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蝶々は甘ったるい蜜がお好き
⑧
しおりを挟む藤堂は天井を見上げて大きくため息をついた。
……上手くいくはずがない。
蝶々の空回りで終わるのが目に見えてる。でも、この件はただの空回りで終わるほど簡単な問題じゃない。とにかく蝶々の無謀な行動を阻止しなければならない。
「いつ、会うつもりなんだ?」
「そ、それは、まだ分かりません…」
藤堂はそんな蝶々の様子の一つも見逃さない。
「じゃ、明後日までに、後藤の父親に何を言うか、3パターンくらいレポートにまとめて提出する事。紙じゃなくていいぞ、データでいい。
必ず提出する、それで俺と一緒にもう一度考える。それがクリアできないと、後藤の父親に会う事は許可できない。いいか?
後藤を本気で守りたいんだったら、急がば回れっていう言葉もあるんだ。感情だけで突っ走って全てを台無しにすることが一番最悪なんだ。とにかく冷静に対処すること。
担当はお前だけじゃない、俺の許可がないとお前は何もできないんだ。それをちゃんと頭に入れとくように」
「……はい」
肩を落としている蝶々の姿が痛々しかった。
でも、蝶々に限ってはこの落ち込みは何の意味も持たない。明日には何をしでかすか分からない危険で向こう見ずなのが蝶々だ。
……はぁ、二十四時間、俺が拘束するするしかないのか?
「後藤とは会ってないんだろ?」
「……はい」
蝶々はまだ落ち込んでいる。
「必要最低限の連絡は取り合う事。不安にさせないように心掛けて」
「分かってます!」
蝶々は自分の思い通りに物事が運ばないことに少々イラついていた。
「初めての担当で大きな壁にぶち当たってイライラするのはしょうがない。そうやってみんな一人前の担当編集者になっていくんだ」
「もう、分かってます!」
藤堂は蝶々への甘い考えが浮かばないように必死に自分を抑えた。
「よし、分かった。
じゃ、西園寺順也にどう対峙するか、お前の考えを今日俺の家で聞いてやってもいいぞ?」
……ここで聞けばいいじゃないか?
「どうする?」
……何も自制できてない、情けない俺。
蝶々は藤堂の顔を見ずに考えるふりをしている。
「じゃ、レポートの3パターンを2パターンに減らしてもらえますか?」
藤堂は蝶々への愛おしさの感情で胸がはち切れそうだ。でも、それをここで見せるわけにはいかない。
「え? そんな、うん、ま、しょうがないか… じゃ、2パターンは必ず提出だぞ」
……以前飲まされた蝶々の媚薬がまた効いてきた、ということにしておきたい。
二人は藤堂の家で食事を済ませ、その後ソファに座ってテレビを観ていた。蝶々はまだ難しい顔をしている。眉間にしわをよせて、ぶつぶつ独り言を言っている。藤堂は蝶々の顔を自分の方に向けて、その眉間にできているしわを指で伸ばした。
「もう、やめてください!」
「せっかくの可愛い顔がグロい性格に乗っ取られてる」
蝶々は頬を膨らませて藤堂を睨んだ。
「だって、藤堂さんが西園寺順也の攻略法を考えろって…」
藤堂は攻略法というワードに笑ってしまった。すると、蝶々は急に立ち上がり、着ていたベストを脱ぎ出した。
「え? 蝶々、どうした? 暑い?」
暖房も何も入れていないから暑いはずはない。
「藤堂さん、裸になってもいいですか?」
藤堂は唐突な申し出に言葉が見つからない、というより心の準備がまだできていない。そう言いながら、もう蝶々はブラウスのボタンを外し始めている。
「ちょ、ちょっと、マジか?」
「裸になりたいんです…
裸になったら何かいいアイディアが浮かびそうで…」
……助けてくれ。俺はまだ蝶々の未知の世界に入り込めていないんだ。裸になったらアイディアが浮かぶ?? 理解不能。
藤堂の心臓は急激に高鳴り始める。こんなスリルとワクワク感をここ数年感じた事はない。興奮し過ぎて鼻血が出ているんじゃないかと心配になるくらいに、藤堂は蝶々の行動から目が離せられなかった。
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