上 下
85 / 88
第3章2部【ソルクユポ編】

第82話【魔王の一撃〜いや、やば過ぎだろ〜】

しおりを挟む

「――はぁはぁ、とりあえず目指していた平原に出たみたいだな……」

 城の前に待ち構えていた悪魔デビルたちを負傷した魔族たちに任せた俺たちは、城ぞいに北方向へ走ること数分。
 まずは薄暗い森を抜け、エイブ・シュタイナーが居るであろう平原へと出た。

 しかし、だからと言ってすぐにそこへは向かわせてくれないみたいだな。

「「キャキャキャ!!」」
「クッソ、お前ら!相当な数やでこりゃ!」
「そんなの言われなくても分かっている!全員武器を抜け!」

 森を抜け、平原に出た俺たちを待っていたのは何十体もの悪魔デビルたちだった。
 こいつら……ここに来るまで走ってる時は全く姿を表さなかったからまさかこっち側にはいないのかなんて考えをしたりもしたが、やっぱり待ち構えてやがったんだな……!

 そして更に、そんな悪魔デビルたちの中には――

「「グウォォォォォォ!!」」

 緋色の翼を持った火竜や、口から緑色の液体を垂らしながら咆哮を上げる毒竜。大きな羽に水を纏う水竜なども居た。

「こりゃ、そうとう時間吸われそやな……」
「無視をしたいところだけどぉ、この数じゃそうもいかなそうねぇ」
 
 だが、これで確信したぜ。こいつらがこんなに行く手を阻んで来てるんだ、確実にエイブ・シュタイナーはこの先に居る……!

 とにかく、まずはこいつらを一瞬で蹴散らしてやるッ!!

「俺たちも構えるぞッ!」
「えぇ!」「おう!」「うん!」

 スザクたちに続いて、俺たち4人も何時でも戦闘を開始出来るように各自武器を構える。――――が、

「皆さん、その必要はありません」

 そんな俺たちに、魔王はその一言で武器を下ろさせた。

「おいおい魔王さん?目ぇ付いてないんか?目の前に敵がめちゃくちゃおるやないか」
「分かっています。だが、ここで皆さんの体力が削れるのは惜しい。ですから、ここは私に任せて下さい。」
「「……ッ!!」」

 魔王のそのセリフの瞬間、俺の背中に今まで感じた事の無いレベルの悪寒が走った。

 な、なんだ今のは……まさか今の魔王の一言で俺の身体が怯えたってのか……?
 だが分かる、今の魔王あいつの前に立った者に待っているのは「死」だけだ。

 前にスザクとは帝都ティルトル剣術祭の時に対峙した事があったが明らかにレベルが違う。――これは、

「――分かった。ここは任せる。――お前ら、俺たちは後ろに下がるぞ。」

 状況的に任せるしか無かった。

「まぁスザクが言うんやったらしゃあないな。ここはあんたの実力見させて貰うで。」
「ありがとうございます。」

 そうして俺たちは魔王の後ろに下がる。
 するとその瞬間、魔王は左手を悪魔デビルたちの方へ伸ばすと、空中に巨大な紫色の魔法陣を浮かび上がらせる。

 そして、

「我、現世の魔王なり。」

 何やら呪文を唱え始めた。
 だが、普通に考えてそんな隙ありまくりの時に相手が動かない訳が無い。

 だからそんな魔王に対して悪魔デビルたちは――――動かなかった。

「お、おい……なんで相手の奴ら、あんなに無防備な魔王に対して攻撃しないんだよ……」

 俺は口から言葉がそう漏れる。するとそれに対してはスザクが感嘆の声色で答えた。

「いや、あれはしてないんじゃない。出来ないんだ。悪魔たちあいつらはあの状態の魔王の前ではその圧で動く事は出来ない。要するに、もう決着は着いてるって事だな。」

「全く、話には聞いていたがとんでもないやつだ。」若干引きながらそう最後にスザクは付け加える。
 いや、なんだよそれ……いくらなんでもそんなの強過ぎるだろうが……

「お前たちは現世の王である我に立ちはだかった。その行動、万死に値する。」
「我が裁きの雷でその身を焼き尽くせ、」
終焉告げる魔王の一撃ロヴィーナ・フィーニスッ!!」

