綺麗な世界の作り方

早那

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第一章 夏 某日より。

1- 蔑んだ1人の少年は

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痛い。

下駄箱から上履きを取りだそうと手をつっこむと、ちくっとした痛みが僕の手を襲った。
急いで上履きから手を抜くと無数の画鋲が一緒に転がり出てきた。
「はぁぁ、これがいじめってやつか…。」
溜息をつくと幸せが逃げるというがこれでは溜息もつきたくなってしまう。
転校してからなんてついてないのだろう。
僕は周囲の好奇、同情の目線を上履きの中の画鋲を掻き出すのに夢中な振りをしてやり過ごした。
「なにこいつ上履きん中のぞき込んでんだ?まじきもちわりぃよ!!!!」
笑いながら僕の近くに高2の中では体格のいい、いや良すぎる男がやってきて僕を小突いた。
こいつが僕いじめの主犯だろう。
確かこいつの名前は多賀だったな。
彼の金髪を見ながらぼんやりと思った。
すると隣の男が喚き始めた。
「なんか言えよ雨宮ぁ!おい!?聞いてんのかゴミ!!!」
この男は菅原。
細くて痩せている彼は多賀の腰巾着だ。 
家が政治家の金持ちで多賀もやらかしちゃった様々な悪事を何度も揉み消してもらっているという噂もある。

ちなみに雨宮は僕の苗字だ。
この苗字のお陰で根暗そうなどと周りに言われるのが常だが僕はこの苗字が大のお気に入りになっている。
”雨宮”。
なんとも涼しげで綺麗な名前じゃないか。……

「…っあ!ごめんね!今ほかのこと考えてて気付かなかった!(うるせえんだよチンパン)」
僕は本音を隠し少し申し訳なさそうに二人に笑いかけた。
多賀はニヤニヤと口元に気持ち悪い薄笑いを浮かべ、
何か言おうとしてきた。

キーーンコーーンカーーンコーーン

ちょうど始業のチャイムが鳴ってくれたみたいだ。
2人は軽く舌打ちして「帰りここで待ってろ」と低い声で僕に語りかけてきた。

今日もチンパン達の世話で忙しい1日になるだろう。
がさつで乱暴者である上、他人の感情理解出来ない人間などただの獣だと僕は考えている。

獣同士で馴れ合うこんな世界で、
人である僕は喰われ搾取されて虐げられている。

まっとうに生きる僕は今日も動物園の飼育員だった。
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