亡くし屋の少女は死神を雇う。

散花

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第一章

空から落ちた死神は少女と出会う。5

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 結論、メルの話からしてここに来たのは正解らしい。だが次に何をすればいいのか頭を悩ませていた。
「どうかしたの?」
「!!」
廊下に背を向けて考えていたため、後ろ側から不意に声をかけられて驚いた。
「あ……イヤ、ベツニ……」
「そう」
明らかに怪しい態度をとってしまったが、亞名はあまり気にしていないようだった。
「ご飯」
「あ、ありがとう」
亞名は両手で御盆を持っていた。そこには湯気の立ったお椀が4つと、しろの餌らしきものがのっていた。それを机の上に置きたいらしい。
「電気、つけるよ」
コクンと頷く亞名。オレは壁をさすりスイッチを探し、押す。明かりがつくと、さっきは部屋の入り口に座り込んでいたから全体をよく見れていなかったが、旅館の和室のような、そこそこの広さはあり真ん中に膝下くらいの高さの机。そこに座椅子が二つほど。畳も綺麗にされている部屋だった。
(客室か……? 外観からは想像できなかったが、ちゃんと綺麗に保たれてる)
部屋を隅々に眺めているオレを横目に、亞名は着々とご飯の準備をしていた。
「……これしか、用意できなかったけど」
「いや、ありがとう」
しろはすでに餌皿に顔を突っ込んでカフカフと食べていた。オレは亞名が座った反対側に座る。机の上には白いご飯と、味噌汁が置いてありたしかに質素ではあるが、腹を限界まで減らせていたオレには湯気が輝いてみえる。
「いただきます」
亞名は手を合わせ、箸を持ち食べ始める。
背筋もちゃんと伸ばされていて、礼儀正しいその食べ方は育ちの良さをも思わせた。
「食べないの?」
「え、あ、悪い。いただきます。」
ついその所作の綺麗さを見つめてしまっていた。
「美味しい……」
味噌汁を一口飲むと、そのホッとする旨さに温かくなった。

 二人で黙々と食べ、そして終わり。
「ごちそうさまでした」
オレは何故かわからないが、この空気感に懐かしさを感じていた。
「………………」
「………………」
沈黙。しろはすでに伸び寝転んでいる。
「じゃあ、わたしは片付けるから……」
と、亞名が立ち上がろうとした。
「オレも手伝うよ」
「………………」
亞名は黙ったままだったが、了承したらしい顔をしていた。と思う。
持ってきた御盆に空のお椀を重ね、それをオレが持ち、亞名は廊下をすたすた歩き始める。それに続く。
台所と思わしき部屋につく。この静けさには必要ないほどの蛇口の数が並んでいた。
「そこに置いといて。あとはやる」
「あぁ……」
「………………」
「………………」
水が蛇口から流れ出る音だけが響いている。オレはこの寺に入ってからの違和感を口にする。
「……なぁ、ここには亞名しかいないのか?」
こんなに広い敷地なのに、誰ともすれ違っていない。それどころか、他の物音や気配もしない。廊下でも辺りを見渡してはいたが、何もなかった。
「……しろがいる」
「あー……そうだな」
(ってことは人間は亞名だけか?)
「家族、とかは……」
「………………」
「いやオレに聞かれても困るよな、ははは……」
「ここ、べつに
「え?」
「………………」
「………………」
それ以降はだんまりだった。
(わたしの家じゃないってどういうことだ? またわからないことが増えたじゃないか……)
亞名が使った食器を片付け終わり、二人で廊下に出る。
「あの部屋、好きに使っていいから」
「あぁ……」
「じゃあ、おやすみなさい」
「え、あ、おやすみ……」
軽い会釈をしてオレの部屋とは反対側に亞名は歩いていった。
(成り行きで「おやすみ」としてしまったが……)
すでに亞名の影は見えなくなっていた。
「ふぁーあ」
(まぁ、オレも飯食べたら眠くなったし、今日はとりあえずあの部屋で寝るか)
メルからも解決期限とか特に言われてないしな。と納得材料を増やし、オレは寝て、次の朝を待った。
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