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1章
1-5.リビングデッド
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「やっぱり、日本じゃないかも……」
早朝、僕は、この村を散歩していた。昨日、食事をしてから部屋に戻って床に就いたが、その前にずっと寝ていたので、余り良く眠れず、朝早くに目覚めてしまったのだ。
「やっぱり、ここは異世界なのかもしれない。木造や煉瓦造りの家がある。看板も木で出来てるみたいだし……」
改めて周りを見渡す。木の看板にはパンの形が彫り付けられている。パン屋か、またはスーパーマーケットのような所なのだろう。
そこに至る道は舗装されているとは言い難い。まばらに生えた丈の低い草の間に地肌が剥き出しになっている道だ。
「道路も無いし、タイヤの跡も無いから車も通ってなさそうだ。これは馬車の跡だし……こんな所、海外だって中々無いかもしれないぞ……」
僕は次に建物を見た。多くは平屋で、偶に、一回り小さい二階建ての家が見える。殆どの家には煙突が付いていて、もう煙が出ている家もある
「のどかだな……」
僕は、近くに丁度良い具合の切り株を見つけたので、そこに座って一息つく事にした。
「ふう……でも、ここの人は、そこそこの不自由しない暮らしをしてるみたいだ。それに、この景色って、本当にファンタジーに出てきそう……異世界って、本当に有り得るのかな……」
「ミズキちゃん!」
突然、エミナさんの叫び声が聞こえた。僕は、それが聞こえた方向を向くと、こっちに走ってくるエミナさんの姿が見えた。
「わっ! エミナさん……どうしたの、そんなに慌てて。僕、何か変な事やったかな?」
「ううん、違うの。良かった、無事で」
エミナさんは息を切らせながらそう言った。
「何かあったみたいだけど……」
「人さらいがあったかもしれないから」
「人さらい!?」
早朝、一人で出歩いたのは、不用心だったかもしれない。もしかしたら自分がさらわれていたかもしれないのだ。自分はどういうわけか女になっている。ここがどこでどんな治安だとしても、女の一人歩きは危ないと思う。
「朝になっても弟が帰ってこないの。友達に聞いてみたら、弟は来てないって言ってて……」
「え!? エミナさんの弟がって事!?」
「ええ……昨日の夜、リビングデッドを見たって言う人が居たの。その人は見間違いかもしれないって言ってるけど……もし本当だったら、弟はさらわれたのかもしれない」
「でも何で……身代金とか、要求されたりするのかな」
「それは今のところ無いわ。でも、人身売買や、魔法の触媒にされる可能性はあるかも」
エミナさんが不安そうに俯く。
「そ、そうなんだ……とにかく、警察! 警察呼ばないと!」
今はそれを深く考えている場合じゃない。急いで警察に届けないとだ。
「警察?」
「えっと……困った時に助けてくれる人っていうか……治安維持? してる人」
「自警団の事かな……今回は、事が事だから、町の皆で探す事になると思う。だから、父さんと母さん、それに、私も今、町の皆に知らせているの」
「そうなんだ……僕も探すよ! 特徴とか教えてよ」
「特徴……そっか、ロビンとは会った事無いもんね。えっと……名前はロビン。癖っ毛だから、髪の毛は立ってて、黄色をしているの」
「黄色!? そ、そっか……」
黄色の髪の毛と聞いて違和感を覚えたが、ここでは普通の事だろう。
「背丈は私の半分くらい。服装は……大体、ミズキちゃんと同じだと思う。シャツとハーフパンツの長さは、それより短かめだと思う」
「ええと、これより短くて……あ、そっか」
僕は、この服が普通よりも大きめになっている事を思い出した。自分の体が小さくなっているので、相対的に大きなサイズの服を着ている。
Tシャツの袖は肘の辺りまで伸びていて、半ズボンの丈も膝の少し上くらいまで伸びている。確かにこれなら、半ズボンというよりは、少し短いハーフパンツに見える。
