きらめきの星の奇跡

Emi 松原

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戦闘試験

1-1

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 俺とリルは、庭に出てきていた。
 そこにはすでにキラさんが待っていて、さっきの短剣を持っていた。
「二人とも来たね。ルトくん、この短剣は、今日からルトくん専用のものだ。今からの試験も、これを使ってね」
「えっ……!?」
 この高度な武器魔法道具を、俺が……??
 リルは、何かを察しているのか、黙ってキラさんを見つめていた。
「じゃあ、最後の試験だよ。二人で、俺を倒してみて。大丈夫、この敷地内にマスターがいる限り、死ぬことはないから。だけれど、本気で殺す気できてね」
「……」
 俺とリルは、驚いて声が出せなかった。
 殺す気で……戦う……?
 そんな俺たちにお構いなしに、キラさんは、俺たちと距離を取った。

「武器魔法道具召喚。飛行魔法発動」

 キラさんの手には、弓矢の魔法武器。そして、背中には薄いピンク色の石の羽がはえる。
 飛行魔法の石の羽は、生誕指輪の石と同じものになる。
 キラさんの石は、ベリル。石言葉は、耐える愛・永遠の若さだ。ベリルは主に無色だけれど、混入する成分によって様々な色に変化する、温もりを感じる多彩な石だ。直感力や、洞察力を高める石でもある。すぐれた指導者や、リーダーに導く石とも言われていて、まさに今のキラさんだ。
「さぁ、ボサッとしていたら、すぐに倒しちゃうよ?」
 キラさんが弓矢を構えながら言った。
 ど、どうしたら良いんだ。じいちゃんと、フラワーストーンを採取するための戦闘訓練はしたけれど、本気の対人戦なんかしたことがない。
「武器魔法道具召喚。飛行魔法発動!」
 リルの声が響き渡った。
「リル……!?」
 リルの手には、リルの背丈より高い、丸い大きいなラベンダーアメシストがついた、杖の魔法武器を持っていた。そして背中にも、ラベンダーアメシストの羽。
 リルの顔は、真剣だった。
「リルちゃんは、覚悟ができているみたいだね。ルトくん、どうする?この試験をやめても、君は、創造魔法の技術者として十分やっていけるよ。きっと技術者として幸せになれる。……でも、君は、何の為にマスターの弟子になったんだい?」
 キラさんの言葉に、俺は思わず、キラさんを見た。
「グリーンクウォーツ王国の国王に復讐する。その為には、綺麗事じゃできないよ。何人ものグリーンクウォーツ王国の人間を殺めることになるかもしれない。さぁ、ここでまず覚悟できないと、復讐なんて言葉だけだよ。どうする?」
 キラさんが、矢の先端を俺に向けた。
 俺は、キラさんの言葉で、胸の奥に、ふつふつと何かが溢れていた。
 今日、創造魔法で短剣を創っているとき、じいちゃんの教えが支えてくれた。そのじいちゃんは……。それに、燃えていく村。
 ……俺だけここで、幸せに生きていくなんてできない。
 俺は、手の中の短剣を見た。高度な武器魔法道具。俺に扱えるかなんて分からない。
 だけれど、これを創ったのは俺だ。俺が一番、この武器魔法道具を把握している。

「飛行魔法、発動」

 俺は、短剣を握りしめて、飛行魔法を発動させた。クリソプレーズの石の羽が、俺の背中にはえる。

「じゃあ、スタートだ。俺か、君たち二人のどちらかが動けなくなるまでが試験だよ」
 キラさんはそう言うと、矢を俺たちに向けて放った。
 慌てて避けると、矢は俺のいた位置で爆発した。
 この攻撃……本気だ。本気で、命がかかった戦いだ。
 どうしよう、怖い。攻撃されるのも……この短剣で、攻撃するのも。
「戦場での迷いは、命取りだよ」
 キラさんの声と共に、俺の真上から、矢の雨が降り注ぐ。
「守れ!!」
 リルの声が響いた。
 俺の頭上を守るように、壁ができた。
「はっ!!」
 続けてリルのかけ声と共に、その壁が、矢の魔力を押し返す。
「やっぱり、リルちゃんには覚悟があるみたいだね。ルトくん、もう止めるかい?そのまま怯えていたら、試験になんかならないよ。良いじゃないか、復讐なんてできなくても、ここで幸せに暮らしていけば。きっと、みんなそれを望んでいるよ」
 キラさんが、今までの声と違う、怖い声で言った。
 復讐とは、どういうことか。
 俺は、ちゃんと考えて、エミリィ様に弟子入りしたのだろうか。
 怒り任せで、ただただ俺たちの幸せを壊したグリーンクウォーツ王国の国王が許せなくて、復讐しようと思った。
 その為には、なんだってできると思った。
 それなのに、今、俺は、試験なのに、目の前の人間を傷つけることに、傷つけられることに、怯えている。
 ……でも。でも。やっぱり、俺は全てを忘れて、幸せになろうと思えない。
 怖い。けれど、この復讐の心を忘れてしまえば、俺は一生、あの燃えていく村の光景に苦しめられるのだろう。そう。あの時だって、こうやって怯えて何もできなかった。俺は、何もできなかったんだ。
 もう、何もできない自分は嫌だ。こんなにグリーンクウォーツ王国の国王が憎いのに、怖いからと言って、何もしない自分なんて嫌だ。
 俺は必ず、復讐すると決めたんだ。
 だから、破壊神様の、エミリィ様の弟子となったんだ!!
 復讐を遂げるためには、傷つく覚悟も、傷つける覚悟もしないといけないんだ!!
 俺は、短剣を振り上げて、キラさんに向けて振った。
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