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後編

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「ここはどう? 痛くない?」
「うん、きもちいい」
 今リセリアがいるのは湯舟の中。
 華やかな香りのする乳白色の湯に浸かり、浴槽の縁に置いた頭はカイジュの手によって丹念に揉み解されている。
 ある意味カイジュの言葉通り“たくさん気持ち良く”なっている。
 が、当初の想定とは違う展開となった。
 てっきりあのままベッドに行き触れ合うものとばかり思っていた自身の思考に若干の恥ずかしさを覚えている。
 触ってもいいか発言の後、急に我に返ったカイジュは慌てて風呂の準備を始めた。
『ま、マッサージ! そう、マッサージでね、リセさんを気持ち良くしたいなって!』
 取って付けた言葉はあきらかに劣情を押し隠していた。
 リセリア自身も期待をしてしまったが、彼の理性を無駄にするわけにはいかなかった。
「首もだいぶ凝ってるね。頭、ちょっと浮かせるね」
 彼は自身の言葉通り、リセリアを癒すことだけに全力を注いでいる。
 抱え込むように後頭部が支えられた。
 カイジュがリセリアの顔に覆い被さる体勢となり、目の前に彼の鎖骨が近付く。
 入浴剤の華やかな香りにカイジュを匂いが混じる。
 ソファで触れ合った時の唇の感触を思い出し、きゅんと下腹部が切なくなった。
 突然ぽたりと頬に雫が降ってくる。
 彼のこめかみから流れてきた汗が顎から滴り落ちていた。
 よく見ると首筋にも汗を滲ませ暑そうだ。
 湯舟にお湯がある状態で密室、カイジュは服を着たまま。
 衣服をまとっていないリセリアでさえ温まっているのに、彼が暑くないわけがない。
「汗……」
 考える前に手が伸び彼の雫を拭う。
「あ、ごめんねリセさん。かかっちゃった?」
 カイジュは慌てて袖口で顔を擦った。
 しかし高湿度の浴室内では意味を成さず、次から次へと汗が吹き出してくる。
「ねえ、一緒に入る?」
 ちょっとした悪戯心いたずらごころだった。
「えっ! はっ?」
「お風呂、カイジュも入ろ?」
 あからさまに動揺する様子が可愛くて、普段では考えられないほど積極的に迫っていた。
 背を反らせ顔を背けるカイジュに構うことなくシャツのボタンに手をかける。
 温度のせいだけではない赤味が彼の頬を染めた。
「わ、わかったから……!」
 ボタンを半分まで外し終えたところで、両肩を押され距離を取られる。
「入るから。だから、あんまり無防備にしないでもらえると助かる……」
 なんのことかわからず首を傾げる。
 が、肌が冷える感覚と同時に状況を理解した。
 一糸まとわぬ状態で迫りカイジュの服を脱がそうとしている自分の姿。
 もちろん彼からは全身ばっちり見える位置。
「あっ……」
 幾度となく肌を重ね隅々まで知られているが、だからといって堂々と裸体を眼前に晒せるほど羞恥心を失っているわけではない。
 慌てて湯に浸かりカイジュに背を向ける。
「準備、してくる……」
「う、ん……」
 カイジュが浴室を出る。
 静まり返った中、隣の脱衣所で彼が服を脱ぐ音だけが妙に響く。
 完全に墓穴を掘ったことに今更気付いた。
「っだめだ。どきどきしてきた」
 深く呼吸し鎮めようとするが効果はない。
 一度意識してしまったものはそう簡単には治まってくれない。
 めいいっぱい息を吸い鼻まで湯に浸かってみるが誤魔化せない。
「リセさん?」
「んぶッ」
 自身の心拍数に気を取られてカイジュが入ってきたことに気付かなかった。
「後ろ、入るね」
「うん……」
 水面を揺らして背後に彼の気配が寄る。
 そこまで広くないのでふたりでゆったりと浸かることは難しい。
「リセさん、こっち来て」
 控えめに振り返ると、顔を赤くし照れた表情のカイジュと目が合う。
 自分も似たような顔をしているだろう、と察する。
