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第1章1部【始まりの街〜ラペル〜】
第15話【ワーウルフとの戦闘〜くるみサイコパス説〜】
しおりを挟む俺たちが初めて出会った草原を見ながら、更に奥へと進んで行くと、目の前に深い森が現れた。
「やっと着いたぜ。」
てかこの場所、最初にどっちの方向に進もうか迷っていた時に、みさとが指さした方だよな……
一体あの時オーガが姿を現さずに、そのまま進んでいたらどうなっていたんだが――考えたくも無いな。
「とりあえず、警戒しながら進みましょう」
「おう」
とにかく、今はお目当てのワーウルフを討伐することだけ考えるとするか。
オリアラの森に入った俺たちは4人で固まると、モンスターを警戒しながら進み始めた。
---
それから5分程経った頃、今までは太陽の光が木々の隙間から差し込んでなかなかに明るかったのだが、木の密度が上がったのか、薄暗い不気味な雰囲気になってきた。
「なかなかに不気味ね……」
「私もこれは気持ち悪いぜ……」
「うんうん……」
そんな雰囲気にくるみはともかく、珍しくみさとやちなつまでもが怖がっている。
しかし、逆にいつもモンスターに対してビビり散らかしていた俺は、怖くなかった。
いや、正確に言うとモンスターが怖くないという訳ではなく(むしろモンスターはめちゃ怖い)この薄暗い空間が怖くないのだ。
だってヒキニートの時は、いつもこんな感じの空間で生活してたからな。
だから俺は、
「おいお前ら、そんな調子じゃワーウルフも倒せないぞ?」
3人をあざ笑うようにそう言った。
するとそれに対して予想していた通り、
「な、何言ってるのよ!」「お前こそいつも怖がってるじゃないか!」
みさととちなつが反論してくる。
はぁ……たくよ、コイツらはこうやって軽く煽られただけでこんなに必死に反論してくるのかよ。
まるで小学生だな――って……!?
呆れたため息を吐き、ふと横を見る俺。
そこでソイツと目が合った。
「で、出たァァ!?」
俺と完全に目が合った、深い青色の体毛を持つ四足歩行のソイツ――ワーウルフは、「ワウゥゥゥッ!!」俺たちを捕捉した瞬間そう叫び声をあげる。
そして――その行動の意味を俺は知っていた。
受け付けのお姉さんに冒険者ギルドを出る寸前、こう言われていたのだ。「ワーウルフは遠吠えで仲間を呼びます。」と。
「お、おい――」
とりあえず3人に報告しないと!
俺はこのことを知らせる為に後ろを向きながら声を掛けようとする。
しかし、その時にはもう3人ともそこにはいなかった。
って、!?
「お前ら……!」
再び振り返ると、そこにはワーウルフと対峙する3人の姿が。
は、早い……!コイツらこの一週間でこんなに慣れてたのか。
「とうま、これから私たち3人で正面のワーウルフとやり合うわ。だから貴方は周りから集まってくるワーウルフの相手をして。」
「わ、分かった!」
「じゃあ行くわよ!」「おう!」「うん!」
俺に今回の方針を素早く告げたみさとは、すぐに2人を連れて正面のワーウルフに走って行く。
よし……!じゃあ俺も言われた通りに周りを警戒するか。
背中から剣を抜くとキョロキョロと周りを見る。――が、
「今はまだ大丈夫そうだな。」
周りの草は揺れてないし、うん!大丈夫大丈夫!
俺はそう自分の頭の中で連呼していた。
理由は――――言いたくないけど怖いからだ……
仮に俺がめちゃくちゃ強くても、モンスターは怖い。
俺はそう思う。
だって人間だって、明らかにこっちの方が強いのにゴキブリ怖いだろ?そういうことだ。
まぁでも、さっきも言った通り今はまだ大丈夫だから余裕だ――
「ワウゥゥゥッ!!」
ぜぇ!?!?
その瞬間、俺の真後ろの茂みから、ワーウルフが飛び出してきやがった!
足音なんて全然聞こえなかったのに……!ちくしょう!
とりあえずやるしかねぇ!
