまっと」
月曜日の放課後に、俺と奏は初めての勉強会をすることになった。
奏は華花と一緒で、一回集中すると深く入り込むのだが、それを持続させるのがあまり得意ではなかった。だけど、サッカーの練習メソッドを構築してくれたりと地頭は悪くないので、勉強のコツさえ覚えてしまえば俺くらいあっという間に抜かしてしまうかもしれない。
「なんかゆーくんの部屋に来たの久しぶりかも」
「そうかもな。あの日以来になるのか」
「あっ……ごめんね。嫌なこと思い出させちゃったかな?」
「いや、そんなことはないよ。俺は飲み物を用意するから、先に俺の部屋に行っててくれ」
「うん、分かった。ありがと、ゆーくん」
そういって俺の前の部屋へ向かって、「あっ、間違えた」と言いながら新しい部屋のドアを開けた。その姿を見て、やれやれと思いながらも、俺の心はとても暖かくなっていた。また奏が家に来てくれたことが、とても嬉しく思えたのだ。
「おっ! やる気満々じゃん!」
俺が部屋に入ると、奏はすでに教科書や問題集、ノートなどを出して勉強モードに入っている。
「でしょ。本気で勉強しにきたんだもん。ゆーくん今日からよろしくね」
「おぅ。頑張って一緒の大学に行こうな!」
「うん!」
そして俺たちは集中して、黙々と勉強を始めた。やっぱり奏の集中力は凄い。そしてとても素直だ。分からない問題があると、しっかりと聞いてくるし、ヒントを伝えるとすぐに理解して次々と答えを導き出している。
「ん~~~~。あっ、もう2時間も経ったのか。親が戻ってるかも知れないから、ちょっとリビングに行ってくるな」
「おばさんがいるなら挨拶したいから、私も付いていくよ」
俺がリビングへ向かうと、後ろから奏も付いてきた。リビングには、華花と母さんがソファーに座って撮り溜めてたドラマを観ながら談笑していた。
「あー! かなちゃんだ! どうしたの?」
ソファーの背もたれ越しにこちらを一瞥して、奏がいることに気付いた華花が驚いたように声をかけてきた。
「今日からゆーくんと一緒にお勉強をしてるんだ。来年は大学受験だから、頑張らないとだし」
そういうと奏は母さんの方を向いて、「お邪魔しています」と挨拶をした。
「そっかー、もう大学受験なのかー。私もうあんなに勉強したくないよー」
「あはは、華花ちゃんは受験終わったばかりだもんね。私もその時はもう嫌だーって思ってたもん。2年間あっという間だったなぁ」
「うぅ……。今は現実逃避して思いのままに行動するんだから」
「高校になったら留年とかもあり得るから、華花も油断してたらダメだからな。あと、母さんそういうことだから、これからちょくちょく奏が家に来て勉強するからよろしく」
「もちろん大丈夫よ。奏ちゃんもいつも通りゆっくりしてくれていいんだからね。次に来たときはうちで一緒にご飯食べましょうよ」
「わーい! 嬉しいです! 明日もお邪魔するので、今日帰ったらママにそう伝えておきます」
-
部屋に戻った俺たちだったが、一回切れた集中力を取り戻すことができずに、くだらない話をして笑い合っていた。
「あっ、2人の打ち上げどうしようか?」
「そうそう、その話もしたかったの! ちゃんと思い出してくれるなんてゆーくん流石だね!」
「それほどのことじゃじゃないだろ」
どんなことでも褒めてくれる奏に、俺は苦笑いしてしまう。
「奏は何かしたいことあるか?」
「えーっと。じゃあ、夏祭りに一緒に行きたいな」
「おっ、夏祭りいいじゃん!」
「でしょ? ちょっと先だけど、試験も終わってるしね! 思いっきり楽しめそう」
「あぁ、そうだな」
夏祭りというキーワードに、一瞬心臓の鼓動が大きく高鳴る。夏祭りは羽月と初めてキスをした、当時大切にしていた思い出のイベントのひとつだったからだ。だけど、それだけだ。それは今の俺には必要のない過去の記憶だ。
「なぁ、奏。春休み前にさ、俺が部活で倒れたときあったじゃん?」
「ん? あったね。あのときは本当に心配したよぉ」
「ははっ、心配ばかりかけて悪いな」
「本当だよ!」
口を尖らせて、頬を膨らませながら俺を睨んでくるが、すぐに「冗談だよー」と言って奏は笑顔になる。その表情を見てしまうと、いつも俺も自然と笑顔になってしまうのだ。
「それで保健室でさ、目を瞑るとあのときの映像がフラッシュバックするって言っただろ。けど、気付いたら全然見なくなったんだよ。多分あのときから奏がずっと一緒にいてくれてたからだと思う」
「そ、そんなことないって」
「最近な、『今日は楽しかったな。次は何をしようかな』って考えるようになったんだ。それで、何をしようかって考えているときにはな、奏がいつも俺の側にいてくれてるんだよ。奏のお陰で明日を楽しみになることができたんだ。本当に感謝してるよ。ありがとうな」
途中から顔を俯かせて聞いていた奏が、少しの間を開けて口を開いた。
「ゆーくんが楽しいって思ってくれてるのが一番嬉しいよ。本当はウザイと思われてるんじゃないかって、心配になってたんだ。ゆーくんは優しいから絶対に言わないって思ってたんだけど、やっぱり私も不安だったから……」
少しの間が空いてから、顔を上げて俺のことを見つめた。奏の目には大量の涙が溜まっていて、何かの弾みで今にも流れてしまいそうだった。しかし、その涙はこぼれ落ちることはなかった。
「これからもたくさん楽しいことしようね」
そう言った奏は、とても優しく、温かみのある素敵な笑顔をしていた。
「ただいまっと」
月曜日の放課後に、俺と奏は初めての勉強会をすることになった。
