亡くし屋の少女は死神を雇う。

散花

文字の大きさ
上 下
9 / 55
第一章

死神の青年は『死神』を知る。1

しおりを挟む
 朝になったらしい。庭らしき方向からはスズメだろうか、チュンチュンと複数鳴き声がする。そしてオレの顔には襖の隙間から差す陽光が直撃している。 
「ん……まぶし……」
右腕で顔面をガードしながら、朝日に背を向けようと身体を捻ろうとする。が、なにか身体が重い。
「……?」
薄ら目を開ける。すると視界に映ったのは黒い物体が上半身に乗って、座り込んでいた。
「ンニャーァ」
「なんだ……」
しろか。そう最後まで言い切る前にまた意識は落ちていくのがわかった。
「ナァー」
オレが再び寝に入るのを感じ取ったのか、しろはオレの顔を前足で踏むような動作で起こしにきた。
「んだよ……」
「おはよう?」
「うわっ」
いつの間に入ってきていただろう、横に亞名がいた。オレは驚いて縦肘をつくように勢いよく起き上がった。
「?」
亞名はそれが得意なのか、顔を不思議そうに傾けている。
「いや、おはようございます……」
「うん」
朝も相変わらず無表情で淡々としているが、オレは昨日と少し違う雰囲気を感じた。
「制服か」
「?」
「いや、おま……亞名は学校か?」
「そう」
「もう行くから」
亞名はそう続けて立ち上がる。
「……おいちょっと」
「?」
部屋を立ち去ろうとした亞名は振り返る。オレは昨日ここに来る途中、亞名に言われた言葉を思い出していた。
──「この森は今は抜けられないと思うから」
あの時聞けなかったが、どういう意味だったのか。それを聞こうと口を開けた。
と同時に亞名は心の内を読んだかのように言った。
「今はもう大丈夫だよ」
「え?」
「ただ、帰りは一緒じゃないと」
亞名は考え込むように目線を逸らす。それも一瞬だったが。
「帰りは、しろにお願いする」
「?」
「それじゃあ」
と言い残し、駆け足気味で部屋を出ていった。

 オレはわけがわからなかったが、とりあえず側にいたしろの方を見る。昨日のようにメルと繋がるわけでもなく、ただの毛づくろいをしている黒猫だった。
「……まあいいか」
なにも理解していないが、オレはポケットの中に手を伸ばす。46ナンバーの付いたどこかのロッカーの鍵、とりあえず今日はこれを探すことにしようと思う。
鍵を眺めながら考える。
(「46」って数字にしたらでかいよな……。そんなにロッカーの数がある場所?)
すぐに考えても無駄なことを思い出した。
「そういえばここがどこなのかも全くわからないんじゃ話にならないな……」
脳内のサイコロは、ふりだしに戻る。
「とりあえず、周辺探索しながら探すか」
宛もないが。と苦笑い状態だが、それ以外にすることもない。

 この寺に入ってきた玄関口で靴を履き、外に出て辺りを見渡した。敷地は一周りすると10分くらいかかりそうな広さ。その先は鬱蒼とした木々が埋め尽くしていて果てがわからない。迂闊に入るとまた迷う確信しかなかった。
ここに来るにはこの先の見えない長い石階段しかないらしい。オレは意を決して階段を下る。
亞名に連れられた時も周りをちゃんと見れていなかったが、この時間でも降りていくほど霧が濃くなり足元を見るので精一杯になっていた。
(視界も悪いし、なんか妙に冷えるな)
風が、いきなり渦巻くように吹き込んだ。
「おわっ」
思わず目を瞑る。
目を開けると、今まで霧で見えていなかった視界が開き、少し遠くの下には街が見えた。
「……ここは森ってより、山だったのか?」
位置関係的にはそう解釈したほうが正しかった。
階段を下りきると開いた場所に出たが、少し歩けば人々が行き交う街に辿り着いた。

久々にこんな数の他人を見た気がする。都会ほど多くはないが、今のオレにしては新鮮だった。
そこでハッと気がつく。
(この格好……やばくないか?)
外気温からして、真冬でもない季節。暑くはないが決して寒くもない。そんな中オレは一人真っ黒なローブを上から羽織っている。
(むしろ逆に関わりたくない人としていけるか?)
謎の自信が湧き、そのまま街を歩くことにした。
その作戦が上手くいったのか知らないが、街ゆく人々にジロジロ見られるわけでもなく歩けた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

凪の始まり

Shigeru_Kimoto
ライト文芸
佐藤健太郎28歳。場末の風俗店の店長をしている。そんな俺の前に16年前の小学校6年生の時の担任だった満島先生が訪ねてやってきた。 俺はその前の5年生の暮れから学校に行っていなかった。不登校っていう括りだ。 先生は、今年で定年になる。 教師人生、唯一の心残りだという俺の不登校の1年を今の俺が登校することで、後悔が無くなるらしい。そして、もう一度、やり直そうと誘ってくれた。 当時の俺は、毎日、家に宿題を届けてくれていた先生の気持ちなど、考えてもいなかったのだと思う。 でも、あれから16年、俺は手を差し伸べてくれる人がいることが、どれほど、ありがたいかを知っている。 16年たった大人の俺は、そうしてやり直しの小学校6年生をすることになった。 こうして動き出した俺の人生は、新しい世界に飛び込んだことで、別の分かれ道を自ら作り出し、歩き出したのだと思う。 今にして思えば…… さあ、良かったら、俺の動き出した人生の話に付き合ってもらえないだろうか? 長編、1年間連載。

日本酒バー「はなやぎ」のおみちびき

山いい奈
ライト文芸
★お知らせ 3月末の非公開は無しになりました。 お騒がせしてしまい、申し訳ありません。 引き続き、どうぞよろしくお願いいたします。 小柳世都が切り盛りする大阪の日本酒バー「はなやぎ」。 世都はときおり、サービスでタロットカードでお客さまを占い、悩みを聞いたり、ほんの少し背中を押したりする。 恋愛体質のお客さま、未来の姑と巧く行かないお客さま、辞令が出て転職を悩むお客さま、などなど。 店員の坂道龍平、そしてご常連の高階さんに見守られ、世都は今日も奮闘する。 世都と龍平の関係は。 高階さんの思惑は。 そして家族とは。 優しく、暖かく、そして少し切ない物語。

サイケデリック!ブルース!オルタナティブ!パンク!!

大西啓太
ライト文芸
日常生活全般の中で自然と編み出された詩集。

スメルスケープ 〜幻想珈琲香〜

市瀬まち
ライト文芸
その喫茶店を運営するのは、匂いを失くした青年と透明人間。 コーヒーと香りにまつわる現代ファンタジー。    嗅覚を失った青年ミツ。店主代理として祖父の喫茶店〈喫珈琲カドー〉に立つ彼の前に、香りだけでコーヒーを淹れることのできる透明人間の少年ハナオが現れる。どこか奇妙な共同運営をはじめた二人。ハナオに対して苛立ちを隠せないミツだったが、ある出来事をきっかけに、コーヒーについて教えを請う。一方、ハナオも秘密を抱えていたーー。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

日給二万円の週末魔法少女 ~夏木聖那と三人の少女~

海獺屋ぼの
ライト文芸
ある日、女子校に通う夏木聖那は『魔法少女募集』という奇妙な求人広告を見つけた。 そして彼女はその求人の日当二万円という金額に目がくらんで週末限定の『魔法少女』をすることを決意する。 そんな普通の女子高生が魔法少女のアルバイトを通して大人へと成長していく物語。

処理中です...