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第5話
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「皐月!!」
天宮のマンションへ着くと、河合が部屋のソファーに座っていた天宮に駆け寄った。
天宮は顔色こそ青白かったものの、比較的落ち着いた様子で座っていた。
着ていた青いチェックのシャツは胸の部分が大きく斜めに刃物で切られた跡があり、そこから覗いていた透けるように白い肌には痛々しい傷が見え、微かに血が滲んでいた。
「浩斗くん」
天宮の隣に座った河合が、切られたシャツにそっと触れる。
「ひどいな・・・・・病院に行かなくていいのか?」
その言葉に、天宮はふっと微笑んだ。
「大丈夫だよ。かすり傷だし。シャツが1枚ダメになったくらいで、大したことない」
河合が、ほっと息をつく。
部屋の中では、鑑識の人間が部屋中を調べまわっていた。
「―――どういう状況だったのか、聞かせてもらえますか?」
関の言葉に、天宮がこちらを見た。
「―――ここに帰って来た時―――鍵が開いてたんだ」
「おかしいとは思わなかったんですか?」
「もちろん思ったよ。だから、音をたてないようにこっそり中に入った。中の明かりは消えてて―――でも、人がいる気配がしたから、そのまま静かにこの部屋に入ったんだ」
「入る前に、どうして警察に通報しなかったんですか?あんな事件の後だ。危険なことだってあるかもしれないのに」
少し厳しくそう言った関を見て、天宮は特に悪びれる様子もなく肩をすくめた。
「俺は別に、人に恨まれる覚えもないし。それに―――もし陽介を殺した犯人が俺のところに来たんだとしたら、その正体を見てやろうかなっていう気持ちもあったし」
「な―――」
関が思わず声を荒げようとしたその時。
『パシンッ』
乾いた音がして、一瞬部屋の中が静寂に包まれた。
河合が、天宮の頬を叩いたのだ。
「―――バカヤロウ!そんなことして・・・・お前が殺されたらどうするんだ!」
河合の目には、涙が光っていた。
天宮は、ぽかんとした表情で河合を見ていたが―――
「―――ごめん、浩斗くん」
素直に、そう謝る天宮。
河合は、そんな天宮をふわりと抱きしめた。
「―――ほんとに・・・無事で良かった・・・皐月・・・・」
震える声でそう囁いた河合の背中に、天宮がそっと腕をまわした。
「・・・・・心配かけてごめん、浩斗くん・・・・・」
そっと河合の背中を撫でる天宮の表情は、どこか切なげで―――
俺と関は、ただ黙って2人を見ていることしかできなかった。
天宮は、結局犯人の顔を見ていなかった。
真っ暗な部屋へ入った天宮は、誰かが自分に向かって飛び出してくる気配を感じ、咄嗟にそれを避けようとしたらしい。
シャツを切られ、傷はついたものの相手からも天宮がよく見えなかったのだろう、それ以上深追いすることはなく、部屋を飛び出して行ってしまったとのことだった。
天宮が話している間、河合もようやく落ち着き、天宮から少し離れてソファーに座り黙って話を聞いていた。
「―――皐月、今日は俺のところに泊りに来いよ」
河合の言葉に、天宮は少しためらっているようだった。
その2人の間に割って入るように、関が口を開いた。
「―――襲われる心当たりはないんですか?」
その言葉に天宮は肩をすくめた。
「別に。ただの泥棒じゃないの?盗られたものは何もないけど」
部屋は特に荒らされている感じはしなかった。
だが、佐々木の事件と無関係とも思えなかった。
「―――こんなところに1人で置いとけない。皐月、俺の家に・・・・」
河合が、熱っぽい瞳で天宮を見つめる。
天宮は河合の方をちらりと見てから―――
突然、俺を見た。
「―――俺、樫本さんのとこがいい」
「―――は!??」
―――なんで俺?
もちろんそう思ったのは俺だけではなくて・・・・・
河合と、それからなぜか関にまで、ジロリと睨まれてしまったのだった。
「え?え?ちょ、待ってよ。なんで俺?」
―――まさか、俺に気があるとか・・・・!?
