神が去った世界で

ジョニー

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第2章 邂逅

第15話 シオンの家

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 護衛依頼はその後、何事も無く公邸に着く事で無事に終了した。


「シオン君。ご苦労だった。また何か有ればその時は宜しく頼む。」
「有り難う御座います。こちらこそ、また宜しくお願いします。」
 ブリヤンの言葉にシオンが返答する。
 セシリーはカンナをチラチラと見ながら何か言いたげにしていたが結局は
「シオン有り難う。またアカデミーでね。」
 と普通に言葉を掛けただけだった。
「?・・・ええ。またアカデミーで。」
 セシリーの様子が気になりはしたが、シオンも普通に返事をした。

 ギルドに着くとカンナは中に入らず「私は外で待っとるよ」と言うので、シオンだけがギルドの扉をくぐった。

「あ、お帰りシオンくん。」
 ミレイはシオンを迎えると、伯爵のサインが入った依頼書を確認して終了印を押す。
「はい、お疲れ様。報酬の金貨10枚・・・にアカデミーからの達成報酬として金貨4枚を加算した・・・14枚が今回の報酬よ。やっぱり貴族様は太っ腹よねぇ。」
「そうだね。」
 シオンが報酬を懐に収めると、ミレイは少し表情を改める。
「で、どうだった?何か厄介な事とか起こらなかった?」
「いや、何も起きなかったよ。拍子抜けするくらいだった。」
 それを聞いて、ミレイもホッとした顔になる。
「そっか、取り越し苦労で良かったわ。・・・じゃあ晴れてシオンくんは明日からBランク冒険者ね。おめでとう。後日、ウェストンさんから認定章が渡されると思うから必ず受け取ってね。」
「・・・そうだった。」
 綺麗に忘れていたシオンだった。


「おお、ここがシオンの部屋か。」
 カンナは雑然とした室内を見回した。

 ここはギルドの裏の区画の居住区である。簡素な造りの一軒家が建ち並んでいるがギルドに近い事もあり、資金に余裕の有る冒険者達が購入する際に先ず選ぶ人気の区画だ。その内の一軒をシオンも購入していた。
 小さいとはいえ庭が付いており、リビングルームに寝室、湯浴み場、トイレなどが揃っている。

「ふーん・・・なかなか良いじゃないか。ちゃんとベッドも2つ在るの。・・・誰を連れ込むつもりだったのやら・・・」
 カンナはその寝室を見ながら楽し気に呟く。
「買った時から在ったんだよ。お前はそっちを使え。」
「あいよ。」
 カンナは指定されたベッドにボスンと飛び込むと弾力を楽しんだ。

 夕食も済ませ2人は眠る為に各々のベッドに潜り込んだ。
「・・・オディス教か・・・」
 シオンは仰向けになり天井を見つめて呟いた。
「気になるのか?」
「そうだな。」
 カンナも同じように仰向けになる。

「まあ、私もセルディナに来たのは、オディス教に興味を引かれたというのがあるしな。」
 カンナの言葉にシオンは眉根を寄せる。
「?・・・オディス教の事は知らないんだろ?何故、興味を・・・」
「知っとるよ。」
 カンナは昼間の台詞をあっさりと覆した。
「え?じゃあ何で閣下には知らないと言ったんだ?」
「忘れたのか?私達『伝導者』は、為人を知らん権力者には細かな話はせん。相手によっては混乱を生む元になりかねんからな。」
「そうだったな。忘れてたよ。」

 シオンは天井を見ながら、過去にカンナの話が切欠になって起きた厄介事を思い返した。解決はしたものの、権力者の暴走がどれほどの人間を不幸にするかを見せつけられた事件だった。

「それで、オディス教の何が気になるんだ?」
「うむ・・・。」
 カンナは横向きになりシオンをジッと見た。
「お前、あの伯爵に勝手に言わないと約束出来るか?」
「・・・内容にも依るけどな。」

