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第3章2部【ソルクユポ編】
第85話【終わりと始まりのプロローグ〜じゃあなみんな〜】
しおりを挟む「着いたわよぉ」
「お、そうか。本当にすまんなこんなところまで。」
「何言ってるのよぉとうまちゃん?私たち仲間じゃないぃ、これくらいするわぁ」
「ありがとうな」
エイブ・シュタイナーを倒し、漆黒龍召喚を阻止した翌日。
俺たち4人はミラボレアの協力もあり、ラペルに戻って来ていた。
「じゃあぁ、私はここで待ってるわねぇ。次はぁ、アンテズ村で良いのよねぇ?」
「あぁ」
俺たちが馬車の荷台から降りると、ミラボレアはおっとりとした声でそう言う。
こうして俺たちはラペルへと帰って来た。
「――あ!!皆様!!」
「うぉぉぉぉ!!お前ら中央大陸から帰って来たのか!!」
「って事は何とかドラゴンを倒したんだな!!やったじゃねぇか!!」
「何とかドラゴンじゃねぇ!!ダークドラゴンだろ!!」
「それも違うだろ!!」
「「ハハハハッ!!」」
「――へへ、ただいま。」
久しぶりの冒険者ギルドに入った俺たちは、周りの冒険者たちからの熱い声に笑顔で応えながら中へと進んで行く。
そしてもちろん、あるひとりの女性に声を掛けた。
「帰って来たぜ」「帰ってきたわよ」「よっ、元気そうじゃねぇか」「ただいまぁ!」
「皆様、本当にご無事で良かったです……!!私……ずっと心配してたんですよ!!」
「へへ、すまんすまん」
目尻に涙を溜めて笑顔でそう言うお姉さんに、こちらも笑顔で謝る。
あぁ、この感じ。懐かしいなぁ。
そんなに長い期間離れていたという訳でも無いのに、ここは実家の様な、そんな安心感があった。
「でも皆様、帰って来たという事はもう中央大陸には居ない、という事ですか?」
「いや、実は今からウェーナのところに行って、エスの墓参りをした後にはアンテズ村に行こうと思っていてな。その後は中央大陸に戻る。」
「え……?もしかしてまた新しい脅威が生まれた……とか――」
「いや、別にそんなんじゃないんだが――」
するとそこで、横に立っていたみさとが俺の袖を引っ張って来た。
そして、そちらを向くとみさとは俺だけに聞こえる声で、
「ね、ねぇ。別にラペルのみんなになら言っても良いんじゃないの?」
「いや、ダメだ。今日の朝、スザクから念を押されただろ?」
「そ、それはそうだけど……」
そう、実は中央大陸からファスティ大陸に馬車で移動する直前に、スザクから「前の世界に戻る」や「自分たちは他の世界から転生して来た」という事は言うなと念を押されていたのだ。
理由は、来者ノ石は本来魔族や1部の冒険者しか知る事が許されていない物だからだそうだ。
だから、今回こうして石の力を使い、俺たちや同じ様に転生して来た人間を前の世界に戻すというのも、エイブ・シュタイナーを倒した俺の願いだから特別らしい。
その為、そんな石の存在をせめて中央大陸、魔大陸以外では広めない様に、という訳だな。(その場にいた俺たち以外のファスティ大陸の住人、オネメルとヒルデベルトにもしっかりと口封じをしていた)
「そ、そうですか。でも!!また帰って来て下さいね!!私、何時までも待ってますから!」
「……ッ!!あ、あぁ。」
だから、俺たちはそんなお姉さんの笑顔に対しても、そんなセリフしか吐けなかった。
---
その後、ウェーナの家を訪れ、ギルドのお姉さん同様に軽く話した俺たちは、そのままの足でエスタリの墓へと向かった。
「ふぅ……やっと着いたぜ。」
「ここ……山の上だから結構疲れるわよね」
「本当だよ……」「疲れたぁ~」
「……」
墓の前に着いた俺はまず、まるでそこに居る友人に軽く話しかける様に、
「ただいま、俺たち帰って来たぜ。」
「いやぁ……疲れたよ。――ってか聞いてくれって!俺こんなどうしようもない奴なのにエイブ・シュタイナーとかゆうヤベーマッドサイエンティスト野郎を倒したんだぜ?すげぇだろ?」
何度も何度も、墓石に向かってそう語り掛ける。
この時間だけは、最近色んな事が立て続けに起きて大変だった俺に、久しぶりの日常をくれた。
そして数十分話したところで――別れの時が来た。
「――じゃあ、お前らも話したい事話せたか?」
「えぇ、とうまの愚痴を色々聞いてもらったわ」
「何聞かせてんだよみさと……」
「私ももう大丈夫だぜ」「うん、私も~!」
「よし、じゃあ――」
そこで、3人からの反応を確認した俺は、背中から剣を鞘ごと取る。
そして、
「これ、ありがとうな。お前の剣が無かったら勝ててなかったよ。じゃあな。」
墓の前にそれを置くと、俺たちはエスタリの墓を後にした。
---
それから数時間後、あの後アンテズ村にも訪れ、村長と色々話した後、帝都ティルトルに帰って来た。
「お、やっと帰ってきたか。お前ら遅いて、前の世界に帰りたいっちゅう奴らもう集まってるで。それに魔法陣諸々も描いたから後はお前らがこの上に乗るだけや。」
