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第2章2部【帝都ティルトル剣術祭編】

第61話【最強の目覚め〜その大剣が引き抜かれた時〜】

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「いや、レザリオ……?お前も戦うのはもちろん分かっているが……」

 俺もスザクも武器を忘れて来ちまったし、ラゴはドラゴンに乗って戦えば俺たちにも被害が出るからと戦えない状態だぜ……?いくらレザリオでもひとりで戦うのはキツイだろ。
 ここは一旦ドラゴンに乗ってティルトルに帰って武器を取りに行った方が……

 しかし、そんな俺に対してレザリオは後ろを振り返ると、嘲笑うようにこう言った。

「ん?なんや?まさかワイがに負けるん思てるんか?」
「あ、あの程度……!?」

 いやいや、競技場内で聞いたあの爆発音を忘れたのか!?今目の前に居るモンスターは一撃で数十メートルという範囲を燃やし尽くしたんだぞ!?

 ――いや、でも確かに、今からティルトルまで帰ればその間にサラマンダーが誰か一般人を襲う可能性があるな……
 それにいざと言う時は被害が来る覚悟でラゴに戦って貰えば良いし――

「――分かった、じゃあ任せるぞ……レザリオ」
「なら俺も、とうまと同意見だ。上級冒険者としてのプライドが許さんが……今はそんな事を言っている場合では無い。任せるぞ。」
「じゃあ、僕も。――でも!まずそうだったらすぐに加勢するからね!」
「ふっ、ワイもエラい舐められたなぁ。ま、力を出すこと自体何年ぶりやろかって感じやし、しゃあないんかも知れんけど。」

「しゃァァァァァァァァァ!!」
「ん?なんやサラマンダー?まぁまぁ落ち着きいや。」

 ――でも、やっぱりどこか心配だった。
 それはレザリオが何時も頼りなさ過ぎるからかも知れない。
 しかし、それ以上に、俺にとってレザリオとずっと一緒に冒険者をしていたスザク、ラゴまでもが緊張している事が大きかった。
 実は、レザリオはそこまで強く無いんじゃないのか?直ぐに負けてしまうのではないか?
 そう無意識に思ってしまう程には。

 ――しかし、そんな事は勘違いだったと、この後直ぐに分かる事になる。
 (あとから考えると、俺は狂乱の戦士バーサーカーを舐めすぎだな。)

 その瞬間、レザリオは背中から大剣を抜いた。
 巨大な鞘から姿を現した刀身は、太陽の光を反射しながら黒く輝いている。

 あの黒刀が……世紀すら破壊する大剣センチュリーブレイカー……!

 すると、そこですぐにスザクが急ぎ口調で俺にこう言ってくる。

「おい!早くしろ!」
「って!?なんで引っ張るんだよ!!」
「僕はドラゴンに乗って空中にしておくよ!」
「あぁ、了解だ!」

 俺はいきなりスザクに服を掴まれると、レザリオから離れようと後ろへ引っ張って来る。
 しかしこちらもいきなりだった為それに抵抗した。
 ――すると、そこで大剣を鞘から引き抜いたレザリオ本人もこちらを振り返ると――

「おい、お前ら早く後ろへ下がれ。こっちからは行かないが、変に近付いて死んでも知らんぞ。大剣こいつを抜いた時点で、ここはもうの戦場だ。」

 お、俺……?こいつ確か一人称はワイだった気が……
 だか、今はそんな事はどうでも良い。
 ここでやっと、さっきまでスザクやラゴが緊張していた訳が分かった気がした。

 2人はレザリオが負けるかもしれないなんて、実はそこまで思っていなくて、「自分も巻き込まれたら……」そう思っていたのだ。上級冒険者レベルの人間が。
 だから今もスザクはこんなに急いで……

 でも、もう大丈夫だ。
 今のレザリオは何時ものレザリオでは無い。
 まるで別人格と話している様な……とにかく!離れないと絶対やべぇ!!

