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第三章
願いと祈りの概念は死神に問う。3
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「答え、決まりましたか~?」
頭上から降り注ぐ気抜けた声。空中にいつの間にか漂っていたいくつものキラキラとした光が一箇所に集まって一つの大きな人型となる。
「あぁ」
「そうですかー、本当にそれでいいんですね?」
「自分で考えて決めたことだ」
「まぁワタクシは結論がどうなろうとやることは変わらないので。ですが、それが誰かの意図した悪意でも変わらないのですか?」
神様は少しだけ寂しそうに言った。
「誰かが勝手に決めたことだとしても、オレが自分でそれに乗るって決めたんだ」
「なるほど。それも含めて納得しているならいいでしょう」
ソレは微笑みながら両手を広げ宙をゆっくりと登っていき、そこに集まった光は輝きながらはらはらと落ちていく。
「では、これから先、それが貴方の人生です。せいぜい好きに生きなさいな」
徐々に落ちていた光は全てなくなった。その瞬間、立っていたはずの床が全て消えオレは落ちる。
「うわああああああああああぁぁあぁぁああ」
いきなりの出来事に叫びながらも、この光景にデジャヴを感じる。浮遊している雲をいくつも突き抜け、顔が湿っていく感じ。一瞬懐かしいと思えた。が
「ぐっがっだっ」
ベキベキベキと音を立て木の枝を折り、地面に激突した頃にはその懐かしみを後悔していた。
夕刻を告げる鐘の音を聞きながらしばらく身体の再生と痛みの引きを待っていると、少し遠くで猫の鳴き声が聞こえた。
「よっ……」
オレは起き上がり、迷わずにその方向へ歩く。順調に歩いていたつもりだったが、不意に足を滑らす。
「おわっっ……いてて」
落ちた先、目の前には先が見えないほど長く続く階段。タッタッと静かに誰かが降りてくる。
「……なにしてるの?」
見上げると白いワンピースを揺らし、黒猫を抱いた少女が立っている。
「いや」
ふっと笑いがこみ上げてきた。
「ただいま」
「おかえり、かずと」
「あぁ」
身体をはたきながら立ち上がり、目の前の少女、亞名の近くまで階段を上る。
「腹減ったな」
「まだちょっと早いけど」
「そうか?」
「それより、かずと汚い」
「確かに……土だらけだな」
「着替えて」
「……あぁ」
そんなやりとりをしながら、二人でゆっくり家まで歩いていった。
オレが落ちたあと。オレの知らないところで、オレの話を繰り広げる二つの人影があった。
「結局、貴方の思い通りになってしまったわ~」
「にゃはは、それはそれはいいじゃない楽しくてなによりだわ」
「いつものことだけど、本当に貴方は変わらないのねー」
「あら、変わらないことはイケナイことなのかしら?」
「そんなことはないけれど~。ただ」
「ただ?」
「あんまり好き勝手にやりすぎても幸せになれないわよ~」
「あら、そんなこと神様に言われちゃうなんて」
「ワタクシは神様だから、余計に思ってしまうのよ。みんなが願った結果だもの、いい方向になればいいのになって」
「幸せか不幸かなんて他人には決められないでしょ。それこそそれが神様だとしても」
「貴方にも幸せになってほしいのよ~?」
「…………幸せねぇ」
「あ、カズトくんはちゃんとあの子の元に帰れたみたいね」
「………………」
「もうあんまりあの子達に悪戯、しないであげてね」
「それはどうかしら」
「もうまたそうやって逃げようとする~」
「逃げるのも悪いことではないはずでしょ。これはそういう人達の話なんだから」
「それもそうだけど。だけどやっぱり少しは変わっていくものだと思うわ」
「?」
「いいえ、これからが楽しみね」
「そうねー……」
そうしてオレの知らない世界の住人達は、オレの知らないところで、オレ達の行く末を見守って? いるのだった。
頭上から降り注ぐ気抜けた声。空中にいつの間にか漂っていたいくつものキラキラとした光が一箇所に集まって一つの大きな人型となる。
「あぁ」
「そうですかー、本当にそれでいいんですね?」
「自分で考えて決めたことだ」
「まぁワタクシは結論がどうなろうとやることは変わらないので。ですが、それが誰かの意図した悪意でも変わらないのですか?」
神様は少しだけ寂しそうに言った。
「誰かが勝手に決めたことだとしても、オレが自分でそれに乗るって決めたんだ」
「なるほど。それも含めて納得しているならいいでしょう」
ソレは微笑みながら両手を広げ宙をゆっくりと登っていき、そこに集まった光は輝きながらはらはらと落ちていく。
「では、これから先、それが貴方の人生です。せいぜい好きに生きなさいな」
徐々に落ちていた光は全てなくなった。その瞬間、立っていたはずの床が全て消えオレは落ちる。
「うわああああああああああぁぁあぁぁああ」
いきなりの出来事に叫びながらも、この光景にデジャヴを感じる。浮遊している雲をいくつも突き抜け、顔が湿っていく感じ。一瞬懐かしいと思えた。が
「ぐっがっだっ」
ベキベキベキと音を立て木の枝を折り、地面に激突した頃にはその懐かしみを後悔していた。
夕刻を告げる鐘の音を聞きながらしばらく身体の再生と痛みの引きを待っていると、少し遠くで猫の鳴き声が聞こえた。
「よっ……」
オレは起き上がり、迷わずにその方向へ歩く。順調に歩いていたつもりだったが、不意に足を滑らす。
「おわっっ……いてて」
落ちた先、目の前には先が見えないほど長く続く階段。タッタッと静かに誰かが降りてくる。
「……なにしてるの?」
見上げると白いワンピースを揺らし、黒猫を抱いた少女が立っている。
「いや」
ふっと笑いがこみ上げてきた。
「ただいま」
「おかえり、かずと」
「あぁ」
身体をはたきながら立ち上がり、目の前の少女、亞名の近くまで階段を上る。
「腹減ったな」
「まだちょっと早いけど」
「そうか?」
「それより、かずと汚い」
「確かに……土だらけだな」
「着替えて」
「……あぁ」
そんなやりとりをしながら、二人でゆっくり家まで歩いていった。
オレが落ちたあと。オレの知らないところで、オレの話を繰り広げる二つの人影があった。
「結局、貴方の思い通りになってしまったわ~」
「にゃはは、それはそれはいいじゃない楽しくてなによりだわ」
「いつものことだけど、本当に貴方は変わらないのねー」
「あら、変わらないことはイケナイことなのかしら?」
「そんなことはないけれど~。ただ」
「ただ?」
「あんまり好き勝手にやりすぎても幸せになれないわよ~」
「あら、そんなこと神様に言われちゃうなんて」
「ワタクシは神様だから、余計に思ってしまうのよ。みんなが願った結果だもの、いい方向になればいいのになって」
「幸せか不幸かなんて他人には決められないでしょ。それこそそれが神様だとしても」
「貴方にも幸せになってほしいのよ~?」
「…………幸せねぇ」
「あ、カズトくんはちゃんとあの子の元に帰れたみたいね」
「………………」
「もうあんまりあの子達に悪戯、しないであげてね」
「それはどうかしら」
「もうまたそうやって逃げようとする~」
「逃げるのも悪いことではないはずでしょ。これはそういう人達の話なんだから」
「それもそうだけど。だけどやっぱり少しは変わっていくものだと思うわ」
「?」
「いいえ、これからが楽しみね」
「そうねー……」
そうしてオレの知らない世界の住人達は、オレの知らないところで、オレ達の行く末を見守って? いるのだった。
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