綺麗な世界の作り方

早那

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第一章 夏 某日より。

11- 記憶を求める少年を

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「これが多賀の髪の毛……?」
「うんうん!!そうだよ!これは多賀龍司の髪の毛なんだ!!」

唐突すぎて僕の頭はパニック状態だった。
どうしてここに多賀が出てくるんだ?
それになんでフィナは多賀のことを知っているんだろう。疑問はどんどん溢れ、留まるところを知らなかった。

フィナは僕の唖然とした視線をかわして
「いやあ!とにかく思うところは色々あると思うけど…うん!私からはこれしか言えないんだ。そうそうレインが雨宮くんと一緒に行きたがっていたから連れて行ってあげて欲しいんだ!」
そう言ってレインを呼ぶとどこからかともなく彼女が現れ、僕の手に持った多賀の髪の毛を見つけると心配そうな顔をしながら黙って僕の隣にきてくれた。
「わかった。レイン行こう」
「はい涼さん……」
僕は衝撃的な事実、しかし確かに記憶を思い出す手助けをしてくれたのであろう真実を教えてくれたフィナにありがとう、と礼を言った。
彼女は嬉しそうに赤髪を掻きあげ、
「またどっかで会えるといいね!!!私雨宮くんのこと気に入っちゃったよ!!」
と別れを惜しむかのように強く僕に抱きついてきた。

そして僕とレインは森の内部に進みはじめた。
「なあ、レイン?」
「なんですか涼さん」
「レインも多賀のことは知ってたのか?」
レインの土を踏みしめる音がゆっくりと止まった。
「まあ……はい」
「え、じゃあ多賀がどんな奴かも?」
「…多賀 龍司、菅原 孝太の両名が涼さんにその…とっても卑劣なことをしていたのは知っています」
レインがそれを少しむっとした様子で言ってくれたのが僕は嬉しかった。
「そこまで知られてるってことは僕の忘れた記憶にはやっぱり多賀達が関係してるのか?」
「…まあはい」
「でも2人は今行方不明なんだ。知ってると思うけど、神隠しだなんて言われ始めてる」
「彼らが行方不明なのは知っています……ですが神隠しなんぞでは決してありません」
「あ…なあ、もしかして僕が忘れているのはあいつらの行方不明にも関係してるのか?」
「……」
彼女の放った沈黙が僕の発言を肯定してくれていた。

暫く2人は無言で歩いていたがそれも長くは続かない。

まもなく森の中心に到着したからだ。
ここからは森の全てが見通せた。

天羽の森は大きなドームに似ていて、様々な緑に染め上げられた木々達はその身体を思い思いに伸ばしている。
外から見ればそれは大した大きさでもなかったのに中から見るとどこまでも森が続いているようで、まるでここだけで完結する別世界の様にも感じられた。

だがこの夢幻的な光景を前にして僕達が思ったことは1つだけである。


「この森に僕すごく嫌われてないか………?こええ…」

「はい…涼さんのこと大嫌いなようですね…私も怖いですよ……」


突然荒々しく僕らに向かって吹き荒れてきた風がそれを示していた。


この森に僕はどうやらめっちゃ嫌われているようだった。
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みんなの感想(4件)

帰って来た名無し

作家の仕事は インスピレーションでは無く、ただ毎日書くと言う作業を繰り返す、地道な作業。毎日毎日の地道な労働が 報酬に結びつく物です。曾野綾子と言う作家が ある本の構想から製本・出版まで、17年間掛かったと書いています。宝くじの当たりのような稼ぎではなく、毎日毎日 地道に積み重ねて行く仕事です。

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帰って来た名無し

続きは?

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帰って来た名無し

次の展開、気になるな

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