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27、ハウス〈泉水目線〉

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 正直、キスをしている最中からずっと、実はかなりイキそうである。

 一季のふわふわの唇が触れるたび、泉水は何度も射精しかけた。好きで好きでたまらない相手から、あんなにも優しいキスをされ、麗しく微笑みかけられた挙句、生唾ものの美しい裸体が突如として目の前に現れたのだ。どうにか射精を堪えた自分を、心から褒めてやりたいと泉水は思った。

 服を脱ぎ捨てた一季の裸身は、暴力的なまでにセクシーだった。ほっそりとした身体は想像と違わず儚げで、抜けるように白い肌の美しさはまるで真珠のよう。そして何よりも目を奪われてしまったのは、白い肌にふわりと浮かぶ、薄桃色の小ぶりな乳首である。

 一季の胸元は当然平坦だ。女性のそれとは形状からしてまるで違う。なのに、なのに、なんたるいやらしさだろう……!! と、泉水はガツンと鈍器で頭を殴られたような気分になった。これまでオカズにしてきたセクシーな女性たちなど目ではないほどに、半裸の一季は官能的なのだ。

「誰にもとられたくない」「大好きなんです」と直球に好意を伝えられ、しかも垂涎ものの美麗な肢体を目の前に晒されて、脳みそと股間が今にも沸騰しそうである。


 ——お、お、お、おおお、おちつけおれ…………すーーーーーはーーーーー…………暴走したらあかん……あかんで…………ハウス、ハウスやで…………俺のチワワ…………。


 先にベッドに上がった一季が、しっとりと濡れた瞳で泉水を見上げている。一季のベッドのシーツは濃紺だ。夜を思わせる濃色と、一季の白い肌のコントラストが異常にエロい。泉水はベッドにゆっくりと膝をつき、一季の上へ覆いかぶさろうとしたが……匂い立つような色香にめまいがして、もう一度深呼吸した。

「泉水さん、大丈夫ですか?」
「えっ…………!!?? あ、も、もちろんです……!!」
「いきなりしましょうなんて言いませんから……あの、僕の隣で、寝そべっててくれるだけでいいので……」
「あ、あ、はい……」

 一季の気遣いにいたたまれない気持ちを感じつつ、泉水はそっと、一季の隣に横たわる。すると、一季がぴったりと泉水の身体に寄り添って、横向きに寝そべった。否応無しに一季の裸体と密着する。


 ——ああ、あ、あ、あ、あかーーーーん!!! ちょ、ちょおまって、まってコレっ…………!! つ、つるつるすべすべで……なんちゅう綺麗な肌なんや……ッ……!! あ、もう…………もっと触りたい。もっとベタベタ触りたい……!! なんなら、な、な、舐め回し…………


「……泉水さんて、スポーツマン体型でカッコいいですね」
「………………えッ!? そ、そそ、そっすか!?」

 危うく荒ぶりかけそうになった手前で、一季が敢えてのように軽い口調でそんなことを言った。
 なるほど、かちんこちんに緊張している泉水の気分をほぐしてくれようとしているようだ。泉水は内心冷や汗を拭いながら、気を取り直して一季の方を見た。目が合った。


 ——ウッ……。どちゃくそかわええ…………。そ、それにや……腕に当たってんの乳首なん? そこのツンとしたやつ乳首なん……? う、ううう……っ……ど、どないしよ……何もされてへんのにイキそうやねんけど……ッ……!!


「ちょっと着痩せして見えるのかなぁ。すごく逞しいんですね。……いいなぁ」
「そっ、そそ、そっすか!? け、けど、俺も、嶋崎さんの腹筋意外とすごくてびっくりっていうか……」
「腹筋?」


 ——……って、そこはちゃうやろ!! そこはこう、「肌が綺麗」とか「色っぽい」とか、そういうセクシーなとこ褒めるとこやろ……!! なんで俺腹筋の話してんの!? そら確かにめっちゃ腹回り引き締まったはるけど、俺はもっと、嶋崎さんの儚げな美貌を褒めちぎりたいねんんんん……!!!


