巫女と連続殺人と幽霊と魔法@群像のパラグラフ

木木 上入

文字の大きさ
上 下
88 / 116

88話「梓とミズキと駿一と」

しおりを挟む
「あっ……!」
「誰かと思ったら、梓さんか」
 瑞輝が小さな悲鳴を上げ、駿一の方は思わず椅子から思わず立ち上がってしまった。急に教室に梓が現れたからだ。

「ああ、すいません。今回の件で……ちょっと必要に迫られて、来ちゃったです」
 梓が瑞輝と駿一両方に微笑みかける。
「来ちゃったですって……ロニクルさんじゃねーんだから」
 駿一が、呆気に取られて口走る。
「ポ? 何でロニクルピ?」
「ああ、いや……こっちの印象の問題だ。気にせんでくれ」
 この事に言及すると、色々とややこしいことになりそうだ。そもそも、わけも分からずに口から出てしまった一言なのだから無視して流してくれればいいだろう。駿一はそう思って、ロニクルに気にしないように勧めた。
「そうかプ……?」
「そうだプ! しかし、必要に迫られてって、穏やかじゃねーな」
 梓の「必要に迫られて」の一言に、駿一は少しぞっとした。梓が必要に迫られて、ここに来た。それはつまり、ここに何らかの霊的な問題があることを示しているからだ。

「そうプね。きっと何か……」
「お……っ!?」
「あっ!」
 駿一が思わず、小さいながらも声を上げ、瑞輝は思わず立った。今度は梓の急な登場に驚いたからではない。空来が突然、教室から飛び出していったからだ。
「逃がさないですよ……!」
 梓もそう言いながら、教室を走って飛び出した。それを追うかのように瑞輝が、更にそれを追うかのように駿一が、次々と走りだし、教室を後にした。





「はぁ……はぁ……」
 瑞輝の息が切れる。ライアービジュアルを解いて魔法を使えば梓に追いつけるがどうするかを、瑞輝は全力疾走で梓の後を追いながら考えている。
 どこかに身を隠せば、学校の皆にばれないようにライアービジュアルを解くことはできる。しかし、そうすれば梓さん達を見失ってしまうだろう。梓さんはずっと、結構なスピードで走っている。その前に居る空来さんも同様だろう。この様子では、どこかに身を隠している時間は無さそうだ。
 となれば、ひとまずこのまま、ライアービジュアルを解かずに走り続けるしかない。

「空来さん……」
 瑞輝にとって、ライアービジュアルを解くか解かないかよりも悩ましいことがある。それは空来のことだ。
 梓が空来を追いかけている。それはどうしてなのか。瑞輝には、なんとなく察しがついたが、そのことを受け入れる心持ちは、まだ整ってはいなかった。
 梓さんが追っているからには、十中八九、空来さんが犯人だということだ。そのことは受け入れないといけないのだが……どうにも、すんなりとは出来そうにない。
 しかし、もし、空来さんが、本当に、この連続殺人の犯人だったのなら……一体、空来さんは何を思って、こんな恐ろしい事をしたのだろうか。
 瑞輝の脳裏に、今まで、空来が見せた顔が浮かび上がる。笑った顔、怖がっている顔、悲しそうな顔……。
 空来さんは、あんな恐ろしい事をやる人ではない。瑞輝はどうしても、その考えを捨てられずにいる。しかし、ここまで来たら、空来が追い詰められるのは時間の問題だということも、瑞輝には察せられた。そして、その時は、もうすぐ近くに迫っているだろうことも。





 空来を追う梓、梓を追う瑞輝。そして、瑞輝の更に後ろから三人を追っているのは駿一だ。
「ち……どうして俺まで追いかけっこしてんだよ……!?」
 駿一が舌打ちする。自分で自分にどうしてこんなことをしているのか問うくらい、駿一は自分の行為を意外に感じている。それが予想以上に悠を気にしていることの裏返しだとも思えるところが、更に駿一を自己嫌悪にさせる。
 教室から走って出ていったのが梓と桃井でなければ、駿一は机に座ったまま、目の前の出来事に冷めた視線を投げかけていただろう。しかし、この事件の一部始終を知っている駿一は、梓と桃井が突然走り出したのを見て、ただならぬ雰囲気を感じてしまった。しかも、悠に深く関わっている二人だ。
「さて……どうする?」
 ここで何事も無かったように止まり、普通に今日を過ごすことも出来るだろう。しかし……隣で走ってる人物の存在がある以上、それも少し格好がつかない。駿一は、その隣の存在に話しかけた。
「……で、お前は何でだよ?」

 駿一に併走するように走っているのは冬城だ。駿一には、冬城が何故、隣で走っているのか分からない。
「こういう時、ティムならこうしてると思ったからだよ。お前、ティムはいつも、お前とつるんでただろ?」
 冬城がさらりと言った。
「ほう、ティムとは犬猿の仲だと思ってたがな」
「喧嘩仲間の義理だよ」
「ほう……相変わらず分からんな、お前らの感覚は」
 喧嘩仲間の義理だの何だのというのは、どうにも理解し難い。こういった感情はティムの方にもあるらしいが……駿一は、仁義だとか、そういったものを重視する感覚は理解できない。

