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2話 ※帰る気はないみたいです
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ダブルサイズのベッドは一人で寝るには広すぎる。
私がほしかったのは白のベッドだったけど、寝室にあるのは黒いベッドだ。マットレスも彼の希望の物だった。
このマットレスはスプリングのバネが良いから軋みにくくてオススメですよ、と案内する店員さんの前で「でもギシギシなったほうがえろくない?」と彼は私に耳打ちしたのだ。
私はしろくんに押し倒され、唇を重ねながらそんな過去を思い出していた。
「はっ……お姉さんお酒くさいよー」
「だってすっごい飲んだもん」
しろくんはそっと唇を離すと鼻が触れ合うほど近い距離で笑う。ニキビ一つない色白の肌が羨ましくて手を伸ばす。
「あっ、しろくんのほっぺたやわらかーい。赤ちゃんみたいだねー」
「こら。子供扱いしないで。お姉さんの方がふにゃふにゃになってて可愛いよ」
「ふにゃふにゃってな、んんっ」
呂律が回っていない口を塞がれる。今度はさっきより深い口付けだった。
自然と唇を開けば侵入してきたしろくんの舌が私の舌にくっついてきて、そのままの状態で唇は何度も角度を変えて重ねられる。
呼吸を奪う荒々しいキス。なのに、ぴたりとくっついたままの舌は優しくて、時折撫でるように動かされると全身にぞくぞくしたものが走る。
舌が熱くてとろけてしまいそう。私としろくんの境界線がわからなくなる。
「ふぁ……っ」
「お姉さん、まだキスしかしてないのにすっごくえっちな顔してる」
「んー、しろくん。しよ……」
「いいよ。気持ちよくしてあげるね」
私、自分からしたいなんて誘ったことあったっけ。しろくんの首に手を回して抱き寄せると、スプリングがギィと悲鳴を上げた。
「あっ、あ……しろく……っ」
「っ、しろって呼んで?」
「ん……っ、しろ……っ、ぎゅってして。ぎゅってしながらがいい」
「はっ、お姉さん痛くない?」
私はこくこくと頷く。男性器を受け入れるのは久しぶりだけれど、私のあそこはおもらしをしたかのようにぐしょぐしょで、しろと溶けあっていた。
もう何度もイッたのに、それでも自らねだっているのだ。痛がってないことは明らかなのに私を気遣ってくれる言葉が耳を優しくくすぐる。
細いのに力強い体で抱きしめられると、快楽とは違う何かが私の心を満たしてくれるような気がした。ぽっかりと空いた穴が埋まる、このあたたかでどうしようもなく切ない感覚をもっと味わっていたいのに。
静かで優しい腰の動きに揺られながら私の意識は遠のいていった。
▽
窓の外からうるさいセミの鳴き声と鳥のさえずりが聞こえる。まぶたの裏に陽の光を感じてゆるゆると目を開けた。
「っ、あたま痛! うえ……気持ち悪」
ぼんやりとした意識で起き上がろうとして、痛みが襲う。
完全に二日酔いだ。何本飲んだんだっけ。潰れるまで飲んだの初めて――
「んん……」
「っ!」
すぐ隣で布団がもぞもぞと動く。その弾みに肩までかけていた布団がずれて自分の裸体が視界に入った。
本来着ているはずの服はベッドの周辺に脱ぎ捨てられ、そこには下着も混ざっている。
「んー……お姉さんおはよー」
続いて体を起こしたしろが眠たそうに目を擦る。
彼もまた白い素肌をあらわにしていた。細身だけどほどよく引き締まった体をしているから男の子って感じがする。
昨晩の記憶が私の頭をさーっと流れていく。力強く抱きしめてくれた温もりを思い出すと顔から火が出そうだ。七歳も下の男の子に甘えちゃって恥ずかしい。
「よく眠れた?」
「う、うん。でもさすがに飲みすぎたよ」
しろは自然に私の体にもたれかかってくるし、初対面のときより声が優しくなった気がする。
近い距離に不覚にもドキドキしてしまうが、未成年と体の関係を持ってしまったという後悔も同時にやってきた。
「あ、二日酔い? 大丈夫ですか?」
「なんとか……あれ、今って――九時!?」
枕元のデジタル時計が示す現在時刻にさっきまで感じていた恥じらいや後悔、二日酔いまでもが一瞬で吹き飛んでいった。
今日は月曜日。土日休みで平日出勤の私は今日も仕事ですけれども。始業時間は九時ですので、
「遅刻じゃんか! 最悪! 遅刻なんて初めてだよ。アラーム仕事してよね」
「アラームは働いてたよ。お姉さんが自分で止めたんじゃん」
「いや、気付いてたなら起こしてよ!ってそんなこと言ってる場合じゃない。シャワー浴びてる時間もないな……今から会社に電話するから静かにしててね」