 促されるまま彼の足の間に収まった。
 カイジュの腕がお腹に回され引き寄せられる。
 素直に身を任せ体重を預けた。
 背に触れた彼の胸から鼓動が響いてくる。
 リセリアと同じくらい強くて速い。
「ん、良い匂い」
 髪にカイジュの鼻がくっついている。
「こ、この入浴剤、いい香り。私好き」
 自身の香りを指していることは理解できたが、気恥ずかしくなって少しだけ話を逸らす。
「リセさんの匂いと混ざって……くらくらする」
 上擦ったカイジュの声が吐息交じりで色っぽい。
 回された腕に力が込められ、さらに体が密着する。
「……ぁ」
 腰のあたりに当たる存在に気が付いた。
 反射的に身を離そうとするが、抱き締められた状態では無意味だった。
 リセリアの反応に状況を察したカイジュ。
 ゆっくりと指を這わせリセリアの肌を撫で始める。
「リセさんのせいだからね」
 入浴剤でとろみを帯びた湯がカイジュの手をなめらかに導く。
 乾いた素肌に触れられる感覚とは違った心地よさに、体の奥が愛撫される快感を思い出す。
 触れられていないのに、胸の先が硬くなっているのが自分でもわかった。
 幸いにも湯の中なのでカイジュからはわからないはず。
 早々に敏感になっている自身の体が恥ずかしくて、見えないことにわずかながら安堵した。
 が、それはすぐに暴かれてしまう。
「もう尖ってるね」
 カイジュの両手がふくらみを下から掬いあげる。
 ゆっくり持ち上げられ、みるみる水分を弾き水面から顔を覗かせる。
 温まったことと興奮によってぷくりと赤く色付いている。
「健気に膨らんでる。可愛い」
 よく見せて、と向かい合うよう促される。
 膝を跨ぎ座ると、カイジュの目の前に胸を突き出すような姿勢になってより恥ずかしい。
「綺麗」
 上擦った声で彼が呟く。
 食い入るように尖りを見つめている。
 指の腹で擦ったり押し込んだり、もてあそびながらも視線は外さない。
「美味しそう」
 呟くが早いか彼が先端を口に含んだ。
 湯よりも熱く、ざらついた舌が絡み付く。
 側面を擦り上げ吸い上げられる。
 反対側へ与えられる指での愛撫もむことはない。
 敏感になった肌は感覚をすべて快楽に変え体の奥を甘く震わせる。
 胸の先で生まれた気持ち良さが腰へと落ちていく。
 カイジュの愛撫に合わせてもどかしく腰が揺れる。
「腰、揺れてるの可愛くて、えっち」
 彼の指先が腰のくびれをなぞった。
 くすぐったさの先にわずかな疼きを感じる。
 背骨から恥骨へ指が添い、湯ではない潤いを孕んだ秘園に辿り着く。
 入り口を軽く擦られ、じっとり這う指に焦らされて蜜口がひくつく。
 カイジュへ襞をまとわせ、中へ誘うように腰が揺れる。
 確かな気持ち良さは感じるのに決定的な快楽を与えてもらえない。
 くすぶる熱が腹の奥でじくじく疼く。
 もどかしくてなにかにすがりたくて、彼の頭を抱き締めた。
 ふかふかの耳が頬をくすぐる。
 カイジュの指が秘裂の先のふくらみを捕らえた。
 こり、と軽く押し潰すように擦られる。
 突如襲われた鋭い刺激に、抑えきれず甲高い嬌声が洩れる。
 滑らかに突起を撫でたり弾かれたりするたびにびくびくと背が震えた。
「っ……耳元で喘がれると、やばい」
 息を詰めたカイジュの声がするが、それに答える余裕はなくただただ喘がされ続ける。
 ふと体が解放された。
 突然の喪失感に寂しさがつのる。
「ここ、座れる?」
 体を支えられ、促されるまま浴槽の縁へ腰掛けた。
「髪、掴んでいいから」
 カイジュの顔がふとももの間へ埋まる。
 内側の、皮膚が薄い部分に何度も唇が触れていく。
 じりじりと核心へ迫るキスは鼠径部そけいぶへ辿り着いた。
 蜜壺がさっきまでの愉悦を恋しがってひくつく。
 もどかしくて生理的な涙が浮かんだ。
「っん……カイジュ……」
 視線で求める。
 見上げてきた彼はリセリアの濡れた瞳に満足げに笑う。
 指が絡められきゅっと握られた。