俺は素早く後ろを向き、剣を構えると、
「ふんッ!」
ワーウルフの噛みつき攻撃を剣で受け止めた。
よし、とりあえず奇襲攻撃は防いだぞ。
「……こっちにもワーウルフが1匹来たぞ!」
ワーウルフの攻撃で後ろに3メートル程飛ばされた俺は、それで距離を取れたということもあり、みさとたちにこの事を報告する。
「了解!こっちは1匹やったけど、プラスで3匹出てきたわ!」
するとみさとたちは、「1匹倒した」そう俺に言った。
すげぇな。もう1匹片付いたのか。
よっしゃ!俺も負けてられんぞ!
もちろん今だって対峙しているワーウルフは怖い。
足がガタガタ震えそうになるくらいにはな。――でもよ、こういう展開、男は燃えるだろ!
「来いよ!」
「ワウゥゥゥッ!!」
俺の挑発的な呼びかけに、距離を取っていたワーウルフが鳴き声を上げると、真っ直ぐこっちへ走ってくる。
ふッ……!正面からの単純な攻撃、これなら!
「よっ!」
俺はワーウルフの引っ掻き攻撃を右側に避けると、すぐに剣を持つ手に力を入れ、攻撃を空かして身体がガラ空きねワーウルフに振りかぶる。
するとその攻撃は見事に命中し、ワーウルフは「ワフゥ!?」そう小さな悲鳴を上げると、すぐに後ろに下がり、俺との距離を図った。
「よし、とりあえず先制は取ったぞ。」
これはあくまでも俺がこの一週間での経験に元ずいた考えなんだが、ゴブリンなどの人型モンスターを覗いた下級のモンスターは、知能が低いように思える。
ゴブリンなどは集団で行動したり、武器を持ったり、という感じなのだが、このワーウルフやスライムなどは大体が正面からの単純な攻撃オンリーだ。
だから、今の考えの通りに行くと――
俺は距離を図った正面のワーウルフに視線を絞る。
するとやはり――
「ワウゥゥゥッ!!」
怪我を負い、少し苦しそうな表情のワーウルフは、先程のように叫び声を上げると正面から攻撃を仕掛けてきた。
ほらなッ!
それに対して、俺はもう先程のように横へ避けたりはしない。
「怪我を負って、スピードの下がったお前なんて、怖くねぇ!!」
「ワフゥ!?!?」
俺は突っ込んでくるワーウルフを正面から待ち構え、そして斬り捨てた。
---
「ふぅ……なんとか勝てたぜ。――おいみさと、そっちはどうだ?」
俺は今倒したワーウルフの片耳を切り取り、お姉さんに渡された袋にそれを入れ終わると、別のワーウルフと戦っている3人の方を振り返る。
すると、
「これで――4匹目!!」
その時、ちょうどみさとが4匹目となるワーウルフを討伐したところだった。
よし、これでこっちの1匹とあっちの4匹で合計5匹――依頼完了だ。
俺は3人の方に歩いていくと――
「おつかれ」
「そっちこそね」「あぁ」「うん!」
3人とハイタッチをし、互いを労い合う。
よし、じゃああとはこの4匹のワーウルフの片耳を回収すれば完了だな。
俺はワーウルフの死体に近づいて行く――が、4匹とももう耳が取られていた。
お、もう回収してたのか。
するとそこで、そんな俺の心を読んでいたかのように、くるみが後ろから声を掛けてくる。
「とうま!これでしょ?」
「ん?――げ……」
俺はそんな声に反応し、すぐに後ろを向くと、そこには笑顔で4匹の片耳を持つくるみの姿があった。
コイツ……いつもはこんな感じじゃないから怖いぜ……
もしかするとくるみは、サイコパスなのかもしれなかった。
---
それから俺たちは、すぐに帰る準備を始める。
俺はともかく、ほか3人はこんな薄暗い不気味なところ、居たくはないらしいからな。
しかし、そんな俺たちに近づく存在がひとつ。
先程俺が倒したワーウルフの鳴き声は、他のモンスターを引き寄せていたのだった――
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