内気な僕は異世界でチートな存在になれるか?@異世界現代群像のパラグラフ

木木 上入

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1章

1-23.ムストゥペケテ山脈

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「ん……これ……!」

 徐々に目が慣れてきた。どうやら光の空間に居たのではなく、いつの間にか外へ出ていて、外の眩しさで目が眩んでいただけみたいだ。

「なんだ……凄い!」

 目の前に広がるのは外の景色。しかも、今まで見た事が無いくらい壮大だ。牢屋から直に出るには、ちょっと刺激が強い。

「本当、なんか凄い所に来ちゃった……」

 エミナさんも、感嘆の声を漏らした。
 僕とエミナさんの居る所は小高い丘になっていて、緑色の草が繁っている。
 辺りには低木が疎らに生え、そこには木の実が実っている。ここに漂う甘い香りは、その匂いなのだろうか。
 下を見下ろすと見えるのは、一面真っ白な光景。雪ではない。地上ですらない。雲……一面の雲海が広がっている。

「あ……そうだ。ええと……ここが頂上なのかな」

 この景色に気を取られて忘れていたが、僕達は頂上で龍族の人と会う手筈になっている。
 頂上は、ここか、ここよりも高い所にあるはず。僕は上を見上げる。
 所どころに白くて薄い雲が散りばめられた、真っ青な空が広がっている。下に雲海があるが、その上にも薄い雲が存在しているという事だ。

「頂上? あれかな?」
「んっ?」

 エミナさんの方を振り返る。エミナさんは、僕の真後ろを指差していた。その指先を見てみる。
 ……ここが頂上かと思っていたが、どうやら違うらしい。
 エミナさんの指差した先には、ここよりも更に高くて傾斜も急な丘があった。その頂上は、雲海よりも更に高い位置に浮かんでいる厚い雲に覆われて、見えない。

「なんか、不思議な地形だね。こんなの見た事ないわ」

 エミナさんが珍しがっているという事は、この世界の人にとっても珍しい光景なのだろう。僕も不思議だと思う。
 今ざっと見た光景以外には目立ったものも無い。人工物も無く、シンプルな景観が延々と広がっている。なのにこの壮大さはなんなのだろうか。

「頂上はあそこだ、きっと」
「頂上、何かあるの?」
「龍族の人が居るらしい。その人が僕達を助けてくれたんだ」
「龍族!? 益々凄い所に来ちゃったんだね」

 エミナさんは、興奮した様子でキョロキョロと周囲を見回している。

「ムストゥペケテ山脈らしいよ」
「うそー! そんな遠くに? どうやって移動したの? 一瞬だったよ!?」
「い、いや、僕に言われても……あ、そうだ。荷物は取り返したんだし、着替えようよ」
「そうね。寝間着だし、ボロボロだし。龍族と会うなら、出来るだけちゃんとした服装で会いたいね」
「ちゃんとした服装って……」
「バトルドレス。普通のドレスがあれば尚いいけど、この手持ちで正装と呼べるのはバトルドレスしかないわ」
「そうなんだ」

 バトルドレスが正装の役割を果たす事を、僕は初めて知った。バトルドレスはその名の通り、ドレスの袖とかスカートを、戦闘用に動き易いように短くしただけだ。その事を考えると、確かに見た目は普通のドレスと遜色無い気がする。
 僕達はさっさと着替えを済ませた。

「相変わらず派手だなぁ」

 強い日差しが当たり、只でさえ派手なバトルドレスが更に煌びやかに感じられる。

「そういえば、ミズキちゃんって、バトルドレスを着るの始めてだったね。魔法の効果を強める儀式的な意味合いが強いから、踊り子が着るものみたいに派手に見えるでしょ。でも、鎧とか兜を着込むよりかわいくて、私、好きなんだ」
「確かにそうだね」

 僕も、普通の服のように着られるのは、バトルドレスの大きな利点だと思う。現代でも、ふと思う事があるが、この世界に来て、ガチャガチャと音をたてながら、重そうに歩いている兵士の姿を実際に目にすると、鎧って動きずらそうだと、つくづく思う。

「おう、来たか!」
「え? あ、君は……」

 遠くから手を振りながら、こちらに走ってきている、ピンク色の人型。
 僕は彼女を知っている。彼女が近寄るにつれて、濃いピンク色の髪と、ピンク色のチャイナドレスがはっきりと見て取れるようになる。

「よう! イミッテだ! 久しぶりだな!」

 イミッテが、この間と同じく快活な声で話しかけてきた。

「イミッテちゃん……? 何でここに……」
「ミズキ、ちょっと私と来てくれ」

 イミッテは、僕の手を掴んで、僕の体をぐいっとイミッテの方に引き寄せた。

「わ! ちょ、ちょっと!」

 急にイミッテの怪力で引っ張られ、思わず声をあげる。

「ほら、早く来るんだ!」
「ご、ごめん、後でいいかな……? 僕達、龍族の人に呼ばれてて、その人、僕達を助けてくれた人で……」
「知ってるよ。でも、その前準備がある。だから、ミズキはその前に、あたしと来ないといけないんだ」
「そうなの……?」

 どうやら、龍族の人の意向でもあるらしい。だったら、イミッテと一緒に行くべきだ。

「私も付いていっていいかしら?」
「すまないが、エミナは龍族の所へ向かってくれ。時間が無いんでな、手分けが必要だ」
「そうなんだ……じゃあ仕方ないか」
「折角、再開できたのになぁ……」

 エミナさんとは、ついさっき再開したばっかりだ。色々話す事もあるし……なんだか名残惜しい。

「大袈裟だよミズキちゃん。永遠にお別れってわけでもないでしょ」

 エミナさんが僕に微笑んできた。エミナさんは納得したようだ。

「そうだけど……」
「はい! 話はそこまで。時間が無いんだ。長話は後にしてもらうぞ!」
「ううん……仕方ないよねぇ……エミナさん、また後でね」
「うん、一人で龍族に会うのは怖いけど……お互いがんばろ!」
「うん……」
「ほら、行くぞ!」

 僕は、イミッテに手を引かれるのに体を預けた。

「……」

 エミナさんに向かって手を振る。折角再開できたのだけど……名残惜しくてたまらない。もしかしたら、龍族の人の飼っている大きな龍に喰われてしまうのではないかと、嫌な想像まで頭に浮かぶ。助けてくれたのに失礼じゃないかと自分を抑えてみるが、こればかりは自分の意思で制御できるものではない。
 エミナさんもにっこりと笑って手を振り返した。
 そして――やがて、エミナさんは手を振るのをやめ、体を翻してムストゥペケテの頂上を見上げた。
 バトルドレスを纏い、天空まで伸びる階段を見上げるエミナさんの姿は、雄々しく、たくましい。

「エミナさん……」

 僕達は、それぞれの役割を終えて、また会えるだろうか……いや、少し気にし過ぎかもしれない。また少し離れるだけなのだから、エミナさんの言う通り、大袈裟過ぎだ。
 絶対、また会えるに決まってる。
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