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第三章
願いと祈りの概念は死神に問う。2
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「カズトくん、貴方はもう死神でいる必要はなくなりました」
「えっ?」
「だって記憶取り戻しちゃったし、もう死神でいる理由なんてないでしょ?」
あまりにもいきなり告げられ、オレは動揺した。
「ワタクシ、神様だからなんでもわかるのでーす」
「いや、でも、オレは……」
言葉は出てこない。
「ここ、狭間の空間に来た者は死神にする。って決めたのはワタクシだし、けれどそれには色々条件があるのですし」
神様は続ける。
「基本的に死んだ人間は天界に来るものだとされているけれど、たまにカズトくんみたいな自分が何者かわからなくなってしまう人間がここに迷い込むのですよ。それでまぁワタクシの仕事も減りますし、そういったはぐれタマシイは死神として使ってもいいってことにしたんですけど」
「はぐれタマシイ……」
語呂が妙に聞いたことあるような気もしなくはなかったが突っ込まず聞く。
「けれど、人間としての記憶を取り戻したからにはただの人間に戻らざるをえないのかなーって。そうしたらとても残念ですが、死神ではなく人間として天界に行ってもらって」
そうだ、オレは死んだただの人間だ。いきなり死神になれって言われたが、それは記憶を無くしてたのが理由だったのか。そしてその理由はなくなった。
「言ってることの理解は、なんとなくですけどわかりました」
「じゃあ手続きしますからこちらにー……」
「だけど、」
「?」
「だけどオレは……」
「……亡くし屋の子に情が湧きましたか?」
「………………」
「まぁ……できなくはないですよ。ワタクシ、神様なので」
「なにを……」
「天界に行かず、死神のままいる方法ですよ」
「!!」
「ただ条件はありますけどね」
「条件ってのは……」
神様はオレに指を指しこう言った。
「貴方が一生、いえ、永遠に死神でいることです」
「永遠に……」
「人間という枠にとらわれることなく、永遠に死神としてワタクシの手伝いをする。それは現在仕えてる亡くし屋の少女が少女ではなく、大人の女性になっても、老いて死んでしまっても、それでもなお永遠に死神であり続ける。ずっとこの先、この狭間の空間から先には行けず、此の世が何百年、何万年経とうが、人類がもし滅びようが世界が無くなろうがなんの関係なく死神でいることです」
「………………」
「死んだという事実を否定するには、そのくらいの対価は必要ですよ。理を覆すんですから」
「それでもなお、死神でいたいのならいいですよ。めんどくさいけど協力しましょうか」
「ちょっと……考えさせてくれ……」
「狭間なら永遠に変わらないので、ご自由に~。ではワタクシは少し席を外しましょうかねー」
と言うと神様だったものは消えた。
「………………」
ペチャッと水の音を立ててオレはその場に座り込んだ。
「…………難しいな」
メルは黙って近くにいた。ふとそういえば、と少し違うことを考える。
「神様はここが自分が何者かわからない人間が来るって言ってたけど……」
「なに?」
「メルは、どうなのかなって思って」
「アタシのことはどうでもいいでしょ」
「ただの興味本位だったから、ごめん」
「……それより、どうするの?」
「どうするかな」
正直オレはこのまま『田中和人』の自我のまま居られるのなら、軽率だがそれでもいいのかなと思っていた。すでに死んでいるのに、死ぬのが、いやなくなるのが怖いってどこかで思っているのかもしれない。あとは、
「確かに、亞名のことは気がかりなんだよな」
「……亡くし屋ちゃんとはちゃんと話せた?」
「え? あ、あぁ気にしてくれてたんだもんな、ありがとなメル」
「いや、アタシはただ君が魔女のいいようにされるのをみるのは嫌だっただけだよ」
「魔女の?」
「あんまりあの人の話にのっちゃだめだよ。あの人は自分が楽しむためだけに何でもするんだから……」
「そうなのか?」
「そ、君を亡くし屋ちゃんの所に送れって言ったのはあの人だし」
「それで……」
そう思えば、愛歌のことや、その他諸々あまりにも偶然がすぎるような気がしなくもない。
「神様だってそう。あれは人の形をしてたけど、本当はただのシステムかもしれないよ?」
「それってどういう」
「様々な宗教、それによって様々な神が此の世には沢山いるのに。それこそ人の数だけ。いや、この考え方も偏るけど。でも誰だって一度は言ったことあるんじゃない? 『神様、お願いです』みたいなこと」
「あるかもな」
「アタシの考えは、だけどね。そう願ったり祈ったりする度に神様ってのは増えていくのかもしれない。それこそ、それってその人の神様ってことだし」
「その人が考える神様、か」
「結局宗教上でもなんでもその人がそう思う。そう念じる。で成り立つのだからそうなのかなって」
「一理あるな」
「そうすればあの出てきた神様だって誰かの、あるいはアタシ達の思う神様なんだよ」
「でも会話が成り立つし、意思もあるんじゃないのか?」
「それはあれが誰かの、いや生きとし生けるもの全ての意思で、願いで、祈りだったりするからでしょ」
「?」
「つまり、それら全部の塊で、世界を回していくための『神様』なんでしょ。今居るここがそういう所だから」
「……なんとなくでしかわからないな」
「なんとなくでもわかればいいよ。でもあれだってそんな信用に値しないってこと。少なくともアタシはそう思うよ」
そう言うとメルはオレに背を向ける。
「まぁでもだからってことじゃないけど。自分でちゃんと決めた納得のいく結論を出しなよ。アタシからはそれだけ」
「おう、ありがとう」
「じゃ、アタシは仕事に戻るから」
右手をひらひらと振ってメルは目の前から消えた。
