内気な僕は異世界でチートな存在になれるか?@異世界現代群像のパラグラフ

木木 上入

文字の大きさ
2 / 47
1章

1-2.出会い

しおりを挟む
「コウチが……暴走してる!」

 急いで道に出たエミナは驚いた。

「まずはワムヌゥを宥めないと……あ……!」

 エミナの視線の先には少女の……レミールの姿があった。このまま馬車が直進すれば、馬車は子供を轢いてしまうだろう。
 エミナは全力でレミールの前に走り、ワムヌゥの行く手を遮った。

「荒ぶる風よ、厚き壁となって我が身を包み込め……ウインドバリア!」

 エミナが両手を前にかざして叫ぶと、エミナの周りに突如として突風が巻き起こった。
 そして、その風はエミナの前方に凝縮し、目に見える程に激しく、それでいて薄く広い空気の渦となった。

 ――直後、ワムヌゥは勢いを緩めずにエミナへと突進した。

「んっ!」

 エミナは僅かに呻いたが、傷一つ負っていない。エミナの前に展開されているウインドバリアが、ワムヌゥの体当たりを防いだからだ。
 ワムヌゥは我を忘れ、既に空気の壁となったウインドバリアに頭突きを繰り返している。これ以上はエミナに近付けないだろう。

「レミールちゃん、逃げて!」

 エミナは後ろを振り向きながら言った。

「え……え……」
「あそこのお家に向かって走るの!」

 エミナは首を少し動かし、目線で傍らの家屋を示した。

「う……うん!」

 レミールは、エミナが示した家へと走り出した。

「頑張って、レミールちゃん!」

 エミナはそう言って、ワムヌゥの方へ顔を戻し、きりりと眉を吊り上げた。

「後は……ワムヌゥを落ち着けなくちゃ……ウインドバリアを解除したら、多分、私がやられちゃうから……」

 エミナはウインドバリアに添えていた左腕を空へと掲げ、人差し指を立てた。

「魔力の消耗は激しいけど……ダブルキャストなら……!」

 エミナはそっと瞳を閉じて、呪文を唱え始める。

哀哭あいこくを知らぬ者に悄々しょうしょうたる一滴ひとしずくを……ティアードロップ!」

 エミナの人差し指の先端に青い光が現れると、その光はゆっくりとワムヌゥに向かい、同じくゆっくりと消えていった。

 ワムヌゥは、ウインドバリアへの頭突きをやめた様子だが、まだ鼻息は荒く、興奮している。

「……もう、魔法は要らないかな?」

 エミナはゆっくりとワムヌゥに近付いた。

「ごめんね、魔法で無理矢理に心を操ったりして」

 エミナはワムヌゥの背中を撫でながら、ゆっくりとワムヌゥに体を預け、抱き着いた。

「でも、もう大丈夫だから。驚かせてごめんね」

 ワムヌゥの動きが、徐々に緩やかになっていく。

「……もう大丈夫だね。でも、一体何が……あ……!」

 エミナが荷台の方を見ると、散乱した積荷と一緒に一人の女性が地面に横たわっていた。



(うん……?)

 僕が目を開けると、まず目に入ったのは木目だった。木の天井が、前にある。

(ここ……どこだ……?)

 横になったままで部屋を見渡す。

(へぇ……)

 ベッド、机、椅子、棚など、家具の殆どが木材で出来ている。床も天井も木だという事は、木造の家なのだろうか。

(雰囲気あるなぁ)

 表面だけ木の柄の可能性もあるが、それは触ってみないと分からない。どちらにせよ、新鮮な気分だ。
 木の匂いも漂っていて、心が癒される。どこかのキャンプ施設だろうか。だとしたら、ちょっといい所を見つけたかもしれない。偶に来て、のんびりしたい場所だ。