「はーい」
「お疲れ様です――」
真っ裸とかこの際気にしていられない。スマホを肩と耳で挟んで電話しながらクローゼットから取り出した下着を身につけていく。
「はい。はい。失礼致します」
スマホを左右の手に持ち替えながら話し続け、電話を切る頃には仕事の服装に着替え終わっていた。
再びベッドに寝転がってスマホをいじり始めたしろには構っていられない。顔を洗って歯を磨き、化粧も軽く済ませれば後は家を出るだけだ。
ここまで約十分。タイムアタックの新記録が出た。
「夜はあんなに甘えんぼうだったのに……今のお姉さん別人みたい」
「き、昨日は酔ってたの。それより私もう家出るよ。しろは、」
――いまだ全裸でゴロゴロしている。こちらに向いている顔は気だるげで、すぐに服を着てくれるとは思えない。
このマンション家賃高いのにオートロックじゃないんだよね。
「ハァ……鍵を渡しておくよ。戸締まりしたら必ずポストに入れておいてよ」
「えー! お姉さんの帰りを部屋で待ってたら駄目なの?」
「駄目に決まってるでしょ」
「DMでは好きなだけ泊まっていいよって言ってたのに放り出すんですね。無責任だなー。お姉さんの次に泊めてくれる人がすっごく悪い人だったら俺殺されちゃうかもね」
「だ、だったら自分の家に帰りなよ! とにかく行ってきます!」
▽
社会人二年目、初めての遅刻。責められはしなかったものの動揺からかミスの多い一日だった。
ぶり返した二日酔いは昼過ぎに治まったけど、私は憂鬱な気分で帰路につく。
しろは帰っただろうか。慌てていたとはいえ、見ず知らずの人間に家の鍵を預けて出かけるなんてどうかしてる。
きっと体の関係を持ったからだ。昨日のセックスが優しかったから警戒心が緩んでしまったんだろう。
さすがに猫のしろに危害を加えることはないだろうけど……貴重品が根こそぎ無くなっていてもおかしくない。
――そう覚悟していたから、飛び込んできた光景に拍子抜けした。
「お姉さんおかえりなさい。DM見てない?」
リビングのソファーの上で猫のしろと戯れていたしろが顔を上げる。
「み、見てない。なんて送ってた?」
「今日の夜ご飯何がいいかなって。返事がないから買い物行って適当に作っちゃいました」
確かにキッチンから美味しそうな匂いがしている。
物を盗むも何も最初から帰る気ないわけですね。何故だか私はしろの顔を見て少しホッとしていた。
私がほしかったのは白のベッドだったけど、寝室にあるのは黒いベッドだ。マットレスも彼の希望の物だった。
このマットレスはスプリングのバネが良いから軋みにくくてオススメですよ、と案内する店員さんの前で「でもギシギシなったほうがえろくない?」と彼は私に耳打ちしたのだ。
私はしろくんに押し倒され、唇を重ねながらそんな過去を思い出していた。
「はっ……お姉さんお酒くさいよー」
「だってすっごい飲んだもん」
しろくんはそっと唇を離すと鼻が触れ合うほど近い距離で笑う。ニキビ一つない色白の肌が羨ましくて手を伸ばす。
「あっ、しろくんのほっぺたやわらかーい。赤ちゃんみたいだねー」
「こら。子供扱いしないで。お姉さんの方がふにゃふにゃになってて可愛いよ」
「ふにゃふにゃってな、んんっ」
呂律が回っていない口を塞がれる。今度はさっきより深い口付けだった。
自然と唇を開けば侵入してきたしろくんの舌が私の舌にくっついてきて、そのままの状態で唇は何度も角度を変えて重ねられる。
呼吸を奪う荒々しいキス。なのに、ぴたりとくっついたままの舌は優しくて、時折撫でるように動かされると全身にぞくぞくしたものが走る。
舌が熱くてとろけてしまいそう。私としろくんの境界線がわからなくなる。
「ふぁ……っ」
「お姉さん、まだキスしかしてないのにすっごくえっちな顔してる」
「んー、しろくん。しよ……」
「いいよ。気持ちよくしてあげるね」
私、自分からしたいなんて誘ったことあったっけ。しろくんの首に手を回して抱き寄せると、スプリングがギィと悲鳴を上げた。
「あっ、あ……しろく……っ」
「っ、しろって呼んで?」
「ん……っ、しろ……っ、ぎゅってして。ぎゅってしながらがいい」
「はっ、お姉さん痛くない?」
私はこくこくと頷く。男性器を受け入れるのは久しぶりだけれど、私のあそこはおもらしをしたかのようにぐしょぐしょで、しろと溶けあっていた。
もう何度もイッたのに、それでも自らねだっているのだ。痛がってないことは明らかなのに私を気遣ってくれる言葉が耳を優しくくすぐる。
