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第6話
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紺と白のボーダーシャツに、黒い革ジャンとジーパンという姿に着替えた天宮と一緒に、俺はタクシーに乗り込んだ。
天宮は、別れる間際まで不満そうにこちらを見つめていた河合に、窓から軽く手を振っていた。
「―――どうして、俺のとこに?」
タクシーが走りだし、天宮と2人になると、改めて聞いてみた。
天宮は、横目で俺をちらりと見た。
「さっきのじゃ、納得できない?」
「そういうわけじゃ・・・・ただ、他にも理由がありそうな気がして。河合さんの所へ行きたくないわけでもあるのかと思ったんだ」
河合の名前に、天宮の瞳が一瞬揺らいだ気がした。
「―――別に。ただ、もし俺が誰かに狙われてるのなら、浩斗くんのところへ行けば浩斗くんを巻き添えにする可能性だってある。それは避けたいと思っただけだよ。一応社長だしね」
そう言って、また窓の外へと視線を向ける。
この男の本心はどこにあるんだろうか。
人の心を見透かすような瞳。
だけどその目にはどこか影があり、本心は覆い隠されている。
『裕太くんの入れてくれたコーヒーは本当においしいんだ』
そう言った時の笑顔はとても無邪気だったけれど―――
「―――ここ?」
俺の住んでいるマンションの前でタクシーを降りると、天宮がマンションを見上げて言った。
「うん。ここの5階。こっち」
そう言って歩き出した俺の後を、天宮は素直に着いて来た。
エレベーターで5階へ上がり、俺の部屋へ案内する。
「―――どうぞ」
滅多に人を入れることのない自室へ天宮を招き入れることに、何だかくすぐったさを感じる。
「―――お邪魔しま~す」
意外に礼儀正しい挨拶をして、天宮は部屋に上がった。
そして、きょろきょろと周りを見回しながら中へ入っていき―――
突然、ある部屋の前でぴたりと止まった。
「―――ここだ」
「え?」
思わずどきりとする。
なぜなら、その部屋はある意味誰も知らない俺の素の部分で・・・・・
3年間コンビを組んできた関でさえ知らない、俺のトップシークレットだった。
だからこそこのマンションには家族以外入れることはなかったし、天宮にも、この部屋にだけは入らないようにと言うつもりだったのだ・・・・・。
天宮は俺の方を見ると、柔らかい笑みを浮かべた。
「―――ここは、あんたの心臓部―――でしょ?」
「は・・・・・?」
「この部屋に入っていいのは、家族だけ。誰も知らない、あんたの一番デリケートな部分だ」
「どうして・・・・・そんなこと・・・・・」
「あんたを初めて見た時から、感じてたよ。のほほんとして、刑事のくせに威圧感てものを全く感じさせない。物腰も柔らかくて、きっと初対面の人にも警戒心を与えることなくすんなり受け入れられる。それが、実は刑事としては武器だったりして、意外と優秀なんだよね。だけど、あんた自身は出世欲なんてまるでなくて―――ていうのが、たぶんあんたの表の顔。でしょ?」
俺は、呆気に取られていた。
確かに、俺の印象はそんなものだと思う。
でも、どうしてこいつにそんなことが?
まだ会ったばかりなのに―――。
そこで、思い出した。
櫻井が言っていたことを―――
『―――その人間を見るだけで、その人の性格や職業、家族構成などをぴったり言い当てることができる―――』
まさか、最初から見抜いてたっていうのか・・・・・?
「―――ここにあるものがどういうものか、大方の予想はついてるーーーけど、別に無理に見せて欲しいとか、そういうことは思ってないから。俺に話したくないことは話さなくていいよ」
そう言って、天宮は笑った。
「―――あんたのとこに来たいと思ったのは、俺がこういうこと言って驚きはしても、気持ち悪いとは言わないだろうと思ったから・・・・」
「え・・・・」
気持ち悪い・・・・・?