「分かった。色は?」
「上はグリーン、下はブラウン。後、頭に羽飾りを付けてる」
「ふうん……頭に特徴がありそう……分かったよ」
「じゃあ、私は他の人に知らせて来るね、ミズキちゃん。後、あまり遠くまで探しに行かなくていいからね。まだ誘拐犯が居るかもしれないから」
エミナさんは、そう言うと歩きだし、近くの家のドアをノックした。あの様子だと、手当たり次第に一件ずつ回っていくのだろう。
僕がぼおっとエミナさんを見ていると、建物の影から人が一人、また一人と出てきた。
振り返ると、後ろからはもっとたくさんの人が歩いてきていた。
後ろの方の家から声をかけていたからだろう。いよいよ物々しくなってきた。
「じゃあ、お前はこの辺りを探してくれ」
「分かったわ」
「ロビン君だったら、その辺に隠れてるんじゃないかね」
「どうかねぇ、一応、倉庫を探してみるかい」
色々な人の会話が聞こえてくる。
「じゃあ、僕はどうしようかな……」
止まっているのもなんなので、取り敢えず歩きだす事にした。
沢山の人が出てきてガヤガヤとしてきたが、相変わらず木や煉瓦造りの家があり、緑に囲まれている。どこからか鳥の鳴き声も聞こえる。人さらいがあったとは思えない程のどかだ。
「ほんと、ここ、どこなんだろ……」
日本の田舎という感じもするが、海外の気もする。街並みはヨーロッパのような雰囲気だ。
「ここは……」
キョロキョロと辺りを見回しながら歩いていた僕は、いつしか、大通りを進んでいた。
「へぇ……色々あるんだ……」
周りに注意しながら大通りを進んでいくと、色々な店が目に入ってくる。
看板でパッと見て分かるのは、花屋、薬屋だろうか。それぞれ丸い中心部から放射状に花弁を付けている花のマークと、三角フラスコのような所に七部程の所まで液体の入ったマークが描かれた看板がある。
肉のマークが描かれた看板もある。この村の雰囲気からして、精肉もしていそうだ。
ハンマーのマークは大工道具屋か金物屋だろうか。それとも、ここは本当に異世界で、鍛冶屋だったりするのだろうか。
「お……」
大通りを更に進んだところで、羊の鳴き声が聞こえた。鳴き声の聞こえた左の方を見ると、柵の中に沢山の羊が居た。
「羊の放牧かぁ」
反対側では何かが網の上で干されている。木の実だろうか。
「うーん……」
例えば、あの羊や木の実の中に、エミナさんの弟が居たら……。
「って、木の実の中に居るわけないか」
とはいえ、あの時にエミナさんが使ったのが、本当に魔法だったら、あんな小さい木の実の中にだって、人間を入れられる事も出来るかもしれない。羊にだって、化けさせられるかもしれない。
「……それじゃ、きりが無いよな。普通に探そう……あれ?」
あれやこれや考えていたら、いつの間にか村の外れまで来てしまったようだ。周りには人も居ない。
「どうしようかな……」
辺りを見回す。建物は殆ど無く、倉庫のような小さな小屋がぽつぽつとあるだけだ。
常に人が留まるような雰囲気の建物は無い。
「うん?」
それ程離れていない場所に、木の柵で囲ってある所がある。羊の柵とは別のものだ。
「何だろ?」
好奇心に魅かれて近寄ってみたが、僕の足は途中で止まった。
「あ……!」
柵の先は崖になっていた。少し、足がすくむ。
「かなり高い崖だなぁ」
恐る恐る近寄って、下の方を見てみた。
「ここからなら遠くまで見渡せるけど……そんな遠くに居るのかな……」
眼下には森が広がっている。遠くには山も見える。
「いい景色だな……」
木々が風に揺れている。景色の大部分は森だ。
一瞬、影が僕を包み込んだ。上を見ると、大きな黒い鳥が飛んでいた。カラスに見えるが、あの大きさからすると別の鳥だろう。鳥は僕の頭上を通り過ぎると、ずーっと遠くまで飛んでいった。
「あれ?」
巨大カラスの飛んでいった先に、お城の様な建造物が見つかった。
