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第2章2部【帝都ティルトル剣術祭編】
第48話【ドラゴンマスター〜彼の勇姿〜】
しおりを挟む『スザク選手、なんとラゴ選手を一撃でねじ伏せましたッ!!』
「「うぉぉぉぉ!!!」」
あまりにも早く終わった試合に、観客達はものすごい歓声を送る。
しかし、俺はあまりにも早く負けた相手、ラゴの事が気になって声が出なかった。
確かにスザクが強いというのもあるだろう。
早く終わり過ぎて実際に見る事は出来なかったが、実況も『目にも止まらぬ早さで』、そう言っていたからな。
それに、あいつはフィールドへ向かう前、俺たちに「俺の力、よく見とけ」
そう言っていた。だからインパクトを残そうと、すぐに試合を終わらせたのかもしれない。
――しかし、そういう事を出来るのは相手が明らかに格下だった場合のみだ。
確かに戦う相手が自分よりも遥かに弱いとしたら、そういう選択を取れるのかもしれない。
だが、今回スザクが倒したラゴは、実況の言っている事が正しいとすれば「上級冒険者」という事になる。
確かにそんな冒険者の事を普段使っているギルドが違うといえ、レザリオが知らなかったというのも気になるところだが。(ラゴという名前を実況の口から出たとき、レザリオが何か考えていたみたいだったから知っているのかもしれない)
――とにかく、いくら上級冒険者だったとしても、同じ上級冒険者をあんないとも簡単に倒せるなんて、俺は思わない。
「さすがぁ、スザクちゃんねぇ」
「やな、まぁあいつならあれくらいでも普通なんやろが」
だがまぁ、レザリオとミラボレアが変に思って無い様子を見たところ、相手も実は上級冒険者だがそこまで強く無いのかもしれないな。
――とりあえず、戻ってきたスザクに聞いてみる事にした。
---
それからすぐに試合で戦った両選手はフィールドから引き上げ、スザクも俺たちの元へ帰って来た。
「ふぅ、全然楽しめなかったぜ」
スザクはため息を吐きながら俺の横へ座る。
それもそのはずだ。なんせさっきの試合は、誇張無しで5秒位で終わったんだからな。
「でもまぁ次の試合もあるやし、体力を全く使わずに1回戦目を切り抜けれたんは良かったんやないか?」
「まぁそうなんだが」
お、たまにはレザリオもまともな事言うじゃねぇか。
「そうよぉ、レザリオちゃんの言う通りぃ、体力を温存して勝つことが出来て良かったじゃないかしらぁ?――それにぃ、強さも十分伝わったと思うわよぉ?」
「うんうん、ミラボレアさんの言う通りよ。ちゃんと強さは伝わったわ」
「だな、だって相手もそこまで弱いとかでも無いんだろ?」
そこでちなつはそうラゴの話題を出した。
よし、この流れなら自然に聞けるぞ……!
前も言ったが、俺は気になる事が出来たら絶対に知りたいタイプなのだ。
「なぁ、ちなみによ、さっきスザクが瞬殺したラゴって相手、一応上級冒険者なんだろ?なのに言っちゃ悪いかもだが、なんであんなすぐやられたんだ?」
するとそれを聞いたスザクは首を傾げながら、
「いや、俺も正直なんであいつがこの試合に出てきたのか分かんねぇんだよ。だってこの試合じゃモンスターは使えないってのに。」
「ほんとよねぇ」
ん?モンスターは使えない?それってどういう事だ?
「な、なぁ。2人で共感し合ってるとこ悪いんだが、モンスターは使えないってどういう事なんだ?」
もしかするとラゴって上級冒険者は、モンスターと戦っている時にだけ圧倒的な力を発揮するとかそう言うタイプなのだろうか。
確かに今、スザクも「なんであいつがこの試合に出てきたのか分からない」って言ってたし、多分そういう理由だよな。
しかし、そこでスザクが放ったセリフはあまりにも衝撃的過ぎて、それを聞いた俺、みさと、ちなつ、くるみは全員声を出すことも出来なかった。
「あいつ――ラゴはお前らと同じでユニークスキルを持っていてな、その力でモンスターを操る事が出来るんだ。」
「「……ッ!?」」
ゆ、ユニークスキルを持ってるだと……!?
という事はまさか、あのラゴという冒険者も俺たちと同じく転生者……という事になるのだろうか……?
そこから詳しく話を聞くと、大体その冒険者の全貌が分かって来た。
まず、ラゴが持っているユニークスキル[獣を従える者]は、自分の周りに居るモンスターを同時に三体操る事の出来る力だそうで、そのうち一体は、赤いドラゴンだそうだ。
そのドラゴンとはずっと共に戦って来たんだそうで、実質依頼中に従わせられるモンスターは二体なんだとか。
そしてラゴはその力を存分に使い、今までも数々のモンスターをそのドラゴンと共に倒して来たのだと言う。
だから、そんな彼に付いた二つ名は「ドラゴンマスター」
……バカかっこよくね?
で、ここからが本題で、どうしてそんな強くてかっこいいドラゴンマスター、ラゴがあんなに一瞬でスザクに倒されたのかだが、結論から言うと彼は実はドラゴンがいるから上級冒険者レベルに上がれたのであって、1人だけだとその力は下級と殆ど変わらないんだそうだ。
だから、今回の様な上級冒険者が上級冒険者に一瞬で倒される。そんな事が起きたという事。
これが全貌だった。
――すると、そこでさっきからずっと話を聞いていたレザリオもやっと彼の存在を思い出した。
「あ、あぁ!ラゴってあいつか!あのいつも空から迎えに来るドラゴンに乗って依頼場所に向かうやつか!」
「覚え方が雑だがまぁそうだな」
って、今までの話を聞いてて今やっと思い出したのかよ。
「でも、それにしてもそんなドラゴンマスターさんがなんでユニークスキルの使えない戦いに出てきたんだろうな。」
「それはやっぱり俺にも分からねぇ。でもよ――」
「でも?」
「あいつなりに、この祭りを盛り上げようとしたのかもな」
「……ッ!、なるほどな」
ドラゴンマスター、ラゴ。上級冒険者として、この街の歴史ある祭りを盛り上げようとする気持ちはスザクと同じって訳か。
確かにあぁやって同じ上級冒険者のスザクとやり合って、もちろんユニークスキルは使えないからコテンパンにされて。
もしかすると「何のために試合に出たんだ」「上級冒険者の価値を下げるな」
そんな心無い声も聞こえてくるかもしれない。
けどよ――自分の力が発揮出来ないところでも「上級冒険者」という看板を背負ってスザクと戦ったその勇姿に俺は、「かっこいいな」素直にそう思った。
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