ベイユ競技場の前の広場。直径20メートル程の魔法陣の前に立つスザクは、馬車の荷台から降りた俺たちに頬を膨らませ、そう言う。
「あぁ、すまんな。――って、こんなに居たのか、転生して来た人達は。」
「昨日確認したやろ?まぁでもいざこうやって魔法陣の上に集まってもらうと中々の数よな、ワイも結構ビビったわ。」
俺とスザクは魔法陣の上に集まる数十人の人達を見ながら互いに簡単の声を上げる。
エイブ・シュタイナーの奴、こんなにも来者ノ石で転生させていたのかよ。
そしてその中に俺たちも含まれる、と。
――するとそこで、さすがに待ちきれなくなった人達が、
「お~い、まだか~?早く帰りたいぞ~!!」
「俺も早くギャンブルしてぇよ!」
「私、帰ったら父さんの農家継ぐんだ!」
個々に声を上げ始めた。
「あぁ、残念ながら立ち話をしている時間は無いみたいねぇ。」
「じゃあお前らも魔法陣の上に立ってくれ。」
そこで後ろからミラボレアとスザクが歩いて来る。
そっか、実はまだ色々話したい事があるんだが――まぁ仕方ないよな。
「あぁ、」「了解よ」「おう」「あぁ、この世界ともバイバイかぁ」
俺たちはスザクの指示に従い、魔法陣の上に乗る。
すると、それに合わせてミラボレアは手に持った来者ノ石を魔法陣に翳した。
次の瞬間、魔法陣から金色の光が溢れて来る。
「じゃあなお前ら!!前の世界でもちゃんとやるんやで!!」
「元気でな」
「ばいばぁいぃ~」
光に包まれていく中で、俺は様々な人達からの見送りの声を聞いた。
レザリオやスザクにミラボレア。そして――
「私たちはこの世界で頑張るわ!!とうまたちも頑張りなさいよ!!」
「とうま殿、みさと殿、ちなつ殿、くるみ殿!!どうかお元気でいてくだされ!!」
オネメルやヒルデベルトも。
「じゃあなぁ、みんな!!異世界も悪くなかったぜぇぇぇ!!」
こうして俺は、前の世界へと戻った。
---
「………………う、うぅ……」
「大丈夫?おじさん?」
気が付くとそこは見覚えのある場所だった。
何故か俺はコンクリートの上で倒れており、横には補助輪付き自転車に乗った子供が心配そうに俺を見下ろしている。
あれ……?俺、なんでこんなところで……って!!!
そうだ!!って事はここは!!
すぐに上半身を起こすと、周りを確認する。
右側には横断歩道があって、その横に小さな公園。
間違いねぇ……ここは元の世界……!!
だとすると……これからまずは新作エロゲ――じゃねぇ!!
「帰るぞッ!!」
そこですぐに立ち上がると、俺は実家目指して猛ダッシュする。
前はここに来るだけでも息切れをしていたと言うのに、今回は全く疲れる事は無かった。
そして実家に着くと、すぐに扉を開け、中に入る。
すると玄関の前には……
「あ、アンタ帰ってくるの早いじゃない。ゲームを買いに行ってたんじゃないの?」
酷く痩せこけた、母親の姿があった。
あ、あぁ……お母さん……
きっと、あの時俺が異世界に転生なんてせず、あのままエロゲを買って帰って来ていたら、「どけよババア」なんて言ってる場面だろう。
だが、今の俺はそうはしなかった。
目から涙が溢れそうになるのを必死に堪え、膝を地面に着ける。そして――
「お母さん!!本当に今までごめん!!こんなんでこれまでの事がチャラになるなんて思ってないけどさ……俺、頑張るから、ちゃんと働いて独り立ちして、恩返しさせて下さい!!」
人生史上、初めて本心から頭を下げ、謝った。
--それから数ヶ月後--
俺は小さな電気会社に就職し、ボロいアパートで一人暮らしをしていた。
そして今日は週一回の休日だ。
「場所はここで合ってるよな。」
俺はスマホで調べた場所の写真と、目の前の喫茶店を見比べながらひとりそう呟く。
そう、実は今日はあいつらと再会する日なんだ。
暇な時に掲示板に「異世界に転生したけど帰って来た」なんてスレタイで書き込んだら運良く3人ともそのスレを見てたらしくてな、連絡もらって、会う日を決めたって訳だ。
そうして俺は喫茶店に入る。
すると、入り口から近い席で楽しく雑談をする美少女3人組の姿が目に入った。
「お、久しぶりだなお前ら!!」
「――あ、とうま久しぶり!!」
「変わってねぇじゃねぇかよとうま」
「久しぶり~!!」
そうして俺は、3人の座る席に笑いながら歩いて行く。
---
まだ俺は30歳になってない若造だ。だからこれからも色々な困難が立ちはだかって来る事だろう。
前の自分ならば解決しようともせずに逃げるかもしれねぇ。
――だが、今の俺なら大丈夫だ。
なんせ、漆黒龍を吸収した男であり、みさと、ちなつ、くるみを従えるパーティーのリーダーだからな。
どんな困難が立ち塞がろうとも、上手いことやってやるさ。
じゃあ最後に、ここまで俺の語りに付き合ってくれたお前らにひとつアドバイスをやるよ。
新作エロゲを買いに行く時は、補助輪付き自転車に乗った子供に気を付けろよ?じゃあな。
~完~
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