「すまんスザク!すぐ後ろに下がろう!」
「あ、あぁ、なら早くしろ!」

 こうして俺たちはレザリオから離れ、遠くからそれを見る事になった。

 ---

「……」
「……」

 俺たちは被害が来ないであろう場所まで避難すると、サラマンダーとレザリオの戦いが何時始まるのかと、固唾を呑んで見守る。

 すると――その戦いは突如として始まった。

「しゃァァァ!!」

 まず、最初に仕掛けたのはサラマンダーだ。
 四足の強靭な足で地面を蹴り上げると、まるでスザクの突きのスピードにも迫るのではないかという速度でレザリオに迫る――って!?

 初っ端からえげつないぞこりゃ!?
 確かに動きだけで見たら一直線に飛んでくる単純な攻撃だ。
 だが、いかんせん速度が早すぎる。

 そしてそれに対してレザリオは、なんと避けようとせず、大剣を持っていない方の手を迫り来るサラマンダーの方へ伸ばした。

「な、何をしようとしてるんだよ……?」

 まさかあいつ……ミラボレアみたいに魔法を放つ気か?
 確かに杖が無ければ威力こそ弱まりはするが、発動自体は問題無くする事が出来る。
 って事は……まさかインプレス系統の魔法を……!?

 しかし、次に目の前で起こった光景は、レザリオがインプレス系統の魔法を放つよりも更にありえなかった。

「って、なッ……!?!?」
 
 なんと、手を前に伸ばしたレザリオはそのまま突進して来たサラマンダーを片手だけで止めたのだ。
 言ってる意味が分からない?そのままの意味だぞ。
 レザリオは突進して来たサラマンダーの鼻先を手で掴むとそのまま全ての衝撃を身体全身で受け止め、封じた。

 更に、レザリオはサラマンダーの鼻先を掴んでいる方の手に力を入れると、

「吹き飛べ」

 そのまま後ろに突き飛ばし、宙にサラマンダーを吹き飛ばした。
 そしてその吹き飛んだサラマンダーを追い掛ける様にレザリオもジャンプ。

「死ね」

 その一刀で、黒鋼の様な鎧の鱗を持ったサラマンダーの身体は、真っ二つに絶たれた。

 ---

「ふぅ……久しぶりに良い運動やったわ!」
「いや、全然動いて無かったじゃねぇか。」
「いやいや、ワイからしたらあれくらいで十分なんやて!」

 あの後、見事にサラマンダーを討伐した俺たち(戦ったのはレザリオだけだが)はドラゴンに乗ってティルトルまで戻って来た。
 ラゴはというと、なぜ今回本来平和なはずのチュロント森にサラマンダーの変異種が現れたのか調査する為、すぐにどこかへ、飛んで行っちまった。

 たく……良いなぁドラゴンを操れるなんてよ。
 俺もせっかくならラゴのユニークスキルが欲しかったぜ。

 すると、そこでベイユ競技場方面の道からみさと、ちなつ、くるみ、ミラボレアが歩いて来ていた。
 そして、俺たちの存在に気付くとそのうちミラボレア以外の3人はこっちへ走って来た。

「とうま!大丈夫?怪我はしてない?」
「あ、あぁ……」
「おぉ!安心したぞ!」
「良かった!」
「って、これ!忘れてたわよ!」

 そこでみさとは、両手に持っていた剣と盾を俺に渡してくる。
 あぁ!忘れてたぜ!良かった競技場まで取りに行く羽目にならなくて!

「お、サンキュー!」

 
 それからレザリオがサラマンダーを一瞬で倒した事や、俺たちがサラマンダー討伐に行っている間に、競技場には何も起こらなかった事など、色々な事を話し合った。

「――まぁでも、兎にも角にも全員無事で良かったぜ。」
「ほんとに、その通りね。」
「だな」
「うん!」

 はぁ……本当に良かった。
 よし……!今日の夜には宴会もあるだろうし、思いっきり楽しむぞ!
 ――そんな事を呑気に考えていた時だ。俺の耳にある平民同士の会話が耳に入って来た。

「――にしても、本当になんなんだろうなこれ。」
「ほんとにな、そう言えばあっちの大陸――名前は忘れたがそこにもサラマンダーが現れていたらしいぞ。」
「あぁ、それな。確か死人も出たんだっけ?」
「確か弓使いとリザードマンを引き連れるパーティーのリーダーだったって話だ。」

 ん?弓使い――オネメル。リザードマン――ヒルデベルト。
 ――って、え、エスタリ……!?!?
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