きらめきの星の奇跡

Emi 松原

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舞踏会・暴走

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 中庭はとても綺麗に手入れされていて、俺とリルは、二人で中庭を歩きながら一息ついた。
「やっぱり、創造神様の弟子ってだけで、私に媚びを売ってくる人が多かったわ……情報も沢山入ったから良いのだけれど……」
 リルが、笑顔でため息をついた。
 そうか……。創造神様には、破壊神様とはまた別の苦しみがあるのか……。
 俺は、少し悲しくなった。俺は復讐がしたいという理由でエミリィ様に弟子入りしたけれど、今はエミリィ様が大好きだ。だからこそ、色んなことを見て、知って、悩んで……。
 でも、俺に何ができるというのだろうか。復讐でさえ、どうすれば良いか分からないのに。
 その時、誰かの話し声が聞こえてきた。
 この声は……ラネンさんと、シーク王子様……?
 リルを見ると、リルも真面目な顔をしていた。
 俺たちは、顔を見合わせて頷くと、ゆっくり、音を立てないように、声の方へと近づいた。
 草むらに隠れて、こっそりと二人で覗くと、光に照らされた噴水の間で、ラネンさんとシーク王子様が、向き合って立っていた。光の角度のせいで、二人の表情は見えない。
 少し離れた石の上に、ユーク様が座っていた。

「……そういうことだったのか」
 ラネンさんの、重々しい声が聞こえてきた。
「あぁ。そうだよ。だからこそ、君に殺してもらわないと困るんだ。……だって、殺せるのは、君だけだしね」
 シーク王子様が、涼しげな声でさらりと返している。
 ……どういうことだ。シーク王子様まで、ラネンさんに殺せなんて言葉を……。
「……言われなくても」
「頼んだよ。……このままだと、エミリィは政治利用されてしまう。だから……」
 ラネンさんの言葉に、シーク王子様が、優しく笑って頷きながら言った。
「二人ともー。そろそろ戻らないとー」
 ユーク様が、二人に声をかけた。
 俺たちは、見つからないように、慌ててくっついて隠れた。
 三人が、会場に戻っていく。

「……リル……」
 リルを見ると、リルは黙って頷いた。
 やっぱり、ラネンさんは、エミリィ様を殺そうとしているのだろうか。それも、シーク王子様達まで。どうして、なんで。
 破壊神様は、世界を創る為に必要だった。だけれど、世界にとっては、脅威でもある。それは理解しているつもりだ。
 今日集まっていた貴族の人たちも、エミリィ様に怯えていた。
 このままだと、政治利用されるから。それなら、殺してしまった方が良いということだろうか。
 そんなのおかしい。利用しようとしている、グリーンクウォーツ王国の国王を殺した方が良いじゃないか。国王がいなければ、村だって焼かれなかった。それに、利用しようとしているのだって、国王じゃないか。
 その時、村を焼かれたときに、目の前で散っていった命達を思い出した。
 ……俺は、復讐の為に、グリーンクウォーツ王国の国王を躊躇なく殺すことができるだろうか。この、自分の手で殺す覚悟ができるだろうか。
 それに、殺すことが、本当に復讐なのだろうか。
 リルが言ってくれた言葉を思い出す。
 俺にとっての復讐……。村を焼かれて、じいちゃん達を失って……。あの時は、同じ目に遭わせてやりたいと思っていた。
 だけれどそれが、本当に復讐を遂げることになるのだろうか。
 気がついたら、リルが、静かに空を見上げて、星に祈っていた。
 俺も同じように、星に祈る。

「そろそろ終わりの挨拶の時間ね。ルト、行ける?」
 リルが心配そうに俺の顔を覗き込んだ。
「……うん。大丈夫。行こう」
 俺はリルに精一杯の笑顔を返すと、二人で舞踏会に戻っていった。

 俺たちは、最初の挨拶の時と同じように、舞台の上に並んで立っていた。
 俺は、エミリィ様に心配をかけないように、なんとか真面目な顔をして、感情を隠そうと努力した。
 エリィ姫様と、シーク王子様が、挨拶をしている。
 このまま無事に終わって、早く帰ってリルと話したい。

 そう思っていたその時。

 どこかで感じたことのある、背筋が凍るような魔力を感じると同時に、エミリィ様に向けて、一直線に魔法武器が飛んできた。それはもの凄いスピードで、俺は動くことすらできなかったのに、その動きは何故かスローモーションで見えた。
 エミリィ様が……!!
 世界の時間が、一瞬止まった気がした。
 静まりかえった世界の中で、なんとかエミリィ様の方を見た俺は、驚きを隠せなかった。
 エミリィ様に飛んできた魔法武器を、ラネンさんが素手で掴んで受け止めていたのだ。
 ラネンさんの手から、血が流れている。
「……っ」
 ラネンさんが、膝をついた。
 会場が一気にざわつく。誰もが、エミリィ様が暗殺されかけて、それをラネンさんが守ったことだけを理解していた。
「毒が仕込まれていたようだね。すぐに毒消しを用意しないと」
 シーク王子様が言った途端、舞踏会の会場がガタガタと揺れ始めた。
「……エミリィ!!」
 エリィ姫様が、エミリィ様に向けて叫んだ。
 俺もつられてエミリィ様の顔を見る。そして、動けなくなった。
 エミリィ様の銀色の瞳は、黒い瞳へと変わっていた。ブラックダイヤモンドの目。そして全身から溢れている恐ろしい魔力。これは……魔力の暴走……?
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