きらめきの星の奇跡

Emi 松原

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舞踏会・暴走

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「じゃあ、全員揃いましたね。今回の舞踏会には、両国の国王は参加しません。私とエミリィが、この国の代表であり、リルさんと、ルトさんの社交界デビューです。……二人とも、深く考えないで、楽しんでくださいね」
 エリィ姫様が、優しく笑ってくれた。
 俺とリルは、腕を組んだまま、黙って頷いた。
「じゃあ、会場まで転送しますね。私たちの部屋が用意されていますが、事前に、シークとユークと顔を合わせておきましょう」
 エリィ姫様は笑顔でそう言うと、俺たちをもう一度見渡して確認した。
「転送」
 その声と共に、俺の見る景色が変わった。

 転送された先は、とても豪華な部屋だった。
 俺の目に映ったのは、ユーク様と……キラキラと光る金髪を、耳の後ろで揺らした、創造神のシーク王子様。
「やぁ、久しぶりー」
 座って、カードをいじっていたユーク様が、俺たちに笑いかけた。相変わらず、掴みどころのない笑顔だ。
 シーク王子様が、俺たちに近づいてきた。
 ラネンさんが、お辞儀をしたので、俺とリルも慌ててそれに続いた。
「三人とも、そんなに気を遣わなくて良いよ。初めまして、二人のお弟子さん。グリーンクウォーツ王国の創造神、シークです」
 とても真面目そうなシーク王子様が、俺たちに握手を求めてきた。
「エミリィ、今日はいつもより何倍も綺麗だね」
 シーク様が、エミリィ様に優しく言った。
「知ってる」
 エミリィ様が素っ気なく返す。
 そこから、エリィ姫様が、俺とリルを改めて紹介してくれて、シーク王子様からも自己紹介をしてくれた。
 エミリィ様とユーク様は、それぞれ興味のなさそうに聞いていたけれど、部屋の空気は嫌なものではなかった。
 エミリィ様達、双子神様は、俺たちには見えない、あたたかい絆で繋がっている。何故かそう思う空間だった。

「じゃあ、そろそろ時間だね」
 シーク王子様が言った。
「ルト、私の隣をぴったりくっついて歩くんだぞ。舞踏会が始まったら好きにしてて良いから。私の隣に並べるってことを見せつけなきゃな」
 エミリィ様が、いつもの怖い笑顔で言った。
「リルさんは、私と行きましょう!」
 エリィ姫様が、明るい笑顔でリルに言った。
 こうして俺は、エミリィ様の隣に並んで、舞踏会に来ている人の前に立つことになったのだけれど、緊張で何も考えられない……。
 エリィ姫様が最低限のマナーは教えてくれたけれど、それすら全部忘れてしまいそうだ。
 だけれど、気がついたら、俺は、エミリィ様の隣で、舞台の上に立っていた。
 豪華に着飾った人たちの、目、目、目……。
 俺はどこを見たら良いのか分からなくて、エミリィ様を見た。でも、エミリィ様は面倒くさそうに立っている。ラネンさんが、後ろに隠れるように立っていた。
 ユーク様も、この場に興味がなさそうに立っている。
 それに比べて、エリィ姫様とシーク王子様が、丁寧な挨拶と、言葉、そして俺たちの紹介をしてくれた。
 リルは、紹介されたときに、とても綺麗なお辞儀をしたから、思わず見惚れてしまった。
 だけれど、俺が紹介された瞬間、エミリィ様が俺を引き寄せて、肩を抱き寄せた。
「私の可愛い愛弟子だ。実力は噂以上だぞ。私の可愛い愛弟子に手を出してみろ。そいつはその場で消してやるからな」
 会場が、一気に恐怖でざわついた。
 俺は、それでも嬉しかった。エミリィ様は、なんだかんだ言って、俺のことを考えてくれていることが伝わってきたから。
 シーク王子様が空気を変えるように何か言うと、音楽が流れ始めた。
 本格的に舞踏会が始まったようだ。

「じゃあ、あんた達は、終了間際の挨拶まで好きにして良いから」
「楽しんで下さいね。美味しい料理も沢山ありますから」
 エミリィ様と、エリィ姫様が言った。
「エミリィ、一緒に踊ってくれませんか?」
 シーク王子様が、優雅にエミリィ様に手を差し出した。
「……断れないの、知ってるくせに」
 エミリィ様が、少し不機嫌に小さな声で言った。でも、シーク王子様は笑顔だ。
「……勿論、喜んで」
 今度は周りに聞こえるように、エミリィ様は言うと、シーク王子様の手を取った。
 二人がホールの中央に行き、踊り出す。周りは、その姿に釘付けになっていた。
 エミリィ様……綺麗だ……。いつもの不機嫌な姿はそこにはなく、とても優雅に、だけれど周りの人たちには近づきがたいオーラをまとって、笑顔でシーク王子様と踊っている。
 ……このまま、二人は結婚してしまうのだろうか……。
 何故だか、心がモヤモヤする。
「じゃあ、僕たちも踊ろうかー。建前になっちゃうけどー」
 ユーク様が、エリィ姫様に手を差し出した。
「えぇ。嬉しいわ」
 エリィ姫様は、ユーク様の手を取ると、二人で、エミリィ様達の隣に行って踊り出した。
 しばらく俺は、四人の姿に釘付けになっていた。

「リル、俺たちはどうすれば良いかなぁ。俺、踊れないよ」
「そうね、私も踊るのは恥ずかしいから、一緒に色々見てみましょう」
 リルが、俺の腕に手を回してくれた。
 俺たちは、舞踏会の中をまわった。
 貴族の人たちが着飾って、楽しそうに談笑している。
 でも、俺を見ると、皆が道を開け、怯えた顔をした。……まぁ、エミリィ様があんな紹介の仕方をしたら当たり前だよな。
 リルは、一旦俺から離れると、貴族の人たちと話し始めた。皆、リルには凄く友好的だ。

 気がつくと、エミリィ様達はどこかに消えていた。エミリィ様達が踊っていた場所では、他の人たちが踊っている。
 うーん、やっぱり、俺は場違いじゃないだろうか。
 そんなことを考えながら、一人で飲み物を飲んでいると、リルが戻ってきた。
「ふぅ。ちょっと疲れちゃった」
「お疲れ様。俺も、ここでどうしたら良いのか分からなかったよ」
「じゃあ、少し外の空気でも吸いに行きましょうか」
 リルが、俺の手を引いた。
 俺は頷くと、リルと一緒に中庭に出た。
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