「だろうな。分かってもらおうとは思わないよ。だが……この状況、腕っぷしは必要だろう? ティムの抜けた分は、私が代わりにやってやる!」
「お前もティムも、感情の人だねぇ、まったく」
 駿一が呆れた様子でボソりと言った。駿一は、霊に絡まれたという時に、咄嗟にお守りを出したりと、自然と対策を取ることはあるが、それは日頃から霊に絡まれ続けているからだ。……もっとも、それは決して自慢できることではなく、むしろ自分が超霊媒体質だということを、心から恨む理由なのだが……。とにもかくにも、準備と今までの経験あってのものだ。しかし、この冬城やティムといった人種は、何事にも感情が先に、しかも優先的に体を動かしている。それが心霊以上に不思議でたまらない。

「さてさて……バックレることになるのか? 俺は。……お前もだが」
 駿一がうんざりしながら言う。梓は空来を追っているが、とすれば、このままいけば、学校を出ることになるのではないだろうか。ともなれば、これから始まる授業には出席しないということになる。

「いい子ちゃんの桃井が先陣切ってるんだ。気にするなよ」
「気になるよ! てか、そういう問題か!」
 さらりとアウトローなことを言い出す冬城に、駿一が思わず叫んだ。お前はいいだろう。しかし、俺は少なくとも、先生達からは不良だとは思われていない。俺が被るリスクは、冬城とは比べものにならないだろう。……もっとも、冬城の言う通り、桃井にとっては、更に大きいのだろうが……。

「しかし……空来が捕まるのは時間の問題かな。梓さんと比べて、空来の方が明らかに体力を消耗してるみたいだぜ」
 空来の体はふらついていて、息も絶え絶えなのが、駿一の距離から見ても、あからさまに分かった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?

カタナヅキ
ファンタジー
現実世界で普通の高校生として過ごしていた「白崎レナ」は謎の空間の亀裂に飲み込まれ、狭間の世界と呼ばれる空間に移動していた。彼はそこで世界の「管理者」と名乗る女性と出会い、彼女と何時でも交信できる能力を授かり、異世界に転生される。 次に彼が意識を取り戻した時には見知らぬ女性と男性が激しく口論しており、会話の内容から自分達から誕生した赤子は呪われた子供であり、王位を継ぐ権利はないと男性が怒鳴り散らしている事を知る。そして子供というのが自分自身である事にレナは気付き、彼は母親と供に追い出された。 時は流れ、成長したレナは自分がこの世界では不遇職として扱われている「支援魔術師」と「錬金術師」の職業を習得している事が判明し、更に彼は一般的には扱われていないスキルばかり習得してしまう。多くの人間から見下され、実の姉弟からも馬鹿にされてしまうが、彼は決して挫けずに自分の能力を信じて生き抜く―― ――後にレナは自分の得た職業とスキルの真の力を「世界の管理者」を名乗る女性のアイリスに伝えられ、自分を見下していた人間から逆に見上げられる立場になる事を彼は知らない。 ※タイトルを変更しました。(旧題:不遇職に役立たずスキルと馬鹿にされましたが、実際はそれほど悪くはありません)。書籍化に伴い、一部の話を取り下げました。また、近い内に大幅な取り下げが行われます。 ※11月22日に第一巻が発売されます!!また、書籍版では主人公の名前が「レナ」→「レイト」に変更しています。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

世の中は意外と魔術で何とかなる

ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。 神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。 『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』 平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

2回目の人生は異世界で

黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

解体の勇者の成り上がり冒険譚

無謀突撃娘
ファンタジー
旧題:異世界から呼ばれた勇者はパーティから追放される とあるところに勇者6人のパーティがいました 剛剣の勇者 静寂の勇者 城砦の勇者 火炎の勇者 御門の勇者 解体の勇者 最後の解体の勇者は訳の分からない神様に呼ばれてこの世界へと来た者であり取り立てて特徴らしき特徴などありません。ただひたすら倒したモンスターを解体するだけしかしません。料理などをするのも彼だけです。 ある日パーティ全員からパーティへの永久追放を受けてしまい勇者の称号も失い一人ギルドに戻り最初からの出直しをします 本人はまったく気づいていませんでしたが他の勇者などちょっとばかり煽てられている頭馬鹿なだけの非常に残念な類なだけでした そして彼を追い出したことがいかに愚かであるのかを後になって気が付くことになります そしてユウキと呼ばれるこの人物はまったく自覚がありませんが様々な方面の超重要人物が自らが頭を下げてまでも、いくら大金を支払っても、いくらでも高待遇を約束してまでも傍におきたいと断言するほどの人物なのです。 そうして彼は自分の力で前を歩きだす。 祝!書籍化! 感無量です。今後とも応援よろしくお願いします。

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

処理中です...