 カイジュの掌が熱くしっとり合わさる。
 手を繋ぐだけで安心する。
「可愛い、リセさん」
 繋いだ手にキスが降る。
 そのまま唇は下腹へ向かい、充血し主張する蕾へやわく吸い付いた。
 鋭い快楽がリセリアを貫く。
 秘処の奥がじゅっと潤んだ。
 唇で挟まれ吸われ、ざらついた舌で舐め転がされていく。
 直接的な刺激に甘く揺れる腰が止められない。
 どんなに体をしならせても彼の唇が突起を離すことはなく、舌で口で味わい尽くしていく。
 快楽に晒され続け蕩けきった入り口は、添ってきたカイジュの指に絡み付く。
 この先の刺激を期待し、悦ぶそこが指を奥へといざなう。
「すごい、中に吸い込まれるみたい」
 秘処から離れることなくカイジュが呟く。
 うっとりと表情を緩め、耳を後ろに伏せている。
 嬉しい時、彼はよく耳を後ろに倒す。
 喜んでもらえることが嬉しくもあり、素直に反応する体に恥じらいもある。
 湯のせいだけではない顔の火照りを感じた。
 ゆっくりと指が中へ入ってくる。
 長くて節張った彼のそれは、慎重に粘膜を探り始める。
 満遍なく、隅々まで、内側の形がわかってしまうんじゃないかという程じっくりとなぞられていく。
 ある一点にカイジュの指が添い、ぐっと押し上げられる。
 ひくりと内側が痙攣し、なにかが溢れるような感覚に襲われる。
「ここだよね、いいとこ」
 その場所から指を離すことなく刺激が続く。
 じわじわと愉悦が湧き、零れそうなのに弾けることのできないもどかしい心地ち。
 いつまでも解放されないじれったさに、リセリアの腰は悩ましく揺れる。
 カイジュの唇が蕾に再び吸い付いた。
 内と外、両方から官能が追い詰められていく。
 同時に刺激され体の奥の熱が一気に登り詰めた。
 またたく間に弾けて全身へ快感がまき散らされる。
 力が抜けて自力では姿勢をまっすぐ保っていられず、彼の頭を抱き込みなんとか支える。
「っは、ぁ……んっぅぁ……」
 乱れた呼吸を整えようとするが、吐く息にさえ甘い嬌声が混じる。
 ずっと気持ち良さに支配され、体に力が戻らず起き上がることが出来ない。
「リセさん、大丈夫?」
 カイジュに腰や背を支えられながらなんとか体勢を立て直す。
 まだ快感の余韻が残る四肢は今にも崩れ落ちてしまいそうだ。
 彼の首にすがりなんとか倒れずに済む。
「ごめ、ん……力、入ら、ない……」
 息も絶え絶えに訴える。
 次の瞬間体がふわりと浮く。
 カイジュに抱き上げられていた。
「可愛すぎて……無理させちゃった」
 額にキスが降る。
「ベッドまで運ぶから。体、預けてていいよ」
 果てを迎えたせいか、意識がふわふわしている。
 言葉に甘え、されるがままタオルに包まれ彼に身を任せた。



 ベッドがふたりの重みで軋む。
「ありがとうリセさん、すごく可愛かった」
 触れるだけのキス。
 リセリアをシーツに包んだカイジュは、そのまま隣に寝転びリセリアの髪を撫でた。
 繊細に触れてくる指先が心地いい。
「ゆっくり休んで」
 柔らかく微笑むカイジュ。
 リセリアだけを満足させ、カイジュ自身の熱はまだ発散されていない。
 このまま自分だけ耐えてリセリアの休息を優先するつもりだろうことはすぐにわかった。
 彼にも気持ち良くなってもらいたい。
 髪を撫でる彼の手を取り唇を寄せる。
「リセ、さんっ……」
 あからさまにカイジュが動揺する。
「ぁ、あんまり、触ると……自制が」
「しなくていいよ、自制」
 気遣ってくれる気持ちは嬉しい。
 でも、自分ばかりでなくカイジュにも気持ち良くなって欲しい。
 誘う意味を込め、まっすぐ見つめたまま彼の指を食む。
「しよ? 最後まで」
 カイジュがごくりと喉を鳴らした。
 彼の手を掴んでいたはずなのに、気付けば逆に絡め取られ、ベッドへ縫い留められていた。
 カイジュが覆い被さってくる。
「……リセさん、煽りすぎ」
 リセリアの次の言葉を待たずに唇が奪われる。