「その人を見ただけで、その人のことが何でもわかるとか、気持ち悪いだろ?あんたは違うけど、大抵の人はそう思うんだよ」
大抵の人はそう思う。
だとすれば、天宮はその人を見た瞬間に、それがわかっているのだろうか。
今まで、天宮の容姿とミステリアスなその雰囲気に惹かれ寄ってくる人間が、本当の自分を知ったら『気持ち悪い』と言って離れていく―――
そんな、知りたくもないことがわかってしまう。
それは、どんな気持ちなんだろう・・・・・。
俺を見つめていた天宮の瞳が、優しく細められた。
「―――あんたは、優しい人だね。優し過ぎるくらい・・・・」
「そんなこと・・・・・」
今まで見たことがないくらいの優しい笑顔にドギマギしていると、天宮はすっとその部屋から離れ、リビングに向かった。
「ねえ、シャワー借りていい?」
「へ?ああ―――どうぞ。えーと・・・・」
「ああ、大丈夫、わかるから」
そう言いながらバッグをソファーに置くと、中からバスローブの様なものを取り出し、風呂場へと向かった。
迷うことなく風呂場へと入っていく天宮を呆然と見送って―――
俺は、大きな溜息をついた。
知らないうちに、ずいぶん緊張していたようだった。
手には、汗をびっしょりとかいていた・・・・・。
天宮は、別れる間際まで不満そうにこちらを見つめていた河合に、窓から軽く手を振っていた。
「―――どうして、俺のとこに?」
タクシーが走りだし、天宮と2人になると、改めて聞いてみた。
天宮は、横目で俺をちらりと見た。
「さっきのじゃ、納得できない?」
「そういうわけじゃ・・・・ただ、他にも理由がありそうな気がして。河合さんの所へ行きたくないわけでもあるのかと思ったんだ」
河合の名前に、天宮の瞳が一瞬揺らいだ気がした。
「―――別に。ただ、もし俺が誰かに狙われてるのなら、浩斗くんのところへ行けば浩斗くんを巻き添えにする可能性だってある。それは避けたいと思っただけだよ。一応社長だしね」
そう言って、また窓の外へと視線を向ける。
この男の本心はどこにあるんだろうか。
人の心を見透かすような瞳。
だけどその目にはどこか影があり、本心は覆い隠されている。
『裕太くんの入れてくれたコーヒーは本当においしいんだ』
そう言った時の笑顔はとても無邪気だったけれど―――
「―――ここ?」
俺の住んでいるマンションの前でタクシーを降りると、天宮がマンションを見上げて言った。
「うん。ここの5階。こっち」
そう言って歩き出した俺の後を、天宮は素直に着いて来た。
エレベーターで5階へ上がり、俺の部屋へ案内する。
「―――どうぞ」
滅多に人を入れることのない自室へ天宮を招き入れることに、何だかくすぐったさを感じる。
「―――お邪魔しま~す」
意外に礼儀正しい挨拶をして、天宮は部屋に上がった。
そして、きょろきょろと周りを見回しながら中へ入っていき―――
突然、ある部屋の前でぴたりと止まった。
「―――ここだ」
「え?」
思わずどきりとする。
なぜなら、その部屋はある意味誰も知らない俺の素の部分で・・・・・
3年間コンビを組んできた関でさえ知らない、俺のトップシークレットだった。
だからこそこのマンションには家族以外入れることはなかったし、天宮にも、この部屋にだけは入らないようにと言うつもりだったのだ・・・・・。
天宮は俺の方を見ると、柔らかい笑みを浮かべた。
「―――ここは、あんたの心臓部―――でしょ?」
「は・・・・・?」
「この部屋に入っていいのは、家族だけ。誰も知らない、あんたの一番デリケートな部分だ」
「どうして・・・・・そんなこと・・・・・」
「あんたを初めて見た時から、感じてたよ。のほほんとして、刑事のくせに威圧感てものを全く感じさせない。物腰も柔らかくて、きっと初対面の人にも警戒心を与えることなくすんなり受け入れられる。それが、実は刑事としては武器だったりして、意外と優秀なんだよね。だけど、あんた自身は出世欲なんてまるでなくて―――ていうのが、たぶんあんたの表の顔。でしょ?」
俺は、呆気に取られていた。
確かに、俺の印象はそんなものだと思う。
でも、どうしてこいつにそんなことが?
まだ会ったばかりなのに―――。
そこで、思い出した。
櫻井が言っていたことを―――
『―――その人間を見るだけで、その人の性格や職業、家族構成などをぴったり言い当てることができる―――』
まさか、最初から見抜いてたっていうのか・・・・・?
「―――ここにあるものがどういうものか、大方の予想はついてるーーーけど、別に無理に見せて欲しいとか、そういうことは思ってないから。俺に話したくないことは話さなくていいよ」
そう言って、天宮は笑った。
「―――あんたのとこに来たいと思ったのは、俺がこういうこと言って驚きはしても、気持ち悪いとは言わないだろうと思ったから・・・・」
「え・・・・」
気持ち悪い・・・・・?
「その人を見ただけで、その人のことが何でもわかるとか、気持ち悪いだろ?あんたは違うけど、大抵の人はそう思うんだよ」
大抵の人はそう思う。
だとすれば、天宮はその人を見た瞬間に、それがわかっているのだろうか。
今まで、天宮の容姿とミステリアスなその雰囲気に惹かれ寄ってくる人間が、本当の自分を知ったら『気持ち悪い』と言って離れていく―――
そんな、知りたくもないことがわかってしまう。
それは、どんな気持ちなんだろう・・・・・。
俺を見つめていた天宮の瞳が、優しく細められた。
「―――あんたは、優しい人だね。優し過ぎるくらい・・・・」
「そんなこと・・・・・」
今まで見たことがないくらいの優しい笑顔にドギマギしていると、天宮はすっとその部屋から離れ、リビングに向かった。
「ねえ、シャワー借りていい?」
「へ?ああ―――どうぞ。えーと・・・・」
「ああ、大丈夫、わかるから」
そう言いながらバッグをソファーに置くと、中からバスローブの様なものを取り出し、風呂場へと向かった。
迷うことなく風呂場へと入っていく天宮を呆然と見送って―――
俺は、大きな溜息をついた。
知らないうちに、ずいぶん緊張していたようだった。
手には、汗をびっしょりとかいていた・・・・・。
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