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第二編第二章 狙われた姫の命
シャーレの記憶“家族”
しおりを挟む時は遡り十六年前、場所は始まりの街
コミンチャーレの北区にある寂れた村落。
“ホウラン”シャーレの生まれ故郷である。
少年だったシャーレには憧れの存在が居た。
歳の離れた兄ルイス・スティーバである。
十五を迎えた兄は此の年に、帝国軍が
相まみえるバルモア軍との戦線へと
志願兵として帯同が決まったのだ。
募集項に書き綴られて居たのは此の戦で
戦果を上げた志願兵は帝国軍への手厚い
招聘の話がある事。
寂れた村落ホウランからは長年生まれて
居ない、誇り高き帝国軍への入隊者が
出るのではと、村の民は胸が躍る。
ルイスの狩りにおける実力と剣捌きを
知る者ならば期待せずには居られない
状況であり、帝国軍への入隊は其れ程迄に
誉れ高き事を現していた。
当然、シャーレも兄ルイスへの期待で
貧しい生活の中でも笑みが絶えない。
両親は心配な表情を浮かべるが少年だった
シャーレにとっては、兄の死など想像すら
出来ず、兄ならやり遂げると信じて居た。
そして、迎撃戦から一週間程経つと
ホウランにも戦況が報じられる。
“帝国軍前線がバルモア軍により崩壊”
届けられた新聞記事を見たシャーレの
両親は涙ながらにルイスの安否を心配する。
そして、記事にはこう続けられていた。
プレジアの帝国軍は軍再整備の為
戦線を下げ、援軍の到着を待つ、と。
「兄ちゃん…無事だよね?」
「大丈夫、大丈夫だよシャーレ。お兄ちゃんは絶対帰ってくるから…」
シャーレは母親に抱かれると母の涙が
移ったかの様に不思議と涙が込み上げる。
そして、其の報道から三日後の事だった。
兄ルイスが命からがら村落へと戻ったのだ。
家族は歓喜したが、其のルイスの姿に
喜びも束の間、直ぐに治療をと医者を
目指した其の直ぐ後の事。
空中に撃ち上げられた銃声と共に
二十人程の軍隊が其処に現れた。
「やーっと着いたぜ…」
「寂れた村だが隠れるには打ってつけだ」
銃声により各々の家から飛び出して来た
民が一斉に襲われて行く。
叫び、悲鳴、喧騒が村落を呑み込む。
民が見たのは其の軍隊の隊章だった。
隊章にはバルモアの国旗が描かれており
全員が気付いた時には其のバルモア兵に
村に居た子供も大人も関係なく女が全て
人質に取られてしまったのだ。
そして、村の男を集めたバルモア兵が
全員に伝えたのは此れからの民の処遇。
此の村の外側に土塁の壁を造る事。
毎日決まった時間に食料を届ける事。
点呼に現れない民が居た場合は其の民の
家族である人質を見せしめに殺す事。
村の男達は絶望する。
バルモア軍の残留兵の捕虜となったのだ。
そして自分達の村が敵国の拠点とされ
次回の戦争の為に使われる。
其れは国への反逆も意味する。
続け様にバルモア兵から名指しされたのは
兄ルイスであり、血塗れの姿で首を掴まれ
民の前に担ぎ出された。
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