きらめきの星の奇跡

Emi 松原

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舞踏会・暴走

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「ラ……ネンが……」
 エミリィ様の小さな声が聞こえた。
 会場の揺れが大きくなる。
 エミリィ様の魔力の暴走に気がついた、貴族の人たちが、叫び声を上げて逃げ始めた。
 俺もどうしたら良いか分からなくて、立ちすくむことしかできない。
「皆さん、落ち着いて下さい!!大丈夫、安心して下さい!!」
 シーク王子様が叫んだ。
 その声に、混乱を起こしていた人たちが、一瞬止まった。
 それと同時に、シーク王子様、ユーク様、エミリィ姫様が手を上げた。
「空間隔離!」
 三人の声と同時に、舞台の周りが強固に空間隔離される。
 空間隔離したお陰で、貴族の人たちへの影響はなくなったようだ。
「ルトさん、会場に来ている方々から、舞台上が見えないように、空間隔離された壁に目隠しの魔法を。リルさんはすぐに毒消しを調合して、ラネンに飲ませて下さい」
 エリィ姫様から、素早い指示が俺たちにとんだ。
 リルがすぐに生誕指輪から道具を取り出して、揺れる舞台の上で調合を始めた。
 俺は、慌てて、エミリィ様と訓練を重ねた指輪を構える。
「隠せ」
 空間隔離された壁に黒い色がつき、舞台の上は完璧に隔離された状態になった。
 ラネンさんが、息を切らしながらゆっくりと立ち上がった。
 そして、目の焦点が合わず、魔力が溢れ出し、暴走しているエミリィ様の目の前に立った。
 まさか……まさか、このままエミリィ様の命を……!?
 ラネンさんが、エミリィ様に手を伸ばす。
 俺は、声を出すことも動くこともできず、その光景を見つめていた。

 だけれど、ラネンさんは、俺が考えてもいなかった行動に出た。
 暴走しているエミリィ様を強く抱きしめ、その唇にキスをしたのだ。
「……エミリィ、落ち着け。俺は大丈夫だから」
 一旦唇を離したラネンさんが、子供をあやすような優しい声で、エミリィ様に言った。そして、そのまま、もう一度エミリィ様の唇にキスを落とす。
 揺れが、少しずつ小さくなっていく。エミリィ様の瞳も、銀色に戻っていた。その瞳から、一筋の涙が流れた。
 ラネンさんは唇を離すと、腕の中にエミリィ様を閉じ込め、また強く抱きしめた。そして、片方の腕で、エミリィ様の頭を優しく撫でている。
「大丈夫。お前のことは、必ず俺が守り続けるから。昔も、今も、これからもずっと」
 ラネンさんが、はっきりとした声で言った。
 毒が回っているはずなのに、しっかりと立っている。
 エミリィ様から溢れ出していた魔力が、小さくなっていく。そしてそのまま、エミリィ様は意識を失って崩れ落ちた。
 ラネンさんが抱きとめ、その場でゆっくりとエミリィ様を寝かせた。
「ラネンさん、毒消しを……」
 リルが、慌てて、ラネンさんに毒消しの薬を渡す。
「ありがとう」
 ラネンさんは、落ち着いた声で答えると、リルから受け取った毒消しを口につけた。
「……この武器は、俺が預かるから」
 一気に毒消しを飲み干したラネンさんが、エミリィ様を狙った魔法武器を持つと、ラネンさんの生誕指輪に入れて、シーク王子様に向けて言った。
「あぁ……。ラネン、申し訳ないけれど、この場を収めるためには……」
 シーク王子様が、どこか苦しそうに、エミリィ様とラネンさんを見ながら言った。
「分かってる。……変なところを触るなよ」
 ラネンさんがそう言うと、エミリィ様を抱き上げた。そのまま、ゆっくりとシーク王子様に手渡す。シーク王子様が、意識のないエミリィ様を、お姫様抱っこする形になった。
「リルさんとルトさんはこちらへ。二人とも、何事もなかったかのように、堂々と立っていてください」
 エリィ姫様の言葉に、リルと俺は黙って従った。
 ラネンさんが、舞台の後ろに下がる。そして、エリィ姫様の合図と共に、俺の魔法と、空間隔離の魔法が解かれた。
 
 そこには、不安そうに動けずにいる、貴族の人たちの目があった。
 シーク王子様が、一歩前に出た。
「皆さま、せっかくの舞踏会が台無しになってしまい申し訳ありません。ですが、もう大丈夫です。破壊神、エミリィ姫は、驚いて少し大きな魔力を出してしまっただけです。この通り、もう落ち着いています。エミリィ姫を狙った者は、こちらで調査します」
 シーク王子様の優しくて、でもしっかりとした声が、会場に響き渡った。
 貴族の人たちが、安堵のため息をつくのが分かった。
 俺とリルは、エリィ姫様に言われた通り、堂々と立つように心がけた。

 こうして、そのまま舞踏会は終わった。
 貴族の人たちが、次々に外に出て行く。そしてざわめきの中で、俺は衝撃的な言葉を聞いた。
「やっぱり、破壊神様は危険だ。シーク王子様の元に嫁いで、双子神様を制する者に見張ってもらわないと……」
 俺は、その言葉を聞いて、どうしようもない気持ちになった。こんな複雑で苦しい気持ちは初めてだ。だからこそ、この気持ちをなんて表現したら良いのか分からない。

「さて、私たちも帰りましょうか。シーク、ユーク……。こうなってしまった以上……」
 エリィ姫様が、苦しそうな声で言った。
「あぁ、分かってる」
「しょうがないよー。時間の問題だったと思うしねー」
 シーク王子様とユーク様が、エリィ姫様に返す。
 いつの間にか、エミリィ様は、ラネンさんが抱えていた。
「じゃあ、またねー。ルトくん。きっとすぐに復讐のチャンスは訪れる。君が、俺たちを殺しに来てくれることを楽しみにしてるよー」
 ユーク様が、いつもの掴みどころのない笑顔でそう言うと、俺たちに手を振った。
 その意味をまた聞けないままに、エリィ姫様の声と共に、俺たちは転送され、お城に戻って行った。

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