 ――ガチャ。
 不意に扉が開いた。

「あっ……!」

 僕はびっくりして、思わず上半身を起き上がらせた。

「あっ、すいません。起きてるって思わなくて……」

 扉の先には見知らぬ女の人が立っている。歳は僕と同じくらいだろうか。

「い、いえ、大丈夫です。僕もここが何処だか分からなくて困ってて……ふえっ!?」

 僕は驚いて、思わず変な悲鳴をあげてしまった。僕の声じゃない。

「え……ええ? あっ、あっ、ああー……」

 妙に甲高い声が自分の口から出ている。一体、どういう事だ。

「ど、どうしました!?」

 女の人が驚いた。僕が悲鳴をあげてしまったからだろう。女の人は、内股になって、握り拳を自分の胸に押し付ける様にして、オロオロしている。

「あ、ご、ごめんなさい。その、ちょっと混乱してて……」

 状況が全く分からないし、この女の人もびっくりしている。変な事を言ったら更にややこしい事になるかもしれない。ここは一先ず、声が妙に甲高い事は黙っておく事にした。

「ああ、そ、そうですよね。あんな目に遭ったんだし、記憶だって混乱しますよね」

 女の人はオロオロしながら言った。

「……あんな目?」

 この人は、僕の自殺未遂の事を知っているのだろうか。

「ええ……怖かったでしょう、あんな目に遭って。でも、間に合って良かった。後少し遅かったら、どうなってたか……」

 この人が僕を助けてくれたという事なのだろうか。だとしたら、事の経緯は説明しておかなければならない。説明して、謝らなければ。

「あの……僕、ビルの上から飛び降りて……多分、歩道。コンクリートの歩道に落ちたんです。だから、助からない筈で、助かっても、こんなに無傷なのは奇跡みたいだって……」
「えっ? えと……ごめんなさい、もう一回言ってもらえますか?」
「あの……つまり、九階建ての高いビルの屋上から、コンクリートの地面に落ちたんです」
「ビル? コングー……コングーリット? 良く分からないけど、高い所から落ちた事があって、怪我しなかったという事ですか?」
「いや、なんというか……どうしてあんな目に遭って、怪我一つしてないのか分からないんです」
「どうして怪我してないか……ああ、なるほど。高い所から落ちて、ああなったんですか。ええと……貴方は多分、高い所からコウチに落ちて、積み荷がクッションになったのかも。ワムヌゥもびっくりしてましたよ。でも、あの辺りに高い物って何かあったかしら……」
「ワムヌゥ? コウチ? 高い地面って書いてコウチですか? どこかの訛りかな……」
「え? 地面が高い?」
「いえ……その……」
「ああ、もしかして……」
「何です?」
「お医者さんは頭を強く打ったって言ってたから、まだ記憶が混乱してるのかも。もうちょっと休んだ方がいいですよ」

 女の人はそう言うと、僕の肩と背にそっと手を添えて、仰向けに寝かせてくれた。

「あ……ありがとう」
「どうしたしまして。じゃあ、また後。……そうね……その様子なら、ご飯くらいは食べれそうですよね。ご飯時になったら呼びに来ますから、その時まで、どうか安静にしてて下さい。……あ、そうそう、着物とか、荷物はこの籠の中に入ってますから」
「は……はい。すいません、僕も何が何だか分からなくて……」
「いえいえ、こちらこそ。じゃあ、ゆっくり休んでくださいね」

 女の人は、ゆっくりと扉に向かって歩き出した。

「あ……待って!」

 女の人が扉の取っ手を掴んだ時、僕は叫んだ。

「はい?」

 女の人が振り向いた。風の無い部屋で、ブラウンの髪がふわりと浮いた。その顔には、ちょっと心配そうな表情が浮かんでいる。

「そ、その……名前、聞きたいと思って……聞かせてくれませんか?」

 女の人は、一瞬考えた後、にっこりと微笑んで答えた。

「エミナです。エミナ=パステル」

 エミナはそう言うと部屋を出て、もう一回僕に微笑んで見せてから扉を閉めた。

「エミナさん……か……綺麗な名前だな……」

 僕はぼんやりと、天井に呟いた。
 そして、暫くぼーっと、放心したように天井を眺め続けた。

「……なんでだろ」

 何故かと思う事は色々とある。僕は何故無事なのか。僕に何が起きたのか。僕はどこに居るのか。

「ああ、そうだ!」

 僕は、相変わらず違和感のある甲高い声で叫んだ。

「スマートフォン……確か、荷物は籠に入ってるって言ってたっけ」

 僕は、背の低い棚の上に置いてある、細い蔓を編んで作られているのだろう籠に目をやった。
 そして、ベッドから這い出て籠の所まで歩いていき、籠を覗いた。
 確かに自分の着ていた衣類が入っている。

「洗濯してくれたんだ……あれ?」

 ふと、自分が半袖にスカート姿なのに気付く。さっきのエミナさんの服だろうか。やけに下半身がスースーして違和感があると思った。

「あった」

 半ズボンのポケットの中にスマートフォンがあった。電源を入れてみる。画面にはいくつかのゲームアプリのアイコン、それと、ツイッターや掲示板専用ブラウザのアイコンが表示されている。間違い無く僕のだ。

「ええと……誰かに電話を……圏外?」

 3G通信もWifiも圏外らしい。

「参ったな……」

 部屋の中をうろうろしてみるが、電波のある場所はどこにも無い。

「今時どれも使えないなんて……」

 適当にブラウザを開いたり、電話をかけたりしてみたが、やはりどれも繋がらない。ここは相当な山奥なのだろうか。

「警察、呼んでもらおうかな?」

 電波の全く無いような所だと、自力で帰れるかどうかも怪しくなってくる。自殺の事でなにか言われるかもしれないが、背に腹はかえられない。黙っていれば分からないかもしれないし。

「体も殆ど怪我してないみたいだし、大丈夫かもしれないな……うん!」

 良く分からない理論で良く分からない自信を持ってしまった瞬間、突然、別の不安が復活してきた。自分の体の事についてだ。
 あんな高い所から落ちて無事でいられるわけがない。

