巫女と連続殺人と幽霊と魔法@群像のパラグラフ

木木 上入

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87話「悠の居ない教室」

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「悠さん……」
 駿一の方を見る度に、瑞輝は悠のことを思い出す。悠はあの時以来、学校に姿は見せていない。瑞輝はたまに、駿一に悠のことを聞くが、駿一の所に帰ってきてもいないようだ。

「悠さん、どうしたんだろう?」

「瑞輝君?」
「え……あ、空来さんか……」
「うふふ、何、瑞輝君? ちょっと残念だったかしら。その……エミナって人じゃなくて」
「いや、そういうわけじゃないよ。ただ……あ……な、なんでもないよ」
 悠のことを話そうとした瑞輝は口をつぐんだ。空来さんは悠さんのことは知らないし、まして駿一君の周りのことだって、他のクラスメートと同じ認識だ。ここで話したら、また空来さんは、秘密を一つ、知ってしまう。
 瑞輝は、最近、よく空来と話すようになり、エミナのことについても話していた。しかし……最近、本当にそれでいいのかと、疑問を抱き始めた。悠さんのことについては駿一君も関わっているし、気軽に話すわけにはいかないだろう。しかし、自分のことに関しても、あまり気軽に話してはいけないのではないだろうか。
 確かに、ずっと自分の心の中だけで、他の人には内緒にしてきたことを空来さんに話すと、気持ちが楽になった気がして気分が晴れる。でも、話された空来さんは、どう思うだろう。僕が空来さんに話せば話すほど、空来さんにとっての秘密は増えることになる。空来さんは、ただでさえ、最近、どこか思い詰めているように見えるし、性格もおとなしい。そんな空来さんに、精神的な負担になりそうなことを、無責任に話していいものだろうか。空来さんの不安や恐怖を、実は、僕自身が増幅させているのではないだろうか。
 瑞輝は最近、目に見えて空来の様子がおかしくなってきたのを感じていた。勿論、この学校、更にはこの近所の人の殆どが今回の連続殺人事件に恐怖と不安を覚えているのだが、瑞輝には、空来は他の人と比較しても酷くやつれている気がしてならない。

「えっ、何? ちょ、ちょっと言い出してから止められると、なんだか気になって……」
「ああ……ごめんよ。でも……別に大したことじゃないから」
「そう……? 何かあったら、私に話してくれていいから……」
「うん……」
 瑞輝は空来の親切心を感じ、こくりと頷いた。頷きはした。しかし、心では、本当にこのまま空来に自分のことを話していいのだろうかということを、瑞輝は、分からなくなってきていた。





「ここ最近、随分といい仲になったみたいだな、空来と瑞輝は」
 何やらいちゃいちゃとしている瑞輝と空来の様子を横目で見て、駿一がぼそりと呟いた。
「急接近ポね」
「ああ。あんなのをしょっちゅう見せつけられてるせいで、クラスの雰囲気もおかしいぜ」
「ふふふ……調子狂うピか?」
「みんな調子が狂ってるんじゃねえか? 最近、変な事が立て続けに起こってるからな」
「駿一はどうなんだプ?」
「ええ?」
「駿一だって、調子狂ってるように見えるポ」
「そうか? 俺はいたって普通だが……まあ、自分の事なので分からないだけなのかもしれんが……」
「へぇー、そうプか」
 ロニクルが、駿一に顔を近づけて、ジトリと露骨な疑いの目を向けた。
「な、なんだよロニクルさん。あまり近寄られると、俺達までイチャついてると思われて、厄介な事になりかねんぞ!」
「ふふ……素直じゃないプね」
「な、何が……!?」
 駿一が焦りながら聞くと、ロニクルは僅かに表情を緩ませながら、元の普通の体勢へと戻った。

「……駿一、人は、誰かが居なくなると自分で隙間を埋めたがる性質があるという論文が、アメリカで発表されているプ」
「ん……?」
「海外赴任とか、死別とか……色々な事情で長時間離ればなれになった人は、分かれた人のやっていたことを、自然と自分もやるようになるプ。……まるで、分かれた人の隙間を埋めるように」
「ロニクルさん、それは……」
「ロニクルが出会ったばかりの駿一だったら、こんなこと言わないで無関心だったに違いないプ」
「ん……そんなこと……」
「無いっていうピよね、駿一さんは。分かってるピ。でも……本当の気持ち、そろそろ認めてもいいんじゃないかって、思うピ」
「ロニクルさん……」
「あんな風に話してもいいピよ。一人で抱えてると、辛いピ」
「辛くはないさ。そういうもんだろ、幽霊って。この世にふと現れて……不確かなまま彷徨って……しまいには、また、あの世に戻ってくんだよ」
「駿一……」
「お前達だって分からんよな。幽霊じゃなくても、みんな、それぞれ自分の居るべき場所がある。そうだろ?」
「悠が成仏した……駿一は、そう思ってるピ?」
「最近な……そう、思うようになってきたんだ。この世に来て、瑞輝が行方不明になって……また現れた。そして……悠は、瑞輝に見えるようになった。お互いに会話が出来るようになったんだ。だから、瑞輝に会えて……それで満足していったんじゃないかってな」
「……」
「別に、寂しくはないさ。もともと、こうだったからな。ただ、少し静かだが……」
 最近、静かだ。悠やティムが居ない事に、駿一はどこか物足りなさを感じていた。
 ずっとウザいくらいに話しかけてきた悠が居ないし、やかましいティムも入院している。だから、物足りないのは当たり前だろう。
「じきにそれにも慣れる。ティムだって、また帰ってくるだろうしな。しかし……」
「しかし、何だポ?」
「駿一の奴は不安だろうな。今は、そうでもないかもしれないが……悠と会話ができるようになってから、すぐに悠が消えちまったからな。……まったく、瑞輝のことが心配で心配で仕方がなかった悠が、逆に瑞輝を心配させてどうするんだか」
「そうプね。ただ……」
「ああ……分かってる」
 駿一自身、それが悠がまだ成仏していない一つの原因だと解釈していることに気付いていた。
 頭の回転も速く、思慮深いロニクルさんなら、当然、そのことは分かっているだろう。しかし、今、ロニクルさんが「ただ……」の後に続ける言葉は、そうではない。悠が自然に成仏したという可能性が、この教室の様子から考えれば高いだろうと言いたいのだ。悠が心配している瑞輝が、こうして空来と打ち解けて話している。その事実は、悠を安心させるのには十分なものだろう。

「ん……何だ?」
 いつの間にかロニクルとの会話に集中していた駿一は、教室の中がざわついていて、なにやら騒がしいことに、たった今気付いた。
「どうした……? 何が……」
 一体何が起こっているのかと教室内を見渡す駿一の目に留まったのは、巫女服を着た一人の女子だった。
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