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燃えさかる炎
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しおりを挟む「魔力供給する。そのまま城に転送するから」
「やめなさい、エミリィ。転送するのは、この書物と、私たちの孫だけだ」
じいちゃんが、厳しい声で言った。
「……」
エミリィ姫様は、無表情で、黙ってじいちゃんを見つめていた。
「賢いお前なら分かるだろう。あいつらが、ここの書物を逃そうとするはずがないと。そして、我々の孫とこの書物を安全に守る為には、ホワイトクウォーツ王国を守る為には、我々が書物を全て処分したと見せかけて、我々の本物の死体を残すことが一番だと」
じいちゃんの厳しい声に、リルのおばあちゃんが頷いた。
「嫌だと言ったら?」
エミリィ姫様が、静かに、だけれどとても威圧のある声で言った。その体からは、感じたことのない怖くて膨大な魔力が溢れていた。
「……我々に、そんな脅しが通じると思うか?」
じいちゃんが、笑った。
「エミリィ、約束しただろう。ここが襲われたときは、この二人の孫を守ってくれると」
「先生は、平気で約束を破るくせに」
「お前との約束を破りすぎて、どれのことか分からんよ」
じいちゃんが、優しく笑った。
「私のウエディングストーンを創ってくれるって言った」
初めて、じいちゃんの顔が、一瞬歪んだ。その目に涙が溜まるのが分かったけれど、じいちゃんは決してその涙を流さずに、また威厳のある顔で、エミリィ姫様を見つめた。
「あぁ、約束したな。……守ってやれなくてすまない」
「謝っても、許さない」
「知っておる。だが、謝りたいんだ。代わりに、この私の孫が、お前のウエディングストーンを創ると約束しよう。私が技術を叩き込んだ、お前の弟弟子だぞ」
弟弟子……!?
俺には、もうこの状況を理解することはできないと分かった。だから何も言わず……いや、何も言えずに、リルと黙ってその光景を見つめていた。
「エミリィ、最後にあなたに会えて、本当に嬉しいわ。来てくれてありがとう」
リルのおばあちゃんが、穏やかで優しく笑った。
それでもエミリィ姫様と、ラネンと呼ばれた男の人は無表情だ。
「……繋いでおるのだろう?三人と」
「三人じゃない。四人」
「……!!」
エミリィ姫様の言葉に、じいちゃんと、リルのおばあちゃんは、初めて驚いた顔をした。
「四人……まさか、あいつと……アーサとも繋がっているのか?」
じいちゃんの言葉に、エミリィ姫様は黙って頷いた。
「そうか。エミリィ、お前は本当に優しい子だなぁ」
じいちゃんが笑った。
「破壊神に対して優しいって言うの、おかしい」
「おかしくありませんよ。あなたはとても優しい子です。私たちは、それをよく知っていますよ」
リルのおばあちゃんが、目に涙を溜めて笑っていた。
「じゃあ、我々から最後の言葉を、六人に贈ろう。エミリィとラネンはともかく、他の四人は、ここに繋がっていることが知られたら厄介だ。何があっても声を出してはならんぞ」
じいちゃんが、また威厳のある厳しい声で言った。
エミリィ姫様が、黙って、右手を前に出した。
その指には、ブラックダイヤモンドの星の形をした生誕指輪……。
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