 そもそも何故、僕は生きているのか。何故、無事なのか。飛び降りて生きていた人の話は聞く。が、その話はどれも、死にきれなくて後遺症を患ってしまった人の話ばかりだ。
 少なくとも、馬車の荷台から振り落とされないように掴まる事は出来たのだ。そんな事が出来るくらい怪我が無いなんて、有り得ない。

「声もおかしいし……あーあー」

 やはりおかしい。声変わりしていないみたいに、凄く高い声が出る。
 高い所から落ちて、僕の場合は喉がおかしくなってしまったのだろうか。
 そんな不安に駆られた僕は、体に何か異常がないかをチェックする事にした。

「……いてっ!」

 頭を触ると、早速痛い所が見つかった。頭の丁度てっぺんにコブがあって、触ると痛むのだ。

「他は……」

 僕は顔、肩と、上から触って異常が無いかを確かめていく。

「……!?」

 胸の辺りを触った時、僕の手は、はっきりと異変を感じ取った。

(なんだ……? でかい……)

「え……!? ちょ、ちょっと……待て待て! これって……!」

 痛みは感じない……コブにしては柔らかいし、大き過ぎる。これは……。

「お、おっぱい!?」

 揉んでみた。やはり柔らかい。

「……」

 なんだか良く分からないが、恥ずかしい。顔が熱い。真っ赤になっているのが分かる。
 揉んだのが恥ずかしいのか、揉まれたのが恥ずかしいのか分からないが……とにかく、やってはいけない事をやった気がする。
 下半身がスースーするのも、スカートを履いているだけが原因だけじゃない事に気付いた。

 僕は、女になってしまったのだろうか。

「……寝よう」

 これは悪い夢だ。若しくは死後の世界か……もしかしたら、死ぬ前に見る走馬灯かもしれない。どちらにしても、もう一眠りすれば解決するような気がする。

「エミナさんも安静にしてた方がいいって言ってたし……」

 誰かに気付かれたところで特に悪い事はしていないのだが、何故だか罪悪感を抱いて僕はそーっとベッドの中に入り、仰向けになった。

「どうなってるんだ……」

 自分の体の事……この場所の事……飛び降りてからの事……走馬灯……エミナさん……死後の世界……男……女……色々な事で、半ばパニックになっている頭が、徐々に落ち着きを取り戻し……僕の意識は再び闇に落ちていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

『異世界ごはん、はじめました!』 ~料理研究家は転生先でも胃袋から世界を救う~

チャチャ
ファンタジー
味のない異世界に転生したのは、料理研究家の 私!? 魔法効果つきの“ごはん”で人を癒やし、王子を 虜に、ついには王宮キッチンまで! 心と身体を温める“スキル付き料理が、世界を 変えていく-- 美味しい笑顔があふれる、異世界グルメファン タジー!

転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする

ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。 リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。 これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。

ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者

哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。 何も成し遂げることなく35年…… ついに前世の年齢を超えた。 ※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。 ※この小説は他サイトにも投稿しています。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

異世界で目覚めたら、もふもふ騎士団に保護されてました ~ちびっ子だけど、獣人たちの平穏のためお世話係がんばります!!~

ありぽん
ファンタジー
神のミスで命を落とした芽依は、お詫びとして大好きな異世界へ転生させてもらえることに。だが転生の際、またしても神のミスで、森の奥地に幼女の姿で送られてしまい。転生の反動で眠っていた瞳は、気づかないうちに魔獣たちに囲まれてしまう。 しかしそんな危機的状況の中、森を巡回していた、獣人だけで構成された獣騎士団が駆け付けてくれ、芽依はどうにかこの窮地を切り抜けることができたのだった。 やがて目を覚ました芽依は、初めは混乱したものの、すぐに現状を受け入れ。またその後、同じ種族の人間側で保護する案も出たが、ある事情により、芽依はそのまま獣騎士団の宿舎で暮らすことに。 そこで芽依は、助けてくれた獣騎士たちに恩を返すため、そして日々厳しい任務に向かう獣人たちが少しでも平穏に過ごせるようにと、お世話係を買って出る。 そんな芽依に、当初は不安だった獣人たちだったが、元気で明るい瞳の存在は、次第に獣人たちの力となっていくのだった。 これはちびっ子転生者の芽依が、獣人や魔獣たちのために奮闘し、癒しとなっていく。そんな、ほっこりまったり? な物語。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

【完結】魔法大戦 〜失われた古代魔法で無双する!〜

加瀬 一葉
ファンタジー
 王立魔法学校。高等部に編入してきた冴えない生徒ラフィト。エリートが集うこの学校で、辺境出身のラフィトは落ちこぼれの劣等生なのだが……。  実は彼は、失われたはずの古代魔法を操る一族の末裔。魔族の脅威が増す時代に、ラフィトは人類を救うことができるのか?  過去と現在が交錯する、魔法ファンタジー。

処理中です...