神が去った世界で

ジョニー

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第1章 アカデミー

第9話 合同演習3

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 戦闘前の準備が始まる。

 セシリーはシオン、ミシェイル、アランの武器に次々に強化魔法を掛けていった。

 黒衣のローブの少女が放つ上質の魔力から生み出された黄金の光が武器を万遍無く覆っていく。更に、3人の鎧のにも強化の魔法を掛けていく。今度は青白い光が3人の身体を包み込んだ。

「アラン、顔が赤いぞ。熱でもあるのか。」
 からかうミシェイルを、アランはジロリと睨むが、眼前に立ち自分の鎧に手を当てて詠唱するセシリーに視線を奪われる。
「はい、3人は終わりよ。次はアイシャね。」
 セシリーは自分に見惚れるアランに微笑むと、アイシャに視線を移す。

『・・・万物を流転する始まりの種火よ。彼の者を讃えよ・・・コンセントレーション』
 するとアイシャの全身が一瞬、紅く輝き元に戻る。
 アイシャは自分の両手をみつめながら、先ほどよりも周囲の様々な環境が理解出来ている事に驚きを隠せない。視界も、音も、匂いも、風の揺らめきも、悉くがより強く把握出来る。

「なんか・・・なんか凄いね、この魔法・・・。色んな事が良く解るよ。」
 アイシャの感想に、セシリーは効果が上手く表れてくれている事に満足して微笑んだ。

 シオンはセシリーの能力の高さを実感すると、セシリーに向かい確認する。
「セシリー、直接攻撃の魔法は使えるか?」
「勿論。一番初めに教わる魔法だしね。」
 セシリーの返事にシオンは何か言いたげな表情になったが、すぐに表情を消して頷いた。
「よし、作戦を一部変更する。俺が狙う予定だった中央の2体のうち、右側をアイシャとセシリーに任せる。アイシャが矢を打ち込んで乱戦の中から標的を引っ張り出せ。出て来たところをセシリーが仕留める。仕留め切れ無かったら2人で近寄られる前に倒しきるんだ。・・・出来るか?」
「「分かった」」
 2人が了解すると、シオンはミシェイルとアランに向き直る。
「準備はいいか?」
「おう。」
「任せろ。」
「よし、突撃だ!」

 シオンが4体の魔導人形に正面から走り迫る。それに併せて、ミシェイルは左から、アランは右から、緩く弧を描くように距離を詰める。
 4体がシオンに標的を定めて動き出すとシオンは僅か速度を落とす。
 そして4体が距離を詰め、正にシオンに向けて刃の潰れた剣を振り上げた時、ミシェイルとアランが左右から両端の魔導人形に武器を叩き込んだ。

 アランは槍術コースでもトップの腕前だとシオンは聞いている。将来は竜騎士を目指すと宣言してる少年の持つ、光を纏った短槍は魔導人形の頭を一撃で粉砕し刹那の時間で戦いを終わらせる。素晴らしい突進力であった。槍という武器の持つ特性を理解した良い戦い振りである。

 反対側の左端の魔導人形もミシェイルに標的を定める。

 中央の2体の魔導人形は正面から近づくシオンに剣を突き出した。其の攻撃をシオンは後ろに跳んで躱すと、間髪入れずに2体の内の左側の魔導人形の懐に飛び込む。

 右脚を軸に足から脚へ。
 脚から腰へ。
 腰から胴へ。
 胴から剣を持つ右腕へ。
 下半身から生み出した力を身体を捻るようにして倍加させて伝えていき、回転するように魔導人形の胴を薙ぎ払う。魔導人形は動きを止め、斬られた場所からズルリと上半身がズレていき両断されて地に伏した。


 アイシャはその一瞬を狙い、引き絞った弓から矢を放った。
 シオンから指示を出されていた右側の魔導人形に向かって矢は風を切って突き進み、その胴体に突き刺さる。魔導人形の顔がアイシャを見て突き進んでくる。
 アイシャの横で、セシリーの詠唱が始まった。
『蒼の月と深き真名。古の二つ名に於いて力を示せ・・・ソーサリーボルト』
 アイシャが前方に掲げた杖の先端が青白く輝き、光の弾が当に矢の如く魔導人形に突き刺さる。爆音と共に魔導人形の胴体が木っ端微塵に吹き飛んだ。

「あれ、終わり!?」
 既に2射目を番えていたアイシャは拍子抜けしたように声を上げる。

 最後の1体に対峙したミシェイルは魔導人形の振り下ろされる一撃を冷静に躱すと、剣を持つ敵の腕に自らの剣を振り下ろし斬り落とした。そのまま剣の勢いを殺さぬように、流れるような動きで剣を操り魔導人形の首に斬撃を叩き込む。魔導人形の首はゴトリと音を立てて落下し動きを停止させた。


「よし、終了だ。」
 シオンがメンバーに戦闘の終結を告げる。

 短時間で終了したとは言え、初めての戦闘を終えてシオンを覗いた4人は精神的に疲労していた。また本職の冒険者であるシオンに見られているという認識が緊張を強めていたというのも、疲労させた要因の1つだったかも知れない。

「ルーシー頼む。」
 全員がルーシーを囲むように集まると、ルーシーは両手を上に上げて空を仰ぐような姿勢を取り詠唱を始める。
『終わりの大地に注がれし常しえの水よ。舞い降りて我が衣手を濡らし給う・・・キュアエナジー』
 すると薄い山吹色の幕が6人を包むように降りてきて、急速に疲労が取れていく。失われた体力が回復し6人はすぐに次の行動が起こせる状態になっていた。

