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第十章 バザール領とジェイド様とソフィアさんの結婚式

百四十九話 レイクランド辺境伯領へ

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 翌日朝、僕とリズは早めに王城に向かった。
 ティナおばあさまに朝の挨拶をすると、部屋に呼ばれた。
 部屋に入ると、またもやって感じでベッドの上に僕とリズの衣装が並んでいる。

「春だから新作がでたのよ。二人に似合う物を選んだわ」
「あ、有難うございます」
「でもおばあちゃん、今日は時間ないよ」
「だから、今日はこの服にするのよ。残りは、また今度衣装合わせしましょうね」
「「はーい」」

 ティナおばあさまが手にしたのは、淡いパステルカラーの衣装だった。
 何気に僕とリズとで、服がペアルックになっているぞ。
 僕とリズが着替え終わると、ティナおばあさまと侍従はいい仕事をしたという表情になっていた。
 
 その後は打ち合わせを行う為に、王城内のとある部屋に呼ばれた。
 部屋には、軍務卿とレイクランド辺境伯様がいた。
 陛下は別の用事があるというので不参加だ。

「今日は新造の魔導船で行く。この魔導船なら、夕方にはレイクランド辺境伯領まで着くだろう」
「レイクランド辺境伯領とホーエンハイム辺境伯領は、王都からの距離は違いがあるんですか?」
「大体同じ距離だ。それだけ性能が上がっているが、船はコンパクトになっているぞ」
「おお、どんな船か楽しみだ!」

 新造船というので、前回乗った魔導船よりもかなり良いのだろう。
 リズとスラちゃんは、どんな船なのか凄く楽しみにしていた。
 因みにプリンは、僕の頭の上ですやすやと睡眠中だ。

「この船が実用化されれば、物流も大きく改善できる。重いものはダメだが、それだけの魅力はあるぞ」
「軽くて商品単価の良い物などは、魔導船を使ってでも運ぶ価値がありますね」
「正しくその通りです。流石はアレク殿下ですね」

 レイクランド辺境伯様は商業的な意味で、魔導船に可能性を感じていた。
 運べるものは限られるけど、馬車と比較すれば圧倒的な速さで物を各地に届ける事ができる。
 物流に革命が起きる可能性もあるのだ。
 
 とはいえ、暫くは軍優先で魔導船は運用されるだろう。
 話はこれ位にして、魔導船に乗り込む為に僕達は王城から王都郊外の軍の施設に馬車で移動。
 途中でレイクランド辺境伯の屋敷に寄って、随行する侍従を乗せます。
 今回随行する侍従はベテランの二人なのだが、僕とリズがニコリと挨拶をすると何だか顔が赤くなっていた。
 そして辺境伯様そっちのけで、どっちが僕とリズの世話をするかで熱のこもったじゃんけんをしていた。
 
「前に乗ったのよりも小さいね」
「小さいけど、その分高性能だ。航続距離も長くなったぞ」
「それは小さくなった分の軽量化の影響もありますか?」
「それもあるが、動力である魔導推進装置も改良された」

 軍の駐屯地に着くと、前回乗った魔導船よりも半分位の大きさになった魔導船があった。
 あの大きい魔導船から、この魔導船に置換が進んでいるらしい。
 時間もないので、僕達は早々に魔導船に乗り込みいざ出発。
 安定飛行になった所で、軍務卿とレイクランド辺境伯様にレイクランド辺境伯領について色々聞いてみた。
 因みに客室は貴族用と一般用があるが、現時点で一般用は船員用にしているという。
 
「軍務卿閣下、レイクランド辺境伯様。これから向かうレイクランド辺境伯領は、どの様な土地柄でしょうか?」
「王都よりも寒くはないが、四季がはっきりしている。そして何よりもレイクランドの名の元になったレイクランド湖があるぞ」
「街はホーエンハイム辺境伯領を想像して頂ければと。人口もそう変わりがありません。国境にありますので、共和国との取引も多いですよ」
「美味しいものはあるの?」
「レイクランド湖産の魚介類は美味ですよ。農産物も沢山取れますので、ピザやパスタは絶品です」
「おお、とても楽しみ!」

 途中からリズが食べ物の事で質問し始めたけど、そこでもレイクランド湖の事が出てきた。
 それだけ、レイクランド湖はレイクランド辺境伯領にとって大きな存在なのだろう。
 あと、四季がはっきりしているという事は、レイクランド辺境伯領は今は春なんだ。
 もしかしたら春だから、沢山の花が咲いているのかも。

 色々な事を思いつつ、魔導船の中で昼食タイム。
 やはりというか、地上で作って温めて食べる物だったけど、前回の乗船よりも美味しく感じられた。
 その辺は、大物貴族を乗せても恥ずかしくない料理になった様だ。

「あの、アレク君? アレク君とリズちゃんは王族で、その大物貴族の更に上なんだけど」
「いえいえ、僕達はまだまだ子どもですので。軍務卿閣下やレイクランド辺境伯様の様な立派な大人ではないです」
「子どもはそんな感じでは言わないけどね」

 美味しいといって口いっぱいに料理をほおばっているリズとスラちゃんとプリンはさておき、僕達は王族としてまだまだだと思うけどな。

「ああ、リズはまた口の周りを汚している」
「ありがとう、お兄ちゃん」

 僕がリズの汚れた口の周りを拭いていると、しっかりしていてもやっぱりお兄ちゃんだねと軍務卿とレイクランド辺境伯様からくすくすと笑われてしまった。
 
 そしてお昼寝の時間になると、先程じゃんけんで勝った侍従がニコニコとしながら準備を手伝ってくれた。
 うん、侍従の笑顔がなんか怖いよ。
 とはいえ悪い人ではないので、その内に眠ってしまった。
 そして僕達が昼寝から起きると、何故か侍従を含めた大人が部屋で僕達の寝姿を見つめていた。

「あれ? 皆さんどうしたのですか?」
「うみゅう......」
「「「「気にしないでくれ」」」」

 いや、皆揃って真顔で言わなくても。
 リズは何が何だか分からない様で、眠たそうに目をこすっていた。
 そして、ふと窓の外を見たと思ったら、たたたっと走り出していた。

「お兄ちゃん、大きい湖があるよ!」

 リズはニコニコとしながら窓の外を指さしている。
 僕もリズにつられて、窓の外を見てみた。

「本当だ。思ったよりもずっと大きい」
「お魚さんいるかな?」
「これだけ大きいなら、沢山いるよ」
「そっか、見てみたいな」

 いつの間にかスラちゃんとプリンも起きてきて、僕達の頭の上に乗って外の光景を一緒に見ている。
 窓に張り付く僕達の姿を、大人たちは再びニヤニヤと見つめていた。
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