目を凝らしてみる――やはりお城だ。それも、ヨーロッパなんかにあったり、RPGに出てきたりするような典型的なデザインだ。
「お城……だよね? そっか……魔法も本当っぽいかも。やっぱりここって……」
不意に、僕の口が止まった。
僕の目は、風に揺れる木々の中に、一つだけ不自然に揺れていない木を見つけた。
遠目ではっきりとは分からないが、その木は形も他の木とは違っているようだ。どことなく無機質なビルを思い起こさせる。
「う……」
僕は後ずさった。二歩……三歩……いつの間にか早歩きになっている。
「はぁ……」
あの事を思い出していた。自殺の事を。あの時は思い切って飛び込んだ。でも、今はむしろ、高所に恐怖を感じている。
「何だろ……不思議だな……」
ビルから飛び降り、体は風の抵抗をもろに感じながら、目には猛然と迫ってくる地面が映る。その時の事を頭に思い描くと、身震いがする。やっとのことで決心して飛び降りたのにだ。
「やっぱり、怖いよね、死ぬのはさ……」
長い薄ピンクの髪が、風に煽られる。一体、僕はどうして生きているのだろう……。
「うっ!」
突然、後頭部に強い衝撃を感じた。僕は後ろから何かに殴られたのだと直感した。
「な……なに……!?」
意識が遠のき、僕は地面にうつ伏せに倒れた。
急いで体を反転させると、目の前に人が居た。しかし、只の人ではない。茶色くて、皺が沢山ある。僕の頭に浮かぶものでは、ゾンビが一番近い容姿をしているだろうか。
「ん……!」
腐臭が鼻をつく。
「ゾ……ゾンビ……!」
僕は慌てて、両手をゾンビにかざした。
「だ、誰か……あぐっ!」
誰かに助けを求めようと、叫ぼうと思った。が、僕の叫びは途中で呻き声に変わった。
ゾンビが両手で作った拳を、僕の腹部に思いきり振り降ろしたのだ。
「う……うえっ! げほっ! げほっ!」
ゾンビは何も言わず、再び両手を振り上げた。
「あ……う……げほっ! し、死ぬ……!」
死への恐怖。一度振り切ったものに、僕は再び襲われている。
一度は進んで望んだものに。
「や……やだ……」
しかし、ゾンビはまるで自我が無いように……別の誰かにプログラムされたロボットの様に無機質に、再び両手を振り降ろした。
「いやぁぁぁぁっ!」
刹那、僕の両手が輝きだし、辺りはその輝きに包まれた。
「――っ!」
光が収まり、視界が正常に戻った。
「うわっ!」
目の前に、腐った死体が横たわっている。僕は思わず地を這ったまま後ずさった。
あいつだ。さっき僕を殺そうとしたゾンビだ。
「こ……こいつ……動かないのか……?」
僕は恐る恐る近寄ろうかと思ったが、また動き出すんじゃないかとも思って、その場から動けないでいた。
「ミズキちゃん!」
「あ……エミナさん」
エミナさんが駆け寄ってくる。
「これは……死体……でも何でこんな所に……元々はリビングデッド? だとしたら、浄化されてる……」
「リビングデッド? じ、じゃあ、やっぱりゾンビって事なんだ……」
「浄化は誰がやったの?」
「え?」
「浄化。これ、動いてたと思うんだけど……まさか、ミズキちゃん?」
「僕は別に何も……でも、あれかな。手がぱぁって光って……そしたらいつのまにかこれが倒れてて…もう、動かないの?」
「うん、動かないよ、完全に浄化されてるから。ええとね……」
エミナさんが、リビングデッドだった死体に片手をかざした。
「彷徨いし迷い子に、その源たる世界への誘いを……ホーリーライト!」
エミナさんの手が輝きだす。
「ああ! それ! 丁度同じ感じだよ!」
「そうなの? ……じゃあ、やっぱりそうなんだよ。記憶があったときは、魔法が使えてたのかもしれない」
「そうなの……かな?」
「その話は後にした方がいいか……リビングデッドが現れたって事は、ここは危険だって事だから、村へ戻りましょう」
エミナさんが、僕に手を差し伸べた。
「ああ……うん……あの……」
「……え?」
「こ、腰が抜けちゃって……」
「あら……うふふ……!」
僕とエミナさんは、ここで暫く休んだ。