そう考えただけで、体が熱くなってくるようだった。
「だって、刑事さんの家が1番安全じゃん」
そう言って天宮はにっこりと笑った。
―――なんだ、そういうこと・・・・・。
突然テンションの下がった俺を、相変わらず2人が睨みつけていて。
―――て、がっかりしてる場合じゃなかった。
俺は、ようやく自分の本来の立場を思い出した。
「―――そうですね。確かに、犯人の目的がわからない今、河合さんの家というのも安全とは言えませんから―――。とりあえず今日はもう遅いですし、僕の家に来てください。明日からのことは、また明日考えますので―――」
満足そうに頷く天宮と、対照的に不満そうな河合。
関は仕方ないというふうに肩をすくめ、頷いた。
「わかりました。じゃあそういうことで―――。天宮さん、とりあえず当面の着替えなどまとめていただけますか?」
「オーケー。―――浩斗くん、ありがとう。でも、浩斗くんにまで怪我とかさせたくないから」
「あ、うん・・・・・」
そうして、河合に微笑んで見せてから自室へと入っていく天宮を、河合はちょっと複雑そうな眼差しで見つめていたのだった・・・・・。
天宮のマンションへ着くと、河合が部屋のソファーに座っていた天宮に駆け寄った。
天宮は顔色こそ青白かったものの、比較的落ち着いた様子で座っていた。
着ていた青いチェックのシャツは胸の部分が大きく斜めに刃物で切られた跡があり、そこから覗いていた透けるように白い肌には痛々しい傷が見え、微かに血が滲んでいた。
「浩斗くん」
天宮の隣に座った河合が、切られたシャツにそっと触れる。
「ひどいな・・・・・病院に行かなくていいのか?」
その言葉に、天宮はふっと微笑んだ。
「大丈夫だよ。かすり傷だし。シャツが1枚ダメになったくらいで、大したことない」
河合が、ほっと息をつく。
部屋の中では、鑑識の人間が部屋中を調べまわっていた。
「―――どういう状況だったのか、聞かせてもらえますか?」
関の言葉に、天宮がこちらを見た。
「―――ここに帰って来た時―――鍵が開いてたんだ」
「おかしいとは思わなかったんですか?」
「もちろん思ったよ。だから、音をたてないようにこっそり中に入った。中の明かりは消えてて―――でも、人がいる気配がしたから、そのまま静かにこの部屋に入ったんだ」
「入る前に、どうして警察に通報しなかったんですか?あんな事件の後だ。危険なことだってあるかもしれないのに」
少し厳しくそう言った関を見て、天宮は特に悪びれる様子もなく肩をすくめた。
「俺は別に、人に恨まれる覚えもないし。それに―――もし陽介を殺した犯人が俺のところに来たんだとしたら、その正体を見てやろうかなっていう気持ちもあったし」
「な―――」
関が思わず声を荒げようとしたその時。
『パシンッ』
乾いた音がして、一瞬部屋の中が静寂に包まれた。
河合が、天宮の頬を叩いたのだ。
「―――バカヤロウ!そんなことして・・・・お前が殺されたらどうするんだ!」
河合の目には、涙が光っていた。
天宮は、ぽかんとした表情で河合を見ていたが―――
「―――ごめん、浩斗くん」
素直に、そう謝る天宮。
河合は、そんな天宮をふわりと抱きしめた。
「―――ほんとに・・・無事で良かった・・・皐月・・・・」
震える声でそう囁いた河合の背中に、天宮がそっと腕をまわした。
「・・・・・心配かけてごめん、浩斗くん・・・・・」
そっと河合の背中を撫でる天宮の表情は、どこか切なげで―――
俺と関は、ただ黙って2人を見ていることしかできなかった。
天宮は、結局犯人の顔を見ていなかった。
真っ暗な部屋へ入った天宮は、誰かが自分に向かって飛び出してくる気配を感じ、咄嗟にそれを避けようとしたらしい。
シャツを切られ、傷はついたものの相手からも天宮がよく見えなかったのだろう、それ以上深追いすることはなく、部屋を飛び出して行ってしまったとのことだった。
天宮が話している間、河合もようやく落ち着き、天宮から少し離れてソファーに座り黙って話を聞いていた。
「―――皐月、今日は俺のところに泊りに来いよ」
河合の言葉に、天宮は少しためらっているようだった。
その2人の間に割って入るように、関が口を開いた。
「―――襲われる心当たりはないんですか?」
その言葉に天宮は肩をすくめた。
「別に。ただの泥棒じゃないの?盗られたものは何もないけど」
部屋は特に荒らされている感じはしなかった。
だが、佐々木の事件と無関係とも思えなかった。
「―――こんなところに1人で置いとけない。皐月、俺の家に・・・・」
河合が、熱っぽい瞳で天宮を見つめる。
天宮は河合の方をちらりと見てから―――
突然、俺を見た。
「―――俺、樫本さんのとこがいい」
「―――は!??」
―――なんで俺?
もちろんそう思ったのは俺だけではなくて・・・・・
河合と、それからなぜか関にまで、ジロリと睨まれてしまったのだった。
「え?え?ちょ、待ってよ。なんで俺?」
―――まさか、俺に気があるとか・・・・!?
そう考えただけで、体が熱くなってくるようだった。
「だって、刑事さんの家が1番安全じゃん」
そう言って天宮はにっこりと笑った。
―――なんだ、そういうこと・・・・・。
突然テンションの下がった俺を、相変わらず2人が睨みつけていて。
―――て、がっかりしてる場合じゃなかった。
俺は、ようやく自分の本来の立場を思い出した。
「―――そうですね。確かに、犯人の目的がわからない今、河合さんの家というのも安全とは言えませんから―――。とりあえず今日はもう遅いですし、僕の家に来てください。明日からのことは、また明日考えますので―――」
満足そうに頷く天宮と、対照的に不満そうな河合。
関は仕方ないというふうに肩をすくめ、頷いた。
「わかりました。じゃあそういうことで―――。天宮さん、とりあえず当面の着替えなどまとめていただけますか?」
「オーケー。―――浩斗くん、ありがとう。でも、浩斗くんにまで怪我とかさせたくないから」
「あ、うん・・・・・」
そうして、河合に微笑んで見せてから自室へと入っていく天宮を、河合はちょっと複雑そうな眼差しで見つめていたのだった・・・・・。
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