「メルもちゃんと色々考えてるのか」
オレは、もう少しだけ考えてみることにした。
「えっ?」
「だって記憶取り戻しちゃったし、もう死神でいる理由なんてないでしょ?」
あまりにもいきなり告げられ、オレは動揺した。
「ワタクシ、神様だからなんでもわかるのでーす」
「いや、でも、オレは……」
言葉は出てこない。
「ここ、狭間の空間に来た者は死神にする。って決めたのはワタクシだし、けれどそれには色々条件があるのですし」
神様は続ける。
「基本的に死んだ人間は天界に来るものだとされているけれど、たまにカズトくんみたいな自分が何者かわからなくなってしまう人間がここに迷い込むのですよ。それでまぁワタクシの仕事も減りますし、そういったはぐれタマシイは死神として使ってもいいってことにしたんですけど」
「はぐれタマシイ……」
語呂が妙に聞いたことあるような気もしなくはなかったが突っ込まず聞く。
「けれど、人間としての記憶を取り戻したからにはただの人間に戻らざるをえないのかなーって。そうしたらとても残念ですが、死神ではなく人間として天界に行ってもらって」
そうだ、オレは死んだただの人間だ。いきなり死神になれって言われたが、それは記憶を無くしてたのが理由だったのか。そしてその理由はなくなった。
「言ってることの理解は、なんとなくですけどわかりました」
「じゃあ手続きしますからこちらにー……」
「だけど、」
「?」
「だけどオレは……」
「……亡くし屋の子に情が湧きましたか?」
「………………」
「まぁ……できなくはないですよ。ワタクシ、神様なので」
「なにを……」
「天界に行かず、死神のままいる方法ですよ」
「!!」
「ただ条件はありますけどね」
「条件ってのは……」
神様はオレに指を指しこう言った。
「貴方が一生、いえ、永遠に死神でいることです」
「永遠に……」
「人間という枠にとらわれることなく、永遠に死神としてワタクシの手伝いをする。それは現在仕えてる亡くし屋の少女が少女ではなく、大人の女性になっても、老いて死んでしまっても、それでもなお永遠に死神であり続ける。ずっとこの先、この狭間の空間から先には行けず、此の世が何百年、何万年経とうが、人類がもし滅びようが世界が無くなろうがなんの関係なく死神でいることです」
「………………」
「死んだという事実を否定するには、そのくらいの対価は必要ですよ。理を覆すんですから」
「それでもなお、死神でいたいのならいいですよ。めんどくさいけど協力しましょうか」
「ちょっと……考えさせてくれ……」
「狭間なら永遠に変わらないので、ご自由に~。ではワタクシは少し席を外しましょうかねー」
と言うと神様だったものは消えた。
「………………」
ペチャッと水の音を立ててオレはその場に座り込んだ。
「…………難しいな」
メルは黙って近くにいた。ふとそういえば、と少し違うことを考える。
「神様はここが自分が何者かわからない人間が来るって言ってたけど……」
「なに?」
「メルは、どうなのかなって思って」
「アタシのことはどうでもいいでしょ」
「ただの興味本位だったから、ごめん」
「……それより、どうするの?」
「どうするかな」
正直オレはこのまま『田中和人』の自我のまま居られるのなら、軽率だがそれでもいいのかなと思っていた。すでに死んでいるのに、死ぬのが、いやなくなるのが怖いってどこかで思っているのかもしれない。あとは、
「確かに、亞名のことは気がかりなんだよな」
「……亡くし屋ちゃんとはちゃんと話せた?」
「え? あ、あぁ気にしてくれてたんだもんな、ありがとなメル」
「いや、アタシはただ君が魔女のいいようにされるのをみるのは嫌だっただけだよ」
「魔女の?」
「あんまりあの人の話にのっちゃだめだよ。あの人は自分が楽しむためだけに何でもするんだから……」
「そうなのか?」
「そ、君を亡くし屋ちゃんの所に送れって言ったのはあの人だし」
「それで……」
そう思えば、愛歌のことや、その他諸々あまりにも偶然がすぎるような気がしなくもない。
「神様だってそう。あれは人の形をしてたけど、本当はただのシステムかもしれないよ?」
「それってどういう」
「様々な宗教、それによって様々な神が此の世には沢山いるのに。それこそ人の数だけ。いや、この考え方も偏るけど。でも誰だって一度は言ったことあるんじゃない? 『神様、お願いです』みたいなこと」
「あるかもな」
「アタシの考えは、だけどね。そう願ったり祈ったりする度に神様ってのは増えていくのかもしれない。それこそ、それってその人の神様ってことだし」
「その人が考える神様、か」
「結局宗教上でもなんでもその人がそう思う。そう念じる。で成り立つのだからそうなのかなって」
「一理あるな」
「そうすればあの出てきた神様だって誰かの、あるいはアタシ達の思う神様なんだよ」
「でも会話が成り立つし、意思もあるんじゃないのか?」
「それはあれが誰かの、いや生きとし生けるもの全ての意思で、願いで、祈りだったりするからでしょ」
「?」
「つまり、それら全部の塊で、世界を回していくための『神様』なんでしょ。今居るここがそういう所だから」
「……なんとなくでしかわからないな」
「なんとなくでもわかればいいよ。でもあれだってそんな信用に値しないってこと。少なくともアタシはそう思うよ」
そう言うとメルはオレに背を向ける。
「まぁでもだからってことじゃないけど。自分でちゃんと決めた納得のいく結論を出しなよ。アタシからはそれだけ」
「おう、ありがとう」
「じゃ、アタシは仕事に戻るから」
右手をひらひらと振ってメルは目の前から消えた。
「メルもちゃんと色々考えてるのか」
オレは、もう少しだけ考えてみることにした。
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