そして、その後、エミナさんに肩を支えられながら、僕は村へと戻ったのであった。
早朝、僕は、この村を散歩していた。昨日、食事をしてから部屋に戻って床に就いたが、その前にずっと寝ていたので、余り良く眠れず、朝早くに目覚めてしまったのだ。
「やっぱり、ここは異世界なのかもしれない。木造や煉瓦造りの家がある。看板も木で出来てるみたいだし……」
改めて周りを見渡す。木の看板にはパンの形が彫り付けられている。パン屋か、またはスーパーマーケットのような所なのだろう。
そこに至る道は舗装されているとは言い難い。まばらに生えた丈の低い草の間に地肌が剥き出しになっている道だ。
「道路も無いし、タイヤの跡も無いから車も通ってなさそうだ。これは馬車の跡だし……こんな所、海外だって中々無いかもしれないぞ……」
僕は次に建物を見た。多くは平屋で、偶に、一回り小さい二階建ての家が見える。殆どの家には煙突が付いていて、もう煙が出ている家もある
「のどかだな……」
僕は、近くに丁度良い具合の切り株を見つけたので、そこに座って一息つく事にした。
「ふう……でも、ここの人は、そこそこの不自由しない暮らしをしてるみたいだ。それに、この景色って、本当にファンタジーに出てきそう……異世界って、本当に有り得るのかな……」
「ミズキちゃん!」
突然、エミナさんの叫び声が聞こえた。僕は、それが聞こえた方向を向くと、こっちに走ってくるエミナさんの姿が見えた。
「わっ! エミナさん……どうしたの、そんなに慌てて。僕、何か変な事やったかな?」
「ううん、違うの。良かった、無事で」
エミナさんは息を切らせながらそう言った。
「何かあったみたいだけど……」
「人さらいがあったかもしれないから」
「人さらい!?」
早朝、一人で出歩いたのは、不用心だったかもしれない。もしかしたら自分がさらわれていたかもしれないのだ。自分はどういうわけか女になっている。ここがどこでどんな治安だとしても、女の一人歩きは危ないと思う。
「朝になっても弟が帰ってこないの。友達に聞いてみたら、弟は来てないって言ってて……」
「え!? エミナさんの弟がって事!?」
「ええ……昨日の夜、リビングデッドを見たって言う人が居たの。その人は見間違いかもしれないって言ってるけど……もし本当だったら、弟はさらわれたのかもしれない」
「でも何で……身代金とか、要求されたりするのかな」
「それは今のところ無いわ。でも、人身売買や、魔法の触媒にされる可能性はあるかも」
エミナさんが不安そうに俯く。
「そ、そうなんだ……とにかく、警察! 警察呼ばないと!」
今はそれを深く考えている場合じゃない。急いで警察に届けないとだ。
「警察?」
「えっと……困った時に助けてくれる人っていうか……治安維持? してる人」
「自警団の事かな……今回は、事が事だから、町の皆で探す事になると思う。だから、父さんと母さん、それに、私も今、町の皆に知らせているの」
「そうなんだ……僕も探すよ! 特徴とか教えてよ」
「特徴……そっか、ロビンとは会った事無いもんね。えっと……名前はロビン。癖っ毛だから、髪の毛は立ってて、黄色をしているの」
「黄色!? そ、そっか……」
黄色の髪の毛と聞いて違和感を覚えたが、ここでは普通の事だろう。
「背丈は私の半分くらい。服装は……大体、ミズキちゃんと同じだと思う。シャツとハーフパンツの長さは、それより短かめだと思う」
「ええと、これより短くて……あ、そっか」
僕は、この服が普通よりも大きめになっている事を思い出した。自分の体が小さくなっているので、相対的に大きなサイズの服を着ている。
Tシャツの袖は肘の辺りまで伸びていて、半ズボンの丈も膝の少し上くらいまで伸びている。確かにこれなら、半ズボンというよりは、少し短いハーフパンツに見える。
「分かった。色は?」
「上はグリーン、下はブラウン。後、頭に羽飾りを付けてる」
「ふうん……頭に特徴がありそう……分かったよ」
