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第六章 想い合うということ
七、再び青葉国
しおりを挟む実に二週間ぶりに国に戻った千珠は、どきどきしながら城へ入った。
もうすっかり日が暮れている城内には人気がない。暗闇を見つめていると、光政と宇月の怒り顔が目に浮かぶようだった。
山吹を忍寮に寝かせ、朝飛と柊はそこで暫く休むことになった。足の運びの重い千珠を引っ張って、舜海は光政の所へとずんずん進んでいく。
「おい、しゃんと歩かんかい!」
「引っ張るなよ……」
「なんや、怒られるのが怖いんか?まったく、お前は何時までたってもがきやのぅ」
「う、五月蝿い」
そうこう言っている間に、光政が待つ部屋へと着いてしまう。
「殿、俺です。入ります!」
舜海は大声でそう言うと、ぱっとその襖を開き、千珠を部屋の中へ突き飛ばした。
「うわっ!」
つんのめって中で膝をついた千珠は、怒り顔で舜海を睨む。
「いってぇな!」
「阿呆、頭下げろ」
千珠ははっとして、唐紙を開いた縁側の方に立っている光政の姿を見た。光政は驚いた顔で、突然現れた二人をじっと見ていた。
「あ……」
千珠は慌てて姿勢を正し、深く頭を下げた。光政のつま先が見え、目の前に仁王立ちしているのが分かる。
「殿……すまなかった。俺……」
千珠の謝罪を遮って、光政が千珠の身体を抱きしめた。久しぶりに感じる光政の大きな身体とぬくもりに、千珠ははっとする。
「馬鹿者! 心配させおって!」
光政はぎゅっと千珠を抱きしめたまま、思いをぶつけるようにそう言った。光政の気持ちが、直に胸に響く。
千珠は光政の肩に顔を埋めたまま、目を閉じる。
「ごめん……なさい」
「俺の目の届かないところで、勝手に死ぬなど許さぬ! もうこんなこと、絶対にするな!」
「……はい」
「俺は、お前を一人にはしないと約束したのだ。覚えているだろう?」
「……」
千珠の肩を掴んで、光政はその目を覗きこんだ。はっきりとした大きな瞳に、千珠を思う気持ちが溢れていた。
「……覚えている」
「馬鹿者、お前の居場所はここなのだ。いい加減、しっかりここに根を張れ!」
「……はい」
千珠は頷いて、そのまま俯いた。光政はもう一度、千珠をぎゅっと抱きしめる。
「……説教は明日だ。舜海、話を聞かせてくれ。千珠は宇月のところへ行ってやれ。ずっと、お前を待っていたんだからな」
「……はい」
千珠は少し潤んだ瞳をあげて、もう一度頷くと、ふうっとその場から姿を消した。
舜海はため息をついて、姿勢を崩す。
「もう、大変でしたよ」
「そうだろうな……。ご苦労だった、よく連れ戻してくれた」
「いいねん。あいつにとっても、今回のことは大きかったと思う。もう、迷わへんのちゃうかな……」
舜海はこの二週間のことに思いを馳せながら、光政に話して聞かせようと、息を吸った。
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