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戦闘試験
1-3
しおりを挟む爆風と煙が、俺の視界を遮った。
「さっきのお返しだよ。それにしても……瞬時に判断して、自分よりもルトくんを優先するなんてね」
「リル!!」
リルは、動かなかった。気絶しているようだ。
「う、うぁぁぁ!!」
俺は、渾身の力で飛んだ。
キラさんが、俺に向けて矢を放つ。
俺はそれを短剣で切りながら、魔法での攻撃を繰り返す。
「せっかく力があるのに、そんな雑な攻撃じゃ駄目だよ」
俺は、キラさんの気配を感じると同時に、背後に攻撃をした。
キラさんはその攻撃も、スルリと避けてしまった。
そして、そのまま、キラさんは矢を手で投げた。俺の周りで爆発が起きる。それを防ごうとしたときには、隣にキラさんがいた。
「はい、終わりだよ」
キラさんの声と共に、俺は、意識を失った。
※※※
ここは、どこだろう。
とてもあたたかくて、優しくて。
「元気に育ってね、私たちの愛しい子」
これは、誰の声?
とても穏やかで、幸せで。
この気持ちが、ずっと続けば良いのに。いや、続くはずなんだ。
「グリーンクウォーツ王国の兵が攻めてきたぞーー!!」
なんだ?なんだ?
どうして、どうしてこの幸せを壊そうとするんだ?
俺が、俺たちが、一体、何をした……??
※※※
「……ト!!ルト!!」
この声……リル……!?
俺は、ハッと飛び起きた。
目の前には、リル。そして、優しく笑っている、キラさん。
「ルト!!」
リルが、俺に抱きついてきた。それを受け止めながら、俺は記憶を整理する。
そうか、俺、キラさんと戦って……。
「試験は終わりだよ。少し意地悪しすぎたかな。ごめんね、マスターの性格が移ったようだ」
優しく笑うキラさんを、俺は見た。そしてリルを見る。
リルに、あんな力があったなんて……それに、リルは最後、自分より俺を優先して……。
俺は、自分の力のなさと、何より……覚悟の足りなさを実感して、下を向いた。
「二人とも、初めての対人戦とは思えないくらい、よく動けていたよ。ルトくんは、最初こそは怯えていたけれど、最後はとても良い動きだった。これなら、問題ないね」
キラさんの優しい言葉に、俺とリルは、キラさんを見た。
キラさんは、そんな俺たちに、手を差し出した。手のひらの上には、青いバラのピアスが乗っている。
この石は……ラリマーだ。石言葉は、愛と平和の象徴。海と空が一体化したような色から、ブルーペクトライトとも呼ばれる。癒し効果が絶大で、意志の疎通をスムーズに行うことができる。
「このピアスが、ブルーローズのメンバーである証だよ。常につけていてね。このピアスにはメンバーの魔力が登録されているから、これを使って意思疎通をしたり、指示を聞いたりしてね」
俺たちは、ゆっくりと青いバラのピアスを手に取ると、耳につけた。
「うん、よく似合っているよ」
キラさんが、優しく笑った。
「さっきの戦闘は、俺が記憶石にして、マスターや、ラネンさん、エリィ姫様に報告しておくね」
「……はい」
俺とリルは、答えることしかできなかった。
記憶石とは、記憶を石の中に閉じ込めること。閉じ込めた記憶は、専用の機械を使って見ることができる。ただ、記憶石を創るにも、高度な技術がいる。
俺は、まだまだ、技術も足りないし、力も弱い……。
だから、だからこそ……エミリィ様の弟子として、鍛えて貰うんだ。
もう、リルに、あんな捨て身のことをさせないようにも。この復讐の心を、消さないようにも。
俺は、決意を新たにした。
そして、立ち上がると、キラさんに頭を下げた。
「キラさん、ありがとうございました」
「ありがとうございました」
俺に続いて、リルも、キラさんに頭を下げた。
「俺は、お礼を言われるようなことはしていないよ。ただ、マスターに言われたとおりに仕事をしただけだから。……これから、一緒に頑張ろうね」
キラさんの優しい笑顔に、俺とリルは頷いた。
キラさんと分かれて、今日の予定が全て終わった俺たちは、部屋のリビングのソファに倒れ込んでいた。
こんなに一日で魔力を使ったのは初めてかも知れない。
「それにしても、リル、凄かった。守りの魔法も、回復も、魔力供給も。それに、あの、蝶々も」
そう言うと、リルが恥ずかしそうに笑った。
「守りや、回復、魔力供給の、サポート魔法は、おばあちゃんから習っていたの。あの蝶々も。実はね、あの蝶々の魔法は、師匠、エミリィ姫様、そしてグリーンクウォーツ王国のシーク王子様とユーク王子様が、子供の頃に好んで使っていたと本で読んで……素敵だなと思って、教えて貰っていたのよ」
「そうなんだね。俺……何もできなかった」
「そんなことないわ。ルトは、しっかりとキラさんに立ち向かった」
「でも……」
「確かに、私たちはまだまだ何もかも足りないわ。でも、だからこそ、ここで、師匠に弟子入りしたんでしょう?落ち込んでいても始まらないわよ」
リルは、手を伸ばすと、俺の頭を優しく撫でてくれた。
安心感が、体中を駆け巡る。あれ?この感覚、どこかで……?
「明日から、依頼を受けることになっているし、今日はもう休みましょうか」
「うん、そうだね」
リルに答えると、俺たちは二人で窓の外を見た。
そこには、キラキラと星が輝いている。
俺たちは、黙って星に祈った。
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