「じゃあ、私は他の人に知らせて来るね、ミズキちゃん。後、あまり遠くまで探しに行かなくていいからね。まだ誘拐犯が居るかもしれないから」
エミナさんは、そう言うと歩きだし、近くの家のドアをノックした。あの様子だと、手当たり次第に一件ずつ回っていくのだろう。
僕がぼおっとエミナさんを見ていると、建物の影から人が一人、また一人と出てきた。
振り返ると、後ろからはもっとたくさんの人が歩いてきていた。
後ろの方の家から声をかけていたからだろう。いよいよ物々しくなってきた。
「じゃあ、お前はこの辺りを探してくれ」
「分かったわ」
「ロビン君だったら、その辺に隠れてるんじゃないかね」
「どうかねぇ、一応、倉庫を探してみるかい」
色々な人の会話が聞こえてくる。
「じゃあ、僕はどうしようかな……」
止まっているのもなんなので、取り敢えず歩きだす事にした。
沢山の人が出てきてガヤガヤとしてきたが、相変わらず木や煉瓦造りの家があり、緑に囲まれている。どこからか鳥の鳴き声も聞こえる。人さらいがあったとは思えない程のどかだ。
「ほんと、ここ、どこなんだろ……」
日本の田舎という感じもするが、海外の気もする。街並みはヨーロッパのような雰囲気だ。
「ここは……」
キョロキョロと辺りを見回しながら歩いていた僕は、いつしか、大通りを進んでいた。
「へぇ……色々あるんだ……」
周りに注意しながら大通りを進んでいくと、色々な店が目に入ってくる。
看板でパッと見て分かるのは、花屋、薬屋だろうか。それぞれ丸い中心部から放射状に花弁を付けている花のマークと、三角フラスコのような所に七部程の所まで液体の入ったマークが描かれた看板がある。
肉のマークが描かれた看板もある。この村の雰囲気からして、精肉もしていそうだ。
ハンマーのマークは大工道具屋か金物屋だろうか。それとも、ここは本当に異世界で、鍛冶屋だったりするのだろうか。
「お……」
大通りを更に進んだところで、羊の鳴き声が聞こえた。鳴き声の聞こえた左の方を見ると、柵の中に沢山の羊が居た。
「羊の放牧かぁ」
反対側では何かが網の上で干されている。木の実だろうか。
「うーん……」
例えば、あの羊や木の実の中に、エミナさんの弟が居たら……。
「って、木の実の中に居るわけないか」
とはいえ、あの時にエミナさんが使ったのが、本当に魔法だったら、あんな小さい木の実の中にだって、人間を入れられる事も出来るかもしれない。羊にだって、化けさせられるかもしれない。
「……それじゃ、きりが無いよな。普通に探そう……あれ?」
あれやこれや考えていたら、いつの間にか村の外れまで来てしまったようだ。周りには人も居ない。
「どうしようかな……」
辺りを見回す。建物は殆ど無く、倉庫のような小さな小屋がぽつぽつとあるだけだ。
常に人が留まるような雰囲気の建物は無い。
「うん?」
それ程離れていない場所に、木の柵で囲ってある所がある。羊の柵とは別のものだ。
「何だろ?」
好奇心に魅かれて近寄ってみたが、僕の足は途中で止まった。
「あ……!」
柵の先は崖になっていた。少し、足がすくむ。
「かなり高い崖だなぁ」
恐る恐る近寄って、下の方を見てみた。
「ここからなら遠くまで見渡せるけど……そんな遠くに居るのかな……」
眼下には森が広がっている。遠くには山も見える。
「いい景色だな……」
木々が風に揺れている。景色の大部分は森だ。
一瞬、影が僕を包み込んだ。上を見ると、大きな黒い鳥が飛んでいた。カラスに見えるが、あの大きさからすると別の鳥だろう。鳥は僕の頭上を通り過ぎると、ずーっと遠くまで飛んでいった。
「あれ?」
巨大カラスの飛んでいった先に、お城の様な建造物が見つかった。
目を凝らしてみる――やはりお城だ。それも、ヨーロッパなんかにあったり、RPGに出てきたりするような典型的なデザインだ。
「お城……だよね? そっか……魔法も本当っぽいかも。やっぱりここって……」
不意に、僕の口が止まった。
