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第3章>毒蛇の幻像[マリオネット・ゲーム]
Log.65 ユメミルボーイ
しおりを挟む昨日の話を千夜が聞きたいのは百も承知だが、朝の教室だと人目も多いので放課後まで待ってもらうことにした。推理問答部で取り上げるにふさわしい事件だ。みんなで色々意見を出し合うのにちょうどいいだろう。
HRが終わり、普段のように授業が始まるが……俺は昨日の夜まともに寝ていなかったことを忘れていた。カフェインを摂るべきだったなと思いつつ、とても眠くなってしまった。寝ちゃダメだ……太井先生、居眠りには厳しいから……。そんな葛藤もむなしく、結局俺はそのまま寝落ちしてしまった。
──聞き覚えのある蝉時雨。茹だるような青空。
そこはいつもの通学路だ。白いアスファルトにくっきり映る影法師。目の前に美頼と千夜がいる。でも俺は何かに縛られていて動くことができない。二人が歩くのに合わせて視界が動く。
「〒4=7€8°5^々〆☆$:○<…0&」
「○☆$\°♪〒>3$5✤*♦|×,」
二人が何かを話している。だがなんて言っているのかさっぱり聞き取れなかった。
「美頼!千夜!!」
俺は声を出してるつもりだが、二人は見向きもしない。かと思ったが、突然こちらを向いた。特に変わったところはない。いつも通りの二人だ。
すると何故か今回は、なんと言ったか聞き取れた。
「でも良かった。アキが本当のアキになって!」
「これで気負いなく残りの学校生活を送れるね」
何を言って……
「まぁ、まだ実感湧かないけど」
(……!?)
俺の声がした。そこで初めて、俺は気がついた。
動けないんじゃない。実際視界はちゃんと美頼と千夜について行ってるじゃないか。本当は、歩く二人に合わせて、俺も歩いていたのだ。
シロ……なのか?
『そうだよ』
頭の中で、声がした。そこで視界が途絶える。もはや俺が頭の中にいるような、そんな感覚だった。この前と同じ。何もない真っ暗闇の空間に、俺は閉じ込められていた。
「いつの間に入れ替わったんだ?」
『飲み込みが早いね。その通り。そこは俺がいつもいた所だよ』
こんな暗い空間で、身体も動かせずに……独りで?
「でもクロもいるはずじゃ……」
『あれは君の頭の中にいるんだ。俺の頭の中にいる、君の。俺らは少し普通じゃないみたいでさ』
どういうことなんだ一体……?
『今までありがとう。お疲れ様』
自分の声でいて、自分の声ではない。そして視界が暗くなっていく。
「え……」
話す間もなかった。突然空気を感じる。落下していた。落ちていく先は、火の海。
目の前を色鮮やかな蝶が舞っていた。俺はありもしない何かに捕まろうと、手を伸ばす。
「そんな、いきなり、いやだ。やめろ」
──うわぁぁぁぁあぁぁぁあっっっ
「うわぁぁぁぁあぁぁぁっっ!!!」
「ごわぁああああああぁぁぁぁあっ!!!」
気づけばそこは教室だった。俺は机に両手をついて立ち上がっていた。どうやら夢を見ていたらしい。
そして目の前には太井が……腰を抜かしていた。余程の大声を出したのか、喉が痛むので咳き込む。生徒みんなが呆気にとられている。もちろん目の前の席では千夜がこちらを見てるし、後ろを見れば拍子抜けした美頼の顔もあった。
「秋山!!!!お前、お、おお俺を殺す気かぁ!?」
「……仲山です」
とにかく驚いたようだ。少しの間の後、教室が笑いに包まれた。
「いや、すみません。昨日の夜眠れなくて……」
そう言うと、太井……細井先生はしかめっ面になる。
「まあいい。事情は聞いてるからな……でもそれとこれとは別だ!顔洗ってこい!!」
そう教室から弾き出されて、流し場まで行く途中、俺はさっきまでの夢の意味を考えていた。もう既に曖昧になってきていたが……。
『俺らは少し普通じゃないみたいでさ』
初めて聞いたシロの声。そのセリフは多重人格という症状ではなく、別の何かを指している気がした。それも、クロと俺がどういう関係なのかわかれば……。
考え事をしながら蛇口をひねったからなのか。その直後大きな音を立てて壊れ、顔面めがけて水鉄砲が飛んできた。
ほんと、災難すぎる。
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