 遠慮のない荒々しさで舌が侵入し、絡め取られ、隅々まで舐め上げられていく。
 かさり、と枕元から物音がする。
 避妊具を取り出したカイジュは、キスをしながら彼自身の準備をする。
 カイジュと目が合う。
 熱に浮かされた獣の瞳。
 隠しもしない情欲。
 視線を外すことなく深く深く口付けられる。
 劣情に揺れるその目から彼の猛りが注がれているようで、ぞくりと背筋が甘く震えた。
 性急な手つきで足が開かれ、蜜口へぐっと杭が押し当てられる。
「あんまり優しく出来ない、かも」
 熱が押し込まれていく。
 圧迫感と共に中が擦られ、みるみる愉悦が生まれる。
「いつもより、大き、い……」
 思わず素直な感想が声になっていた。
「っ……リセさんッ」
 一気に最奥へ熱杭が押し付けられる。
 中がいっぱいに満たされ反射的に彼をきつく締め付けた。
「煽ったリセさんが悪いからね……っ」
 さらに奥へとねじ込まれる。
 ゆるく揺すられ、穿たれる中が悦びひくつく。
 小さな律動も束の間、すぐに激しく肌を打ち付ける音が部屋に響く。
 充分に潤いを保ったままの蜜壺は、いやらしく水音を立てながら彼の動きを受け入れる。
 すぐに中のさを思い出した秘処は、さらに芯を締め付け快楽を拾う。
 リセリアの意志に関係なく律動に合わせて甘い声が零れた。
 荒々しい抽挿ちゅうそうなのに、一番いいところにばかり突き入ってくる。
 否応いやおうなしに愉悦が溜まってお腹の奥が熱くなる。
 跳ねる腰を掴んだ手に逃げ場を奪われ、速まった動きに嬌声が呼応する。
 追い詰められていく官能が腹の奥で溢れそうになる。
 ぎゅうぎゅうと彼を締め付けさらに登り詰めていく。
「イくの? リセさんッ……ぅ、その顔、好き……可愛い……可愛い、ッ……」
「ぁあッ……カイ、ジュっんぁ……一緒に……ッッ!」
「ぅ、ん、イこ……一緒にッ…………っ!」
 肌のぶつかる音が激しく鳴り響く。
 掻き混ぜられた中はぐじゅぐじゅで、快感が満ちて蕩ける。
 一層強く、奥に彼の熱が押し付けられ大きな悦を生む。
 ぎゅっと下腹部に力が入り、最高潮まで高められ弾ける。
 びくびくと腰が震え、何度も彼自身を締め上げた。
「っ……んッ……」
 カイジュは眉を寄せ息を詰めた。
 同じく果てを迎え、背を震わせ精を吐き出す。
「ぅ、リセ、さん…………まだ、出てる……」
 彼は固く目を閉じ絶頂感を噛みしめている。
 快楽に浮かされたその表情は扇情的で、愛おしさが込み上げた。
「っ……は、ぁ」
 互いに落ち着き、脱力する。
 抜き去り処理を終えた彼はリセリアを腕の中に閉じ込め強く抱き締めた。
「ん、リセさん、大好き」
 少し掠れた甘い声でカイジュが呟く。
 尻尾が愛おしそうにリセリアの足に巻き付いた。
 可愛らしい仕草にきゅんと胸が疼く。
 彼の背に手を添え応える。
「ありがとう、大好きだよカイジュ」
 リセリアの言葉に抱き締める力がもっと強くなった。
「好き、大好き、可愛い僕のリセさん」
「ん……」
「大好き。大大大好き。ずごく好き」
 何度も頬をすり寄せ髪にキスをされる。
「うん、私も」
「好き。可愛い。愛してる。リセさん大好き。好き好き好……」
「っ……わかったってば!」
 このままではいつまでも繰り返されそうな彼の告白を強制的に遮る。
「……好き」
 それでもまだ言っている。
 見上げれば眉をハの字にして、まだ言い足りないという不満そうな顔をしている。
 なんだかおかしくなって少し笑ってしまう。
 同時に愛おしさが込み上げ彼の唇を奪う。
 驚いた表情からみるみる瞳を潤ませ、嬉しそうに尻尾をぱたぱたさせ始める。
「可愛い! 大好きっ……!」
 結局彼の腕の中に抱きすくめられてしまう。
「はいはい。私も大好きだからね」
「僕の方がもっと大好……」
「わかったってば!」
 ふたりじゃれ合いながら、気の済むまで笑い合った。
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