奏は華花と一緒で、一回集中すると深く入り込むのだが、それを持続させるのがあまり得意ではなかった。だけど、サッカーの練習メソッドを構築してくれたりと地頭は悪くないので、勉強のコツさえ覚えてしまえば俺くらいあっという間に抜かしてしまうかもしれない。
「なんかゆーくんの部屋に来たの久しぶりかも」
「そうかもな。あの日以来になるのか」
「あっ……ごめんね。嫌なこと思い出させちゃったかな?」
「いや、そんなことはないよ。俺は飲み物を用意するから、先に俺の部屋に行っててくれ」
「うん、分かった。ありがと、ゆーくん」
そういって俺の前の部屋へ向かって、「あっ、間違えた」と言いながら新しい部屋のドアを開けた。その姿を見て、やれやれと思いながらも、俺の心はとても暖かくなっていた。また奏が家に来てくれたことが、とても嬉しく思えたのだ。
「おっ! やる気満々じゃん!」
俺が部屋に入ると、奏はすでに教科書や問題集、ノートなどを出して勉強モードに入っている。
「でしょ。本気で勉強しにきたんだもん。ゆーくん今日からよろしくね」
「おぅ。頑張って一緒の大学に行こうな!」
「うん!」
そして俺たちは集中して、黙々と勉強を始めた。やっぱり奏の集中力は凄い。そしてとても素直だ。分からない問題があると、しっかりと聞いてくるし、ヒントを伝えるとすぐに理解して次々と答えを導き出している。
「ん~~~~。あっ、もう2時間も経ったのか。親が戻ってるかも知れないから、ちょっとリビングに行ってくるな」
「おばさんがいるなら挨拶したいから、私も付いていくよ」
俺がリビングへ向かうと、後ろから奏も付いてきた。リビングには、華花と母さんがソファーに座って撮り溜めてたドラマを観ながら談笑していた。
「あー! かなちゃんだ! どうしたの?」
ソファーの背もたれ越しにこちらを一瞥して、奏がいることに気付いた華花が驚いたように声をかけてきた。
「今日からゆーくんと一緒にお勉強をしてるんだ。来年は大学受験だから、頑張らないとだし」
そういうと奏は母さんの方を向いて、「お邪魔しています」と挨拶をした。
「そっかー、もう大学受験なのかー。私もうあんなに勉強したくないよー」
「あはは、華花ちゃんは受験終わったばかりだもんね。私もその時はもう嫌だーって思ってたもん。2年間あっという間だったなぁ」
「うぅ……。今は現実逃避して思いのままに行動するんだから」
「高校になったら留年とかもあり得るから、華花も油断してたらダメだからな。あと、母さんそういうことだから、これからちょくちょく奏が家に来て勉強するからよろしく」
「もちろん大丈夫よ。奏ちゃんもいつも通りゆっくりしてくれていいんだからね。次に来たときはうちで一緒にご飯食べましょうよ」
「わーい! 嬉しいです! 明日もお邪魔するので、今日帰ったらママにそう伝えておきます」
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部屋に戻った俺たちだったが、一回切れた集中力を取り戻すことができずに、くだらない話をして笑い合っていた。
「あっ、2人の打ち上げどうしようか?」
「そうそう、その話もしたかったの! ちゃんと思い出してくれるなんてゆーくん流石だね!」
「それほどのことじゃじゃないだろ」
どんなことでも褒めてくれる奏に、俺は苦笑いしてしまう。
「奏は何かしたいことあるか?」
「えーっと。じゃあ、夏祭りに一緒に行きたいな」
「おっ、夏祭りいいじゃん!」
「でしょ? ちょっと先だけど、試験も終わってるしね! 思いっきり楽しめそう」
「あぁ、そうだな」
夏祭りというキーワードに、一瞬心臓の鼓動が大きく高鳴る。夏祭りは羽月と初めてキスをした、当時大切にしていた思い出のイベントのひとつだったからだ。だけど、それだけだ。それは今の俺には必要のない過去の記憶だ。
「なぁ、奏。春休み前にさ、俺が部活で倒れたときあったじゃん?」
「ん? あったね。あのときは本当に心配したよぉ」
「ははっ、心配ばかりかけて悪いな」
「本当だよ!」
口を尖らせて、頬を膨らませながら俺を睨んでくるが、すぐに「冗談だよー」と言って奏は笑顔になる。その表情を見てしまうと、いつも俺も自然と笑顔になってしまうのだ。
「それで保健室でさ、目を瞑るとあのときの映像がフラッシュバックするって言っただろ。けど、気付いたら全然見なくなったんだよ。多分あのときから奏がずっと一緒にいてくれてたからだと思う」
「そ、そんなことないって」
「最近な、『今日は楽しかったな。次は何をしようかな』って考えるようになったんだ。それで、何をしようかって考えているときにはな、奏がいつも俺の側にいてくれてるんだよ。奏のお陰で明日を楽しみになることができたんだ。本当に感謝してるよ。ありがとうな」
途中から顔を俯かせて聞いていた奏が、少しの間を開けて口を開いた。
「ゆーくんが楽しいって思ってくれてるのが一番嬉しいよ。本当はウザイと思われてるんじゃないかって、心配になってたんだ。ゆーくんは優しいから絶対に言わないって思ってたんだけど、やっぱり私も不安だったから……」
少しの間が空いてから、顔を上げて俺のことを見つめた。奏の目には大量の涙が溜まっていて、何かの弾みで今にも流れてしまいそうだった。しかし、その涙はこぼれ落ちることはなかった。
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そう言った奏は、とても優しく、温かみのある素敵な笑顔をしていた。
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