きらめきの星の奇跡

Emi 松原

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明かされていくもの

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「シークとユークが生きている限り、その莫大な魔力は吸収され、武器となる。だからそれを止めるには、グリーンクウォーツ王国の城にあるであろう、二人の力を吸い取っている石を壊してしまうか、二人自身を殺してしまうかのどちらかしか方法はないんだ」
「そんなの、石を壊してしまうに決まってるじゃないですか……!!二人が殺される必要なんてどこにも……!!」
 必死で言った俺に、アーサさんは、小さく首を振った。
「勿論、お前の言う通りだ。だが、神とはいえ、あくまでもヒトの体を持つ者の魔力を吸い取り、その魔力を転用する石など、前例がない。石を壊したときに、何が起こるか分からない。……あの二人が、衝撃で死んでもおかしくない」
 俺とリルは、ショックで何も言えなかった。
 そんなの……悲しすぎる。辛すぎる。そんな言葉じゃ表せないくらい、胸が痛いのはなんでなんだ。
「エミリィが、散々お前達を悩ませたようだが、悩ませるのは、元々私の得意分野だ。ここにいる間、悩み続けろ。そして、お前達なりの答えを、戦争が始まるまでに出すんだ。答えを出すために協力できることはしてやる」
 アーサさんは、そう言うと立ち上がった。
「ゆっくり体を休めろ」
 それだけ言って、アーサさんは、自分の部屋へと戻っていった。

 俺は、ベッドに入っても寝付くことができなかった。
 考えることが多すぎて、何も答えを出すことができなくて、それがもどかしくて……。
 俺は、ベッドから起き上がると、水を飲もうとリビングに出た。
 すると、リルがソファで本を読んでいた。
「あら、ルトも寝られないの?」
 リルが、少し笑って言ってくれた。
「うん……疲れているはずなのにね」
 俺は、コップに水を入れると、星を見ようと窓に近づいた。
 すると、家の外の、丘の草の上に、アーサさんが座っているのが見えた。
「リル……」
 俺はリルに合図した。リルが、隣に並んで窓の外を見た。
「……行ってみる?」
 リルが、俺を心配するように、そして覚悟を確認するように言った。
 俺は頷くと、一気に水を飲み干した。

「なんだ、寝られないのか」
 アーサさんに近づいた俺たち二人に、アーサさんは振り返らずに言った。
「ここに座ってみろ」
 アーサさんに言われるがまま、俺たちは、アーサさんの隣に腰を下ろした。
 そのまま空を見上げると、村でも見たことがないくらいの沢山の星が輝いている。
「凄い……」
 リルが呟いた。
「ここ以上に、星が見える場所を私は知らなくてな」
 アーサさんが、どこか優しく言った。
「お前達。お前達は、何故星に祈る?」
 突然のアーサさんの言葉に、俺は言葉に詰る。
 だって、子供の頃から星に祈るのは当たり前で……。きらめきの双子神様を信じている人は、星に祈るのは習慣のはずだ。
「……子供の頃、おばあちゃんが、私とルトにいつも言っていました。その日あった嬉しかったこと、楽しかったこと、悲しかったこと、苦しかったこと、全て星に話してから寝なさいって……」
 リルの言葉で、俺はハッと思い出した。
 そうだ、いつもリルのおばあちゃんに言われていた。どんな日でも、どんな気持ちの時でも、星に祈りなさいと。そうすれば、星は必ず答えてくれると。
「ふっ……あいつらしい教えだな」
 アーサさんが、優しく笑った。
「星の光と影。双子神の、創造神と破壊神。相反する二つのものが、ヒト型のどんな気持ちでも受け止める。これが、きらめきの双子神の本質だ。だが、この世界では、創造神が全てを受け止め、破壊神は拒絶するという考えを持つ者もいるようだ。……私はそうは思っていない。破壊神こそが、誰よりも負の感情を受け入れ、向き合う力を与えてくれると思っている」
「……それは……マスターですか……?」
 リルが、星を見つめながら、静かに聞いた。
「あぁ、そうだな。エミリィだけではない、ユークもだ。あいつらの師となって、私は……私たちは、嫌でも知ることになった。破壊神が、世界を滅ぼしたいと苦しむのは、誰よりもヒトの負の心を見て、自分のことのように考えられる優しい心を持っているからだと」
「……」
 俺とリルは、どこか違う世界に来たような星空の世界を見ながら、アーサさんの言葉を聞いていた。
「エリィとシーク、創造神は、ヒトの光を見ることができる。その光がある限り、必ずヒトはやり直せる。それが創造神の本質的な考えだ。だが、エミリィとユーク、破壊神は、ヒトの影が大きく見える。私は最初、破壊神の二人は、その影を嫌うあまり壊してしまうのかと思っていた。だが、それは間違いだった。影を嫌っているのではない。あいつらは、その影で苦しむヒトを見るのが嫌なのだと」
「……」
「だから、いつも創造神と破壊神は、相反する考えになる。どんなに影を持っていても、光があれば、いつか必ず幸せになれると考える創造神。どんなに小さな光を持っていたとしても、こんなに影で苦しむならば、消してしまった方が幸せだと考える破壊神。……そして私は……。いや、私たちと言った方が良いか。もっと大切なことを忘れていたことに気がつかされたのだ」
「……大切なこと、ですか?」
 俺は、アーサさんの横顔を見た。星が、アーサさんを照らしている。その表情は、何かを懐かしむように穏やかだった。
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