 と、テンパった挙句話題をミスチョイスしてしまったことに頭を抱える泉水だが、一季は思ったより楽しそうに笑っている。

「あ……ありがとうございます。陸上部だったんで、腹筋だけはまだ、割と健在っていうか」
「陸上……? あ、あ、そうなんですね!! どうりで! 出会った時から、めっちゃシュッとしてはんなぁって思ってたんですよね~~」
「あはは、筋肉褒めてもらうことなんてほとんどないから、嬉しいです。いつも部活仲間にはヒョロいヒョロいってからかわれて」
「いやいやいや、全然!! むしろその痩身が魅力的で!! 俺は好きですよ! ほっそりしてて綺麗やし!」
「ほ、ほんとですか? 嬉しいです」

 そう言って、一季は照れ臭そうに笑っている。セックスからは程遠い話題ではあるが、こうして肌を触れ合わせながら楽しく会話をすることに、泉水はそこはかとない幸福を感じ始めていた。一季も、いつになくリラックスした表情であるように見える。くつろいだ笑顔が身もだえるほどかわいい。

「競泳もかっこいいですよね。種目は何だっだんですか?」
「えっとですね、俺はバック(背泳)が専門で……」
「バック?」
「ええ、バック………………ふぐぅ」

 自分で言っておきながら、泉水は『バック』という単語に一人で勝手に興奮してしまった。

 一季が猫のように腰をしならせて四つん這いになり、『バックで攻めて♡』と泉水を誘う画像がもわもわと脳内を占拠してしまい、泉水は大慌てでその妄想を振り払った。

「泉水さん?」
「あっ! ば、ばば、バック……ってのは背泳ぎのことです!!」
「ああ、なるほど。すごいなぁ、僕は背泳ぎは25mがやっとでしたよ」
「あ、あははは~~! 慣れればそんな難しいもんとちゃいますよ。あ、陸上といえば俺、マラソンは好きやったけど、短距離とかわりと苦手やったなぁ」
「へぇ、僕は長距離はあんまりだったなぁ。泉水さん、持久力あるんですね」
「……ん? 陸上ってことは、あのピッタリしたユニフォーム着てはったんですか? それ着て、走ったりしたはったんですか?」
「え? ええ、そうですよ。短距離とハイジャンプの二種目専門でやってたんです」
「は、ハイジャン……!? す、すごい……すごい……エロ……い、いや、ちゃう!! かっこええですね……!! み、見てみたいわぁ……」

 陸上といえば、身体にフィットしたランニングシャツと、極めて丈の短いハーフパンツが特徴的だ。一季のユニフォーム姿を想像してしまったが最後、泉水の鼻息が俄然荒々しさを増してゆく。

 一体何色のユニフォームを身につけていたのだろう。大衆を前にして肉体を駆使するには、あまりに布が少なすぎるのではないだろうか。一季のしなやかな肉体が地を蹴り、空を舞う姿に、陸上部の仲間たちは密かに興奮していたのではあるまいか……と、スポーツマンシップからは真逆のところで妄想が始まってしまい、泉水は危うく鼻血を垂らしそうになってしまう。

 泉水が急に大人しくなり、しかもはぁはぁと呼吸を荒ぶらせていることに気づいたのか、一季がいたずらっぽく微笑んだ。そしてちょっと身体を伸ばし、泉水の顔のそばでこんなことを囁く。

「ユニフォーム、実家に置いてあるんです。……いつかそれ着て、したり、とか」
「………………え? な、な、なに、なにをですか…………?」
「なにって……その……。えっちなこと、とかですかね……」
「えっ………………ち…………な…………」


 ユニフォーム姿と女豹のポーズと『バックで攻めて♡』妄想が、一気に泉水の脳内をピンク色に染めた。そのあまりの刺激の強さに、泉水はとうとうフリーズしてしまったらしい。

 曲がりなりにも、これまであまたの論文を生み出してきた脳みそだ。そこそこに情報処理能力には長けていると思っていたが、どうやらそうでもなかったらしい。数秒の間、泉水は完全に思考停止状態に陥っていた。


 泉水のそういう反応に、焦ったのは一季である。


「あっ……!! じょ、冗談ですよ!! すみません、そんな引かないでください……!! あ、あの、別に僕、コスプレの趣味があるわけじゃなくて……!!」
と、取り繕うようは早口でそう説明しながら身を起こし、マネキンのごとく硬直した泉水の顔を覗き込んでいる。


 泉水はのろのろと腕を持ち上げ、心配そうに泉水の胸に手を添える一季の手を、ぎゅっと握った。


「泉水さん……?」
「あの……」


 まだまだ痺れの抜けない思考のまま、泉水は絞り出すような声でこう言った。


「したい、っす……」
「へ?」
「それ、めっちゃしたいです……」
「えっ、あ……ほんとに? 引いてません?」
「全然引いてません。……ていうか、もっと」
「ん?」

 澄んだ瞳で、一季に間近に見つめられきゅんと胸が熱くなる。泉水はとうとう、本音を声に漏らしていた。


「今、したいです……。もっと、えっ……ち(震え声)なこと……」
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