細いのに力強い体で抱きしめられると、快楽とは違う何かが私の心を満たしてくれるような気がした。ぽっかりと空いた穴が埋まる、このあたたかでどうしようもなく切ない感覚をもっと味わっていたいのに。
静かで優しい腰の動きに揺られながら私の意識は遠のいていった。
▽
窓の外からうるさいセミの鳴き声と鳥のさえずりが聞こえる。まぶたの裏に陽の光を感じてゆるゆると目を開けた。
「っ、あたま痛! うえ……気持ち悪」
ぼんやりとした意識で起き上がろうとして、痛みが襲う。
完全に二日酔いだ。何本飲んだんだっけ。潰れるまで飲んだの初めて――
「んん……」
「っ!」
すぐ隣で布団がもぞもぞと動く。その弾みに肩までかけていた布団がずれて自分の裸体が視界に入った。
本来着ているはずの服はベッドの周辺に脱ぎ捨てられ、そこには下着も混ざっている。
「んー……お姉さんおはよー」
続いて体を起こしたしろが眠たそうに目を擦る。
彼もまた白い素肌をあらわにしていた。細身だけどほどよく引き締まった体をしているから男の子って感じがする。
昨晩の記憶が私の頭をさーっと流れていく。力強く抱きしめてくれた温もりを思い出すと顔から火が出そうだ。七歳も下の男の子に甘えちゃって恥ずかしい。
「よく眠れた?」
「う、うん。でもさすがに飲みすぎたよ」
しろは自然に私の体にもたれかかってくるし、初対面のときより声が優しくなった気がする。
近い距離に不覚にもドキドキしてしまうが、未成年と体の関係を持ってしまったという後悔も同時にやってきた。
「あ、二日酔い? 大丈夫ですか?」
「なんとか……あれ、今って――九時!?」
枕元のデジタル時計が示す現在時刻にさっきまで感じていた恥じらいや後悔、二日酔いまでもが一瞬で吹き飛んでいった。
今日は月曜日。土日休みで平日出勤の私は今日も仕事ですけれども。始業時間は九時ですので、
「遅刻じゃんか! 最悪! 遅刻なんて初めてだよ。アラーム仕事してよね」
「アラームは働いてたよ。お姉さんが自分で止めたんじゃん」
「いや、気付いてたなら起こしてよ!ってそんなこと言ってる場合じゃない。シャワー浴びてる時間もないな……今から会社に電話するから静かにしててね」
「はーい」
「お疲れ様です――」
真っ裸とかこの際気にしていられない。スマホを肩と耳で挟んで電話しながらクローゼットから取り出した下着を身につけていく。
「はい。はい。失礼致します」
スマホを左右の手に持ち替えながら話し続け、電話を切る頃には仕事の服装に着替え終わっていた。
再びベッドに寝転がってスマホをいじり始めたしろには構っていられない。顔を洗って歯を磨き、化粧も軽く済ませれば後は家を出るだけだ。
ここまで約十分。タイムアタックの新記録が出た。
「夜はあんなに甘えんぼうだったのに……今のお姉さん別人みたい」
「き、昨日は酔ってたの。それより私もう家出るよ。しろは、」
――いまだ全裸でゴロゴロしている。こちらに向いている顔は気だるげで、すぐに服を着てくれるとは思えない。
このマンション家賃高いのにオートロックじゃないんだよね。
「ハァ……鍵を渡しておくよ。戸締まりしたら必ずポストに入れておいてよ」
「えー! お姉さんの帰りを部屋で待ってたら駄目なの?」
「駄目に決まってるでしょ」
「DMでは好きなだけ泊まっていいよって言ってたのに放り出すんですね。無責任だなー。お姉さんの次に泊めてくれる人がすっごく悪い人だったら俺殺されちゃうかもね」
「だ、だったら自分の家に帰りなよ! とにかく行ってきます!」
▽
社会人二年目、初めての遅刻。責められはしなかったものの動揺からかミスの多い一日だった。
ぶり返した二日酔いは昼過ぎに治まったけど、私は憂鬱な気分で帰路につく。
しろは帰っただろうか。慌てていたとはいえ、見ず知らずの人間に家の鍵を預けて出かけるなんてどうかしてる。
きっと体の関係を持ったからだ。昨日のセックスが優しかったから警戒心が緩んでしまったんだろう。
さすがに猫のしろに危害を加えることはないだろうけど……貴重品が根こそぎ無くなっていてもおかしくない。
――そう覚悟していたから、飛び込んできた光景に拍子抜けした。
「お姉さんおかえりなさい。DM見てない?」
リビングのソファーの上で猫のしろと戯れていたしろが顔を上げる。
「み、見てない。なんて送ってた?」
「今日の夜ご飯何がいいかなって。返事がないから買い物行って適当に作っちゃいました」
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