「それぞれの魔法の威力は分かって貰えたと思う。」
 シオンは武術科3人に話す。
「魔術師がいれば戦闘時間はかなり短縮できる様になる。回復師がいれば戦闘終了後にすぐ次の行動に移る事が出来る。結果、死のリスクは減り、また依頼の達成速度が上がりギルドや依頼者からの評価が上がる。そうなるとギルドからの指名も掛かり易くなる。良いこと尽くめだ。」

 3人は頷く。

「但しその分パーティ内の戦士の数は減る訳で、減った戦力分はそのパーティの戦士だけで補う必要がある。だから、戦士が求められる強さに妥協は許されない。」
「・・・。」
 シオンの戦士としての厳しい貌に、武術科3人はおろか魔術科2人までが呑まれて大人しく話を聞いている。

 メンバーの呑まれた様相に気づき、シオンは雰囲気を変えて笑って見せた。
「まあ、副学園長に無理を言ってこのパーティ構成にして貰ったのは、これを伝えたかったからなんだ。」
「良く解ったよ。」
 ミシェイルがいつになく張り詰めた様な表情で頷いた。
「解ってくれて嬉しい。・・・じゃあ、最後の仕上げに行こう。メダルを取りに行く。先ほどの魔導人形が出て来る可能性もあるから気を抜くな。」
 シオンはそう言うと、遺跡の入り口に向かって歩き始めた。


 ミヤン遺跡は、元々は神殿のような物だったらしく至るところに壁画と読むことが出来ない魔法文字が刻まれていた。
 長い階段を降りて行きながら、シオンはルーシーとセシリーに読めるか尋ねてみたが2人とも首を横に振った。魔法文字は、ある程度の時代毎に使用される文字が変更されてしまい解読は非常に難しいとの事だった。

 階段を降りきると、そこは広大な礼拝堂であった。壁や柱に彫り込まれた装飾模様等から、かつては多くの礼拝者達を迎え入れた荘厳な場所であったのだろう。中央には神像だったと思しき像が建っているが細部は完全に風化しておりどんな姿をしていたのか想像できない。

 そんな場所の祭壇らしき場所に目的のメダルは置いてあった。
「さて、見つけたな。じゃあ、戻ろうか。」

 シオン達6人がセルディナの大正門に戻って来たのは、まだ夕刻には時間がありそうな午後であった。

 シオンはメダルを講師に渡してクエスト終了の印を貰い、ついでに午前中に起こった遭遇戦についても報告を行う。印の横にある数字は『1』の文字だった。

 待機していたメンバーの所に戻ると
「俺達が1番に着いたらしい。今日はこのまま解散して良いそうだ。みんなお疲れ様。」
 と告げた。
「今日は本当に勉強になった。有り難う。」
 アランが生真面目にシオンに頭を下げて来る。
「よしてくれ。俺は、ただ・・・優秀な冒険者仲間が1人でも増えて欲しいと思って参加しているだけだ。」
 シオンは照れくさそうに答える。

「シオン、明日もアカデミーに来るのか?」
 ミシェイルの問いにシオンは首を振った。
「いや、明日は行かない。場合に因っては、しばらく来ない。」
 その答えにアイシャが反応する。
「え、どうして?」
「一旦、ギルドに行って報告する内容がある。それに、本職からも一週間ほど離れてしまっているしな。クエストボードを確認したいんだ。」
 ミシェイルはシオンを見ていたが、やがて、
「そうか、分かった。」
 と頷いた。

「・・・もし、依頼を受けるのであれば、私も連れていってくれませんか?」
「・・・え!?」
 シオンは驚いて声の主を見た。ルーシーは決意を秘めた眼でシオンを見つめている。
「いや、しかし・・・」
「私も連れて行って欲しい。」
「あたしも!行きたい!」
 止めようと口を開きかけたシオンに被せるように、セシリーとアイシャも願い出てくる。
「いや、ちょっと待て。落ち着いてくれ。君達はまだ・・・」
「ミシェイルとアランは?行きたいでしょ?」
 シオンの言葉も聞かず、アイシャは2人に声を掛ける。
「当然。・・・と言いたい所だが、騎士訓練がある。アレを外す訳にはいかないから俺はパスだ。」
 アランは残念そうに断りを入れてくる。
 ミシェイルはアイシャを見つめていたが、やがて首を振った。
「いや俺も今回はパスさせて貰う。少し、やりたい事が出来たんだ。」
「そうなの・・・?」
 アイシャは、意外そうな顔でミシェイルを見た。

 シオンは3人に詰め寄られて、何とか1つの案を提示した。
「分かった。じゃあ明日ギルド前に来てくれ。時間はそうだな・・・二の鐘が鳴る頃に。」
「二の鐘が鳴る頃ですね。分かりました。」
「必ず行くから!」
「ひょっとしたら、まだギルドの報告が済んでいないかも知れないから、その時は待っててくれ。」
「わかった。」
 シオンは3人娘の勢いに押されながらも別れを告げる。
「じゃあ、また明日。」
「また明日!」
 5人が雑踏に向かって歩き出す。
「公衆浴場、寄ってかない?」
「行こう、行こう。」

 その後ろ姿を見ながら
「どうしようか・・・」
 シオンは困ったように呟いた。





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