 シオンの答えにカンナは軽く溜息を吐いた。
「まあ、良いわい。話すとしようか。・・・お前達は彼の教団が何を目的としているかが解っていない様だったが。」
「ああ。」
「オディス教団の教義は『破壊』と『滅亡』だ。・・・なに、邪教の教義としては良く有りがちな何の変わり映えもしない物だよ。ただ・・・。」
 カンナの表情に少し嫌悪感が混じる。
「口だけで実際には大した行動を取らないのと、積極的にその教義に従い本気で動いて来るのとではエラい違いだ。」
 カンナのその表情は珍しいなと思いながらシオンは口を開く。
「オディス教は後者だと?」
「そうだな。実際に過去に幾つかの国が亡んだらしいよ。」
「・・・そうか。」
「・・・? 何か思い当たる事でも在るのか?」
 カンナの不思議そうな問いにシオンは首を振った。
「いや。続けてくれ。」
 そんなシオンをカンナはジッと見つめたが、やがて軽く溜息を吐いた。
「・・・まあ良いか。私が神話時代のノームだと言う事は出会った頃に話したな。」
「ああ、聞いた。」
「実はその頃からな、妙な連中が厄介な宗教を立ち上げて暗躍しているという噂があるにはあったんだ。名も無い集団だったがな。・・・オディス教は其奴等に似ているんだ。」
 シオンの眉間に皺が寄る。
 その表情に構うこと無くカンナは話しを続けた。
「私もこうして気の向くままに旅をしているとな、何やら色々と情報が入って来るのさ。で、それらを合わせて考えると『セルディナで、きな臭い事が企らまれているらしい』という想像が出来てしまった。」
「きな臭い?」
「・・・公王暗殺さ。」

 想像を余りにも上回ったカンナの答えにシオンは言葉を失った。
 其の様子を見てカンナは楽しそうに笑う。
「ククク。お前のそんな顔を拝めるとは眼福だな。なかなかに愛らしい。」
 シオンは気恥ずかしさを誤魔化すように、ジロリとカンナを睨むが口では話の続きを促した。

「それが本当だとして何故セルディナなんだ?」
「うむ、そこさ。私も考えてみた。何故、他国では無くセルディナなのか。連中がこの国を標的にする理由は何か?・・・で、1つ思いついた。」
「なんだ?」
 カンナはシオンを指差した。
「アカデミー、引いてはお前達、腕利きの冒険者なのではないかとな。」
「冒険者?」
「そう。例えば、ああいった組織が何かをしでかす時、その行動のほとんどが隠密で何かのトラブルを仕掛けたり暗殺に頼る事になる。国と喧嘩するには戦力が足りないからな。」
「まあ、そうだろうな。」
 シオンは頷く。
「だから、もし正面からぶつかれば一溜りも無く粉砕されるだろう。だが、実際にはそう成らぬように連中は動く。そして国の兵力とは得てして自由と融通が利かない。様々な出来事に対し上の判断を仰いでから行動に移す為だ。要はトロいのさ。そんな相手は実は大して怖くは無い。」
「・・・。」
「本当に連中が厄介に思うのは、自由に行動が出来て身も軽く、いざとなれば何処までも追いかけてくるような存在さ。・・・つまり、冒険者だ。しかも腕利きのな。」

 確かにそうかも知れない――とシオンも思う。

「さて、そこでセルディナだが。この国は、試験的にとはいえ国を挙げて冒険者を育成しようとしているな。そして他国はこの試みの行方を少なからず見守っている。成功するなら各国がアカデミーを取り入れるかも知れない。」
「それは連中にとっては面白くないということか。」
「まあ実際のところは解らんよ。盛大に的を外しているかも知れんしな。」

「しかし・・・。」
 シオンは首を捻る。
「それで公王暗殺は飛躍しすぎじゃ無いか?」
 シオンの意見にカンナは素直に頷いた。
「無論、暗殺は1つの可能性だよ。確信を持って言っている訳じゃ無い。オディス教が影で動いたと思われる過去の出来事を私なりに追ってみたら、組織のトップを暗殺するのは常套手段の様だからそう言ったまでさ。」
「そっか。」

 そろそろ眠気が耐えられない域にまで達して来たようだ。返事もお座なりになってくる。
 カンナは微笑んだ。

「フフフ。それにセルディナにはお前も居るしな、立ち寄るには充分な理由だ。」
 寝息を立て始めたシオンを見遣ると、カンナは仰向けになる。
「1つの国の行く末を、お前の横で眺めるというのも悪くは無い。」

 実際、カンナにとってセルディナが栄えようが滅びようが大した関心は無かった。
『どうでも良い』と言っても過言では無い。

 ただ――。
 少女は再び横向きになりシオンの寝顔を見た。
 自分が気に入り相棒と認めるこの男が、どう思い、何をするのかを間近で見てみたい――

 単なる好奇心が彼女の足をセルディナに向かわせたのだ。




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