 そしてその瞬間、魔王が浮かび上がらせた巨大な魔法陣から紫色の光が放たれ、悪魔デビルたちの身体を一瞬にして飲み込んだ。

 ---

「――な、なん、だと……!?」
「いや、これはさすがに、」
「強過ぎだろ……」

 それから、魔王の放った一撃の光が消えた後、俺たちは正面を向く。
 するとそこには先程行く手を阻んでいた悪魔デビルたちは愚か、草花の生える地面も酷くえぐれていた。

 これは……やり過ぎだろ……
 ってかあのドラゴンたちも一撃で消し去っちまったってのか?さすが魔王様だな。

 だが――

「ぐはぁ……はは、私も酷く衰えましたね……魔力も昔と比べると随分落ちたものです……」

 その一撃を放った魔王も、地面に膝から崩れ落ちた。

「……ッ!大丈夫か!」

 そんな魔王に俺たちはすぐさま駆け付ける。

「皆さん、私の心配をしている時間なんて無いですよ。早く先へ進んで下さい……私はこれから来た道を戻り、城前に居る悪魔デビルたちを片付けにいきます……」
「なっ!?何言ってんだよお前!一緒にエイブ・シュタイナーを倒しに行くぞ!」
「すいませんが、それは出来ない。何故ならもう私に先程の魔法を放つ力などどこにも残っていませんから。行ったところで足でまといになるだけだ――それに、城前に残した可愛い手下をやすやすと悪魔デビルごときに殺させませんよ……」
「……ッ!でもよ、!」

 だが、そんな俺をスザクは制止して、

「やめろとうま。魔王の行っている通りだ。外傷こそ無いが、魔王自体もう相当な歳だ、魔力は少しも残っていないだろう。それに、俺たちにこんな事をしている時間は無い。」
「――分かったよ。」
「スザクさん、ありがとうございます。必ずやエイブ・シュタイナーの企みを阻止してください。」
「あぁ。――よし!道は魔王の一撃で開かれた!進むぞ!」
「よっしゃ!やったるで!」

 俺たちはみんなの意思を継いでるんだ……エイブ・シュタイナー、必ずやお前を倒すッ!!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。

ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。 剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。 しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。 休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう… そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。 ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。 その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。 それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく…… ※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。 ホットランキング最高位2位でした。 カクヨムにも別シナリオで掲載。

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

【完結】神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ~胸を張って彼女と再会するために自分磨きの旅へ!~

川原源明
ファンタジー
 秋津直人、85歳。  50年前に彼女の進藤茜を亡くして以来ずっと独身を貫いてきた。彼の傍らには彼女がなくなった日に出会った白い小さな子犬?の、ちび助がいた。  嘗ては、救命救急センターや外科で医師として活動し、多くの命を救って来た直人、人々に神様と呼ばれるようになっていたが、定年を迎えると同時に山を買いプライベートキャンプ場をつくり余生はほとんどここで過ごしていた。  彼女がなくなって50年目の命日の夜ちび助とキャンプを楽しんでいると意識が遠のき、気づけば辺りが真っ白な空間にいた。  白い空間では、創造神を名乗るネアという女性と、今までずっとそばに居たちび助が人の子の姿で土下座していた。ちび助の不注意で茜君が命を落とし、謝罪の意味を込めて、創造神ネアの創る世界に、茜君がすでに転移していることを教えてくれた。そして自分もその世界に転生させてもらえることになった。  胸を張って彼女と再会できるようにと、彼女が降り立つより30年前に転生するように創造神ネアに願った。  そして転生した直人は、新しい家庭でナットという名前を与えられ、ネア様と、阿修羅様から貰った加護と学生時代からやっていた格闘技や、仕事にしていた医術、そして趣味の物作りやサバイバル技術を活かし冒険者兼医師として旅にでるのであった。  まずは最強の称号を得よう!  地球では神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ※元ヤンナース異世界生活 ヒロイン茜ちゃんの彼氏編 ※医療現場の恋物語 馴れ初め編

捨て子の僕が公爵家の跡取り⁉~喋る聖剣とモフモフに助けられて波乱の人生を生きてます~

伽羅
ファンタジー
 物心がついた頃から孤児院で育った僕は高熱を出して寝込んだ後で自分が転生者だと思い出した。そして10歳の時に孤児院で火事に遭遇する。もう駄目だ! と思った時に助けてくれたのは、不思議な聖剣だった。その聖剣が言うにはどうやら僕は公爵家の跡取りらしい。孤児院を逃げ出した僕は聖剣とモフモフに助けられながら生家を目指す。

その幼女、最強にして最恐なり~転生したら幼女な俺は異世界で生きてく~

たま(恥晒)
ファンタジー
※作者都合により打ち切りとさせて頂きました。新作12/1より!! 猫刄 紅羽 年齢:18 性別:男 身長:146cm 容姿:幼女 声変わり:まだ 利き手:左 死因:神のミス 神のミス(うっかり)で死んだ紅羽は、チートを携えてファンタジー世界に転生する事に。 しかしながら、またもや今度は違う神のミス(ミス?)で転生後は正真正銘の幼女(超絶可愛い ※見た目はほぼ変わってない)になる。 更に転生した世界は1度国々が発展し過ぎて滅んだ世界で!? そんな世界で紅羽はどう過ごして行くのか... 的な感じです。

処理中です...