僕の目は、風に揺れる木々の中に、一つだけ不自然に揺れていない木を見つけた。
遠目ではっきりとは分からないが、その木は形も他の木とは違っているようだ。どことなく無機質なビルを思い起こさせる。
「う……」
僕は後ずさった。二歩……三歩……いつの間にか早歩きになっている。
「はぁ……」
あの事を思い出していた。自殺の事を。あの時は思い切って飛び込んだ。でも、今はむしろ、高所に恐怖を感じている。
「何だろ……不思議だな……」
ビルから飛び降り、体は風の抵抗をもろに感じながら、目には猛然と迫ってくる地面が映る。その時の事を頭に思い描くと、身震いがする。やっとのことで決心して飛び降りたのにだ。
「やっぱり、怖いよね、死ぬのはさ……」
長い薄ピンクの髪が、風に煽られる。一体、僕はどうして生きているのだろう……。
「うっ!」
突然、後頭部に強い衝撃を感じた。僕は後ろから何かに殴られたのだと直感した。
「な……なに……!?」
意識が遠のき、僕は地面にうつ伏せに倒れた。
急いで体を反転させると、目の前に人が居た。しかし、只の人ではない。茶色くて、皺が沢山ある。僕の頭に浮かぶものでは、ゾンビが一番近い容姿をしているだろうか。
「ん……!」
腐臭が鼻をつく。
「ゾ……ゾンビ……!」
僕は慌てて、両手をゾンビにかざした。
「だ、誰か……あぐっ!」
誰かに助けを求めようと、叫ぼうと思った。が、僕の叫びは途中で呻き声に変わった。
ゾンビが両手で作った拳を、僕の腹部に思いきり振り降ろしたのだ。
「う……うえっ! げほっ! げほっ!」
ゾンビは何も言わず、再び両手を振り上げた。
「あ……う……げほっ! し、死ぬ……!」
死への恐怖。一度振り切ったものに、僕は再び襲われている。
一度は進んで望んだものに。
「や……やだ……」
しかし、ゾンビはまるで自我が無いように……別の誰かにプログラムされたロボットの様に無機質に、再び両手を振り降ろした。
「いやぁぁぁぁっ!」
刹那、僕の両手が輝きだし、辺りはその輝きに包まれた。
「――っ!」
光が収まり、視界が正常に戻った。
「うわっ!」
目の前に、腐った死体が横たわっている。僕は思わず地を這ったまま後ずさった。
あいつだ。さっき僕を殺そうとしたゾンビだ。
「こ……こいつ……動かないのか……?」
僕は恐る恐る近寄ろうかと思ったが、また動き出すんじゃないかとも思って、その場から動けないでいた。
「ミズキちゃん!」
「あ……エミナさん」
エミナさんが駆け寄ってくる。
「これは……死体……でも何でこんな所に……元々はリビングデッド? だとしたら、浄化されてる……」
「リビングデッド? じ、じゃあ、やっぱりゾンビって事なんだ……」
「浄化は誰がやったの?」
「え?」
「浄化。これ、動いてたと思うんだけど……まさか、ミズキちゃん?」
「僕は別に何も……でも、あれかな。手がぱぁって光って……そしたらいつのまにかこれが倒れてて…もう、動かないの?」
「うん、動かないよ、完全に浄化されてるから。ええとね……」
エミナさんが、リビングデッドだった死体に片手をかざした。
「彷徨いし迷い子に、その源たる世界への誘いを……ホーリーライト!」
エミナさんの手が輝きだす。
「ああ! それ! 丁度同じ感じだよ!」
「そうなの? ……じゃあ、やっぱりそうなんだよ。記憶があったときは、魔法が使えてたのかもしれない」
「そうなの……かな?」
「その話は後にした方がいいか……リビングデッドが現れたって事は、ここは危険だって事だから、村へ戻りましょう」
エミナさんが、僕に手を差し伸べた。
「ああ……うん……あの……」
「……え?」
「こ、腰が抜けちゃって……」
「あら……うふふ……!」
僕とエミナさんは、ここで暫く休んだ。
そして、その後、エミナさんに肩を支えられながら、僕は村へと戻ったのであった。
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