推理問答部は謎を呼ぶ -Personality Log-

猫蕎麦

文字の大きさ
71 / 92
第3章>毒蛇の幻像[マリオネット・ゲーム]

Log.65 ユメミルボーイ

しおりを挟む
 
 昨日の話を千夜が聞きたいのは百も承知だが、朝の教室だと人目も多いので放課後まで待ってもらうことにした。推理問答部で取り上げるにふさわしい事件だ。みんなで色々意見を出し合うのにちょうどいいだろう。

 HRが終わり、普段のように授業が始まるが……俺は昨日の夜まともに寝ていなかったことを忘れていた。カフェインを摂るべきだったなと思いつつ、とても眠くなってしまった。寝ちゃダメだ……太井先生、居眠りには厳しいから……。そんな葛藤もむなしく、結局俺はそのまま寝落ちしてしまった。



 ──聞き覚えのある蝉時雨。茹だるような青空。

 そこはいつもの通学路だ。白いアスファルトにくっきり映る影法師。目の前に美頼と千夜がいる。でも俺は何かに縛られていて動くことができない。二人が歩くのに合わせて視界が動く。

 「〒4=7€8°5^々〆☆$:○<…0&」

 「○☆$\°♪〒>3$5✤*♦|×,」
 
 二人が何かを話している。だがなんて言っているのかさっぱり聞き取れなかった。

 「美頼!千夜!!」

 俺は声を出してるつもりだが、二人は見向きもしない。かと思ったが、突然こちらを向いた。特に変わったところはない。いつも通りの二人だ。

 すると何故か今回は、なんと言ったか聞き取れた。

 「でも良かった。アキが本当のアキになって!」

 「これで気負いなく残りの学校生活を送れるね」

 何を言って……

 「まぁ、まだ実感湧かないけど」

 (……!?)

 俺の声がした。そこで初めて、俺は気がついた。

 動けないんじゃない。実際視界はちゃんと美頼と千夜について行ってるじゃないか。本当は、歩く二人に合わせて、俺も歩いていたのだ。

 シロ……なのか?

 『そうだよ』

 頭の中で、声がした。そこで視界が途絶える。もはや俺が頭の中にいるような、そんな感覚だった。この前と同じ。何もない真っ暗闇の空間に、俺は閉じ込められていた。

 「いつの間に入れ替わったんだ?」

 『飲み込みが早いね。その通り。そこは俺がいつもいた所だよ』

 こんな暗い空間で、身体も動かせずに……独りで?

 「でもクロもいるはずじゃ……」

 『あれは君の頭の中にいるんだ。俺の頭の中にいる、君の。俺らは少し普通じゃないみたいでさ』

 どういうことなんだ一体……?

 『今までありがとう。お疲れ様』

 自分の声でいて、自分の声ではない。そして視界が暗くなっていく。
 
 「え……」

 話す間もなかった。突然空気を感じる。落下していた。落ちていく先は、火の海。

 目の前を色鮮やかな蝶が舞っていた。俺はありもしない何かに捕まろうと、手を伸ばす。

 「そんな、いきなり、いやだ。やめろ」


 ──うわぁぁぁぁあぁぁぁあっっっ

 「うわぁぁぁぁあぁぁぁっっ!!!」

 「ごわぁああああああぁぁぁぁあっ!!!」

 
 気づけばそこは教室だった。俺は机に両手をついて立ち上がっていた。どうやら夢を見ていたらしい。

 そして目の前には太井が……腰を抜かしていた。余程の大声を出したのか、喉が痛むので咳き込む。生徒みんなが呆気にとられている。もちろん目の前の席では千夜がこちらを見てるし、後ろを見れば拍子抜けした美頼の顔もあった。

 「秋山!!!!お前、お、おお俺を殺す気かぁ!?」

 「……仲山です」

 とにかく驚いたようだ。少しの間の後、教室が笑いに包まれた。

 「いや、すみません。昨日の夜眠れなくて……」

 そう言うと、太井……細井先生はしかめっ面になる。

 「まあいい。事情は聞いてるからな……でもそれとこれとは別だ!顔洗ってこい!!」

 そう教室から弾き出されて、流し場まで行く途中、俺はさっきまでの夢の意味を考えていた。もう既に曖昧になってきていたが……。

 『俺らは少し普通じゃないみたいでさ』

 初めて聞いたシロの声。そのセリフは多重人格という症状ではなく、別の何かを指している気がした。それも、クロと俺がどういう関係なのかわかれば……。

 考え事をしながら蛇口をひねったからなのか。その直後大きな音を立てて壊れ、顔面めがけて水鉄砲が飛んできた。

 ほんと、災難すぎる。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

黒に染まった華を摘む

馬場 蓮実
青春
夏の終わり、転校してきたのは、初恋の相手だった——。 鬱々とした気分で二学期の初日を迎えた高須明希は、忘れかけていた記憶と向き合うことになる。 名前を変えて戻ってきたかつての幼馴染、立石麻美。そして、昔から気になっていたクラスメイト、河西栞。 親友の田中浩大が麻美に一目惚れしたことで、この再会が静かに波紋を広げていく。 性と欲の狭間で、歪み出す日常。 無邪気な笑顔の裏に隠された想いと、揺れ動く心。 そのすべてに触れたとき、明希は何を守り、何を選ぶのか。 青春の光と影を描く、"遅れてきた"ひと夏の物語。   前編 「恋愛譚」 : 序章〜第5章 後編 「青春譚」 : 第6章〜

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)

優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。 本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。 だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。 それで終わるはずだった――なのに。 ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。 さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。 そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。 由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。 一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。 そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。 罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。 ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。 そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。 これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。

処理中です...