亡くし屋の少女は死神を雇う。

散花

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第一章

死神の青年は『死神』を知る。1

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 朝になったらしい。庭らしき方向からはスズメだろうか、チュンチュンと複数鳴き声がする。そしてオレの顔には襖の隙間から差す陽光が直撃している。 
「ん……まぶし……」
右腕で顔面をガードしながら、朝日に背を向けようと身体を捻ろうとする。が、なにか身体が重い。
「……?」
薄ら目を開ける。すると視界に映ったのは黒い物体が上半身に乗って、座り込んでいた。
「ンニャーァ」
「なんだ……」
しろか。そう最後まで言い切る前にまた意識は落ちていくのがわかった。
「ナァー」
オレが再び寝に入るのを感じ取ったのか、しろはオレの顔を前足で踏むような動作で起こしにきた。
「んだよ……」
「おはよう?」
「うわっ」
いつの間に入ってきていただろう、横に亞名がいた。オレは驚いて縦肘をつくように勢いよく起き上がった。
「?」
亞名はそれが得意なのか、顔を不思議そうに傾けている。
「いや、おはようございます……」
「うん」
朝も相変わらず無表情で淡々としているが、オレは昨日と少し違う雰囲気を感じた。
「制服か」
「?」
「いや、おま……亞名は学校か?」
「そう」
「もう行くから」
亞名はそう続けて立ち上がる。
「……おいちょっと」
「?」
部屋を立ち去ろうとした亞名は振り返る。オレは昨日ここに来る途中、亞名に言われた言葉を思い出していた。
──「この森は今は抜けられないと思うから」
あの時聞けなかったが、どういう意味だったのか。それを聞こうと口を開けた。
と同時に亞名は心の内を読んだかのように言った。
「今はもう大丈夫だよ」
「え?」
「ただ、帰りは一緒じゃないと」
亞名は考え込むように目線を逸らす。それも一瞬だったが。
「帰りは、しろにお願いする」
「?」
「それじゃあ」
と言い残し、駆け足気味で部屋を出ていった。

 オレはわけがわからなかったが、とりあえず側にいたしろの方を見る。昨日のようにメルと繋がるわけでもなく、ただの毛づくろいをしている黒猫だった。
「……まあいいか」
なにも理解していないが、オレはポケットの中に手を伸ばす。46ナンバーの付いたどこかのロッカーの鍵、とりあえず今日はこれを探すことにしようと思う。
鍵を眺めながら考える。
(「46」って数字にしたらでかいよな……。そんなにロッカーの数がある場所?)
すぐに考えても無駄なことを思い出した。
「そういえばここがどこなのかも全くわからないんじゃ話にならないな……」
脳内のサイコロは、ふりだしに戻る。
「とりあえず、周辺探索しながら探すか」
宛もないが。と苦笑い状態だが、それ以外にすることもない。

 この寺に入ってきた玄関口で靴を履き、外に出て辺りを見渡した。敷地は一周りすると10分くらいかかりそうな広さ。その先は鬱蒼とした木々が埋め尽くしていて果てがわからない。迂闊に入るとまた迷う確信しかなかった。
ここに来るにはこの先の見えない長い石階段しかないらしい。オレは意を決して階段を下る。
亞名に連れられた時も周りをちゃんと見れていなかったが、この時間でも降りていくほど霧が濃くなり足元を見るので精一杯になっていた。
(視界も悪いし、なんか妙に冷えるな)
風が、いきなり渦巻くように吹き込んだ。
「おわっ」
思わず目を瞑る。
目を開けると、今まで霧で見えていなかった視界が開き、少し遠くの下には街が見えた。
「……ここは森ってより、山だったのか?」
位置関係的にはそう解釈したほうが正しかった。
階段を下りきると開いた場所に出たが、少し歩けば人々が行き交う街に辿り着いた。

久々にこんな数の他人を見た気がする。都会ほど多くはないが、今のオレにしては新鮮だった。
そこでハッと気がつく。
(この格好……やばくないか?)
外気温からして、真冬でもない季節。暑くはないが決して寒くもない。そんな中オレは一人真っ黒なローブを上から羽織っている。
(むしろ逆に関わりたくない人としていけるか?)
謎の自信が湧き、そのまま街を歩くことにした。
その作戦が上手くいったのか知らないが、街ゆく人々にジロジロ見られるわけでもなく歩けた。
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